上 下
214 / 290
環境変化編 第八章:走狗煮らるる

新天地 手続き完了

しおりを挟む
「ハ、ハサミ?」

「あぁ。仕事に使う道具がいいと思ったんだが、どんなものがあったら便利か、俺の頭じゃわからなかった」

「だったら日常で使う物の方がいいんじゃないかって。で、使う人に何の能力もなくても、物自体に特殊な能力持たせたらどうかなって提案したら……」

「紙から布から、ペラペラな物なら金属まで切れる宝石製のハサミ、か。まぁ仕事で使えなくもなさそうだな」
 ささやかな朝食会兼懇親会から二週間後。結構な距離だが土地勘を養うためということで、散歩と土地と建築費の支払いの事もあり、店主とセレナはニィナ=バナー建具店に再訪していた。
 途中、これまで受けた依頼で完成した品物を送るため、配送業者に立ち寄る。
 ニィナと一緒に食事をした帰り道でその配送所を見つけ、すでに完成していた依頼品のいくつかを数日前に一度配送を頼んでいる。
 今回二度目の配送となる。その足でニィナ建具屋に向かってのニィナとこのやりとりである。
 ニィナに支払いを済ませた後の雑談で、『法具店アマミ』で製造する品質の披露と宣伝を兼ねて、記念となる実用品をニィナに贈り物として手渡した。

「それだけの筋力があるんだ。金属も相当強いがこの素材の宝石の硬さも相当なものだ。あんたの力が及ばない物は切れることはないが、こいつ自身も使い手に力を与えるから、逆に切れない物はどんな物か想像もつかない」

「誰かの体を切らないようには気を付けないとまずいね。あははは」

「ニィナさん、それ、シャレになりません……」

 セレナがやや引いている。

 確かに力さえあれば何でも切れる。丈夫なハサミならどれでもそうだろうが、刃こぼれしない。錆がつかない。長持ちする。こういうメリットがある。
 どんな刃物でも作れそうなものである。しかし斧などある程度重さも必要な素材にするには、宝石より金属の方が適している。店主が頭を悩ませたのはその点。重さを必要としない物はいくらもあるだろうが、宝石の特徴を道具の機能に活かす道具として真っ先に思いついたのがハサミだった。

「でも仕事道具じゃないにしても有り難いね。けどいろいろ使い道はありそうだ。仕事にも使えるかもしれない。こりゃ重宝するよ」

「そう言ってもらえるとこっちの気も楽になる。これで後は特に問題はないな」

「わざわざ来てもらってすまないね。大掛かりな歓迎会やる予定も出来なさそうだし」

 ニィナはかなり残念がっている。人が大勢集まって何かで楽しむことが好きらしい。

「気にすんな。仕事以外でやらなきゃならん予定は、何となく面倒くせぇ」

「あぁ、それは何となく気持ち分かるよ。だがあたしとしちゃ新しい人が増えると有り難いしうれしいし。ましてや珍しい人材が来たとあっちゃなおさらさ。末永く腰据えてくれな。あははは」

 ニィナのいつもの豪快な笑い声に見送られて店を出る二人。
 帰りも散策しながらのんびりと帰る。

「引っ越す前にも言ったけどさ、受けた依頼は確かに前払いとか契約となかったから、その仕事しなくても問題はないんだけど……」

「気まぐれで作った。それでいいじゃねぇか。支払いするしないは依頼人の意思に委ねるさ。払うつもりでいるなら今の居場所を探すだろ」

 ニィナ=バナー建具屋に向かう途中で配送を頼んだ品物には、発送元の住所を書かなかった。
 配送先が間違っていたらそちらに返却できません。
 そう言われたが、店主自らが頃合いを見計らって確認しに来るということで話は落ち着いた。

「そんなんでいいのかしらねぇ」

「待たせてる奴らも、依頼の仕事をしてもらったらラッキーくらいにしか思ってねぇんだろ? だったらそれに甘えさせてもらうさ。それにしても……」

「それにしても、何?」

「向こうにいた時は依頼が殺到して仕事以外ほとんどなにもできなかったが、あそこよりも人口が多いこの町に来たってのに、逆にこうしてのんびり長距離を歩くってのが、何となく笑えるな」

「そう言えばそうね……。巨塊の事件とかいろいろあったからね……」

「だがこの引っ越しで土地代に建設費その他もろもろの支出があったから、お前見捨てて夜逃げするしかなくなっちまうから仕事はこれまで通り頑張らねぇとな」

「まぁたそんなこと言ってぇっ。見捨てられたって追いかけるからねっ」

「そう言う奴の事をストーカーっつーんだぜ。覚えとけ」

 店主はセレナをからかい、セレナは店主に文句を続ける。
 そんなのどかなやり取りを続けながら二人は『法具店アマミ』に戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...