211 / 290
環境変化編 第八章:走狗煮らるる
新生活
しおりを挟む
ベルナット村を朝に出発すると、三日目の夕方に到着するくらい離れている首都ミラージャーナ。
村を夕方に出発した店主とセレナが首都に到着したのは三日目の早朝。
竜車は店主が住みなれていた日本でのタクシーのようなもの。ただ、動力が生物であるため、路線バスのように通るルートは決められている。そして荷物がたくさんある客には、客車のほかに別車両の貨物車も用意される。
寄り道は大きな通り沿いなら一か所くらいなら容認される。客の注文によっては細い道に入り戻ることが困難になる場合もあるからだ。
店主は貨物車は先に引っ越し先に行かせ、客車には建具屋ニィナのところに寄ってもらうことにした。
幸い大通り沿いに近いため御者に確認後、途中で停車し宿泊した先からニィナに遠話機で連絡を取っていた。
「朝っぱらから精が出るねぇ。ってあたしもか、あはははは」
豪快な笑い声と共に客車に乗り込むニィナ。
扉の交換もその時に依頼していたので、そのための工具も持ち込んだ。
「竜車ってのはこうなってんのか。へぇ、初めて乗ったよ。遠距離の職場はないもんでね。テンシュっつったっけか。あんたは? 法具屋? へぇ。魔法の道具だろ? うちの道具にも魔法かけてくんねぇかなー。いや、倍働けるようになるなんてもんじゃなくて、錆止めとか刃こぼれしねぇ道具とか作ってほしいなってな。あ? 冒険者用? 装飾品も? あぁ、そっちの方かい。装飾品ねぇ。あたしにゃ似合わねぇな。つーか仕事柄変なモン身につけると作業の邪魔になるからさ。あはははは」
職種は違えども、店主も彼女も同じ職人。しかし彼女はよくしゃべる。店主は日本にいた時も比較的あまりしゃべらない方だが、彼女のあっけらかんとした性格のためか、自分と性格が正反対の彼女だがそんなに不快感は感じなかった。
村から首都までの道のりを思えば、建具屋から新しい引っ越し先までの距離はあっという間。
先に到着していた貨物車は既に待機。ニィナは御者への礼の言葉もそこそこに、早速扉の入れ替え作業に取り掛かる。
店主達は、貨物車の荷物を店舗と住まいへの運び込む。
「扉のとっかえなんて単純作業。もう終わったよ。そっち……はまだかい。ほらほら、運び出しくらいは手伝うよ」
物運びの要領もいいニィナが加わることであっという間に荷物の整理まで終わらせてしまった二人。
あとは『天美法具店』に移動しておいた荷物のみ。
「ちょっと事情があるんで、二人で荷物を外に出します。ショーケースですからそれを店舗に設置する手伝いお願いしたいので、外で待っててもらえますか?」
扉の交換の際に、倉庫の中の様子がちらっと目に入ったニィナ。
しかし内部は暗くてどうなってるかはよく見えなかった。
店主からの要望で言われた通りに外で待つ。
店主は店主で荷物運びのプロでもありそうなニィナにも手伝ってもらいたいが、異世界に転移することだけは今のところ店主とセレナ、そして住む世界は異なるが店主と同じ人間族である、冒険者チームの『風刃隊』リーダーのワイアットの三人のみ。
それにこの世界の者達も異世界の存在は思いもしない。
余計なトラブルを招きかねない迂闊な行動はとるべきではないと判断した店主は、ニィナにそのように頼む。
もっとも運び出すのが困難な品物はそのショーケースのみ。
『法具店アマミ』から運び出す時と違い、今回は一旦屋外に出す。それが意外と二人にとって負担になるせいか、すべてを運び出し終わった時の店主とセレナは、汗をかきながら赤い顔をして息切れを起こしている。
「二人とも休んでな。重さだけならあたし一人で運べるからさ。あとはバランスと入口の広さに注意して……っと」
軽口を叩くようなニィナの口調だが、その動きは慎重そのもの。
貨物車からの荷物の運び入れの手伝いほど早くはないが、二人が安心して見ていられる仕事の安定感はある。
「さっすがプロ。もう運び終わっちゃうね」
「ははっ。プロなのは物運びじゃなくて建築の方さ。だが褒められて悪い気はしないね。折角だ。褒めるばかりじゃなく、置き場所の細かい指示ももらおうか。どこに置くか決めてあるかい?」
店主はニィナの好意を有り難く受け、客が入店して快適と思われる位置を伝える。
程なくしてセッティングはすべて終わり、あとは店主とセレナだけでも人手が足りる荷物の整理のみ。
「なかなかいい店になりそうじゃないか。……って言ったら自画自賛になっちゃうな。あはははは」
建物の基礎作りから内装まで、一人ですべての作業を完了させたニィナ。店主達の店を褒めることは、まさにニィナの言葉通り。
しかし店主もセレナもニィナの仕事ぶりには賞賛以外に言葉が出ない。
おまけに荷物の運び入れまでしてくれた。余計な時間を取らずに済んだことも二人にとって大いに助かった。
「あはは。なぁに、こんなの朝飯前だって。あんたも職人なら分かるだろ? 自分の仕事終わった後の世話……ってのか? 行きかけの駄賃だよ、こんなの。あは……」
ぐうぅぅ……。
ニィナの朝飯前という言葉に反応したのか、彼女のお腹から音が鳴る。
「……そう言えば時間の事忘れてたな。こっちの都合ばかり押し付けてニィナさんの都合すっかり頭の中から抜けてた」
店主の気まずそうな声に、途中で止まったニィナの笑い声が、まるで引き継ぐかのように続く。
「あははは。『さん』なんて堅ッ苦しいのはいらないよ。一緒に汗を流した仲だしな。あたしもお腹の虫もこんなに元気ってことだから気にしない気にしない」
「今の時間空いてる食堂とかないか? そういう仲と思ってくれるなら一緒に朝飯食いに行くってのはどうかなってな」
「御者さんに聞いてみようよ。あの人たちの帰りの途中でそんな店あるかもしれないし」
二人はセレナの提案にのって御者に開店している食堂やレストランの場所を尋ねる。セレナの思った通り、帰り道の途中にあるらしいが距離が短すぎるため料金は発生しない。料金が発生しない以上客車には乗ることが出来ないが、物のついでという御者の温情で貨物車の方に乗せてもらい、目的地まで運んでもらった。
乗った車両は貨物車の上、料金がかからないということで三人は荷物扱いということである。
村を夕方に出発した店主とセレナが首都に到着したのは三日目の早朝。
竜車は店主が住みなれていた日本でのタクシーのようなもの。ただ、動力が生物であるため、路線バスのように通るルートは決められている。そして荷物がたくさんある客には、客車のほかに別車両の貨物車も用意される。
寄り道は大きな通り沿いなら一か所くらいなら容認される。客の注文によっては細い道に入り戻ることが困難になる場合もあるからだ。
店主は貨物車は先に引っ越し先に行かせ、客車には建具屋ニィナのところに寄ってもらうことにした。
幸い大通り沿いに近いため御者に確認後、途中で停車し宿泊した先からニィナに遠話機で連絡を取っていた。
「朝っぱらから精が出るねぇ。ってあたしもか、あはははは」
豪快な笑い声と共に客車に乗り込むニィナ。
扉の交換もその時に依頼していたので、そのための工具も持ち込んだ。
「竜車ってのはこうなってんのか。へぇ、初めて乗ったよ。遠距離の職場はないもんでね。テンシュっつったっけか。あんたは? 法具屋? へぇ。魔法の道具だろ? うちの道具にも魔法かけてくんねぇかなー。いや、倍働けるようになるなんてもんじゃなくて、錆止めとか刃こぼれしねぇ道具とか作ってほしいなってな。あ? 冒険者用? 装飾品も? あぁ、そっちの方かい。装飾品ねぇ。あたしにゃ似合わねぇな。つーか仕事柄変なモン身につけると作業の邪魔になるからさ。あはははは」
職種は違えども、店主も彼女も同じ職人。しかし彼女はよくしゃべる。店主は日本にいた時も比較的あまりしゃべらない方だが、彼女のあっけらかんとした性格のためか、自分と性格が正反対の彼女だがそんなに不快感は感じなかった。
村から首都までの道のりを思えば、建具屋から新しい引っ越し先までの距離はあっという間。
先に到着していた貨物車は既に待機。ニィナは御者への礼の言葉もそこそこに、早速扉の入れ替え作業に取り掛かる。
店主達は、貨物車の荷物を店舗と住まいへの運び込む。
「扉のとっかえなんて単純作業。もう終わったよ。そっち……はまだかい。ほらほら、運び出しくらいは手伝うよ」
物運びの要領もいいニィナが加わることであっという間に荷物の整理まで終わらせてしまった二人。
あとは『天美法具店』に移動しておいた荷物のみ。
「ちょっと事情があるんで、二人で荷物を外に出します。ショーケースですからそれを店舗に設置する手伝いお願いしたいので、外で待っててもらえますか?」
扉の交換の際に、倉庫の中の様子がちらっと目に入ったニィナ。
しかし内部は暗くてどうなってるかはよく見えなかった。
店主からの要望で言われた通りに外で待つ。
店主は店主で荷物運びのプロでもありそうなニィナにも手伝ってもらいたいが、異世界に転移することだけは今のところ店主とセレナ、そして住む世界は異なるが店主と同じ人間族である、冒険者チームの『風刃隊』リーダーのワイアットの三人のみ。
それにこの世界の者達も異世界の存在は思いもしない。
余計なトラブルを招きかねない迂闊な行動はとるべきではないと判断した店主は、ニィナにそのように頼む。
もっとも運び出すのが困難な品物はそのショーケースのみ。
『法具店アマミ』から運び出す時と違い、今回は一旦屋外に出す。それが意外と二人にとって負担になるせいか、すべてを運び出し終わった時の店主とセレナは、汗をかきながら赤い顔をして息切れを起こしている。
「二人とも休んでな。重さだけならあたし一人で運べるからさ。あとはバランスと入口の広さに注意して……っと」
軽口を叩くようなニィナの口調だが、その動きは慎重そのもの。
貨物車からの荷物の運び入れの手伝いほど早くはないが、二人が安心して見ていられる仕事の安定感はある。
「さっすがプロ。もう運び終わっちゃうね」
「ははっ。プロなのは物運びじゃなくて建築の方さ。だが褒められて悪い気はしないね。折角だ。褒めるばかりじゃなく、置き場所の細かい指示ももらおうか。どこに置くか決めてあるかい?」
店主はニィナの好意を有り難く受け、客が入店して快適と思われる位置を伝える。
程なくしてセッティングはすべて終わり、あとは店主とセレナだけでも人手が足りる荷物の整理のみ。
「なかなかいい店になりそうじゃないか。……って言ったら自画自賛になっちゃうな。あはははは」
建物の基礎作りから内装まで、一人ですべての作業を完了させたニィナ。店主達の店を褒めることは、まさにニィナの言葉通り。
しかし店主もセレナもニィナの仕事ぶりには賞賛以外に言葉が出ない。
おまけに荷物の運び入れまでしてくれた。余計な時間を取らずに済んだことも二人にとって大いに助かった。
「あはは。なぁに、こんなの朝飯前だって。あんたも職人なら分かるだろ? 自分の仕事終わった後の世話……ってのか? 行きかけの駄賃だよ、こんなの。あは……」
ぐうぅぅ……。
ニィナの朝飯前という言葉に反応したのか、彼女のお腹から音が鳴る。
「……そう言えば時間の事忘れてたな。こっちの都合ばかり押し付けてニィナさんの都合すっかり頭の中から抜けてた」
店主の気まずそうな声に、途中で止まったニィナの笑い声が、まるで引き継ぐかのように続く。
「あははは。『さん』なんて堅ッ苦しいのはいらないよ。一緒に汗を流した仲だしな。あたしもお腹の虫もこんなに元気ってことだから気にしない気にしない」
「今の時間空いてる食堂とかないか? そういう仲と思ってくれるなら一緒に朝飯食いに行くってのはどうかなってな」
「御者さんに聞いてみようよ。あの人たちの帰りの途中でそんな店あるかもしれないし」
二人はセレナの提案にのって御者に開店している食堂やレストランの場所を尋ねる。セレナの思った通り、帰り道の途中にあるらしいが距離が短すぎるため料金は発生しない。料金が発生しない以上客車には乗ることが出来ないが、物のついでという御者の温情で貨物車の方に乗せてもらい、目的地まで運んでもらった。
乗った車両は貨物車の上、料金がかからないということで三人は荷物扱いということである。
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
スローライフは仲間と森の中で(仮)
武蔵@龍
ファンタジー
神様の間違えで、殺された主人公は、異世界に転生し、仲間たちと共に開拓していく。
書くの初心者なので、温かく見守っていただければ幸いです(≧▽≦) よろしくお願いしますm(_ _)m
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく
かたなかじ
ファンタジー
四十歳手前の冴えない武器屋ダンテ。
彼は亡くなった両親の武器屋を継いで今日も仕入れにやってきていた。
その帰りに彼は山道を馬車ごと転げ落ちてしまう。更に運の悪いことにそこを山賊に襲われた。
だがその落下の衝撃でダンテは記憶を取り戻す。
自分が勇者の仲間であり、賢者として多くの魔の力を行使していたことを。
そして、本来の名前が地球育ちの優吾であることを。
記憶と共に力を取り戻した優吾は、その圧倒的な力で山賊を討伐する。
武器屋としての自分は死んだと考え、賢者として生きていくことを決める優吾。
それは前世の魔王との戦いから三百年が経過した世界だった――。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。
えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう
平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。
経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。
もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる