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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
引っ越しまでの…… いよいよ開始
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その日の営業が終わり、店の戸締りを始める。
「……っちっ。セレナ、ちと倉庫で在庫のチェックしてくんねぇか? おい、居候! お前は一人で飯の準備してろ! ちとやっかいなことなっちまった。飯が出来たら叫んで呼べ!」
一人一階にいた店主は、二階に向けて二人に呼びかけた。
呼ばれたセレナは慌てて下に駆け下りる。
「どうしたの? トラブル?」
「トラブルじゃねぇが、詳しいことは隣の倉庫だ」
店主は珍しくセレナの背中を押して倉庫へ急かす。
一体何事かとセレナは少し青い顔をして詳しい話を聞こうとするが、自分より非力な店主になぜか逆らえない。
倉庫の中に入る二人。
扉は開けたまま店主はセレナに話を始める。
「首都で頼んだ建具屋、倉庫が出来たんだと。依頼に無関係な荷物まとめて適当な量に小分けして運んどけ。送り先は分かるよな?」
「え? もうできたの?」
「住まいはまだだ。ただあの建具屋気を利かせてくれた。荷物の整理なんかに時間かかるだろうから先に送っていいってさ。いきなり全部送るなよ? 移った後の手間もかかるし、何より周りに悟られたら面倒だしな」
そう言った後、わざとらしく大きな声を上げる。
「ということだ。俺は問題ないと思うんだが念のためお前にも確かめる必要があってな」
大声を出した意味を察知したセレナは店主に合わせる。
「うん、わかった。そういうことならちょこっとずつ見ていかなきゃね。いきなり全部見直すの大変だから少しずつやるよ。一人でやった方がかえって能率が上がるから私に任せて」
このセレナの反応で、自分の言うことを理解してくれたと判断した店主。
後は同居人のシエラに、余計なことを知られないように気を付けるだけ。
二階に上がり、シエラに緊急の用事は済んだことを伝え、本を一冊手に取ってセレナのベッドの天井の上に上がる。
二階の天井との間は割と狭いが、二段ベッドでも十分使用に耐えられる。
「あれ? その本、大陸語の本? テンシュさん、それ知らなくても会話できるんですよね?」
料理を終えて皿を運ぶシエラが、店主が寝転ぶ二段目のベッドを見上げて気付く。
「んあ? あぁ、まぁな。ちょっとした好奇心だ。こういうことから向上心に繋げると、別に師匠なんざいなくても自分で店が持てるようになるぞ」
「いえ、私はテンシュさんを師匠に決めましたから」
「いきなり俺の方針に反抗するようなヤツを弟子にしたくはないね。つかおしゃべりしてる暇あるのかよ」
「はい。準備は出来ましたから、セレナさん呼んで来てもらえます?」
シエラから頼まれたことは、普段の店主なら「テメェで行って来い」くらいのことは言う。
が、今セレナがしていることはなるべく誰にも知られたくない作業。
『天美法具店』で仕事をしていた時までの、客との会話の中で何度か聞いていた話の中に、「女の勘は鋭い」という言葉があったのを思い出す。
「……お前呼びに行けよ。ついでの作業机の辺りに読み終わった本があるんだが、それ全部持ってきてくれねぇか?」
「え? 嫌ですよ。普段なら別に構わないですけど、食事時に粉に塗れたところに行ったら口に入れる料理が食べられなくなるじゃないですか。ましてや作ったの私ですし」
あーはいはい。
店主はそう言いながらベッドから降りる。
「まったく。適当なのは別にいいんですけど、健康への注意もそんな適当じゃだめですよ?」
その言葉を背中で受けて、セレナがいる倉庫に向かう。
店主の思惑など全く知りもしないシエラの様子に内心胸を撫で下ろす思いの店主。
単純なバイト志願者だったらそこまでする必要はなかっただろうが、もし本気で弟子入りしたいなら師匠が行方不明になっても探して見つけ出すだろう。
ふるいにかけるには丁度いい機会。店主はそんなことも思う。
「……っちっ。セレナ、ちと倉庫で在庫のチェックしてくんねぇか? おい、居候! お前は一人で飯の準備してろ! ちとやっかいなことなっちまった。飯が出来たら叫んで呼べ!」
一人一階にいた店主は、二階に向けて二人に呼びかけた。
呼ばれたセレナは慌てて下に駆け下りる。
「どうしたの? トラブル?」
「トラブルじゃねぇが、詳しいことは隣の倉庫だ」
店主は珍しくセレナの背中を押して倉庫へ急かす。
一体何事かとセレナは少し青い顔をして詳しい話を聞こうとするが、自分より非力な店主になぜか逆らえない。
倉庫の中に入る二人。
扉は開けたまま店主はセレナに話を始める。
「首都で頼んだ建具屋、倉庫が出来たんだと。依頼に無関係な荷物まとめて適当な量に小分けして運んどけ。送り先は分かるよな?」
「え? もうできたの?」
「住まいはまだだ。ただあの建具屋気を利かせてくれた。荷物の整理なんかに時間かかるだろうから先に送っていいってさ。いきなり全部送るなよ? 移った後の手間もかかるし、何より周りに悟られたら面倒だしな」
そう言った後、わざとらしく大きな声を上げる。
「ということだ。俺は問題ないと思うんだが念のためお前にも確かめる必要があってな」
大声を出した意味を察知したセレナは店主に合わせる。
「うん、わかった。そういうことならちょこっとずつ見ていかなきゃね。いきなり全部見直すの大変だから少しずつやるよ。一人でやった方がかえって能率が上がるから私に任せて」
このセレナの反応で、自分の言うことを理解してくれたと判断した店主。
後は同居人のシエラに、余計なことを知られないように気を付けるだけ。
二階に上がり、シエラに緊急の用事は済んだことを伝え、本を一冊手に取ってセレナのベッドの天井の上に上がる。
二階の天井との間は割と狭いが、二段ベッドでも十分使用に耐えられる。
「あれ? その本、大陸語の本? テンシュさん、それ知らなくても会話できるんですよね?」
料理を終えて皿を運ぶシエラが、店主が寝転ぶ二段目のベッドを見上げて気付く。
「んあ? あぁ、まぁな。ちょっとした好奇心だ。こういうことから向上心に繋げると、別に師匠なんざいなくても自分で店が持てるようになるぞ」
「いえ、私はテンシュさんを師匠に決めましたから」
「いきなり俺の方針に反抗するようなヤツを弟子にしたくはないね。つかおしゃべりしてる暇あるのかよ」
「はい。準備は出来ましたから、セレナさん呼んで来てもらえます?」
シエラから頼まれたことは、普段の店主なら「テメェで行って来い」くらいのことは言う。
が、今セレナがしていることはなるべく誰にも知られたくない作業。
『天美法具店』で仕事をしていた時までの、客との会話の中で何度か聞いていた話の中に、「女の勘は鋭い」という言葉があったのを思い出す。
「……お前呼びに行けよ。ついでの作業机の辺りに読み終わった本があるんだが、それ全部持ってきてくれねぇか?」
「え? 嫌ですよ。普段なら別に構わないですけど、食事時に粉に塗れたところに行ったら口に入れる料理が食べられなくなるじゃないですか。ましてや作ったの私ですし」
あーはいはい。
店主はそう言いながらベッドから降りる。
「まったく。適当なのは別にいいんですけど、健康への注意もそんな適当じゃだめですよ?」
その言葉を背中で受けて、セレナがいる倉庫に向かう。
店主の思惑など全く知りもしないシエラの様子に内心胸を撫で下ろす思いの店主。
単純なバイト志願者だったらそこまでする必要はなかっただろうが、もし本気で弟子入りしたいなら師匠が行方不明になっても探して見つけ出すだろう。
ふるいにかけるには丁度いい機会。店主はそんなことも思う。
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