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環境変化編 第八章:走狗煮らるる

店と村 竜車内議論 存在の目的

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「それにしてもさ」

「んぁ?」

 店主は間の抜けた声を出す。
 竜車の乗り心地は、店主に眠気をもたらすほど具合はいい。
 客席は小部屋の状態。乗り口は引き戸。そこ以外の三方向の壁はソファに置かれ、床はは土足禁止で絨毯が敷かれている。
 走行中の振動は和らげる仕掛けがあるようだ。
 店主はソファの上に仰向けで横になっている。

「あの建具屋さんには歓迎されたけどさ」

「あぁ……」

「でも村の方では追い出されるのよね。村だって、若い人は増えないとか年寄りばかりとかそんな愚痴ばっかり」

「受け入れる器が違うってこったな」

「器?」

 むくりと起き上がり、対面のソファに座っているセレナと向かい合う。

「お前、あの店始める時どんな思いだった?」

 突然聞かれるセレナは、すぐに答えが思い浮かばない。
 頭の中をあれこれ探りながら、初めの頃を思い出す。

「どこの道具屋にもない道具が欲しくて、だったら自分で作れるかもって……」

「なぜあの村で店を始めた?」

「前にも言ったでしょ? 斡旋所の施設が充実してるから。それと、巨塊討伐失敗で怪我人救助とかの仕事とかいろいろあったのよ。そんな人達のために道具を売って……」

 店主はふむ、と声にならない声を出し、背中をソファに預ける。

「村自体に、店で貢献するよりも客層を考えたわけだ。そして村は店を開いた時、どんな人物が経営するのかどんな店が始まるか分からなかったんじゃないか? 分かったとしても、どんな客が来るか分からない」

 セレナは客席に常備されているお茶を自分と店主の前に置く。

「店を開く前は周りには挨拶したけど……。公的施設じゃないから村長さんに挨拶しに行くほどでもないでしょ?」

「店を開いたことにより、新たな客層が村を訪れる。村は人で賑わってほしい。だが村のしきたりに従ってもらわなきゃ困る。村の治安を守ってもらわなきゃ困る。村の決まりを乱されたら困る」

 店主はお茶をごくっと喉を鳴らしながら飲む。
 それほど喉が渇いたわけでもない。だが体の動きを変化させることで体に刺激を与え、脳内のリフレッシュを図る。
 そして思考と話の同時進行。

「自警団とかはいるだろう。だがそれでも手に負えない村を荒らす者達が訪れたらどうするか。手の打ちようがない。村は荒らされる一方だ。人は来てほしいが言うことを聞きそうにない者やそんな者を招き入れそうな物は村から退出してほしい、というわけだ」

「そんな客、うちには……」

「来ないとは言わせねーぞ? 俺も被害に遭ったから。それに今は俺らの店のどうこうを言う話じゃねぇよ。じゃあなんであの建具屋は歓迎してくれたか。新参者と地元民が顔を合わせた時、危険な目に遭うことがあり得ないからってとこじゃねぇか? セレナより若そうだったけど、間違いなく腕っぷしは強そうだ」

 セレナとほぼ同じ背丈。しかしドワーフ族なだけあって、店主とは比べ物にならないほど体の線が太い。頼り甲斐がありそうというのは女性にとって失礼だろうか。
 そういう意味ではセレナの体格、体形はいかにも女性らしい。一見、冒険者としてのたくましさよりも可憐さが目立つセレナは村人たちから見たらどうだっただろうか。

「どんな奴でも受け入れる意思を持ち、それでも安心安全を維持する力がある。その地域にこの両方がないと繁栄することは難しいんじゃねぇか? 地域の在り方に善悪はねぇよ。判定できることは、方針とやり方がマッチしてるかどうかってことぐらいだな」

「私はあの村に、安心安全の思いを与えることは出来なかった……か」

「別に落ち込むこたぁねぇだろ? それを目的にしてあの村で店始めたわけじゃねぇんだし。巨塊騒ぎ関連で店開いたんなら間違っちゃいねぇだろ。その目的で、あの村から一番遠い国内で店開いたんなら間違いなく爆笑もんだけどよ」

 真面目な話をしていても、最後に出てくる店主節は健在である。
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