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環境変化編 第八章:走狗煮らるる
店と村 店主の目的達成
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店主とセレナは地録所という名前の役場で調べ物をしていた。
二人はベルナット村で開いていた『法具店アマミ』の引っ越し先を、天流法国の首都ミラージャーナに決めた。
その区域の一番端で流水がきれいな川がそばにあり、良質の土と岩を掘削できる場所が近くにあるという条件にあった土地について竜車の御者に尋ねたところ、現場まで案内してもらった。
その土地を気に入った店主は、法王ウルヴェスやその反対派の権力争いからなるべく避けながらこの土地を入手するため、不動産ではなくこの国の法務局の役割を果たす役所に出向いていた。
「土地を登記登録する所で地録所ね。わかりやすいな」
「それはいいんだけど、不動産に聞く方が早いと思うよ?」
手間がかからずすぐにその土地を自分の物とするには、専門業の者に委ねる方がいい。
「早い遅いの問題ならそれでいいかもな。だが手回しされて、そこは売買禁止ですとか言われたらお手上げ。俺達は流浪の民となるわけだ」
「大げさよ。場所に拘らなければすぐに見つかるわよ」
「そうだな。きっと用意されてると思うぜ? クソジジィかその反対派のどちらかがな。で、その恩を着せようってハラも見え隠れしてる……ここだな。所有者は……建具屋?」
「ニィナ=バナー、だって……。自営業っぽいね。どうするの? 交渉しに行くって言っても、テンシュの疑り深さを考えるとすでにどちらかの息がかかっててもおかしくはないわよ?」
腕を組んで考える店主。
しかし結論はすぐに出た。
「俺らが村から出るってことは予想できるだろうよ。だが引っ越し先を決めている情報は流れてないだろ。あるとすりゃ竜車の御者からしかねぇな」
「移動中に連絡を取るってのは難しいかな。テンシュはずっと『首都の方まで』としか言ってなかったし、竜を休ませたのは王都に入る前。御者だって正確には誰かに伝えることはできないはず」
「となりゃ急いで持ち主と接触するか。躊躇うようなら他の候補を探しに行こう」
持ち主が即断即決するなら、持ち主の意思に介入する存在はまだいない。
誰かに連絡する必要があるなら、売買が成立するまである程度の時間が必要となる。
「王都内なら馬車がいいね。役場前に待機所があるからすぐ行けるよ」
二人の行動はそこからが早かった。
ニィナ=バナー。
ドワーフ族の女性で、ちょっとした建物なら基礎から内装まですべてをこなす、ニィナバナー建具店という社長の肩書もついていた。
「あの土地が欲しいなんて酔狂だねぇ。こっちも扱いに困ってたんだ。こっからかなり離れてるし、管理もなかなか満足に行き届かないし。山の方まで欲しいってのも助かるよ。で、取引の値となると」
「ちょっと待った。持ち主調べたら建具屋ってあったからこっちも有り難かったんだ。俺らの住居兼作業場、そして店が一緒になった建物の建築を依頼したい」
ニィナは降って湧いた仕事に驚くが喜色満面。
「引っ越しかい? あの辺りも賑やかになるかねぇ。うれしいことじゃないか。こっちも勉強させてもらうよっ」
「一応間取りとかは……セレナ、今の店の図面持ってきてるよな? 出して見せて……うん、今はこんな感じだが、二階には壁がねぇんだ。キッチンと個室。もちろんトイレと風呂にもだが壁で仕切ってもらって……」
「ふんふん、うん、わかった。他に要望は? 店舗広くする? うん。あれ? 地下に倉庫があるのね」
「隣の建物の図面はどうした? あ、これか。倉庫は二か所あって、うん。それも……」
「テンシュ、あなたの作業場どうする? 壁つけた方がいいと思うけど。ガラス張り? ニィナさん、そんな設計できます?」
皇族や国の要職の人物の息がかからない、むしろ無縁の者であった。
引っ越し先の予定だけの話に本腰が入り、一気に計画が進んで行く。
「んじゃ今日からぴったり一か月。内装も水道とかもきちんと使えるようにしとくから。あと住んだり商売したりするのに邪魔になるようなことがあったらこっちで修正していくけどいいよね? なぁに、こっちは専門さ。ずっとそこに住む建物が、生活に障る設計になるかどうかはすぐ分かる」
土地の売買も済ませ、建築も同時に依頼。
この話は外部に漏らさないように念を押す店主。
そして商談成立。
あとは完成を待つだけとなる。
今回の首都訪問の目的を達成した二人は村へ戻るため、ミラージャーナの外壁の入り口から竜車に乗り込んだ。
二人はベルナット村で開いていた『法具店アマミ』の引っ越し先を、天流法国の首都ミラージャーナに決めた。
その区域の一番端で流水がきれいな川がそばにあり、良質の土と岩を掘削できる場所が近くにあるという条件にあった土地について竜車の御者に尋ねたところ、現場まで案内してもらった。
その土地を気に入った店主は、法王ウルヴェスやその反対派の権力争いからなるべく避けながらこの土地を入手するため、不動産ではなくこの国の法務局の役割を果たす役所に出向いていた。
「土地を登記登録する所で地録所ね。わかりやすいな」
「それはいいんだけど、不動産に聞く方が早いと思うよ?」
手間がかからずすぐにその土地を自分の物とするには、専門業の者に委ねる方がいい。
「早い遅いの問題ならそれでいいかもな。だが手回しされて、そこは売買禁止ですとか言われたらお手上げ。俺達は流浪の民となるわけだ」
「大げさよ。場所に拘らなければすぐに見つかるわよ」
「そうだな。きっと用意されてると思うぜ? クソジジィかその反対派のどちらかがな。で、その恩を着せようってハラも見え隠れしてる……ここだな。所有者は……建具屋?」
「ニィナ=バナー、だって……。自営業っぽいね。どうするの? 交渉しに行くって言っても、テンシュの疑り深さを考えるとすでにどちらかの息がかかっててもおかしくはないわよ?」
腕を組んで考える店主。
しかし結論はすぐに出た。
「俺らが村から出るってことは予想できるだろうよ。だが引っ越し先を決めている情報は流れてないだろ。あるとすりゃ竜車の御者からしかねぇな」
「移動中に連絡を取るってのは難しいかな。テンシュはずっと『首都の方まで』としか言ってなかったし、竜を休ませたのは王都に入る前。御者だって正確には誰かに伝えることはできないはず」
「となりゃ急いで持ち主と接触するか。躊躇うようなら他の候補を探しに行こう」
持ち主が即断即決するなら、持ち主の意思に介入する存在はまだいない。
誰かに連絡する必要があるなら、売買が成立するまである程度の時間が必要となる。
「王都内なら馬車がいいね。役場前に待機所があるからすぐ行けるよ」
二人の行動はそこからが早かった。
ニィナ=バナー。
ドワーフ族の女性で、ちょっとした建物なら基礎から内装まですべてをこなす、ニィナバナー建具店という社長の肩書もついていた。
「あの土地が欲しいなんて酔狂だねぇ。こっちも扱いに困ってたんだ。こっからかなり離れてるし、管理もなかなか満足に行き届かないし。山の方まで欲しいってのも助かるよ。で、取引の値となると」
「ちょっと待った。持ち主調べたら建具屋ってあったからこっちも有り難かったんだ。俺らの住居兼作業場、そして店が一緒になった建物の建築を依頼したい」
ニィナは降って湧いた仕事に驚くが喜色満面。
「引っ越しかい? あの辺りも賑やかになるかねぇ。うれしいことじゃないか。こっちも勉強させてもらうよっ」
「一応間取りとかは……セレナ、今の店の図面持ってきてるよな? 出して見せて……うん、今はこんな感じだが、二階には壁がねぇんだ。キッチンと個室。もちろんトイレと風呂にもだが壁で仕切ってもらって……」
「ふんふん、うん、わかった。他に要望は? 店舗広くする? うん。あれ? 地下に倉庫があるのね」
「隣の建物の図面はどうした? あ、これか。倉庫は二か所あって、うん。それも……」
「テンシュ、あなたの作業場どうする? 壁つけた方がいいと思うけど。ガラス張り? ニィナさん、そんな設計できます?」
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「んじゃ今日からぴったり一か月。内装も水道とかもきちんと使えるようにしとくから。あと住んだり商売したりするのに邪魔になるようなことがあったらこっちで修正していくけどいいよね? なぁに、こっちは専門さ。ずっとそこに住む建物が、生活に障る設計になるかどうかはすぐ分かる」
土地の売買も済ませ、建築も同時に依頼。
この話は外部に漏らさないように念を押す店主。
そして商談成立。
あとは完成を待つだけとなる。
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