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法王依頼編 第七章 製作開始

法王依頼のエピローグ:その道具は店長から巣立ち、店長には普段の毎日が戻ってくる

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「今日テンシュ殿たちがこの場に来るなど、妾でも考えもしなかった事よ。妾が一番テンシュ殿を理解しておらんかったわ。ましてや盗まれたなどこの場で初めて告白しおって、どういうつもりか問い質したかったわ。すべて何とか丸く収まったものの、もしあの温泉でのことが知られたらどうするつもりだったのかの? 妾の言い分も聞き届けてほしいものだがのぉ?」

「ハン! こっちがどんなトラブルがあってもそっちにゃ関係のないことだろうが。あんたにとって大切なこたぁ、賞品が相応しい物かどうかってことだろぉ? その結果の途中のことは、そっちにゃ関知することじゃあるめぇよ」

 ウルヴェスはがっくりと力を落とすような姿勢になる。
 表情にも影がかかる。

「巨塊騒ぎの時には、本当に、心の底から助かったと思うておった。テンシュ殿がいなければ、ここまで円満に解決できんかった。感謝しておるのだぞ? じゃがテンシュ殿は、妾の力を畏れてばかりではないか。親しくしてもらえたら、今回もここまで他の者へ警戒することもなかったものを……」

「あいつらも言ってたろうが。余所者ってな。ある意味この世界の者達ゃ頭が固いと思うぜ? でなきゃ……ま、その話はいいや。いずれ頭が固い。そして貴族とかの階級もある。種族内で固定概念とかもあるんじゃねぇか? そんな意識がこの世界にある限り、あんたの補佐になるってのは、俺の選択肢の中にはないね」

「ならば我々ではいかがでしょう」
「休みの日には、そちらに遊びに参りたいと思います。確か『法具店アマミ』でしたね?」

 案内係の二人が唐突に会話に混ざる。

「いらねぇから。将来の伏魔殿のボスたちに来てほしくはねーから。すごく面倒くせぇから来んな」

「ライリー=デュマーと申します」
「私はホールス=エイナと申します」

 強引に自己紹介をして来る二人。見た目、ライリーは男性、ホールスは女性に見える。

「いや、いいから。面倒事は、本当に面倒くせぇから」

「テンシュ殿。どうか邪険にせんでもらえんだろうか? できれば親しい間柄に……」

「ジジィも若い女の姿で上目遣いは止めろ! ある意味気持ち悪ぃから!」

 ウルヴェスは大きくため息をつく。

「そう言えば報酬がまだだったな。これくらいは受け取ってほしいのだが」

「……物による。受け取ったら即店に戻るから。いいよな?」

「……テンシュ殿の寿命と、テンシュ殿と嬢ちゃんの健康。それにその新人の成長力。あぁ、断るのはなしぞ」

「……ひょっとして……」

「うむ、もう授けた。それくらい受け取れ。ある意味妾も迷惑したのじゃから、迷惑料じゃ」

 店主とウルヴェスの言い争いにおずおずと混ざるセレナ。

「あの……私の健康、と言うのは……」

「将来の幸せへの選択肢は、多い方が良かろう? あとは口にせずとも、心当たりはあるはず。まさにそのことよ。新人の嬢ちゃんは、いきなり力を授けるよりも、鍛えた分だけ無駄な努力なしに必ず身に付く成長力という物を授けた。どの方面においてもな」

 セレナは見る見るうちに目に涙を浮かべ、シエラは喜びを爆発させている。冒険者としても道具屋としても成長の足踏みをすることはないと思われる。

「因みに俺の寿命って……」

「ズバリ、四桁じゃ」

「寿命全うすりゃセレナより越えるんじゃね……?」

「それとライリー、ホールス」

「はっ」
「はいっ」

「休日は好きにするとよい」

 ウルヴェスの言葉に二人は互いに見合って喜んでいる。

「今後、何かあったらまた世話になる。その時はよろしゅうな」

 今回ばかりは法王の与り知らぬことで好き勝手に動いた分、こちらのわがままばかりを通すわけにはいかない。

「……今回の件、俺の名前は表舞台に出すんじゃねぇぞ?」

 店主はウルヴェスが無言で頷くのを見届けて、二人と共に『法具店アマミ』に戻っていった。

 ────────────

 約二か月後の『法具店アマミ』でのこと。

「だからってよぉ」

「なんでしょう?」

「あの次の日からよ」

「はい」

「休日ってば毎回二人揃って店に来るってのはどういうつもりなんだと二十四時間ほど問い詰めたいんだがな」

「社会勉強です」
「仲良くなりたいからです」

 ライリーとホールスの二人が早速『法具店アマミ』に訪問してきた。
 弟子入り志願のシエラの事情も聴く必要もある。
 弟子入りする必要がないと感じたら、いつまでも店に置いていられない。

「ホントに何でこうなった……」

「ひねくれながらも、やっぱり人徳があるのかもね」

「あんなクソジジィからんな評価貰ったってうれしくもなんともねぇよ!」

 平均的にさらに表情が明るくなったセレナの言葉をはねつける店主。
 ウルヴェスからの依頼を何とか達成させ、報酬を受け取るだけで終わるはずが、さらにウルヴェスからの要望を受け入れる羽目になる。

「ホントにこいつら……俺にはすごくどうでもいいんだがなぁ……」

 開店時間直後から、店主は仕事にかかる前に仕事以外の件で眉間に皺を寄せている。

「それと、今日は国主杯の決勝戦ですからね。テンシュ殿と一緒に見たいと思いまして」

「うるせぇよ。アレはあのジジィが拵えたやつ。そういうことにしとけや! 俺はもう無関係! 賞品が国やあのジジィと関連してれば何の問題もないだろうが! 見たけりゃお前らだけで見てろ!」

「ところで珍しい盤と石の色でしたね。何か意味があったんですか?」

「……説明する予定だったが、そこまで頭回らなかったな。盤は土の色を明るくした。でないと線が見えねぇからな。あと空と木々の緑の色。目に優しい色合いにしただけ。だがな」

 店主は二人に顔を近づけ、静かな口調に切り替える。

「あれは、俺とはもう無関係なんだよ。今言ったろ? 俺の作ったのはボツ。そして俺が作った物そっくりな、あのジジィが作った賞品。だから格調も高ぇんだよ。市井人が手掛けられるわけがないだろ? わかったな?」

 そう言うと二人から顔を離し、普段の悩み多い顔になる。

「……テンシュも相当強いって噂です。お手合わせ願いたいのですが」

「おぉ、残念だな。道具はねぇよ」

 三人の会話に割って入るように、朝一番の客が来る。

「テンシュー、札がないってことは、依頼受けつけてもらえるんすかー?」

 この日の最初の客は『風刃隊』。憧れの存在の一組が目の前に現れ、目を輝かせるシエラ。
 しかし店主はそれでもブレない。

「うるせぇ! テメェら即刻帰れ!」

「いや、いきなりそれはひどすぎますって」

 『法具店アマミ』は、店主は頭を悩ませながらも、いつもの毎日が再び始まる。
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