美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
186 / 290
法王依頼編 第七章 製作開始

再会・玉座の間にて 4

しおりを挟む
 ウルヴェスが店主からの助言を受け、碁盤の目の剥ぎ取りにかかる。
 最後の一人、テンシュから見て一番遠くに並んでいるアムベスと呼ばれた人物の前に移動したウルヴェス。

 店主は、その人物の前に置かれた碁盤は盗まれた物だと確信している。
 盗まれる前と同じ形をしていた。加工は全くされていないようだ。
 ウルヴェスが碁盤の目を抓んで引っ張ると、すべて剥がれた。

「……げ、猊下。確かに品質が下がる物をお持ちしたことをお詫び申し上げますっ。しかしあの下賤な輩が持ってきた品はま……」

 そこまで言ったアムベスは呆気に取られている。
 アムベスばかりではなく、他の四人もセレナもシエラも、そして衛兵や案内係の者も口をあんぐりと開けている。

 店主がウルヴェスの前で、碁盤を持って待ち構えていた。

「私のはまだ試してなかったですね。どうぞ」

「潔い態度は嫌いではない」

 満足気に笑いながらウルヴェスは碁盤の目を抓み引っ張り上げるが、指先、爪がつるんと滑る。
 二度、三度繰り返すが抓むことすらできない。

「……無理だな、これは。あぁ、お前達にも試してもらいたいがそれは許されん。お前達なら壊す目的で触りかねないからな。ここで壊されたらあと二か月後の国主杯には間に合わん。死罪だけでは済まされんぞ。一族郎党、この世界から痕跡をすべて消す。いや、それでも足りんかもしれん」

「そ、そのような物、誰が信用できるか!」

 アムベスの絶叫である。

「そもそもこの闘石はこの国、世界の文化の一つ! 異世界の者が持ち込んだ文化を混ぜたら、正しく伝わってきた物が歪められてしまう! この国が乗っ取られる足掛かりになるかもしれんのだぞ! 大体碁盤だの囲碁盤だの、訳の分からん言葉を持ち出して、こ奴は世界征服など企んでおるやもしれんのだ! 衛兵! 貴様ら何をボーっと突っ立っておる! 身柄を拘束せんか!」

 その絶叫が一通り終わる。衛兵は互いに見合うが誰一人として動こうとはしない。

 恐る恐る手を挙げる者がいる。
 想像を絶するとてつもない力の持ち主達を前に手を挙げることも至難の業。

「ほう? その者は何という? 名乗られよ」

 ウルヴェスから発言を許されるが、その声はかなり震えている。

「シ……シエラ……ドレイク……です」

「シエラよ、何か言うことでもあるのか? 申してみよ」

「は、はい……あの、その……囲碁盤って……なんですか?」

 シエラのか細い質問に力は感じられない。
 その力のない質問に、今度はアムベスの体が強張る。

「……ふむ。……その言葉は、どこで知った?」

 ウルヴェスは抑揚のない発音でアムベスに問う。

「か、風の噂で……。それより猊下! 猊下こそ、『碁盤』とは何のことかご説明いただきたい」

「おぉ、そう言えばこの者が何気なく『碁盤』と連呼していたから釣られてしもうたわ。あっはっはは。闘石盤、あるいは石盤だったな。普通の顔してそういうものだから盤の丁寧な表現かと思うたわ。で、そこの少女の質問を改めてしようか。『囲碁盤』とは何ぞ?」

「畏れながら申し上げます」

 店主の発言である。
 発言を許された店主。

「『碁盤』は普通に口にしたり耳にしたりします。しかし私は『囲碁盤』と言う言葉は、生まれて一回も口にしたことはありません」

「な、貴様、何度か『囲碁』と言う言葉を」

「してませんよ? えぇ、してませんとも。言ったとしても、店のスタッフ、この二人限定ですがこれでも私は宝石職人であって遊戯や競技の道具職人ではありません。これを中心に生活しているわけではありませんので彼女達も、これ以上にいろいろ覚えなきゃならないことはたくさんあります。それでもその言葉をそちらが覚えているのだとしたら、何の目的でその言葉を覚えられたかが疑問になるのですが……」

「アムベスよ!」

 いきなりの大声を出すウルヴェス。
 店主も、他の全員も気が引き締まる思いを生じさせる、威厳のある響きの声。

「その話題はここまでとする。国主杯の賞品は、この者が献上した物とする。ここに至るまでに起きた問題においても、ここまでとするが、よいな?」

「私は、献上品の質の低下を案じております。私の品が選ばれることでこれよりも質が下の物は選ばれない。私の物より上質の物が選ばれればそれに越したことはありません。私の申し上げたいことは、ただそれだけでございます」

 ウルヴェスから間近で声をかけられ、その威厳に条件反射的に頭を下げながらもいくらかは心に余裕がある。やや芝居かかった言葉遣いで応える店主。

 盗難の被害に遭った店主には、店主自身や店自体に被害はなかったことと、ウルヴェスにはそんな出来事があったのは初耳のようだったが、盗品と思われるものはウルヴェスと店主の前に現れたこと。店主には犯人を突き止める意思もないことで事実上の手打ちとなった。
 アムベスをはじめとするこの場にいた何人かは店主を目の敵のような思いを持つが、痛くもない腹を探られるどころか藪を突いて蛇を出す事態になりかねない状況に追い詰められた。
 店主に対し危害を加えようとする代わりに、命どころか生息の痕跡まで消されてしまう宣告をされたようなもの。ただし大人しくしていれば高貴な立場を維持したまま平穏な毎日を保障された身となったのである。
 どちらが喜ばしい結果となるかは、もはや火を見るより明らか。

「選考から外れた五名はそれぞれ提出した物を引き取り下がってよし」

 店主に目もくれずウルヴェスの指示に素直に従い、玉座の間から退室する五人。

 扉が閉まり静かになったところで、今度は衛兵にも下がるように命じる。
 滅多にない指示ではあるが、衛兵達も下がり、玉座の間のこれまでの目まぐるしく変わった雰囲気もようやく落ち着く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

処理中です...