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法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい

依頼・依頼人の壁 4

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「俺の言うことを聞け!」

 法王の力の大きさで震えあがっていた者の言う言葉だろうか。
 いとも簡単に自分の命を消し去るほどの力の持ち主に向かって言える言葉だろうか。

 妖女ウルヴェスの予想の斜め上をさらに超える店主の一言。
 衛兵たちもざわめき、セレナも案内の者も愕然とする。
 今まで全身が恐怖で震えていた者の言う言葉だろうかと。
 特にセレナはこう思った。

 何もここでいつものテンシュ節を出さなくてもいいでしょう

 と。

「ほほ、まるで脅迫だの。どんなことを言い出してくるか楽しみだわ」

 店主の目はウルヴェスから離れない。
 まるで自分の願いを届かせる力を込めているかのように。

「……皇居ってくらいだ。宝物庫、あるいは宝物殿。そんなものがあるんじゃないか? この国の王の持ち物、あるいは皇居の持ち物。それを素材にして逸品を作るんだ。贋作なんか出来っこねぇだろ? そんな物で賞品を作るんだ。国主杯と呼ぶ大会の賞品にふさわしいと思わねぇか?」

 玉座の間は静まり返る。
 店主達を脅かしていた存在の力もまるで、静かに眠るがごとく。

「は、はは、……ははははは。どんな無茶な用件を言い出すかと思えば、言う方も言う方だが聞く方も聞く方よ。何という覚悟の無駄遣いか。あは、ははは、あはははははは」

 ウルヴェスの高い声での笑い方は爆笑と言った方が正しい表現だろう。
 その笑い声は収まるが、表情から笑みは消えない。

「あぁ、可笑しい。改まって伝えたいことがあるなどと、こちらも畏まったわ。そしたら皇居内の一室を案内して、自分の希望する物を使わせろとは。……こちらから頭を下げてまで依頼したことだぞ? その通りに従うに決まっておるではないか。それとも……テンシュ殿らの身分が下だから、妾は望みを聞き届けることがないと、そんな小さい器の持ち主とでも思うたか? むしろそう思われる方が無礼極まりなしじゃぞ? 妾を見くびるな、とな」

「……受けた依頼はいつでも真剣に取り組んでいる。今回の依頼で思案した結果出てきたことの一つがそれだ。ただの思い付きなんかじゃねぇ。あんたも言ってただろ。この国の復興をってな。しかも自分を踏み台にして次の世代になんて言い出しやがる。そっちこそ、あんな覚悟を目の当たりにしてもヘラヘラしてる宝石職人とでも思ったか? この場で宝物庫云々を願ったのは、こうして俺の話を聞いてくれる奴らが必ずいるだろうからって腹積もりだったからさ」

 店主は両脇の衛兵たちに視線を移す。そしてそのあと案内役にも目を向けた。
 そして再び妖女ウルヴェスを見上げる。

「国民のほぼ全員が注目してるって棋士が言ってたな。国主杯、その賞品は法王はただどこぞの職人に依頼しただけだって、そんな噂流されたら俺は黙ってらんねぇな。そんな覚悟をあんたがしてるってのに、まるで価値がないかのような噂になるじゃねぇか。そうじゃねぇ。あんな覚悟を常に持ってるその心は、後世にまで伝えなきゃなんねぇ。皇太子のことをこいつらがどう思ってるかは知らねぇ。だがな、ジジィのあの思いがずっと伝わり続けりゃ間違いなく天下泰平の時代は永遠に続くぜ? 理不尽な理由で虐げられる者がいない世の中がな」

 法王への恐れは消えたかと思われる雄弁さだが、額を拭った店主の袖に染みついたのは冷汗か。

「ただ、法王所以の物ってのが今のところ存在しねぇ。王族でもいいや。国主って銘打ってんなら、その理由になるもんがなきゃただの張り子の虎だ。受け取る者だって、どこぞの馬の骨がどこぞから拾ってきた物を適当にいじくって作ったってヤツより、皇居にあった物で作られた賞品となったら法王や皇帝……でいいのか?」

 急に気弱な声になる店主にうんうんと頷くセレナ。
 気を張って啖呵を切る店主の勢いがそこだけ弱くなる店主に、セレナは心の中でコケる。

「うん、んで皇族が大事にしていた物によって作られた賞品ってことになりゃ、それを受け取ることができるってのはそれだけ栄誉なことになるんじゃねぇか? ましてや銘は国主杯。国民誰もが知ってる大賞の一つってことだとなおさらだ。そしてそのことをこうして耳に入ってる連中がいる。少なくともこいつらには、そんな思いを込められた賞品がこれから作られるって事情を知ったはずだぜ? あんたの器の大きさの話題なんざ、それこそ今更だわ」

 店主の一通りの演説は妖女ウルヴェスを満足気にさせた。

「ふむ。ならば付いてまいれ。秘宝蔵の方がいいかもしれんな。この国にとってより大切な物さらたくさんあるでな。付きの者は不要。妾一人で良い」
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