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法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい

依頼・依頼人の壁 3

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 皇居の建物すべてを覆い尽くすほどの力の存在を感じ取った店主。
 もちろんその源は法王ウルヴェス。
 店主がいつも見ているその姿は、その度毎に姿は変わっているがすべて年老いた男性である。
 それがこの玉座に座っている姿は妖艶な女性の姿。
 店主が息を飲んでいるのはその美しさ故ではなく、いとも簡単にそのようなことが出来る力の膨大さゆえ。

 セレナが小声で店主の服の端をつまんで引っ張りながら、テンシュテンシュと連呼する。
 ようやくそれに気付いた店主、喉を強張らせながらも意思を伝える。
 それが出来なければ目的は達成されない。

「い、依頼の件について……だが。国主杯」
「ふむ。申してみよ」

 依頼の件は、ウルヴェスが頭を下げてまで願ったもの。
 その思いはどこにも存在しないかの様に、店主を見下ろしながら次の言葉を待っている。
 それに対しての店主はまるで息も絶え絶えのような声。
 あのジジィの悲壮な覚悟のような思いは演技だったのか?
 この依頼も、巨大な力を持つ者の特権、戯れだったのか?

 もしそうならこの依頼を反故にしてもいい。

 一瞬そんな思いもよぎったが、法王の力の及ぶど真ん中でそのようなことを口にしたら、この身がどうなるか分かったものではない。

「碁、の、話を、したよな……?」

 しかし、ウルヴェスからの依頼は、本当にあったのだろうか。もしそうでなかったら自分が勝手に一人で踊ってるようなもの。まずそれを確認しなければならない。

「呼び名が様々あって、それを統一することでさらに国民からの関心を強める狙いもあったの。それがどうかしたかの?」

 妖女のウルヴェスの口から、老人のウルヴェスとの会話をした時の内容が出た。

 店主は思う。我ながら面倒くさいことをしていると。
 しかしウルヴェスからの依頼であることが、目の前の玉座に座ったまま見下ろしている妖女がそう認識しているかどうか。それ確認することも必要である気がした店主は、そうは思うがやらなければいけない工程の一つとした。

「あ、あんたから受けた依頼で俺がそれを作る。だが国主杯というからには、あんたと俺が作る物とで相当の強い繋がりがなければ、国主杯の賞品とは言い切れないんじゃないかって思った。つまり、この賞品は、ほ、法王縁の物である、と、声を大にして言い切れる物でないとならない、と」

 今まで名前やジジィなどと憎まれ口を叩いてきた店主は、改めて法王という言葉を口にする際には何やら少し口にしがたい思いがあったようだ。

「ふむ。妾も物作りに付き合え、とでも?」

 ゆっくりと体勢を変える妖女ウルヴェス。
 息を鋭く拭きかけても、体を貫通するのではないかとも思えるようになってきた店主は、毒食わば皿までとばかりに覚悟を決める。

「俺は今、素材集めに困っている。あれから二十年経った。かつて巨塊だったと思われる宝石の塊は、おそらく良いところはすべて掘り起こされた。あの後俺もセレナと採りに行ったが、確かに良い宝石は手に入った。だが賞品とするにはあまりに不向きすぎる。店の倉庫にも行ってみた。ざっとそれらしい形にしてみたが、難点が多々あった。材料集めは簡単にできると思い込んでたそこは俺の誤算だった。だがそこで思いついた」

 まるでずっと息を止めていたかのように、店主はそこで言葉を止めて何度か深呼吸をする。

「それで?」

 その間にウルヴェスが続きを話すように問う。

「国主杯の賞品として、現時点で法王が関係したことと言えば俺にその賞品を依頼したことだけ。そして材料が見つからない。この二点がうまく結び付けられる方法を思いついた。お……」

 温泉。
 そう言おうとした。
 だがあのときはお忍びで来たはずだ。相手の立場くらいは思いやる必要はある。
 そんな考えが瞬間的に浮かび、言葉になる前に声を止める。

「……法王が、そして法王がその座から降りた後に続く、いわゆる後継ぎがいなければその存在は有り得ない。だからこその国主杯の賞品である。そう言い張れる物なら、同じ材料を使ったとしても同じ物ではないとも言える。贋作など作れるはずのない唯一無二。そんな物を作るために……」

 そこで言葉を切る店主。
 そこでまたもや二度ほど深呼吸。
 妖女ウルヴェスも、店主の顔を覗き込むような仕草。
 そして店主の口から出た言葉は、その場にいる全員を驚愕させた。
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