上 下
154 / 290
法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい

依頼・素材探しの壁 3

しおりを挟む
 二人は『法具店アマミ』に戻って来る。

 カウンター奥の作業机の上と下に、宝石の塊六個が置かれている。

「まさか、アテになる場所がそんなふうになってるなんてな……」
「テンシュのところにも、えーと、碁石と碁盤だっけか? があるのは分かるけど、材料は何なの?」

 セレナに問いかけられた店主は椅子の背もたれに重心をかけ、頭の後ろで手を組みながら眉をしかめている。

「高級品なら、白石は貝殻。ハマグリっつんだがこの世界にあるかどうか。黒石は岩石。
 一般的なのはプラスチックだがやっぱりこの世界にはないかもな。あとは……濃淡の緑が目に優しいと言われてる。固いガラスでできているが……。碁盤は、打ったときに衝撃がいくらかでも和らげるような材質の木材がいいって聞いたな」

 化学製品などはこの世界には存在しないようで、プラスチックという言葉にはついていけてないセレナ。

「とりあえず……材料はこれしかないんだし……」

「おい待て。倉庫にあるんじゃね? 隣にも地下にも。ちょっと見せろよ。いいのがあるかもしれん」

 弾けるように立ち上がり、セレナを無理やり引っ張って、まずは隣の倉庫に行く。
 目ぼしい物がいくつかあったらしく、店主は三種類ほどの石を持ち出した。
 続けて地下倉庫からも二種類ほど持ち出し、とりあえず現時点で揃える分だけの素材を作業場並べた。

「まずは大体の寸法に削る」
 そう言って店主が作業を始めたのは三時間前。

 縦横が六十センチ。高さが四十センチの直方体が十一個、二人の目の前に並べられた。
 その間にセレナは村の他の道具屋に買い物に出かけ、運搬の業者と一緒に帰って来る。

「こんなに長い時間本気出してるテンシュ久しぶりに見たからね、私もフンパツしちゃった」

 何をとぼけたことを言っているのかと店主はセレナの方を見ると、碁盤と碁石のセットと放映機が店主の傍に置かれていた。

「またのご利用お待ちしてます」
 の一言を残して業者が去った後、気が抜けたような目をセレナに向ける。

「これ、あのジジィに持っていけと?」
「そんな馬鹿な事言う訳ないでしょう! 高級品を買ってきたの! お手本になるんじゃないかって!」

 他人の気遣いをことごとく踏みつぶす店主。
 しかしセレナもその意図を伝えずに行動を起こした分、誤解はされやすい。

「やっぱり素材は木だよな……。その木材で量産できなくなった……と」
 碁石をジャラジャラと鳴らしながら一個つまんで盤の上に置く。

 タン。

 乾いた音が響く。

 黒、白の順番に、何かの対局の棋譜のように碁盤の上に並べていく。
 そんな店主を静かに見守るセレナ。

 しばらくそれを続けたあと、店主は自分の作った宝石の直方体を見る。

「……輝く材質はダメだ。使えねぇ。光が当たった時に煌めきが目に刺さる。長時間神経を使う競技だ。対局者に影響与えちまう。たとえ種族が人間じゃなかったとしてもな」

「でも賞品でしょ? 飾り物ならそれでも問題ないんじゃない?」

 セレナの意見を即座に否定する。
「その記念品を使って対局させる。これを手にした者がそんな企画を考えてもおかしくはない。対局に使える物を作れとは言われていない。だが手にした者はそう考えないとは言い切れない」

 店主は再度宝石の直方体を睨み、腕組みをして考える。

「光の多少の反射はいいだろう。光の加減を調節してもらえばいいさ。こんな輝く素材の物は高級感は確かにある。だが実践には使えねぇ。となりゃ……ターコイズみたいな、色がついた石、そして硬度があって変形しない物。しかしいろんな色が入り組んだ盤面も、見てて疲れてくるよな」

「使う石の色も限定されるよね。黒と白なら分かりやすくていいだろうけど、黒い盤の上に黒石置かれたら訳分からないよ」

 その通り。
 セレナの言葉にその短い一言で応じる店主。

「あと持ち運び出来ないくらい重いと、実用には不向きよね」

 続くセレナの言葉に目を大きくする店主。
 重さについては考えていなかった。
 さらにセレナは店主の想定外のことを口にする。

「盤に石を置くときに、力こめて音を鳴らす人もいるけど、ぶつかり合ったときにひび割れたりしたら困るよね。……ん? どうしたの?」

「……考えていなかった。色や光については考えていたが、盤の重さ、盤と石の硬度は頭になった」

「……無理もないよ。急な依頼だもん」

「……石と意思がぶつかり合う音で、壊れるんじゃないかと心配する奴もいそうだな」
「かといって、紙みたいな軽い物にしたら風とかで吹き飛んじゃいそうだし。それに簡単に複製できそうなものもダメよね。法王からの依頼だよ? なるべく唯一無二じゃないと」

「……強制されたわけじゃねぇ。俺から言い出したことだが……。なんて依頼持ってきやがったんだあのジジィ……っ」

「き、気分転換に何か番組見てみる? 放映機、せっかく買ってきたんだし」

 店内の照明と同じ原理だろうか、電源のようなボタンに触れた後画面が映像が流れる。

「さっきの対局の検討、まだ続いてたよ……プロってすごいね」
「んあ? お前だって、昔は冒険者のプロだったんだろうが」

 言われてみれば、とセレナは照れ笑い。
 照れるところでもないのだが、店主は彼女に構わず何の気なしに画面を見つめる。

「検討する時ってさぁ……」
「ん?」

「……乱雑だよね。きちんと並べてくれりゃ、見慣れてない人にも分かるだろうに……」

「お前……その工夫もしろと?」
「え? いや、ただの普通の感想だけど」

 しかし店主はセレナの言葉にまたもや頭を悩ませる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で

ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。 入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。 ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが! だからターザンごっこすんなぁーーー!! こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。 寿命を迎える前に何とかせにゃならん! 果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?! そんな私の奮闘記です。 しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・ おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・ ・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく

かたなかじ
ファンタジー
 四十歳手前の冴えない武器屋ダンテ。  彼は亡くなった両親の武器屋を継いで今日も仕入れにやってきていた。  その帰りに彼は山道を馬車ごと転げ落ちてしまう。更に運の悪いことにそこを山賊に襲われた。  だがその落下の衝撃でダンテは記憶を取り戻す。  自分が勇者の仲間であり、賢者として多くの魔の力を行使していたことを。  そして、本来の名前が地球育ちの優吾であることを。  記憶と共に力を取り戻した優吾は、その圧倒的な力で山賊を討伐する。  武器屋としての自分は死んだと考え、賢者として生きていくことを決める優吾。  それは前世の魔王との戦いから三百年が経過した世界だった――。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。

えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう 平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。 経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。 もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...