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法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい
依頼・素材探しの壁 3
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二人は『法具店アマミ』に戻って来る。
カウンター奥の作業机の上と下に、宝石の塊六個が置かれている。
「まさか、アテになる場所がそんなふうになってるなんてな……」
「テンシュのところにも、えーと、碁石と碁盤だっけか? があるのは分かるけど、材料は何なの?」
セレナに問いかけられた店主は椅子の背もたれに重心をかけ、頭の後ろで手を組みながら眉をしかめている。
「高級品なら、白石は貝殻。ハマグリっつんだがこの世界にあるかどうか。黒石は岩石。
一般的なのはプラスチックだがやっぱりこの世界にはないかもな。あとは……濃淡の緑が目に優しいと言われてる。固いガラスでできているが……。碁盤は、打ったときに衝撃がいくらかでも和らげるような材質の木材がいいって聞いたな」
化学製品などはこの世界には存在しないようで、プラスチックという言葉にはついていけてないセレナ。
「とりあえず……材料はこれしかないんだし……」
「おい待て。倉庫にあるんじゃね? 隣にも地下にも。ちょっと見せろよ。いいのがあるかもしれん」
弾けるように立ち上がり、セレナを無理やり引っ張って、まずは隣の倉庫に行く。
目ぼしい物がいくつかあったらしく、店主は三種類ほどの石を持ち出した。
続けて地下倉庫からも二種類ほど持ち出し、とりあえず現時点で揃える分だけの素材を作業場並べた。
「まずは大体の寸法に削る」
そう言って店主が作業を始めたのは三時間前。
縦横が六十センチ。高さが四十センチの直方体が十一個、二人の目の前に並べられた。
その間にセレナは村の他の道具屋に買い物に出かけ、運搬の業者と一緒に帰って来る。
「こんなに長い時間本気出してるテンシュ久しぶりに見たからね、私もフンパツしちゃった」
何をとぼけたことを言っているのかと店主はセレナの方を見ると、碁盤と碁石のセットと放映機が店主の傍に置かれていた。
「またのご利用お待ちしてます」
の一言を残して業者が去った後、気が抜けたような目をセレナに向ける。
「これ、あのジジィに持っていけと?」
「そんな馬鹿な事言う訳ないでしょう! 高級品を買ってきたの! お手本になるんじゃないかって!」
他人の気遣いをことごとく踏みつぶす店主。
しかしセレナもその意図を伝えずに行動を起こした分、誤解はされやすい。
「やっぱり素材は木だよな……。その木材で量産できなくなった……と」
碁石をジャラジャラと鳴らしながら一個つまんで盤の上に置く。
タン。
乾いた音が響く。
黒、白の順番に、何かの対局の棋譜のように碁盤の上に並べていく。
そんな店主を静かに見守るセレナ。
しばらくそれを続けたあと、店主は自分の作った宝石の直方体を見る。
「……輝く材質はダメだ。使えねぇ。光が当たった時に煌めきが目に刺さる。長時間神経を使う競技だ。対局者に影響与えちまう。たとえ種族が人間じゃなかったとしてもな」
「でも賞品でしょ? 飾り物ならそれでも問題ないんじゃない?」
セレナの意見を即座に否定する。
「その記念品を使って対局させる。これを手にした者がそんな企画を考えてもおかしくはない。対局に使える物を作れとは言われていない。だが手にした者はそう考えないとは言い切れない」
店主は再度宝石の直方体を睨み、腕組みをして考える。
「光の多少の反射はいいだろう。光の加減を調節してもらえばいいさ。こんな輝く素材の物は高級感は確かにある。だが実践には使えねぇ。となりゃ……ターコイズみたいな、色がついた石、そして硬度があって変形しない物。しかしいろんな色が入り組んだ盤面も、見てて疲れてくるよな」
「使う石の色も限定されるよね。黒と白なら分かりやすくていいだろうけど、黒い盤の上に黒石置かれたら訳分からないよ」
その通り。
セレナの言葉にその短い一言で応じる店主。
「あと持ち運び出来ないくらい重いと、実用には不向きよね」
続くセレナの言葉に目を大きくする店主。
重さについては考えていなかった。
さらにセレナは店主の想定外のことを口にする。
「盤に石を置くときに、力こめて音を鳴らす人もいるけど、ぶつかり合ったときにひび割れたりしたら困るよね。……ん? どうしたの?」
「……考えていなかった。色や光については考えていたが、盤の重さ、盤と石の硬度は頭になった」
「……無理もないよ。急な依頼だもん」
「……石と意思がぶつかり合う音で、壊れるんじゃないかと心配する奴もいそうだな」
「かといって、紙みたいな軽い物にしたら風とかで吹き飛んじゃいそうだし。それに簡単に複製できそうなものもダメよね。法王からの依頼だよ? なるべく唯一無二じゃないと」
「……強制されたわけじゃねぇ。俺から言い出したことだが……。なんて依頼持ってきやがったんだあのジジィ……っ」
「き、気分転換に何か番組見てみる? 放映機、せっかく買ってきたんだし」
店内の照明と同じ原理だろうか、電源のようなボタンに触れた後画面が映像が流れる。
「さっきの対局の検討、まだ続いてたよ……プロってすごいね」
「んあ? お前だって、昔は冒険者のプロだったんだろうが」
言われてみれば、とセレナは照れ笑い。
照れるところでもないのだが、店主は彼女に構わず何の気なしに画面を見つめる。
「検討する時ってさぁ……」
「ん?」
「……乱雑だよね。きちんと並べてくれりゃ、見慣れてない人にも分かるだろうに……」
「お前……その工夫もしろと?」
「え? いや、ただの普通の感想だけど」
しかし店主はセレナの言葉にまたもや頭を悩ませる。
カウンター奥の作業机の上と下に、宝石の塊六個が置かれている。
「まさか、アテになる場所がそんなふうになってるなんてな……」
「テンシュのところにも、えーと、碁石と碁盤だっけか? があるのは分かるけど、材料は何なの?」
セレナに問いかけられた店主は椅子の背もたれに重心をかけ、頭の後ろで手を組みながら眉をしかめている。
「高級品なら、白石は貝殻。ハマグリっつんだがこの世界にあるかどうか。黒石は岩石。
一般的なのはプラスチックだがやっぱりこの世界にはないかもな。あとは……濃淡の緑が目に優しいと言われてる。固いガラスでできているが……。碁盤は、打ったときに衝撃がいくらかでも和らげるような材質の木材がいいって聞いたな」
化学製品などはこの世界には存在しないようで、プラスチックという言葉にはついていけてないセレナ。
「とりあえず……材料はこれしかないんだし……」
「おい待て。倉庫にあるんじゃね? 隣にも地下にも。ちょっと見せろよ。いいのがあるかもしれん」
弾けるように立ち上がり、セレナを無理やり引っ張って、まずは隣の倉庫に行く。
目ぼしい物がいくつかあったらしく、店主は三種類ほどの石を持ち出した。
続けて地下倉庫からも二種類ほど持ち出し、とりあえず現時点で揃える分だけの素材を作業場並べた。
「まずは大体の寸法に削る」
そう言って店主が作業を始めたのは三時間前。
縦横が六十センチ。高さが四十センチの直方体が十一個、二人の目の前に並べられた。
その間にセレナは村の他の道具屋に買い物に出かけ、運搬の業者と一緒に帰って来る。
「こんなに長い時間本気出してるテンシュ久しぶりに見たからね、私もフンパツしちゃった」
何をとぼけたことを言っているのかと店主はセレナの方を見ると、碁盤と碁石のセットと放映機が店主の傍に置かれていた。
「またのご利用お待ちしてます」
の一言を残して業者が去った後、気が抜けたような目をセレナに向ける。
「これ、あのジジィに持っていけと?」
「そんな馬鹿な事言う訳ないでしょう! 高級品を買ってきたの! お手本になるんじゃないかって!」
他人の気遣いをことごとく踏みつぶす店主。
しかしセレナもその意図を伝えずに行動を起こした分、誤解はされやすい。
「やっぱり素材は木だよな……。その木材で量産できなくなった……と」
碁石をジャラジャラと鳴らしながら一個つまんで盤の上に置く。
タン。
乾いた音が響く。
黒、白の順番に、何かの対局の棋譜のように碁盤の上に並べていく。
そんな店主を静かに見守るセレナ。
しばらくそれを続けたあと、店主は自分の作った宝石の直方体を見る。
「……輝く材質はダメだ。使えねぇ。光が当たった時に煌めきが目に刺さる。長時間神経を使う競技だ。対局者に影響与えちまう。たとえ種族が人間じゃなかったとしてもな」
「でも賞品でしょ? 飾り物ならそれでも問題ないんじゃない?」
セレナの意見を即座に否定する。
「その記念品を使って対局させる。これを手にした者がそんな企画を考えてもおかしくはない。対局に使える物を作れとは言われていない。だが手にした者はそう考えないとは言い切れない」
店主は再度宝石の直方体を睨み、腕組みをして考える。
「光の多少の反射はいいだろう。光の加減を調節してもらえばいいさ。こんな輝く素材の物は高級感は確かにある。だが実践には使えねぇ。となりゃ……ターコイズみたいな、色がついた石、そして硬度があって変形しない物。しかしいろんな色が入り組んだ盤面も、見てて疲れてくるよな」
「使う石の色も限定されるよね。黒と白なら分かりやすくていいだろうけど、黒い盤の上に黒石置かれたら訳分からないよ」
その通り。
セレナの言葉にその短い一言で応じる店主。
「あと持ち運び出来ないくらい重いと、実用には不向きよね」
続くセレナの言葉に目を大きくする店主。
重さについては考えていなかった。
さらにセレナは店主の想定外のことを口にする。
「盤に石を置くときに、力こめて音を鳴らす人もいるけど、ぶつかり合ったときにひび割れたりしたら困るよね。……ん? どうしたの?」
「……考えていなかった。色や光については考えていたが、盤の重さ、盤と石の硬度は頭になった」
「……無理もないよ。急な依頼だもん」
「……石と意思がぶつかり合う音で、壊れるんじゃないかと心配する奴もいそうだな」
「かといって、紙みたいな軽い物にしたら風とかで吹き飛んじゃいそうだし。それに簡単に複製できそうなものもダメよね。法王からの依頼だよ? なるべく唯一無二じゃないと」
「……強制されたわけじゃねぇ。俺から言い出したことだが……。なんて依頼持ってきやがったんだあのジジィ……っ」
「き、気分転換に何か番組見てみる? 放映機、せっかく買ってきたんだし」
店内の照明と同じ原理だろうか、電源のようなボタンに触れた後画面が映像が流れる。
「さっきの対局の検討、まだ続いてたよ……プロってすごいね」
「んあ? お前だって、昔は冒険者のプロだったんだろうが」
言われてみれば、とセレナは照れ笑い。
照れるところでもないのだが、店主は彼女に構わず何の気なしに画面を見つめる。
「検討する時ってさぁ……」
「ん?」
「……乱雑だよね。きちんと並べてくれりゃ、見慣れてない人にも分かるだろうに……」
「お前……その工夫もしろと?」
「え? いや、ただの普通の感想だけど」
しかし店主はセレナの言葉にまたもや頭を悩ませる。
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