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法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい

店主、セレナと異世界の温泉に行く 3

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「休店日の札を外から見たの、初めてのような気がする」
「向こうの世界でもそうだった?」
「向こうじゃ年中無休だからな。頼りになる従業員もいたし」

 店主はセレナに聞かれ、昔を思い出して懐かしんでいる顔をする。
 セレナが店主の住んでいた世界のことを聞くのも珍しい。
 彼女の場合は店主のように無関心なのではなく、聞く必要がなかったからというのと、今までがそれどころではなかった事情もあった。
 それだけ、巨塊騒動はすっかり落ち着いたということでもある。

 セレナの案内で、この村にある唯一の温泉に向かった。

「そうだな。有給休暇取れとか従業員に言われたっけ。休暇もらったってすることなかったから……」
「寝てた?」

「いや……。宝石いじりしてた」
「休暇の意味あるのかしら、それ……」

「あるぞ。宝石いじりながら給料もらえた」
「それ、働いてるのとそんなに変わりないんじゃない?」

 和やかな会話を交わしながら自然に囲まれた村の道を進む。
 時折背伸びをしながら歩くセレナ。その表情は、いつぞやの思いつめた思いからすっかり解放された様子。
 店主は店主で、法王から授けられた他の力により、この国や世界の言葉や文字も理解できるようになった。
 それでもゆったりとした気持ちで外を出歩くことはほとんどなかったため、周囲をきょろきょろと見回しながらセレナの後をついていく。

「着いたよー。お昼の十二時頃になったらお昼ご飯ここで食べよっか。受付で部屋借りるね」

 店主は生返事をして、受付の前にある売り場の品物を見て回る。
「アクセサリーとかあるのに、ぬいぐるみとかマスコットとかはないんだな……。そう言えば動物って見てないな。あの双子はトカゲって名乗ってたが、トカゲを知らなきゃトカゲって言うこともないから、トカゲはどこかにいるんだろうが……まぁどうでもいいか。うん、すごくどうでもいいな」

 ぶつぶつと独り言を言う店主の背中をセレナが一つ叩く。
「受付済ませたよ。温泉行こっか。何度も言っとくけど、混浴はないからね」
「セレナ……」

 上目遣いにセレナを見る店主。
「な、何よ」
「すごーーく、それはどうでもいいからなっ」

「どうでもいいなら、まぁいっか」
 いろんな意味で危険なことをしそうにない店主に安心し、浴場に向かうセレナ。

 しかし売り場の品物をそのまま見ている店主。
 ついてこない店主に気付いてセレナは声をかける。

「こっちだよ。案内板とかあるから迷子にはならないとは思うけどー」

 そう呼びかけるセレナをしばらく見つめる。
「な、何よ。まさか混浴希望なんて言うんじゃないでしょうね?」
「……すごくどうでもいいって言ったのは、混浴の部分に限った事じゃないんだが?」

 セレナはしばらく不思議そうに店主を顔を見る。
 が、やがて気が付く。

「温泉自体どうでもいいってこと? だったらここまで一緒について来て何のために来たのやら。つくづくテンシュ、どういう発想してるのよ……」

「……温泉まで、気分転換に散歩するのかと」
「あるわけないでしょそんなことっ。せっかく来たんだし、入ったらいいじゃない」

 店主は入浴自体どうでも良かったらしい。
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