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法王依頼編 第六章:異世界にも日本文化の対戦競技があるらしい

店主、セレナと異世界の温泉に行く 2

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「今んとこ受けた仕事の依頼、全部期限決めてねぇし、依頼する奴らだってホントに俺の仕事求めてりゃいつまでも待つに決まってら。もちろん限界はあるだろうよ。だがな、冷やかし半分で来る奴だっているだろうよ。あぁ、間違いなくいる。何せ受け付けたの、お前だからな!」

 『天美法具店』の店主が異世界の道具屋の主である女エルフのセレナ=ミッフィールやほかの者達によってこの世界の住人となり、『法具店アマミ』の店主として引っ張り込まれたのは二十年も前の話。
 あの頃路頭に迷ってこの店に飛び込んできた最初の常連客は、当時はまだ新人の冒険者達だけで結成されたチーム。
 今では斡旋所で実力のあるチーム、上位二十に入ろうとするくらいに成長していた。
 そのメンバー二人が生活費に困ってこの店でバイトを始めたのも、今では懐かしい思い出である。
 冒険者になりたての者達は、なかなか依頼を斡旋してもらえないことが多い。
 生活に苦しい思いをする者も常にいた。彼らも同様であった。

 二十年経った今も、冒険者を志す者は絶えない。ゆえに生活に苦しむ者もいることは、昔も今も変わらない。

 となると、バイトの仕事を求める者だって殺到してもおかしくないのだが、店主のこの性格と口癖である。生活がままならない苦しみよりも、こんな店主がそばにずっといる苦しみの方がきつい。そう感じる者が多いだけの話であった。
 この店の最初の常連となった『風刃隊』のケースは稀ということだったのだろう。どの店からも相手にされなかったのである。

 店主には、石の力を見極めることが出来るという、誰にも出来ない特技であり、誰も持つことが出来ない力がある。
 そのおかげでこのように繁盛しているのであるが、そのきっかけは、誰の目にも入らない新人冒険者チームの相手をしたからであることは間違いない。
 彼らが実力をつけて名が知られるようになってから、話を求められることが多くなった。
 異口同音で必ず出る話が『法具店アマミ』の店主との出会いのエピソード。

 『法具店アマミ』の繁盛ぶりを羨む店の経営者たちの耳にもその話は届く。
 繁盛している店の足を引っ張り、その悪巧みの噂が流れるリスクより、『法具店アマミ』の繁盛ぶりの始まりと思われる振る舞いをマネする方がよほど得策と判断したのだろう。
 能力では『法具店アマミ』に劣るものの、バイトへの態度はどの店も親切で丁寧である。
 というより、店主の方が格段に劣悪という評判が流れている。

 しかし、他の店も『法具店アマミ』のように『風刃隊』と接していれば、その店の方にたなびいたか? と言う質問には、彼らは「ノー」と即答する。
 彼らは店主から、過去の辛い思いを乗り越えるための教訓を授かったと語る。
 もっともそれ以前に他の店から温情を受けたら、店主との縁はなかったかもしれないとも話している。

 店主もいろんな人から『風刃隊』との話を聞かれたが

「来たから対応した。作った物に文句つけてほしかった。そしたら追っ払って二度と相手することもなかったのにすごくめんどくせ」
「あいつらが俺の事をありがたいと思ってた? そうかい。そいつぁすごくどうでもいい」

 かけた恩は水に流せと言う言葉もあるが、水に流す前に恩をかけた覚えもないどころか、彼らの顔と名前をいまだに一致させる気がないのである。

「従業員、増やさない? テンシュの性格も分かってるって人もぼちぼち増えてるんだけど」
「じゃあ俺、しばらく休めるよな? 休めるよな?」

 セレナは呆れ顔。
「テンシュは一応この店の店主って肩書だからね? 屋台骨がいなくなったらどうするのよ、ここ」
「お前がやれよ」
 
 これは即答した店主が正論である。
 しかし自分が作った道具を店主から即座にダメ出しされ、その後助けを求めるようにやって来た『風刃隊』にそれらを改良した道具を見せられ、それを喜び勇んで手に取った彼らを見て、道具作りは敵わないと思ってしまったセレナ。経営と兼業の冒険者業に力を入れることに決めた。

「でもテンシュがずっといてくれるようになってからお店は年中無休っぽくしちゃったから、たまには休まないと体壊しちゃうよね。買い物客も増えてきたけどそれでも数える程度だし、休みたいときは休んでいいよ。近くに温泉とかあるけど、骨休みして来たら?」

 セレナの言葉を聞いて、店主は彼女をじっと見つめる。

「な、何よ。混浴とかはないからね!」

「お前さぁ……」
「何よっ」

「公共の浴場を、宝石の粉末だらけにしたいわけ?」

 やはり店主は視点が違った。
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