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巨塊討伐編 第五章:巨塊の終焉

店主のこの先 4

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 自分の体に異常を感じた店主は、その仕業と思われるウルヴェスに問い詰める。
 あっさりと認めたウルヴェスが説明を始めた。

「そちらとこちらの世界を行き来しても問題がないようにすればよいと思うた。まず言語の問題がある。それについては、お主はこの世界のどこに行っても言葉が通用する能力を与えた。この力はもうテンシュどののものとなった。それゆえその力は消えることはない。そして時間の問題もあるらしいの。どの時間に戻るかは、テンシュ殿の意志次第。こっちに来る直後の時間に戻るつもりで移動すればその通りになるし、同じ時間を経過する必要があればこの世界と同じ時間に戻ることが出来るということじゃ」

 つまりこの世界での居場所を縛られる必要はなくなるということ。この世界のどこに足を運んでも、そこの住民達と意思疎通ができることを意味していた。

「……だがまだ問題はある」

「分かっとるよ。体感する時間の問題じゃな。……ワシの寿命の一部を与えた。これもすでにお主のものとなったから、ワシからその寿命を取り上げられることもなければ、ワシ以外の者がさらに延命させることも出来ん」

 例えば一年セレナの世界で生活して、移動した直後の時間に店主の世界に戻ることが出来たなら、一年余計に体が年老いているということになる。

「長生きできるようになったということじゃな。しかしただ長生きするだけでは意味がない。健康も必ず兼ね備えられとるようにした。寝たきりで何百年も過ごすとなると、それこそ時間の無駄じゃろう」

「な、何百年? ……俺に与えた寿命が、何百年?」

「……テンシュ殿の寿命は、あと五百年ほどになる」

「なっ……!」

 人類最高齢はどれほどだったか。人間の寿命は百二十歳くらいというニュースを目にしたことがある店主。それを四倍以上延ばされたということだ。
 いくら健康を維持したまま長生きできるという保証があっても、これはもはや人間離れしているなどというレベルではない。

「ば……ばけもんじゃねぇか……寿命五百歳の人間なんてどこにいるってんだ!」

「じゃから、余分な年数分この世界で過ごせるっちゅう話じゃな」

 老人の勝手で自分の体を弄られたその腹立たしさは止まらない。
 しかし親族に身寄りはいない。仕事も一線を引き始めた。
 人間の寿命よりはるかに長く生きる種族がいるこの世界で、そんな彼らの寿命にほぼ近い年月を過ごすことが出来る。しかも言葉や意思が通じる世界となった。
 その力や効果が薄らいだり消えたりすることがないと言う。ウルヴェスの言を信じればの話だが。

 ひょっとして、外堀を埋められたのか?

 セレナを見ると、彼女は目を見開き、両手で口元を隠している。
 ウルヴェスの話を初めて聞いたのは間違いない。店主よりもはるかに驚いている。

「寿命は釣り合うじゃろ? セレナ嬢」

 ウルヴェスの言葉にその真意を見つけたセレナは、ゆっくりと店主の方に視線を移す。
 目が潤み始め、店主にいきなり抱き着いて店主の体に顔を埋めた。

「ちょっ! テメェ! 何しやがる!」

 店主はセレナを振りほどこうとするが、力は元々店主を上回る。
 店主がどんなに力を入れようとも、セレナは店主から離れようとはしない。

「……なんだ? お前、泣いてんのか?」

 テンシュ、テンシュとくぐった声がそのように聞こえた店主の問いかけに、少し止まってから静かに頷くセレナ。

 店主は人の感情に流される性格ではない。引き留める者がいたからと言って、その思いに応えようとする気はさらさらない。
 しかしこの世界での彼のやりたい仕事を求める声の多さや、自分の仕事が正当に評価されない現実を考えると、自分の居場所がここにもあることを実感しつつある。
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