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巨塊討伐編 第五章:巨塊の終焉
交わりたくない相手と密会 8
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「……まさか……甚大な被害を与えた巨塊に謝意を示せと?」
イヨンダは店主の真意を問いただす。
しかし彼の問いに店主は首をかしげるだけで答えない。
「テンシュ……どういうこと……?」
「俺が聞きかじった話を元にして、筋が通るように考えた結論の一つだよ。俺の好き勝手な想像だから別に文句言われる筋合いじゃねぇな。怨み辛みの反対が感謝ならその気持ちを捧げる。討伐達成にはならねぇだろうが、隣村の連中がこれまでの生活を取り戻すにはそれで十分じゃねぇの?」
「どのみち村民は被災者だ。彼らへの救済などは」
イヨンダの言葉に、ハンと店主は鼻で笑う。
寝言は寝て言え。
店主はそう言った後に話しを続ける。
「救済? 救済が必要なのは村人じゃねえよ。国家権力から住処と生きがいを取り上げられて、その村人たちからも迫害受けて、そんな目に合う心当たりが全くなかった魔導師さんじゃねぇのか? だから自分の持ってる力で何とかしようとした。ただそれだけだぜ? 被害の余波がでかくなったのは、それを無理矢理抑え込もうとしたからなんじゃねぇの?」
しかし、とイヨンダは言い返そうとするが、ウルヴェスがそれを制する。
「……ワシらでは思いつきさえしなかった話じゃ。テンシュ殿から話を聞けて良かったと思うとる。じゃが村人達は納得出来るかの?」
ウルヴェスの問いに、店主は顔をゆがめながら口をあんぐりと開けている。しかしその目はウルブェスに問いかけている。
自分の質問の内容を、自分で理解しているのかと。
「……それも俺にしろと? ここだけの話じゃなかったのかよ? つーか、村の連中にそこんとこ言い聞かせなきゃなんねえのは俺の役目じゃねえ。そっちがすることだろうよ。それに立場を忘れりゃ肝心なことまで抜けてやがる。村人たちってのは、小さい子供に言い聞かすような事言わなきゃわからん連中だったのか? 悪い事したらごめんなさいしなさいってな感じでよ」
店長の世界と彼らの世界で、善悪の基準は違うところがあるかもしれない。
しかし善行は周りの人たちからも、周りの人たちにも推奨されることは多く、悪行は止めてもらいたいと思われることの方が多く、眉をしかめられることが多いのはどちらも同じだろう。
ならば悪いことをしたら謝罪する。罪を負ったら罰を受ける。
その実践は必須のはずである。
「村人をはじめ、多くの人たちに被害を与えた巨塊に向かって感謝するっつってたな。バカ言ってんじゃねぇよ。巨魁になってしまうまで魔導師を追い詰めた国と現地の者達がまず罪を被るべきなんじゃねぇの? 皇太子の暴走を止められなかった国の……政府って言葉が当てはまるかどうかは知らねぇが、そんな政治を許した周囲の者達と魔導師を迫害した者達の罪をはっきりと自覚すべきだ。でねぇとこの世界は地獄見んぞ」
「テ、テンシュ! げ、猊下を脅すつもり?」
その刹那店主と距離を置いたセレナの右手が腰の左側を抑える。
その動きはまるで、腰に帯刀している刀剣を構えようとする動き。脅しに抵抗する行動にも見える。
「落ち着けよ。脅しじゃねぇよ。……考えて見ろよ。今の皇太子サマの心境をよ」
「皇太子の……心境じゃと?」
いきなり話題を変えられたような気がしたのか、ウルヴェスはきょとんとしている。
店主のニヤリと笑った顔は、その顔を待ってたという感情かそれとも国や村人への皮肉の笑みか。
「俺のやってることは正しいっつって魔導師を追い出したんだろ? で、その結果魔導師は魔物を呼び出した。暴君がそいつを討てば正義の味方に早変わり。ところが正義どころか討伐失敗。それだけじゃねぇ。逆恨みした魔導師の思いと同体になったってわけだ。離れようったって離れられねぇ。だが魔導師からすりゃ逆恨みじゃねぇ。正当な理由を持って恨みを晴らそうとし、その相手が一番近くに寄って来てくれたってことだよ。皇太子が自分の悪行に気付いて謝りゃ少しは事態は小さくなるだろうが、悪いことをしたと気付いてねぇんだろうなぁ」
悪いことをしたことに気付いてないのは皇太子ばかりではない。
魔導師にとっては間接的にその側近をはじめとする王族の者達、そして迫害した村の者達もそう。
平穏な毎日を過ごしたいのにいつ何が起こるか分からない事態になりつつある。
心が落ち着かせることが出来ない生活は苦しい辛い思いの連続であろう。
「そんな心境は、まるで地獄にいるも同然じゃねぇのかってことだよ。最後まで言わせんな」
「そんな自分らの思い込みにしがみつかず、魔導師のこれまでのいろんな恩恵に感謝する。その目的に報われないかもしれない行事をこれから取り仕切れ、と。そして我々のこれまでの魔導師に対する愚かな行為を悔い改め罪を認め罰を受け続ける、ということか」
ウルヴェスの言葉の一部である『罰を受ける』とはすなわち、心の底から感謝の意を表すこと。
被害者が加害者へ謝意を伝える事態は起きるはずがない。しかし村人達にとってはそんな認識だろう。
謝意を伝えるフリではなく、感謝の意を本心で表さなければ意味がない。なぜならその行為自体に不満を持てばその思いが巨塊が成長する養分となるのである。店主の言う通りまさしく行くも地獄、引くも地獄。
「言っとくが、ここだけの話と言う前提で俺の考えを述べただけだ。だから俺に何の責任もない。ただ口に出しただけで、あんたに提案したわけじゃないからな」
もう話すネタはない。俺にこの世界でやれることはない。
そんな感じで店主はおもむろに立ち上がり、尻についた埃を払う。
「言っておくがジジィ、いくら力を持ってるっつってもこっちの世界に来るんじゃねぇぞ。世界間で戦争起きて、それこそ地獄に変わっちまうからな。じゃ、お休み」
店主のその言葉に引き留める者はおらず、誰にも知られることのない法王との会話はこうして終わった。
イヨンダは店主の真意を問いただす。
しかし彼の問いに店主は首をかしげるだけで答えない。
「テンシュ……どういうこと……?」
「俺が聞きかじった話を元にして、筋が通るように考えた結論の一つだよ。俺の好き勝手な想像だから別に文句言われる筋合いじゃねぇな。怨み辛みの反対が感謝ならその気持ちを捧げる。討伐達成にはならねぇだろうが、隣村の連中がこれまでの生活を取り戻すにはそれで十分じゃねぇの?」
「どのみち村民は被災者だ。彼らへの救済などは」
イヨンダの言葉に、ハンと店主は鼻で笑う。
寝言は寝て言え。
店主はそう言った後に話しを続ける。
「救済? 救済が必要なのは村人じゃねえよ。国家権力から住処と生きがいを取り上げられて、その村人たちからも迫害受けて、そんな目に合う心当たりが全くなかった魔導師さんじゃねぇのか? だから自分の持ってる力で何とかしようとした。ただそれだけだぜ? 被害の余波がでかくなったのは、それを無理矢理抑え込もうとしたからなんじゃねぇの?」
しかし、とイヨンダは言い返そうとするが、ウルヴェスがそれを制する。
「……ワシらでは思いつきさえしなかった話じゃ。テンシュ殿から話を聞けて良かったと思うとる。じゃが村人達は納得出来るかの?」
ウルヴェスの問いに、店主は顔をゆがめながら口をあんぐりと開けている。しかしその目はウルブェスに問いかけている。
自分の質問の内容を、自分で理解しているのかと。
「……それも俺にしろと? ここだけの話じゃなかったのかよ? つーか、村の連中にそこんとこ言い聞かせなきゃなんねえのは俺の役目じゃねえ。そっちがすることだろうよ。それに立場を忘れりゃ肝心なことまで抜けてやがる。村人たちってのは、小さい子供に言い聞かすような事言わなきゃわからん連中だったのか? 悪い事したらごめんなさいしなさいってな感じでよ」
店長の世界と彼らの世界で、善悪の基準は違うところがあるかもしれない。
しかし善行は周りの人たちからも、周りの人たちにも推奨されることは多く、悪行は止めてもらいたいと思われることの方が多く、眉をしかめられることが多いのはどちらも同じだろう。
ならば悪いことをしたら謝罪する。罪を負ったら罰を受ける。
その実践は必須のはずである。
「村人をはじめ、多くの人たちに被害を与えた巨塊に向かって感謝するっつってたな。バカ言ってんじゃねぇよ。巨魁になってしまうまで魔導師を追い詰めた国と現地の者達がまず罪を被るべきなんじゃねぇの? 皇太子の暴走を止められなかった国の……政府って言葉が当てはまるかどうかは知らねぇが、そんな政治を許した周囲の者達と魔導師を迫害した者達の罪をはっきりと自覚すべきだ。でねぇとこの世界は地獄見んぞ」
「テ、テンシュ! げ、猊下を脅すつもり?」
その刹那店主と距離を置いたセレナの右手が腰の左側を抑える。
その動きはまるで、腰に帯刀している刀剣を構えようとする動き。脅しに抵抗する行動にも見える。
「落ち着けよ。脅しじゃねぇよ。……考えて見ろよ。今の皇太子サマの心境をよ」
「皇太子の……心境じゃと?」
いきなり話題を変えられたような気がしたのか、ウルヴェスはきょとんとしている。
店主のニヤリと笑った顔は、その顔を待ってたという感情かそれとも国や村人への皮肉の笑みか。
「俺のやってることは正しいっつって魔導師を追い出したんだろ? で、その結果魔導師は魔物を呼び出した。暴君がそいつを討てば正義の味方に早変わり。ところが正義どころか討伐失敗。それだけじゃねぇ。逆恨みした魔導師の思いと同体になったってわけだ。離れようったって離れられねぇ。だが魔導師からすりゃ逆恨みじゃねぇ。正当な理由を持って恨みを晴らそうとし、その相手が一番近くに寄って来てくれたってことだよ。皇太子が自分の悪行に気付いて謝りゃ少しは事態は小さくなるだろうが、悪いことをしたと気付いてねぇんだろうなぁ」
悪いことをしたことに気付いてないのは皇太子ばかりではない。
魔導師にとっては間接的にその側近をはじめとする王族の者達、そして迫害した村の者達もそう。
平穏な毎日を過ごしたいのにいつ何が起こるか分からない事態になりつつある。
心が落ち着かせることが出来ない生活は苦しい辛い思いの連続であろう。
「そんな心境は、まるで地獄にいるも同然じゃねぇのかってことだよ。最後まで言わせんな」
「そんな自分らの思い込みにしがみつかず、魔導師のこれまでのいろんな恩恵に感謝する。その目的に報われないかもしれない行事をこれから取り仕切れ、と。そして我々のこれまでの魔導師に対する愚かな行為を悔い改め罪を認め罰を受け続ける、ということか」
ウルヴェスの言葉の一部である『罰を受ける』とはすなわち、心の底から感謝の意を表すこと。
被害者が加害者へ謝意を伝える事態は起きるはずがない。しかし村人達にとってはそんな認識だろう。
謝意を伝えるフリではなく、感謝の意を本心で表さなければ意味がない。なぜならその行為自体に不満を持てばその思いが巨塊が成長する養分となるのである。店主の言う通りまさしく行くも地獄、引くも地獄。
「言っとくが、ここだけの話と言う前提で俺の考えを述べただけだ。だから俺に何の責任もない。ただ口に出しただけで、あんたに提案したわけじゃないからな」
もう話すネタはない。俺にこの世界でやれることはない。
そんな感じで店主はおもむろに立ち上がり、尻についた埃を払う。
「言っておくがジジィ、いくら力を持ってるっつってもこっちの世界に来るんじゃねぇぞ。世界間で戦争起きて、それこそ地獄に変わっちまうからな。じゃ、お休み」
店主のその言葉に引き留める者はおらず、誰にも知られることのない法王との会話はこうして終わった。
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