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巨塊討伐編 第五章:巨塊の終焉
交わりたくない相手と密会 2
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店主は眩暈を覚える。
この女エルフと出会ってからは、現実世界も向こうの世界も、自分の予想を良くも悪くも裏切られることが多くなった。
セレナを救出したあと、お役御免とばかりに誰からも気付かれることなく店主は自分の世界に戻った。 その後のセレナ達の安否も知ることなく関心も持たない店主は、あれから一週間過ぎたということも気付いていなかった。
その計画を立案する際に、近所の住民やセレナと親しい数多くの冒険者チームをたった一人で散々振り回したホビット族の男のことも頭の中から消えていた。
『法具店アマミ』は、店主はセレナとは契約書などを交わさず、口約束のみで始まった店。
そしてその世界の事情や店の過去など一切興味のなかった店主は、その小男からの謂れのない罵詈雑言と彼女への執着でその店に関わることを止める。店主は小男と違い、店には全く固執していなかった。
今回の爆発事故の調査員達の件をきっかけに拘束されたその男は、おそらくはもう釈放されることはないのだろう、とは関係者の談。そしてそのことと店主の『法具店アマミ』への復帰は別問題である。セレナ達の救出劇は彼にとってはアフターケア。『天美法具店』に戻った時点で彼の中では、向こうの世界との関わりはそれで完全終了のつもりでいた。
しかしその意に反してその店長に、セレナ以上に切実に会いたがっている者が現れた。
騒ぎを起こした小男よりも印象が薄い男たちの仲介で、国のトップがここに出向いてもいいと言う。
向こうの世界の者が店主に会いたいと言う。
しかし店主は、相手が誰であろうとも拒絶することに躊躇いはない。その人物が、たとえ向こうの世界で一番の権力者であったとしても。
しかし今はセレナとワイアットの二人だけしか行き来できないゲート。その制限をいとも簡単に変更できる力の持ち主だったらば、その要望を無視するわけにはいかない。
もちろん権力者ならセレナよりも魔力、魔術に長けた者であるとは決めつけられない。
しかしセレナよりも優れた力の持ち主が側近にいるかもしれないことを考えると、ある意味店主にとって危険な状況に陥る。
向こうの世界の者達にはこの世界は、店主の絶対的避難所である。店主にとっての安全地帯の意味がなくなってしまうということは、権力者がその気になったら、あの小男同様にあっさりと監禁されることは間違いない。誰よりも素早さに優れた力の持ち主ですら捕獲されてしまったのだ。石の力を見る以外に何のとりえもない店主が、そんな彼らにどう対抗できるというのか。
「……セレナ……。俺が会いたくないっつったらどうなる?」
「多分……猊下自らお出迎えってことになると思うよ? この扉の仕掛け見破られたらほぼ一瞬で設定変えられるかもしれないから」
「笑いごっちゃねぇだろうがよ……。なんだよこの逆縁のわらしべ長者みたいな現象は……」
カウンターの椅子に深く腰掛け、力なくうなだれる店主。
「……テンシュ」
「……なんだよ」
「いつ来てもいいんだって。とーってもうらやましいな」
「すっごくどうでもいいわ! 向こうの権力者ならなおさらだぃ」
彼女との行き違いの問題に、彼女が折れたことは一度もない。
観念して立ち上がり扉に向かう店主。
「『法具店アマミ』の倉庫の中の宝石、全部こっちに持ってきても文句言わせねぇぞ」
眉間に皺を寄せたままセレナにすれ違いざまそう呟いて異世界に足を向ける。
その言葉はセレナにとって微妙に痛かったらしい。
それはちょっと困る。そう言いながら店主の後に続いて『法具店アマミ』に移動した。
この女エルフと出会ってからは、現実世界も向こうの世界も、自分の予想を良くも悪くも裏切られることが多くなった。
セレナを救出したあと、お役御免とばかりに誰からも気付かれることなく店主は自分の世界に戻った。 その後のセレナ達の安否も知ることなく関心も持たない店主は、あれから一週間過ぎたということも気付いていなかった。
その計画を立案する際に、近所の住民やセレナと親しい数多くの冒険者チームをたった一人で散々振り回したホビット族の男のことも頭の中から消えていた。
『法具店アマミ』は、店主はセレナとは契約書などを交わさず、口約束のみで始まった店。
そしてその世界の事情や店の過去など一切興味のなかった店主は、その小男からの謂れのない罵詈雑言と彼女への執着でその店に関わることを止める。店主は小男と違い、店には全く固執していなかった。
今回の爆発事故の調査員達の件をきっかけに拘束されたその男は、おそらくはもう釈放されることはないのだろう、とは関係者の談。そしてそのことと店主の『法具店アマミ』への復帰は別問題である。セレナ達の救出劇は彼にとってはアフターケア。『天美法具店』に戻った時点で彼の中では、向こうの世界との関わりはそれで完全終了のつもりでいた。
しかしその意に反してその店長に、セレナ以上に切実に会いたがっている者が現れた。
騒ぎを起こした小男よりも印象が薄い男たちの仲介で、国のトップがここに出向いてもいいと言う。
向こうの世界の者が店主に会いたいと言う。
しかし店主は、相手が誰であろうとも拒絶することに躊躇いはない。その人物が、たとえ向こうの世界で一番の権力者であったとしても。
しかし今はセレナとワイアットの二人だけしか行き来できないゲート。その制限をいとも簡単に変更できる力の持ち主だったらば、その要望を無視するわけにはいかない。
もちろん権力者ならセレナよりも魔力、魔術に長けた者であるとは決めつけられない。
しかしセレナよりも優れた力の持ち主が側近にいるかもしれないことを考えると、ある意味店主にとって危険な状況に陥る。
向こうの世界の者達にはこの世界は、店主の絶対的避難所である。店主にとっての安全地帯の意味がなくなってしまうということは、権力者がその気になったら、あの小男同様にあっさりと監禁されることは間違いない。誰よりも素早さに優れた力の持ち主ですら捕獲されてしまったのだ。石の力を見る以外に何のとりえもない店主が、そんな彼らにどう対抗できるというのか。
「……セレナ……。俺が会いたくないっつったらどうなる?」
「多分……猊下自らお出迎えってことになると思うよ? この扉の仕掛け見破られたらほぼ一瞬で設定変えられるかもしれないから」
「笑いごっちゃねぇだろうがよ……。なんだよこの逆縁のわらしべ長者みたいな現象は……」
カウンターの椅子に深く腰掛け、力なくうなだれる店主。
「……テンシュ」
「……なんだよ」
「いつ来てもいいんだって。とーってもうらやましいな」
「すっごくどうでもいいわ! 向こうの権力者ならなおさらだぃ」
彼女との行き違いの問題に、彼女が折れたことは一度もない。
観念して立ち上がり扉に向かう店主。
「『法具店アマミ』の倉庫の中の宝石、全部こっちに持ってきても文句言わせねぇぞ」
眉間に皺を寄せたままセレナにすれ違いざまそう呟いて異世界に足を向ける。
その言葉はセレナにとって微妙に痛かったらしい。
それはちょっと困る。そう言いながら店主の後に続いて『法具店アマミ』に移動した。
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