上 下
95 / 290
巨塊討伐編 第三章:セレナの役目、店主の役目

バイトにて、ウィーナの災難 3

しおりを挟む
「ちょっとテンシュ! 何やってんのよ!」
「待て待て。この子の手当てが先だ」
「お姉ちゃん、大丈夫?!」

 『法具店アマミ』の入り口で騒ぎを起こした張本人は、普段とは全く違う態度をとる。
「……すまん」
「テンシュ、謝るのはもう分かったから中に入れたげないと!」

 『クロムハード』のアローがウィーナを中に連れていくことを促し、カウンターの傍に座らせて騒動は落ち着く。

「全くもう、テンシュったら! もうお迎え来たから私行くね! それと、今日の調査は昼に一旦戻るから! じゃ任せたわよ!」

 ウィーナのことが気がかりだが、国から派遣された調査員の迎を待たせるわけにはいかない。
 店主へ怒りを向けながら自分の仕事を果たしに行くセレナ。

「……私、そこまでひどい怪我じゃないから気にしなくていいですよ、行ってらっしゃい……」
 ウィーナから見送りの声を受けてセレナは出発した。

「で、テンシュさん。どういうことなの?」
「えっと、実はね……って、まだ自己紹介してないよねっ? あたし、ウィーナの双子の妹でミールって言いますっ。よろしくお願いします!」

 ここで軽い自己紹介が始まった。
 そして店主がそのような行為に至った前日の出来事の話題になる。

「そりゃ災難だったな。純粋な種族なんか珍しくなったんじゃないかと思うが」
「アックスが言うと意味深に感じるよな」

 体形が人間の樹木の種族で、魔法も使えるため樹妖族と呼ばれる種族のアックスの言葉に亀の甲羅が人を象ったような獣人種のクラブが茶々を入れる。
 しかしスウォードはその事態を冷静に受け止めた。

「だが固定概念に拘る者も少なくねぇな。特に魔物退治ではそれに拘る者はむしろ多い」
「襲撃する前に攻撃手段を絞る必要からあるから、ね」

 その理由はニードルの言う通り。冒険者達の先人の知恵というものらしい。

「その通り。特に魔物相手なら、意外性のある特徴を持つ奴はほとんどいねぇ。普段の生息で生活しづらい性質になっちまうからっぽいな。だから、この種族はこういうタイプと言う決まった理論はアテになる。そして俺もどっちかっつーと肯定派だ」

 双子は最後の一言で少し後ずさる。
「だが見下す行為はどんな相手でも厳禁だ。相手が魔物の場合は命を奪われる原因の一つになるし、冒険者の場合はこの仕事に就いた理由の一つは能力の中にあるからな。誰かと比べたって見つかりゃしねぇ。いわば個性ってやつだ。もちろん一目見て、優れている部分はどこかなどと言う判断はできんがな。それこそテンシュさんの得意分野だろ」

 その双子を表情を緩めながら見つめるスウォードの眼差しは温かみがあった。

「さて、らしくねぇ話をしちまったところで、みんなの道具受け取りに来たんだが」
「あ、あぁ。カウンターの上に出してある。まずは……」

 店主が一人ずつ装備品を説明しながら手渡しする。
 使用者専用の物ではあるが、あくまでも体の寸法のみ。その効果はスウォードに作った物と同様、使用者の能力の拡張や変化の効果を持つ。だから特に詳しい説明はなく、模擬戦で確認すれば十分用は足る。

「私達もスウォードみたいに見違えるくらいの強さになるのかな」
「その前に、まず作ってもらった謝礼出さなきゃ。宝石で良かったんだよな?」
 模擬戦や実戦に出るのが待ちきれないという期待感一杯な感情を表すスリング。
 そんな彼女を抑えながら、スウォードは報酬の宝石をいくつかカウンターに置く。

「こいつも洞窟の入り口あたりの道端に落ちてた石だったんだが、眼鏡に叶ってくれりゃいいが」
「十分だ。効果のほどを確認して、期待以上ならさらに報酬をもらいてぇところだが……」

 スウォードが宝石を見る店主の様子が気になっている。
 その店主は腕組みをして首をかしげながら宝石を見ている。
 ふと我に返った店主はスウォードたちを見回す。

「あ、あぁ、すまん。今は特にお前らに用件はないな。模擬戦行くんだろ? ウィーナの件でも足止めさせて悪かった」

『クロムハード』のメンバー全員は互いに顔を見合わす。店主について何やら言葉を交わしているが、店主の言葉に甘えて店を出た。
 彼らの姿が見えなくなり、賑やかだった店内には静けさが訪れる。
 双子の姉妹もようやく落ち着いたようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。

えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう 平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。 経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。 もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...