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巨塊討伐編 第二章:異世界と縁を切りたい店主が、異世界に絡み始める
幕間 三:セレナの回想 2
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セレナにとって大切な人を失った。
頭と心の中は、その悲しみと怒りが高まっていく。
しかし頬に衝撃を受けた時、横たわる彼の姿が視界に入る。
いつの間にか彼女の周りに誰かがいた。
しなければならないことがあった。周りの者達に気付かされた。
エルフのしきたりに倣い、彼を傍にいる者達と一緒に近くの森へ連れていき、葬り、弔う。
一通り儀式は終わり、店へ戻る。
部屋に戻るとその悲しみと怒りは再燃する。
しかしまた彼女の思考が混乱する。誰が口にしたかも覚えていない。しかし言われたことは覚えてる。
店主が悪い? 私を無事に自分の世界に帰してくれた店主が悪い? 彼の傍にいなかった店主が悪い?
怒り一辺倒の彼女の心をまたもかき回したのは、店主の存在。
この道具屋にいるのが当たり前だと思っていた。
来るのが当然と思っていた。
実はそうではなかった、と話をしてくる者がいた。
その人は、店主は私のためにいてくれたと言う。
気を遣わせないように、見えないところで待っててくれたとも言っていた。
そして、いつも毛嫌いするほどのこの店の事を、自分の店だとも言ってくれた。
仕事が、店が大切なら、私の傍にいる必要はないはず。
思考が止まる。
そして次に記憶にあるのは、どこかで見たような防具を手にしながら店主がいきなり隣に座って来るなり、真剣に何かを聞いてきたこと。
聞かれるがままに答えた気はするが、詳しくは覚えていない。
仕事に対する真摯な姿勢の店主が、一度ならず二度、三度までも、彼女の怒りしかなかった思いを揺らがせた。
その後で覚えているのは、一心不乱に宝石を加工している店主の後姿。
なぜ私はこの男の後ろにいるのだろう。
そして言われるがままに、指示を出されるがままに店主から言われた仕事を彼女もひたすらこなす。
出来上がった品とともに二階に上がり、しばらくすると店主以外の全員がいなくなった。
いつもなら、ただ帰るはずの店主が、すぐに帰りたがる店主が、私に向かって声をかける。
そうだ。
言わなければならなかった。伝えなければならなかった。
しかしそれに構わず、さらに店主は私に置き土産を残してくれた。
彼との思い出に浸れ。彼にわがままを言うほどに、後悔が生まれるほどに。
叶えられるなら、いくらでもわがままは言える。
一緒にいろんな時間を過ごしたかった。
冒険者として一緒に活動したかった。
一緒に休暇を楽しみたかった。
けれども、今となっては叶うわけがない。
あの人は既に───
『余計なことを考えるな』
……考えなくてもいいなら、もっといろんなことをしたかった。
彼と一緒なら、仕事の事から離れて、ゆったりとした生活をしてみたかった。
冒険者を引退して、二人でのんびりとした生活をしたかった。
涙と共にその思いを声にして吐き出した。
嗚咽と共にその願いを吐き出した。
夜半も過ぎたころ、その力も消え失せた。
ふと心によぎったことは、彼はなぜ、あんなにも痩せていたのか。
討伐中に起きた現象なら、敗走や撤退の情報が入ってもおかしくはない。
戦闘中に受けた傷も見当たらなかった。
調べなければならないことができた。
仇を討つのはあまりに非現実的すぎる。敵討ちをするためには、彼の様子について調べなければならないことがある。
仇を討ちに行くような無茶はしない。
自分に出来るかもしれない仕事が出来た。
目を真っ赤にしながらも、その顔は昨日までより晴れていた。
頭と心の中は、その悲しみと怒りが高まっていく。
しかし頬に衝撃を受けた時、横たわる彼の姿が視界に入る。
いつの間にか彼女の周りに誰かがいた。
しなければならないことがあった。周りの者達に気付かされた。
エルフのしきたりに倣い、彼を傍にいる者達と一緒に近くの森へ連れていき、葬り、弔う。
一通り儀式は終わり、店へ戻る。
部屋に戻るとその悲しみと怒りは再燃する。
しかしまた彼女の思考が混乱する。誰が口にしたかも覚えていない。しかし言われたことは覚えてる。
店主が悪い? 私を無事に自分の世界に帰してくれた店主が悪い? 彼の傍にいなかった店主が悪い?
怒り一辺倒の彼女の心をまたもかき回したのは、店主の存在。
この道具屋にいるのが当たり前だと思っていた。
来るのが当然と思っていた。
実はそうではなかった、と話をしてくる者がいた。
その人は、店主は私のためにいてくれたと言う。
気を遣わせないように、見えないところで待っててくれたとも言っていた。
そして、いつも毛嫌いするほどのこの店の事を、自分の店だとも言ってくれた。
仕事が、店が大切なら、私の傍にいる必要はないはず。
思考が止まる。
そして次に記憶にあるのは、どこかで見たような防具を手にしながら店主がいきなり隣に座って来るなり、真剣に何かを聞いてきたこと。
聞かれるがままに答えた気はするが、詳しくは覚えていない。
仕事に対する真摯な姿勢の店主が、一度ならず二度、三度までも、彼女の怒りしかなかった思いを揺らがせた。
その後で覚えているのは、一心不乱に宝石を加工している店主の後姿。
なぜ私はこの男の後ろにいるのだろう。
そして言われるがままに、指示を出されるがままに店主から言われた仕事を彼女もひたすらこなす。
出来上がった品とともに二階に上がり、しばらくすると店主以外の全員がいなくなった。
いつもなら、ただ帰るはずの店主が、すぐに帰りたがる店主が、私に向かって声をかける。
そうだ。
言わなければならなかった。伝えなければならなかった。
しかしそれに構わず、さらに店主は私に置き土産を残してくれた。
彼との思い出に浸れ。彼にわがままを言うほどに、後悔が生まれるほどに。
叶えられるなら、いくらでもわがままは言える。
一緒にいろんな時間を過ごしたかった。
冒険者として一緒に活動したかった。
一緒に休暇を楽しみたかった。
けれども、今となっては叶うわけがない。
あの人は既に───
『余計なことを考えるな』
……考えなくてもいいなら、もっといろんなことをしたかった。
彼と一緒なら、仕事の事から離れて、ゆったりとした生活をしてみたかった。
冒険者を引退して、二人でのんびりとした生活をしたかった。
涙と共にその思いを声にして吐き出した。
嗚咽と共にその願いを吐き出した。
夜半も過ぎたころ、その力も消え失せた。
ふと心によぎったことは、彼はなぜ、あんなにも痩せていたのか。
討伐中に起きた現象なら、敗走や撤退の情報が入ってもおかしくはない。
戦闘中に受けた傷も見当たらなかった。
調べなければならないことができた。
仇を討つのはあまりに非現実的すぎる。敵討ちをするためには、彼の様子について調べなければならないことがある。
仇を討ちに行くような無茶はしない。
自分に出来るかもしれない仕事が出来た。
目を真っ赤にしながらも、その顔は昨日までより晴れていた。
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