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巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇
トラブルは続く 2
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『法具店アマミ』としてリニューアルしたセレナの道具屋は、新装開店日から二日続けて『天美法具店』の店主を巻き込んだ騒動が起きた。
「ということで、あの客はもう来ないと思うから安心していいですよ、テンシュさん」
「ふーん。報告ご苦労さん。それはいいけどよ」
『天美法具店』に転移して、店主が去った後の報告をしに来たセレナ。
異世界で『法具店アマミ』の宝石加工職人ならびに共同経営者のような立場になった店主。しかし彼は乗り気ではない。そんな彼が新装開店早々二日連続でトラブルに見舞われた。
彼の足が遠のくことを心配し様子を見に来たようだ。
「何か気になることでもあった?」
少しでも『法具店アマミ』に店主から来る意思を強くしてもらうために、セレナはアフターケアにきたつもりでいるのだが。
「何で俺の住まいで、お前が俺に茶を淹れてるのがすごく気になる。どうでもいい話じゃないな」
「私も飲みたいから」
「うん、すぐ帰れ」
ニコニコしながら普通に答えるセレナに店主はすかさず言葉を返す。
その日の『天美法具店』の退社時間を見計らって訪問したセレナを見て、店主は不機嫌な顔になる。
しかし従業員の目に触れない気配りが奏功し、店主に何とか迎え入れられた。
「ねぇねぇ。この中にいろいろ入ってるけど……これ全部食べ物?」
セレナが興味深く店主の住まいを見て回る。
セレナの世界にガスと電気はないようで、関連の製品には興味津々。
「冷蔵庫。そっちの世界にはねぇのか。って勝手に開けてんじゃねぇよ。つか、何漁ってんだよ」
「何か作ったげようか。料理もできるよ?」
「いいから帰れ」
店主の言葉を無視して冷蔵庫を漁るエルフ。
「……これなら作れそう。私晩ご飯まだなの。テンシュさんもまだでしょ? 作ったげるっ」
店主の返事を待たず、鍋に水を入れ、コンロの上に載せ、魔法で一瞬にしてお湯にする。
「コンロの上に置く意味あったのかよ」
「……コンロ? 何それ」
火を使って温める目的の道具の上で、使った魔法の目的が一致したのは偶然らしい。
三分のゆで時間などセレナの魔力には意味がない。一分もせずインスタントラーメンが出来上がる。しかも具だくさん。
「はい、どーぞ。いい匂いするわね。味はどんなのかしら?」
こいつは一体に何をしに来たのかと、店主は呆れて物が言えない。
店主にじっと見つめられても気にせずラーメンをすするエルフ。
「……味は悪くないけど、体にはどうなの?これ」
「お前は何しに来たんだここに」
一口すすった後に顔をしかめるセレナを見て、店主は好き勝手なことばかりをする彼女の行動を理解することを諦める。
「……もう行きたくなくなったって言われたら私が困るもん。テンシュさんから教わることも出来なくなるし」
教える気は毛頭ねぇよ。そう言う店主の傍らに二つの大きな石を置く。
もちろんこの世界に存在しない宝石。
「……見たことねぇ石だな。何だよこれ?」
「私の世界では『ウーミュリット』って言うの。でもこの種類の石は、力はあるけどどんな種類かわからなくて聞きに来たの。あの件の報告だけじゃなくてこのことも聞きに来たんだけど」
店主は二つの石を両手で取り、それぞれ見比べている。
「私は四大元素、五大元素の力は見れるけど、あるかないかくらいしか判別できないの。でもそれのどれにも当てはまらなくて」
セレナの言うことが耳に入っているのか入っていないのか。店主は真剣な目つきで石の鑑別を続けている。
「……なるほどね。魔法とか魔力とかの力ってのは、地水火風空みたいな力が元になってんだろ? それとは違う力が入ってるから、その視点から見たら分からないのは当然だな」
セレナは店主に驚きと期待の目を向ける。
「やっぱり分かるんだ! どんな力があるの? 教えて?」
店主に身を乗り出し、顔を突き出しながら聞いて来る。
この場合、座学で教えても果たして彼女の知識に入るかどうか。
そもそもその力を発揮させられるのは使用者であり、店主に出来ることは、使用者が発揮させるであろうと予測できる道具を作ることしかできない。
「この場で説明しても納得できねぇんじゃねぇのか? だってお前にその力判別できねぇんだし」
「じゃあこっちに来て作って見せてよ。お願いっ!」
「何でそんな時間のかかることをいきなり……」
そこで店長の口が止まる。
時間がかからない場所があることを忘れていた。
「うちで作ってくれりゃいいじゃない。ここでの時間は止まるんでしょ? 休み時間も込みでいてくれていいから。毎日来てほしいのはこっちの時間の流れの上での毎日って意味だから、ね? 他の宝石もあげるから」
「……そのラーメン、全部食ってからにしろ」
「……え?」
『法具店アマミ』に二人が移動したのは、それからセレナが食べ終わった四十分後だった。
「ということで、あの客はもう来ないと思うから安心していいですよ、テンシュさん」
「ふーん。報告ご苦労さん。それはいいけどよ」
『天美法具店』に転移して、店主が去った後の報告をしに来たセレナ。
異世界で『法具店アマミ』の宝石加工職人ならびに共同経営者のような立場になった店主。しかし彼は乗り気ではない。そんな彼が新装開店早々二日連続でトラブルに見舞われた。
彼の足が遠のくことを心配し様子を見に来たようだ。
「何か気になることでもあった?」
少しでも『法具店アマミ』に店主から来る意思を強くしてもらうために、セレナはアフターケアにきたつもりでいるのだが。
「何で俺の住まいで、お前が俺に茶を淹れてるのがすごく気になる。どうでもいい話じゃないな」
「私も飲みたいから」
「うん、すぐ帰れ」
ニコニコしながら普通に答えるセレナに店主はすかさず言葉を返す。
その日の『天美法具店』の退社時間を見計らって訪問したセレナを見て、店主は不機嫌な顔になる。
しかし従業員の目に触れない気配りが奏功し、店主に何とか迎え入れられた。
「ねぇねぇ。この中にいろいろ入ってるけど……これ全部食べ物?」
セレナが興味深く店主の住まいを見て回る。
セレナの世界にガスと電気はないようで、関連の製品には興味津々。
「冷蔵庫。そっちの世界にはねぇのか。って勝手に開けてんじゃねぇよ。つか、何漁ってんだよ」
「何か作ったげようか。料理もできるよ?」
「いいから帰れ」
店主の言葉を無視して冷蔵庫を漁るエルフ。
「……これなら作れそう。私晩ご飯まだなの。テンシュさんもまだでしょ? 作ったげるっ」
店主の返事を待たず、鍋に水を入れ、コンロの上に載せ、魔法で一瞬にしてお湯にする。
「コンロの上に置く意味あったのかよ」
「……コンロ? 何それ」
火を使って温める目的の道具の上で、使った魔法の目的が一致したのは偶然らしい。
三分のゆで時間などセレナの魔力には意味がない。一分もせずインスタントラーメンが出来上がる。しかも具だくさん。
「はい、どーぞ。いい匂いするわね。味はどんなのかしら?」
こいつは一体に何をしに来たのかと、店主は呆れて物が言えない。
店主にじっと見つめられても気にせずラーメンをすするエルフ。
「……味は悪くないけど、体にはどうなの?これ」
「お前は何しに来たんだここに」
一口すすった後に顔をしかめるセレナを見て、店主は好き勝手なことばかりをする彼女の行動を理解することを諦める。
「……もう行きたくなくなったって言われたら私が困るもん。テンシュさんから教わることも出来なくなるし」
教える気は毛頭ねぇよ。そう言う店主の傍らに二つの大きな石を置く。
もちろんこの世界に存在しない宝石。
「……見たことねぇ石だな。何だよこれ?」
「私の世界では『ウーミュリット』って言うの。でもこの種類の石は、力はあるけどどんな種類かわからなくて聞きに来たの。あの件の報告だけじゃなくてこのことも聞きに来たんだけど」
店主は二つの石を両手で取り、それぞれ見比べている。
「私は四大元素、五大元素の力は見れるけど、あるかないかくらいしか判別できないの。でもそれのどれにも当てはまらなくて」
セレナの言うことが耳に入っているのか入っていないのか。店主は真剣な目つきで石の鑑別を続けている。
「……なるほどね。魔法とか魔力とかの力ってのは、地水火風空みたいな力が元になってんだろ? それとは違う力が入ってるから、その視点から見たら分からないのは当然だな」
セレナは店主に驚きと期待の目を向ける。
「やっぱり分かるんだ! どんな力があるの? 教えて?」
店主に身を乗り出し、顔を突き出しながら聞いて来る。
この場合、座学で教えても果たして彼女の知識に入るかどうか。
そもそもその力を発揮させられるのは使用者であり、店主に出来ることは、使用者が発揮させるであろうと予測できる道具を作ることしかできない。
「この場で説明しても納得できねぇんじゃねぇのか? だってお前にその力判別できねぇんだし」
「じゃあこっちに来て作って見せてよ。お願いっ!」
「何でそんな時間のかかることをいきなり……」
そこで店長の口が止まる。
時間がかからない場所があることを忘れていた。
「うちで作ってくれりゃいいじゃない。ここでの時間は止まるんでしょ? 休み時間も込みでいてくれていいから。毎日来てほしいのはこっちの時間の流れの上での毎日って意味だから、ね? 他の宝石もあげるから」
「……そのラーメン、全部食ってからにしろ」
「……え?」
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