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エピローグ
番(つがい)
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地震雷火事親父。
世の中には恐ろしいものとされていることがたくさんある。
『法具店アマミ』が存在するこの世界でもそれはある。
自然災害は存在するし、魔物により引き起こされる同様の現象もある。
それを防ぐ魔法はあるが、すべて即時収束できるわけではない。
失った命を戻すことも出来ない。だからこそ命は尊重されるべきで、尊重してもらえる命になるように育てていかなければならない。
誰からもその姿は見えないが、常に店主とそれに関係する者達を守る行動をとるセレナがその店にあった。
あれから何百年か経ち、店主の元で修業していたシエラは自らの意志で『法具店アマミ』の経営の手伝いをするようになった。
いわばセレナの後釜である。
「やっぱり憧れの存在ですから、同じような仕事をしたいです」
「ふーん、頑張りな」
(頑張ってね)
「そうじゃなくて……。私いなくなったら、テンシュさん一人でこの店やっていかなきゃならないでしょ? 宝石職人の仕事、したくても出来ないことも多くなるじゃないですか。ここ、宝石職人たるテンシュさんあってのお店ですからね」
「全部お前に任せて俺はこれからセレナと二人、気ままな旅に出……」
「ていいわけでないでしょ」
今までは、ラキュア族の可愛いお手伝いさん扱いだったが、その宣言を機に『法具店アマミ』の一人前の戦力になった。
セレナを失って少し寂しく感じられたこの店は再び賑わいを取り戻す。
店主の、客とのやり取りの中でセレナとの話をちょくちょく解説することが普通になってきたこともある。
しかし寂しいことも起きた。
「テンシュ、俺達『風刃隊』、解散するんですよ」
(えええぇぇぇ?! どうして?! まさか私が見えなくなったから?!)
「ワイアット、セレナが一番驚いてるぞ。俺は別にどうでもいいが」
「テンシュさん、そーゆー反応は相変わらずですよねぇ」
シエラからの皮肉を受け流す店主に、話を続ける彼ら。
聞けば、斡旋所の施設の一部、冒険者養成所での指導者になるという。
「ここでも勉強会続いてるじゃないですか。養成所入所前の子供達相手にするんですよ」
「法王が……っていうかウルヴェスさんが前々から考えていたことらしくてね」
ウィーナが名前に言い直したのは、ウルヴェスは法王の職から退き、ライリーを後継者に、もう一人の候補者ホールスはその補佐と定め、その体制に変わったため。
「俺らもあの子供らとおんなじ立場だったからさ。そんな子供が俺らみたいに冒険者として名を挙げるなんて、運のいい方でさ。運の悪い子供の生活なんて、見れたもんじゃないんだよ。救いの手を伸ばす。その役割も悪くねぇなってさ」
(初めて出会った頃は弱々しくて可愛さもあったけど、今じゃすっかり頼りがいのある五人になったわね)
驚きの顔から一変して、優しく見守る顔に変わるセレナ。
昔のことを思い出し感慨深げにしている。
「セレナが、昔のお前ら可愛げがあったってよ。似合わねぇ言葉聞いちまった。笑っていいか?」
「いや、それはひどい。テンシュ、ホント変わらないわねぇ」
「……ま、この店で事足りるような買い物があるならくりゃいいし、もっと質のいい店見つけたらそっち行くのもいいさ」
「冗談でしょ?! ここより質のいい店なんてあるわけないじゃない。問題があるのはテンシュの性格くらいよ」
「まったくです。でも変わったら変わったで気味が悪いことこの上ない。セレナさんも面倒くさい相手に惚れたもんですねぇ」
店主の影響からだろうか、ミールとミュールの毒舌は止まらない。
「あら? ミュール、久しぶりだね。結構活躍ぶり耳にしてるよ」
店に入ってきたのはこの店を建てたニィナ。弟であるミュールとの連絡を取り合う場所としてもこの店を利用していたが、今ではすっかり弟離れ、姉離れが出来ていた。
「テンシュ、大工道具の改良の相談しに来たんだけど、取込み中?」
「あ、それなら私がお話し聞きますよ。そっちのソファにどうぞ」
シエラが張り切ってニィナに対応する。
これまでは来客の誰もがニィナを見守るような立場であったが、今では店主の仕事のパートナーとして信頼を受けている。
「そういえばシエラの……お姉さんだっけか。えーと……」
「『ホットライン』ですね。姉はリメリアです。姉たちもなんかいろいろお世話になってるようで」
冒険者達が一般人の店に求める物は武器や防具などばかりではない。
拠点になる建物も、材料によっては彼らの寿命よりも耐久性が短い物もある。
十年ほど前にニィナが彼らの拠点の建て直しの依頼を受け、その仕事を終えた評価は彼女が想像していたものよりも高評価であった。
「よぉ、やってるかーっ。俺の兜新調しようかと思って頼みに来たんだ……が……相変わらずにぎやかだな」
「あ、久しぶりっす」
新たにやってきた客は『クロムハード』のスウォード。彼に真っ先にギースが挨拶をする。
セレナが今の状態になってから彼らが最初に店にやってきたときに、セレナから激しく説得を受けた店主が渋々依頼禁止のルールを取り下げた。
理由なく何かを始める、何かを変更するということをしない店主であることを知っていた彼ら。思いもしない出来事に全員驚く。
しかしそれが、目に見えないがセレナがそこにいて、自分らのために介入していたことを理解するきっかけとなった。
この日も次々といろんな客がやってくる。
セレナは店内を歩いて見て回る。
寿命の年齢差のことで悩んでいた時期があった。
店主に先に死なれたら、またとてつもない喪失感に襲われるかもしれないという恐れ。
店主より先に死んだら、店主に来る災難はどうやって解決するのだろうかという心配。
しかしそれを一気に解決する術を得た。
店主の命が尽きるまで、店主のことを守ってあげられる。
店主の命が尽きたなら、この世界の住人になったのだから、魂はこの世界の摂理にそっていくのだろう。
次に生まれてくるときもきっと、こんな楽しい時間に満ち溢れた生を、一緒に過ごせますように。
セレナはそんなことを、店内を見渡しながら思う。
「おい、セレナ。何ほっつき歩いてんだ。仕事仕事」
「え、セレナさん、べったりくっついてるんじゃないの?」
「……たまにそんなときもある」
「えぇ~? その時のテンシュの顔見てみたーい」
「うるせぇ。俺は見世物じゃねぇ。おいセレナ、早く来いっつーの」
(はいはーい、今行きますよー)
『法具店アマミ』は今日も、そしてこれからも、たくさんの来客たちにいろんな話題を提供し続けていく。
「……宝石いじってる時間よりもこいつらの相手をする時間が長いような気がするのは納得できねぇんだがな」
(私がテンシュをいじってる時間を一番長くしてあげるから気にしないのっ)
了
世の中には恐ろしいものとされていることがたくさんある。
『法具店アマミ』が存在するこの世界でもそれはある。
自然災害は存在するし、魔物により引き起こされる同様の現象もある。
それを防ぐ魔法はあるが、すべて即時収束できるわけではない。
失った命を戻すことも出来ない。だからこそ命は尊重されるべきで、尊重してもらえる命になるように育てていかなければならない。
誰からもその姿は見えないが、常に店主とそれに関係する者達を守る行動をとるセレナがその店にあった。
あれから何百年か経ち、店主の元で修業していたシエラは自らの意志で『法具店アマミ』の経営の手伝いをするようになった。
いわばセレナの後釜である。
「やっぱり憧れの存在ですから、同じような仕事をしたいです」
「ふーん、頑張りな」
(頑張ってね)
「そうじゃなくて……。私いなくなったら、テンシュさん一人でこの店やっていかなきゃならないでしょ? 宝石職人の仕事、したくても出来ないことも多くなるじゃないですか。ここ、宝石職人たるテンシュさんあってのお店ですからね」
「全部お前に任せて俺はこれからセレナと二人、気ままな旅に出……」
「ていいわけでないでしょ」
今までは、ラキュア族の可愛いお手伝いさん扱いだったが、その宣言を機に『法具店アマミ』の一人前の戦力になった。
セレナを失って少し寂しく感じられたこの店は再び賑わいを取り戻す。
店主の、客とのやり取りの中でセレナとの話をちょくちょく解説することが普通になってきたこともある。
しかし寂しいことも起きた。
「テンシュ、俺達『風刃隊』、解散するんですよ」
(えええぇぇぇ?! どうして?! まさか私が見えなくなったから?!)
「ワイアット、セレナが一番驚いてるぞ。俺は別にどうでもいいが」
「テンシュさん、そーゆー反応は相変わらずですよねぇ」
シエラからの皮肉を受け流す店主に、話を続ける彼ら。
聞けば、斡旋所の施設の一部、冒険者養成所での指導者になるという。
「ここでも勉強会続いてるじゃないですか。養成所入所前の子供達相手にするんですよ」
「法王が……っていうかウルヴェスさんが前々から考えていたことらしくてね」
ウィーナが名前に言い直したのは、ウルヴェスは法王の職から退き、ライリーを後継者に、もう一人の候補者ホールスはその補佐と定め、その体制に変わったため。
「俺らもあの子供らとおんなじ立場だったからさ。そんな子供が俺らみたいに冒険者として名を挙げるなんて、運のいい方でさ。運の悪い子供の生活なんて、見れたもんじゃないんだよ。救いの手を伸ばす。その役割も悪くねぇなってさ」
(初めて出会った頃は弱々しくて可愛さもあったけど、今じゃすっかり頼りがいのある五人になったわね)
驚きの顔から一変して、優しく見守る顔に変わるセレナ。
昔のことを思い出し感慨深げにしている。
「セレナが、昔のお前ら可愛げがあったってよ。似合わねぇ言葉聞いちまった。笑っていいか?」
「いや、それはひどい。テンシュ、ホント変わらないわねぇ」
「……ま、この店で事足りるような買い物があるならくりゃいいし、もっと質のいい店見つけたらそっち行くのもいいさ」
「冗談でしょ?! ここより質のいい店なんてあるわけないじゃない。問題があるのはテンシュの性格くらいよ」
「まったくです。でも変わったら変わったで気味が悪いことこの上ない。セレナさんも面倒くさい相手に惚れたもんですねぇ」
店主の影響からだろうか、ミールとミュールの毒舌は止まらない。
「あら? ミュール、久しぶりだね。結構活躍ぶり耳にしてるよ」
店に入ってきたのはこの店を建てたニィナ。弟であるミュールとの連絡を取り合う場所としてもこの店を利用していたが、今ではすっかり弟離れ、姉離れが出来ていた。
「テンシュ、大工道具の改良の相談しに来たんだけど、取込み中?」
「あ、それなら私がお話し聞きますよ。そっちのソファにどうぞ」
シエラが張り切ってニィナに対応する。
これまでは来客の誰もがニィナを見守るような立場であったが、今では店主の仕事のパートナーとして信頼を受けている。
「そういえばシエラの……お姉さんだっけか。えーと……」
「『ホットライン』ですね。姉はリメリアです。姉たちもなんかいろいろお世話になってるようで」
冒険者達が一般人の店に求める物は武器や防具などばかりではない。
拠点になる建物も、材料によっては彼らの寿命よりも耐久性が短い物もある。
十年ほど前にニィナが彼らの拠点の建て直しの依頼を受け、その仕事を終えた評価は彼女が想像していたものよりも高評価であった。
「よぉ、やってるかーっ。俺の兜新調しようかと思って頼みに来たんだ……が……相変わらずにぎやかだな」
「あ、久しぶりっす」
新たにやってきた客は『クロムハード』のスウォード。彼に真っ先にギースが挨拶をする。
セレナが今の状態になってから彼らが最初に店にやってきたときに、セレナから激しく説得を受けた店主が渋々依頼禁止のルールを取り下げた。
理由なく何かを始める、何かを変更するということをしない店主であることを知っていた彼ら。思いもしない出来事に全員驚く。
しかしそれが、目に見えないがセレナがそこにいて、自分らのために介入していたことを理解するきっかけとなった。
この日も次々といろんな客がやってくる。
セレナは店内を歩いて見て回る。
寿命の年齢差のことで悩んでいた時期があった。
店主に先に死なれたら、またとてつもない喪失感に襲われるかもしれないという恐れ。
店主より先に死んだら、店主に来る災難はどうやって解決するのだろうかという心配。
しかしそれを一気に解決する術を得た。
店主の命が尽きるまで、店主のことを守ってあげられる。
店主の命が尽きたなら、この世界の住人になったのだから、魂はこの世界の摂理にそっていくのだろう。
次に生まれてくるときもきっと、こんな楽しい時間に満ち溢れた生を、一緒に過ごせますように。
セレナはそんなことを、店内を見渡しながら思う。
「おい、セレナ。何ほっつき歩いてんだ。仕事仕事」
「え、セレナさん、べったりくっついてるんじゃないの?」
「……たまにそんなときもある」
「えぇ~? その時のテンシュの顔見てみたーい」
「うるせぇ。俺は見世物じゃねぇ。おいセレナ、早く来いっつーの」
(はいはーい、今行きますよー)
『法具店アマミ』は今日も、そしてこれからも、たくさんの来客たちにいろんな話題を提供し続けていく。
「……宝石いじってる時間よりもこいつらの相手をする時間が長いような気がするのは納得できねぇんだがな」
(私がテンシュをいじってる時間を一番長くしてあげるから気にしないのっ)
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