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出発・別離・帰宅・番(つがい)編 帰宅
『法具店アマミ』にて その言葉は、待っていたものなら誰でも
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翌朝、意外なことにウルヴェスがやってきたのは開店前。
いつもは勉強会が終わるあたりか終わった後に来ていた彼女が、店主がこの日最初にあった人物となった。
「シエラ嬢にも伝えねばならんじゃろ?」
面倒くさい役割は真っ平御免な店主。相変わらずである。
それを見越して彼女はやってきたというわけである。
(良かったじゃない。これって説明するの、私だって面倒よ)
セレナはそう言いながら店主の体にまとわりつく。
普通の状態ならうっとおしくて仕方がないだろうが、いかんせん肉体はない。
目の前でうろうろされても、その向こうの景色は透けて見える。何かの邪魔になるようなこともない。
「当事者が面倒がるなよ」
「……声も聞こえん。姿も見えん。じゃがどんな会話をしとるのか、今のテンシュの言葉で大体分かった」
苦笑いのウルヴェス。
「う゛~……いつの間にか眠ってた……あ、テンシュさん、帰ってたの?! それと……ウルヴェスさん?! セ、セレナさんは?!」
寝ぼけ眼で二階から降りてきたシエラは、二人の姿を見て目を覚ます。
昨日この二人が店から去ったあとの、ライリーと二人の店番の仕事にはほとんど気が入らない。
無理もないことだが、だからと言って店をいきなり閉めるわけにはいかない。
それでも閉店時間を迎え、戸締りはするがずっと店のカウンターに座って店主が戻るのを待っていた。
ライリーもそれに付き合うが、いつの間にかカウンターに突っ伏して眠るシエラ。
ライリーは、彼女の名札がかかっている部屋に連れて行きベッドに寝かせた後皇居に戻る。
そして今に至る。
「セレナは俺にまとわりついている」
そういうことを言う店主を凝視する。
シエラには見えない。そこにいるのは店主とウルヴェスの二人だけ。
「な、何言ってるの? そこにいるのはウルヴェスさんでしょ? ま、まさかセレナさん死んじゃって、店主正気失った?! 正気じゃないのはいつものことだけどっ!」
「どさくさに紛れて何口走ってやがんだてめぇ! 一年間ただ働きさせんぞ!」
「そ、そんなこと言ったって……セレナさんどこにいるのよ、テンシュ!」
「落ち着け、シエラ嬢。天流教はそのためにある」
「へ? あ、あぁ、そっか。え? じゃまさかほんとにいるの?」
ウルヴェスの一言でシエラは落ち着きを取り戻した。
この世界で死者は生前縁の深い者がいれば、その者のそばにいることができる。
しかしそれは本人同士にしか分からないこと。
今ここに店主とシエラの二人きりでいたなら、セレナと話をする店主をシエラからは、何もない空間に向かって独り言を普通の声でしているようにしか見えない。
つまり、事情を知らない者がその現象に遭遇すると、まともな神経を持っていないように見えるのである。
その現象を宗教的現象の一つと受け止め、この世界の社会にも受け入れてもらう。
天流教の存在する目的の一つは、その役割を果たすこと。
「そ、そうか……。セレナさん、帰ってきたんだね……」
(ごめんね。こんな姿になっちゃって。って声も聞こえないんだもんね。ごめんね)
涙をこぼすシエラに、セレナはすまなそうに近づき、両手で彼女の頬を包む。
シエラにはそれすら気付かない。
「……ってことを言ってるぞ。お前の目の前で。言葉聞こえないだろうが、勘弁してやれや、シエラ」
そう解説する店主。これも、何も知らない者が聞けば、やはり正気ではないと思われるだろう。しかし店主には目に見えるありのままをシエラに伝えただけ。
「……うん、勘弁とか、そんなんじゃないよ。ただ、寂しいだけ。天流教の解釈がなかったら、それこそ私、荒れてたかも」
「俺の住んでいた日本とこの世界での宗教の定義は違うだろうが、セレナは俺の目の前にいる。それははっきりと断言する」
店主のその言葉に、悲しげではあるが笑顔に変わるシエラは力強く頷いた。
しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。
「ということで、またガキ共が集まってくんぞ」
「待って、テンシュさん。私まだ何も言ってない」
「何を? 何か言い忘れたことでもあったか?」
「うん。……セレナさん、お帰り」
シエラの目から新たに涙が流れる。しかしその言葉は笑顔と共に出た。
(うん、ただいま、シエラちゃん)
シエラにはセレナの姿は見えないが、店主には二人が親しげに挨拶を交わしているように見えた。
そしてセレナの事情を知らない者達にとって、いつもと変わらない一日が始まる。
いつもは勉強会が終わるあたりか終わった後に来ていた彼女が、店主がこの日最初にあった人物となった。
「シエラ嬢にも伝えねばならんじゃろ?」
面倒くさい役割は真っ平御免な店主。相変わらずである。
それを見越して彼女はやってきたというわけである。
(良かったじゃない。これって説明するの、私だって面倒よ)
セレナはそう言いながら店主の体にまとわりつく。
普通の状態ならうっとおしくて仕方がないだろうが、いかんせん肉体はない。
目の前でうろうろされても、その向こうの景色は透けて見える。何かの邪魔になるようなこともない。
「当事者が面倒がるなよ」
「……声も聞こえん。姿も見えん。じゃがどんな会話をしとるのか、今のテンシュの言葉で大体分かった」
苦笑いのウルヴェス。
「う゛~……いつの間にか眠ってた……あ、テンシュさん、帰ってたの?! それと……ウルヴェスさん?! セ、セレナさんは?!」
寝ぼけ眼で二階から降りてきたシエラは、二人の姿を見て目を覚ます。
昨日この二人が店から去ったあとの、ライリーと二人の店番の仕事にはほとんど気が入らない。
無理もないことだが、だからと言って店をいきなり閉めるわけにはいかない。
それでも閉店時間を迎え、戸締りはするがずっと店のカウンターに座って店主が戻るのを待っていた。
ライリーもそれに付き合うが、いつの間にかカウンターに突っ伏して眠るシエラ。
ライリーは、彼女の名札がかかっている部屋に連れて行きベッドに寝かせた後皇居に戻る。
そして今に至る。
「セレナは俺にまとわりついている」
そういうことを言う店主を凝視する。
シエラには見えない。そこにいるのは店主とウルヴェスの二人だけ。
「な、何言ってるの? そこにいるのはウルヴェスさんでしょ? ま、まさかセレナさん死んじゃって、店主正気失った?! 正気じゃないのはいつものことだけどっ!」
「どさくさに紛れて何口走ってやがんだてめぇ! 一年間ただ働きさせんぞ!」
「そ、そんなこと言ったって……セレナさんどこにいるのよ、テンシュ!」
「落ち着け、シエラ嬢。天流教はそのためにある」
「へ? あ、あぁ、そっか。え? じゃまさかほんとにいるの?」
ウルヴェスの一言でシエラは落ち着きを取り戻した。
この世界で死者は生前縁の深い者がいれば、その者のそばにいることができる。
しかしそれは本人同士にしか分からないこと。
今ここに店主とシエラの二人きりでいたなら、セレナと話をする店主をシエラからは、何もない空間に向かって独り言を普通の声でしているようにしか見えない。
つまり、事情を知らない者がその現象に遭遇すると、まともな神経を持っていないように見えるのである。
その現象を宗教的現象の一つと受け止め、この世界の社会にも受け入れてもらう。
天流教の存在する目的の一つは、その役割を果たすこと。
「そ、そうか……。セレナさん、帰ってきたんだね……」
(ごめんね。こんな姿になっちゃって。って声も聞こえないんだもんね。ごめんね)
涙をこぼすシエラに、セレナはすまなそうに近づき、両手で彼女の頬を包む。
シエラにはそれすら気付かない。
「……ってことを言ってるぞ。お前の目の前で。言葉聞こえないだろうが、勘弁してやれや、シエラ」
そう解説する店主。これも、何も知らない者が聞けば、やはり正気ではないと思われるだろう。しかし店主には目に見えるありのままをシエラに伝えただけ。
「……うん、勘弁とか、そんなんじゃないよ。ただ、寂しいだけ。天流教の解釈がなかったら、それこそ私、荒れてたかも」
「俺の住んでいた日本とこの世界での宗教の定義は違うだろうが、セレナは俺の目の前にいる。それははっきりと断言する」
店主のその言葉に、悲しげではあるが笑顔に変わるシエラは力強く頷いた。
しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。
「ということで、またガキ共が集まってくんぞ」
「待って、テンシュさん。私まだ何も言ってない」
「何を? 何か言い忘れたことでもあったか?」
「うん。……セレナさん、お帰り」
シエラの目から新たに涙が流れる。しかしその言葉は笑顔と共に出た。
(うん、ただいま、シエラちゃん)
シエラにはセレナの姿は見えないが、店主には二人が親しげに挨拶を交わしているように見えた。
そしてセレナの事情を知らない者達にとって、いつもと変わらない一日が始まる。
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