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最終章:出発・別離・帰宅・番(つがい)編  出発

再び巨塊がらみ 法王からの依頼 店主の思い セレナの思い

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 道なき道を、抵抗する力もないままに、重力に身を任せながら、地中深く進んだと思われる巨塊。
 それはもはや「巨塊」と呼べる物ではない。

 しかしこれま巨塊がもたらした災害の一つである地震の性質の変化は、より慎重に監視しなければならない。
 そのための調査は必要であり、巨塊を目撃し、巨塊がもたらした爆発の被災を体験した数少ない冒険者の一人であるセレナにも、再度調査団の一人として白羽の矢が立てられた。

「はっきり言わせてもらう。俺は反対だ」

 天流法国の国民を守るためにやらなければならない仕事である。
 調査が出来る者であれば誰でも出来る仕事であり、セレナがやらなければならない仕事ではない。
 調査員も、セレナでなければならない理由もない。
 それを真っ先に反対したのは、言伝を頼まれた店主だった。
 今は立場は違えども、言伝したウルヴェスもこれにほ流石に驚いて、外の監視も忘れ、他の二人同様店主に目を向ける。

「勝手にすれば? みたいなこと言うと思ったのに」

 シエラの感想はセレナとウルヴェスの本音の代弁でもあった。

「相棒を粗末に扱うわきゃねぇだろうよ」

 自然な反応のつもりだったが、照れているのを誤魔化しているように受け止められる店主。
 周りからそう思われるのも無理はない。だが店主の言葉も、彼の本音である。

「へぇ~、私のこと、心配してくれるんだぁ? 私のありがたさがようやく分かったのかしらぁ?」

「羨ましいな~。私にもそんな相方ほしいなぁ」

「言うことあんまり変わんねぇとうざく感じるだけだぜ? シエラ」

 会話が普段の雑談に変わり、次第に雰囲気が和んでいく。
 しかしウルヴェスは苦言を呈した。


「しかし粗末とは随分な物言いじゃな。わ……法王からの依頼じゃぞ?」

「今、『妾』って言おうとしなかったか?」

「な、何を言うか。いや、そんなことよりも、法王からの依頼を受けることがセレナ嬢を粗末に扱うということか? ちょいと聞き捨てならんぞ?」

 店主に揚げ足を取られかけるが、それに振り回されてばかりもいられない。
 しかしここにいる目的も忘れないウルヴェスは、出入り口のところで椅子に座ったままカウンターの方に不愉快そうに顔を向ける。

「二回も討伐して失敗。そのうちの一回は爆発に巻き込まれ、その後の調査で意識不明。その現場が同じなんだろ? 縁起でもねぇって話だよ。まぁ聞いた話から考えるに、仮に爆発が起きても何かが破裂した程度のもんだろうし、力の消耗にしても体力の半分も吸い取られはしないだろうとは思うけどな」

 ならばどこに反対する要素があるのか。
 そう反論するウルヴェスの根拠は、店主自らの発言にある。
 賛成も反対もしないシエラ、思案顔のセレナもその答えは知りたがっている。

「だから言ったろ? どうやってその塊の所まで行くんだってことだよ。地面の土や岩の隙間を辿って地中に潜った奴の追跡をどうやるんだっての。宝石採りまくった洞窟のような広さだったら、セレナの身に何かが起きても救出活動は容易だろうさ。狭っ苦しい通路で事故に巻き込まれたら、二次災害に遭うのがオチだ。つーか、その隙間だって、俺たちの指先すら入るかどうかも怪しいもんだろ?」

 ウルヴェスは調査活動の手当ての増額を提案する。
 しかし命に拘わることが起きたら、それこそ店主の主張は正しい。
 安全が確保されていない、どんな場所かも全く見当がつかない塊が存在する地中。
 そして待ち受ける塊は、小さくなったとしても悪意の塊である。
 金の問題ではない、と店主は首を横に振る。

「それに、これは隣の村のことだが、俺らを歓迎しなかった。結果として俺らを村から追い出した。そんな奴らが隣村にまたやってくる。目的はどうあれ追い出したという自覚があるなら、セレナが村に来るってのを聞いたら、どう思うだろうな? 無理やり引き留めるか意地でも追い出すか。居心地がいい思いはしないだろうよ。内密に調査を進めるとしても、事故が起きたら秘密裏には出来ない。反対意見ばかりしか出せねぇが、こいつの安全を確保する責任は俺の方にもあるんでな」

 反対意見の根拠をつらつらと挙げられては、流石にウルヴェスも反論できない。
 大賞を調査する際に安全を確保するのは、活動員達の前に法王や国が先にやるべきことである。

「……私は調査に行きたいとは思う。村の人口も増えてきてるって聞いてる。故郷に帰りたくても帰れない人達がいる。そんな悲しい思いをする人を増やしたくはないかな」

 どんな理由であれ故郷を離れた人の心の中にも望郷の思いがあるなら、それを大事にしてほしい。
 セレナはそう考えた。
 冒険者の中には、故郷を追い出された者も多い。
 そして彼女の言葉は、望郷の念はあまりないが、思う人のことを未だに心の中に止めおいている店主の心にも、わずかに響いた。
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