264 / 290
『法具店アマミ』再出発編 第十章 店主が背負い込んだもの
『法具店アマミ』の休暇の日 この二人、朝から何してんだろ
しおりを挟む
セレナが後をついてくる店主は全員と合流。
食事は進んでいるが酒も進んでいる。しかし我を失うものは誰もいない。
無報酬であっても仕事であり与えられた役割があるならそこはプロ。自制心もある彼らは腹八分目になるとあたりを片付けそれぞれテントに入る。
夜も更け、そして日が昇る時間を迎える。
新たな一日のはじまりの朝日はテントの幕を透過し、全員が清々しい気持ちで目覚めた。
大人たちは、昨夜の酒はすっかり消えている。
そして朝ごはんの準備の前に、店主とウルヴェスの分を抜いた昼食の弁当作りに取り掛かる。
予定としては、道具屋で売られている装備品の素材になるようなものの採集を、ほぼ日中をかけて行う。
目的地とテントの位置は遠くない距離だが、誰の手を煩わせることのないように職を手にするため、就く職業の一つである冒険者の現場を体験させるのも、目的地をここに定めた理由の一つ。
逃げ場がない場所ということで、力のない者達の立ち入り禁止場所となっている。しかしそれなりに装備を整えた者であれば、この区域に現れる魔物になら問題なく対処できる。
寄宿舎付きの冒険者養成所に入る子供がいるなら、冒険者の仕事の現場を入所前に体験するのとしないのとではその差は大きい。
少しでも本職の職場の環境をなるべく多く体感させるため、テントが現場の目と鼻の先にあったとしても休憩時間にはそこに戻るようなことをしない方針を立てた。弁当作りはその一環である。
「……そう。だからみんなは目につく食べられるものがあればすぐに手に入れて口に入れなきゃだめかもしれないけど、栄養を体の中に取り入れやすくする仕掛けも必要なの。それが料理ってわけ」
「たくさん食わなきゃ体も大きくなれない。味が悪いとたくさん体の中に入れられない。食い物の中には、苦い物や渋い物もあるけど体にいいものもある。その手伝いが味付けってことだ」
子供達の誰もが、その目を輝かせて彼らの話を熱心に聞く。冒険者達は子供達にレクチャーしながら、子供達と一緒にどんどん弁当を完成させていく。
こんなときには、出る幕がない店主にまとわりつく子供はいない。、
そして冒険者達の話を聞こうとしない子供もいない。
その集団から離れている店主も、疎外感を持っていそうな子供もいないことを確認する。
その様子を見て、目的の一つは達成できた実感を得た。
だがこの一日はこれから始まる。
さらに大切なものを子供達に得てもらいたいとは思うが、こればかりは店主の思い通りにはいかない。
積極的に取る気はなかった休暇。その期間を無駄にしてもらいたくはないと願うばかりである。
いつの間にか彼らはなし崩しに弁当作りから朝食作りに移行している。
これは冒険者の仕事上の仕事とは限らない。
野外での日常の作業の一つでもある。その区別は出来ている店主は、ゆっくりとその集団に近寄る。
「あれ? テーブル出来てる。あ、テンシュさんやってくれたの? ありがとう」
「テンシュのおじちゃん、力持ちだったんだねー」
「おー。テンシュおじちゃんすごーい」
「いいからとっとと朝飯の準備しろよ」
短めの丸太を六つほど。そして全員が囲って座れるくらい広い、厚めの木の板をその上に乗せて朝食用のテーブルを作る。何とか一人で用意できる重さだが、朝目覚めて間もない時間の肉体労働は、店主には少しきつすぎた。
フィールドワークや力仕事が苦手と思われた店主。子供達からの人気の高さは店主から冒険者達に移っていったが、ここでまた店主が盛り返す感じになる。しかし人気よりも、子供達にとって重要なことを身につけさせたい店主は、まとわりつかれるのを邪険にあしらう。
ところがその対応が子供達には、格好の遊び相手のように受け止められてしまう。
「テンシュー、遊んでないで、配膳してくださいよー」
「テーブル用意してくれるのはありがたいんですが、まだ終わってないんですよー。無理しないでくださーい」
「はぁ、はぁ……。あいよ……っていうか、俺にじゃれついてねぇで、それくらいお前ら手伝え!」
子供達に怒鳴る店主。逃げるように店主から去り、朝ご飯の準備の手伝いにかかる。
「いっそのこと、こいつら全員のお父さんになったらどうだ? テンシュ」
「じゃあお母さんはセレナさんということで」
『ホットライン』のエンビーとヒューラーに冷やかされる。
店主の顔が赤いのはそんな状況で力仕事をしたためであるが、周りはそうは受け止めない。
特に子供達は蜂の巣を突いたように歓声を上げる。
えっ? と二人と店主の方を振り返ったセレナはその様子を見て、店主との間に障害はないと確信。
手にしている朝ご飯を作るための道具を放り投げ、店主に抱き付くために駆け寄る。
が、店主に簡単に避けられる。
飛びついたセレナの先にいる店主が躱したことで、地面に顔を打ち地面にうつ伏せになるセレナ。
その彼女を見て店主が一言。
「人生最高の勘違いしてんじゃねえ」
痛みを堪える「あうぅ」と言う呻き声を上げながら店主に向けるセレナは涙目。
更に店主は追い打ちをかける。
「セレナー、遊んでないで朝ご飯の準備してくださいよー」
しかし冒険者達からは不評をかった。
「セレナもセレナだけどさ、テンシュももう少し対応考えなよ」
「セレナに気がないからあたしにもチャンスあるかなって考えるけど、甘えさせてくれない相手は嫌だなー」
そんな声の方に向けて、店主は口を尖らせる。
「同じこと言われたのに、何だよこの差は」
「テンシュおじさんつめたーい」
「テンシュさんひどーい」
子供達からもそんな声が出る。
「お前らも、とっとと準備終わらせて飯食えや」
付き合いきれんとばかりにセレナから離れる店主。
店主とセレナには踏んだり蹴ったりの朝の時間帯であった。
食事は進んでいるが酒も進んでいる。しかし我を失うものは誰もいない。
無報酬であっても仕事であり与えられた役割があるならそこはプロ。自制心もある彼らは腹八分目になるとあたりを片付けそれぞれテントに入る。
夜も更け、そして日が昇る時間を迎える。
新たな一日のはじまりの朝日はテントの幕を透過し、全員が清々しい気持ちで目覚めた。
大人たちは、昨夜の酒はすっかり消えている。
そして朝ごはんの準備の前に、店主とウルヴェスの分を抜いた昼食の弁当作りに取り掛かる。
予定としては、道具屋で売られている装備品の素材になるようなものの採集を、ほぼ日中をかけて行う。
目的地とテントの位置は遠くない距離だが、誰の手を煩わせることのないように職を手にするため、就く職業の一つである冒険者の現場を体験させるのも、目的地をここに定めた理由の一つ。
逃げ場がない場所ということで、力のない者達の立ち入り禁止場所となっている。しかしそれなりに装備を整えた者であれば、この区域に現れる魔物になら問題なく対処できる。
寄宿舎付きの冒険者養成所に入る子供がいるなら、冒険者の仕事の現場を入所前に体験するのとしないのとではその差は大きい。
少しでも本職の職場の環境をなるべく多く体感させるため、テントが現場の目と鼻の先にあったとしても休憩時間にはそこに戻るようなことをしない方針を立てた。弁当作りはその一環である。
「……そう。だからみんなは目につく食べられるものがあればすぐに手に入れて口に入れなきゃだめかもしれないけど、栄養を体の中に取り入れやすくする仕掛けも必要なの。それが料理ってわけ」
「たくさん食わなきゃ体も大きくなれない。味が悪いとたくさん体の中に入れられない。食い物の中には、苦い物や渋い物もあるけど体にいいものもある。その手伝いが味付けってことだ」
子供達の誰もが、その目を輝かせて彼らの話を熱心に聞く。冒険者達は子供達にレクチャーしながら、子供達と一緒にどんどん弁当を完成させていく。
こんなときには、出る幕がない店主にまとわりつく子供はいない。、
そして冒険者達の話を聞こうとしない子供もいない。
その集団から離れている店主も、疎外感を持っていそうな子供もいないことを確認する。
その様子を見て、目的の一つは達成できた実感を得た。
だがこの一日はこれから始まる。
さらに大切なものを子供達に得てもらいたいとは思うが、こればかりは店主の思い通りにはいかない。
積極的に取る気はなかった休暇。その期間を無駄にしてもらいたくはないと願うばかりである。
いつの間にか彼らはなし崩しに弁当作りから朝食作りに移行している。
これは冒険者の仕事上の仕事とは限らない。
野外での日常の作業の一つでもある。その区別は出来ている店主は、ゆっくりとその集団に近寄る。
「あれ? テーブル出来てる。あ、テンシュさんやってくれたの? ありがとう」
「テンシュのおじちゃん、力持ちだったんだねー」
「おー。テンシュおじちゃんすごーい」
「いいからとっとと朝飯の準備しろよ」
短めの丸太を六つほど。そして全員が囲って座れるくらい広い、厚めの木の板をその上に乗せて朝食用のテーブルを作る。何とか一人で用意できる重さだが、朝目覚めて間もない時間の肉体労働は、店主には少しきつすぎた。
フィールドワークや力仕事が苦手と思われた店主。子供達からの人気の高さは店主から冒険者達に移っていったが、ここでまた店主が盛り返す感じになる。しかし人気よりも、子供達にとって重要なことを身につけさせたい店主は、まとわりつかれるのを邪険にあしらう。
ところがその対応が子供達には、格好の遊び相手のように受け止められてしまう。
「テンシュー、遊んでないで、配膳してくださいよー」
「テーブル用意してくれるのはありがたいんですが、まだ終わってないんですよー。無理しないでくださーい」
「はぁ、はぁ……。あいよ……っていうか、俺にじゃれついてねぇで、それくらいお前ら手伝え!」
子供達に怒鳴る店主。逃げるように店主から去り、朝ご飯の準備の手伝いにかかる。
「いっそのこと、こいつら全員のお父さんになったらどうだ? テンシュ」
「じゃあお母さんはセレナさんということで」
『ホットライン』のエンビーとヒューラーに冷やかされる。
店主の顔が赤いのはそんな状況で力仕事をしたためであるが、周りはそうは受け止めない。
特に子供達は蜂の巣を突いたように歓声を上げる。
えっ? と二人と店主の方を振り返ったセレナはその様子を見て、店主との間に障害はないと確信。
手にしている朝ご飯を作るための道具を放り投げ、店主に抱き付くために駆け寄る。
が、店主に簡単に避けられる。
飛びついたセレナの先にいる店主が躱したことで、地面に顔を打ち地面にうつ伏せになるセレナ。
その彼女を見て店主が一言。
「人生最高の勘違いしてんじゃねえ」
痛みを堪える「あうぅ」と言う呻き声を上げながら店主に向けるセレナは涙目。
更に店主は追い打ちをかける。
「セレナー、遊んでないで朝ご飯の準備してくださいよー」
しかし冒険者達からは不評をかった。
「セレナもセレナだけどさ、テンシュももう少し対応考えなよ」
「セレナに気がないからあたしにもチャンスあるかなって考えるけど、甘えさせてくれない相手は嫌だなー」
そんな声の方に向けて、店主は口を尖らせる。
「同じこと言われたのに、何だよこの差は」
「テンシュおじさんつめたーい」
「テンシュさんひどーい」
子供達からもそんな声が出る。
「お前らも、とっとと準備終わらせて飯食えや」
付き合いきれんとばかりにセレナから離れる店主。
店主とセレナには踏んだり蹴ったりの朝の時間帯であった。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。
えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう
平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。
経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。
もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!
そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~
御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。
後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。
二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。
――世界で一番優しい物語が今、始まる。
・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる