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『法具店アマミ』再出発編 第十章 店主が背負い込んだもの
『法具店アマミ』の休暇の日 大体の役割が決まったよ
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その日の夕方。
保護者役の三チームが集合した。
引っ越す前の店ならば狭苦しかった店内も、引っ越した後の『法具店アマミ』ではゆったりできる広々としたスペース。
狭苦しさに顔をゆがめる客は、今では全く見られない。
それは客に限らず、店を訪れる者なら誰でも当てはまる。
種族によっては、店主のような人間のサイズよりも四倍くらいは体格の大きい者もいる。
通路も展示品も、誰もが満足できる内装に品揃えとなった。
「初級冒険者の依頼が多いって言ってたけどさ、そういう連中ともあまり会わなかったな」
「まぁそんな場所はほかにもあるからね。ミラージャーナにはあんまり多くないし町の境界線付近にあるから、散歩でも出くわすことはあまりないよ」
「気になったのは食料。でも食用の野草や果物はいっぱい実ってたし、草原にいる動物適当に捕らえて捌けば賄えると思う」
「浮浪児たちだって食うもんを得るための知恵くらいはあるだろ。逆にたくさん食わせすぎるようなことがなきゃいいがな」
「連れてく人数も決まってないんでしょ? ねぇテンシュ、そこんとこはどうなの?」
冒険者チーム同士での話し合いの途中で話を振られた店主は、そこで初めて彼らの話を耳を向けた。
「明日勉強会始める前に話す。参加しないやつがここにきても無駄足だからな」
「いや、それもそうでしょうが、人数の把握が大事でしょ」
話題の観点が違う店主への、ミュールの指摘ももっともだ。
だが店主はそれを受け流す。
「こっちが考えることは、来る奴は拒まないってことだけだ。参加する意思がある人数なら把握しなきゃならんだろうがな」
「お報せの広告も作ったし、後は……」
「妾には声もかけぬのか? まぁ話を聞いて大体は分かっておるがな」
店主とセレナも会話に混ざったところで、すっかり気配を消していたウルヴェスが店の入り口から声を挟む。
店に入ってきた冒険者たちの視界には入っていたはずが、そのことをすっかり忘れていた彼らは驚いて入り口の方を見る。
「げ、猊……」
「おっと、今の妾はただのウルヴェス。もっとも公務も次第に数は減っておるから、いずれ敬称も必要なくなるな」
公式にはまだこの国の法王のウルヴェスは、次の代に譲る準備を続けている。
しかし譲位したあとも天流教の教主であることには変わりはないから、猊下という敬称をつけるのは間違いではない。
自分の姿を変えたり、違う姿のように見せたりするウルヴェスだが、今は法王として公衆の面前に妖艶な女性の姿になっている便宜上彼女と呼ぶが、その彼女が店主の護衛役を始めてから大分経つ。それでも冒険者達は法王である彼女が目の前にいることに慣れないでいる。
その容姿は、美しさだけ見比べてもセレナ達女性陣の比にはならないくらいで、店主以外の男性陣の目を惹きつける。
しかし彼女が持つ力は巨大などという言葉では表し尽くせない。それ故に目を向けること自体畏れ多いくらいである。
「え、えーと、ウルヴェス……さ……ん? は、どうなさる……痛っ」
ブレイドが緊張のあまり舌を噛んだ。
「慣れねぇ言葉遣いするからだ。で、ウルヴェスはどうするかってこと聞きたかったらしいな。俺の警護を俺の生涯、最後までやり通すって話してたからついてくるんだろうが……」
「無論じゃ。どこから何者が襲い掛かってくるか分からんのだからな。妾がそばにいればすぐ分かる」
「……だが今回は俺じゃなくガキ共の警護に回ってくんねぇか。こいつらが何とかしてくれるだろうが、魔物の襲撃でガキ共が襲われるとなると、元凶の魔物討伐まで手が回らねえ」
浮浪児の中には、店主主催の勉強会に参加してからは地元の住民たちから養子に迎え入れる子供たちが増えつつある。
魔物の襲撃で子供達に被害があったりすると、例え養子に迎え入れられなかった子供達だったとしても、店主の評判は落ちてしまうだろう。
店主の安全は確保出来ても、遠出から帰ってきた後の店主の境遇が悪化するようでは、ウルヴェスが自ら課したその役目は必ずしも全うしたとは言い切れない。
ウルヴェスはしばらく考え込むが、重い口を開いてその件を承諾する。
「ま、年齢では俺が勝てないやつもいるが、人生経験はこっちが上だ。誰かが駆けつけてくれるまで、ピンチは何とか凌いで見せるさ」
軽口ではあるが、決して投げやりでも出まかせでもない意思をその口調の中で感じたウルヴェスは、無理やり自分を納得させる。
「でも一緒に洞窟に入ったら、店主にもやっぱり警護は必要だろ? 俺たちも魔術は相変わらず苦手だけど、体術は一応それなりに心得てる。店主はそうじゃねぇよな?」
「誰が一緒に洞窟に行くっつったよ?」
「え?」
「ガキ共連れて洞窟に入るお前らを遠くから眺めるだけだよ。暇つぶしも持っていくしな。魔物が出てきそうにないところでお前らを待つだけ。こっちはどんな素材が採れるかがわかりゃいいんだから」
一同言葉を一瞬失う。
「えーと、それじゃ現場へは……」
「お前らが立ち入って、危険なことがなさそうだったら俺の秘密の場所にしようかなってとこで。全員俺のためにキリキリ働け」
実力者ばかりではなく、一国の王まで捕まえてこの言い草である。
保護者役の三チームが集合した。
引っ越す前の店ならば狭苦しかった店内も、引っ越した後の『法具店アマミ』ではゆったりできる広々としたスペース。
狭苦しさに顔をゆがめる客は、今では全く見られない。
それは客に限らず、店を訪れる者なら誰でも当てはまる。
種族によっては、店主のような人間のサイズよりも四倍くらいは体格の大きい者もいる。
通路も展示品も、誰もが満足できる内装に品揃えとなった。
「初級冒険者の依頼が多いって言ってたけどさ、そういう連中ともあまり会わなかったな」
「まぁそんな場所はほかにもあるからね。ミラージャーナにはあんまり多くないし町の境界線付近にあるから、散歩でも出くわすことはあまりないよ」
「気になったのは食料。でも食用の野草や果物はいっぱい実ってたし、草原にいる動物適当に捕らえて捌けば賄えると思う」
「浮浪児たちだって食うもんを得るための知恵くらいはあるだろ。逆にたくさん食わせすぎるようなことがなきゃいいがな」
「連れてく人数も決まってないんでしょ? ねぇテンシュ、そこんとこはどうなの?」
冒険者チーム同士での話し合いの途中で話を振られた店主は、そこで初めて彼らの話を耳を向けた。
「明日勉強会始める前に話す。参加しないやつがここにきても無駄足だからな」
「いや、それもそうでしょうが、人数の把握が大事でしょ」
話題の観点が違う店主への、ミュールの指摘ももっともだ。
だが店主はそれを受け流す。
「こっちが考えることは、来る奴は拒まないってことだけだ。参加する意思がある人数なら把握しなきゃならんだろうがな」
「お報せの広告も作ったし、後は……」
「妾には声もかけぬのか? まぁ話を聞いて大体は分かっておるがな」
店主とセレナも会話に混ざったところで、すっかり気配を消していたウルヴェスが店の入り口から声を挟む。
店に入ってきた冒険者たちの視界には入っていたはずが、そのことをすっかり忘れていた彼らは驚いて入り口の方を見る。
「げ、猊……」
「おっと、今の妾はただのウルヴェス。もっとも公務も次第に数は減っておるから、いずれ敬称も必要なくなるな」
公式にはまだこの国の法王のウルヴェスは、次の代に譲る準備を続けている。
しかし譲位したあとも天流教の教主であることには変わりはないから、猊下という敬称をつけるのは間違いではない。
自分の姿を変えたり、違う姿のように見せたりするウルヴェスだが、今は法王として公衆の面前に妖艶な女性の姿になっている便宜上彼女と呼ぶが、その彼女が店主の護衛役を始めてから大分経つ。それでも冒険者達は法王である彼女が目の前にいることに慣れないでいる。
その容姿は、美しさだけ見比べてもセレナ達女性陣の比にはならないくらいで、店主以外の男性陣の目を惹きつける。
しかし彼女が持つ力は巨大などという言葉では表し尽くせない。それ故に目を向けること自体畏れ多いくらいである。
「え、えーと、ウルヴェス……さ……ん? は、どうなさる……痛っ」
ブレイドが緊張のあまり舌を噛んだ。
「慣れねぇ言葉遣いするからだ。で、ウルヴェスはどうするかってこと聞きたかったらしいな。俺の警護を俺の生涯、最後までやり通すって話してたからついてくるんだろうが……」
「無論じゃ。どこから何者が襲い掛かってくるか分からんのだからな。妾がそばにいればすぐ分かる」
「……だが今回は俺じゃなくガキ共の警護に回ってくんねぇか。こいつらが何とかしてくれるだろうが、魔物の襲撃でガキ共が襲われるとなると、元凶の魔物討伐まで手が回らねえ」
浮浪児の中には、店主主催の勉強会に参加してからは地元の住民たちから養子に迎え入れる子供たちが増えつつある。
魔物の襲撃で子供達に被害があったりすると、例え養子に迎え入れられなかった子供達だったとしても、店主の評判は落ちてしまうだろう。
店主の安全は確保出来ても、遠出から帰ってきた後の店主の境遇が悪化するようでは、ウルヴェスが自ら課したその役目は必ずしも全うしたとは言い切れない。
ウルヴェスはしばらく考え込むが、重い口を開いてその件を承諾する。
「ま、年齢では俺が勝てないやつもいるが、人生経験はこっちが上だ。誰かが駆けつけてくれるまで、ピンチは何とか凌いで見せるさ」
軽口ではあるが、決して投げやりでも出まかせでもない意思をその口調の中で感じたウルヴェスは、無理やり自分を納得させる。
「でも一緒に洞窟に入ったら、店主にもやっぱり警護は必要だろ? 俺たちも魔術は相変わらず苦手だけど、体術は一応それなりに心得てる。店主はそうじゃねぇよな?」
「誰が一緒に洞窟に行くっつったよ?」
「え?」
「ガキ共連れて洞窟に入るお前らを遠くから眺めるだけだよ。暇つぶしも持っていくしな。魔物が出てきそうにないところでお前らを待つだけ。こっちはどんな素材が採れるかがわかりゃいいんだから」
一同言葉を一瞬失う。
「えーと、それじゃ現場へは……」
「お前らが立ち入って、危険なことがなさそうだったら俺の秘密の場所にしようかなってとこで。全員俺のためにキリキリ働け」
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