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『法具店アマミ』再出発編 第十章 店主が背負い込んだもの

『法具店アマミ』の休暇の日 休暇の行き先を決めよう

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「……で、その監視員みたいなことをするわけか。別に問題はないんだが、子供ら二十人くらいを俺ら五人だけで付き添うのは、流石に人手足りねぇかなぁ」

「しかも野宿で二泊。子供達大丈夫かな? 場所によっては危険度も高い。どこに行くかは決めたの? テンシュ」

「いや。素材集めの新たな穴場を探す目的だからな。一日で往復できる場所がいいんだが」

 朝の勉強会を終え、相変わらずニィナが『法具店アマミ』をメッセンジャー代わりにしているその相手、『風刃隊』に休店とその事情の話を聞かせる店主。
 仕事以外の余計なことをするタイプではないと思っていた彼らはその話を聞いて最初は驚くが、シエラ同様また周りに何も言わずここから立ち去るのかと疑う。

 しかしシエラからも話を聞き、結局仕事に絡んだ理由に納得する。

 しかしギースが懸念する通り、集団行動が出来るかどうか分からない者達の警護となると、彼ら五人のみでは些か不安な面もある。
 魔物の類いが一切現れない場所ならそれこそ監視員役は不要である。しかし良質の素材は既に取り尽くされていることも多い。そんな場所では店主は価値を見出せない。

「でも一日で往復できる場所なら、そんなに危険な場所もないし、斡旋所からの依頼も難易度は低いわよね」

「ですが警護する対象が難易度を上げてます。他のチームにも声をかける方がいいと思います」
「分かってんだよ、んなこたぁ。飯のことはこっち持ち。それ以外は無報酬。自腹切っても俺に貸しはないやつがなかなかいねぇ」

(((((自腹なんだ)))))

『風刃隊』全員は苦笑い。だがあまりそれにはこだわらない。
 一般人にとっては安全とは言えないかもしれない場所だが、彼らにとっては危険なことではないし、依頼内容も子供達の警護ということであれば子供達全員同時に遊び相手になれれば問題はない。

 しかしやはり監視員役の頭数の少なさは心配である。
 客としてくる冒険者達全員が店主のことをよく知っている訳ではないし、店主も客全員のことを把握している訳でもない。

「シエラちゃんのお姉さん達には頼んだの?」
「そうよね。頼みやすいんじゃないの?」

「さり気なく貸しにされそうだからな。『クロムハード』の連中は」
「「『ホットライン』でしょ」」

「でも、貸しにはならないと思いますよ」

 シエラが口を挟む。

「だってテンシュにとっては私は必要じゃないけど、ただで居させてもらってますし、逆にこっちが貸しを作ってるみたいな?」

「シエラちゃんってば、なんか悪い顔っぽくなってるよ」

「え? ウソッ?! テンシュさんがうつったかな?」
「どういう意味だそりゃ。つーか、身内の年上の脛いつまで囓ってんだオメーは」

 店主から冷たい視線を浴びても、シエラほてへぺろの顔でやり過ごす。
 そこへタイミングよく『ホットライン』全員と『クロムハード』のリーダー、スウォードが一緒に来店してきた。

「今日もいつものメンツかあ。シエラ、ちゃんとテンシュから指導受けてるか?」

「え、お姉ちゃんにお従兄(にい)ちゃん達だ。ちょうど良かった。子供達の保護者になってくんない?」

「のべつ幕なしに声かけてんじゃねーよ」

 店主は止めようとするがシエラの話は進んでいく。

 いきなり話を進められる彼らは最初何のことか分からなかったが、詳しい事情は知らなかったが恵まれない子供達を集めて、その子供達の為に開店前に何かをやっていることは知っていたし、その結果自分達の後輩が増えていることも実感していた。
 改めて説明を受けた彼らは、店主がそんなに良い人の訳がないと疑うが、よくよく考えてみれば店主の悪いところは物の言い方と素直なところが全く見られないところ。
 自分の身に危険な環境にも、身の安全を計算した前提はあったが我が身を投じたこともあった。

「いいよ、引き受ける。貸しを作るなんてでかいヤマでもないし、大船に乗ったつもりでいてくれ。お安いご用さ」

「こっちも同行するぜ。日頃の礼だ。貸しになんかなりゃしねぇよ、テンシュ」

 ブレイドに続いて『クロムハード』のスウォードも快諾。だが行き先が未定のままである。

「近くの小川の川下、他の川と合流して大きな川になってるんだけど、意外と深くないからそこにしたら?」

「却下。その先に滝があるんだ。落差はないが滝つぼが割と深い。大人なら何とかなるが一度に何人かそこにはまったら死人で出かねない。それに小川程度ならあの子供らを遊ばせてもいいが、大きい川なら連れて行かれねえ。水圧なめんな」

 キューリアからの提案は店主が即座に却下。

「逆に川上はどうだ?草原の台地があったろ? 移動時間もそんなにとらねぇし、魔物はまず出ねぇ。出たとしても見晴らしがいいからすぐ分かる」

「そっちにも行ったことがある。草が意外と深い。子供らが寝そべってる間蛇とかに襲われたら対応出来るか? 飲み込まれて素早く動かれて逃げられると救助が難しい。草がもう少し短かったら良かったんだが」

 エンビーの提案も店主が却下。
 林や湿地帯も、目に見えない危険な環境である。
 ヒューラーやライヤーからの提案もそれぞれが自分の意見を撤回する。

「ねぇ、洞窟は? その草原よりももっと川上の方向にあったよね。長いけどその先は迷宮みたいにはなってない行き止まりの一本道だし子供達には危険はないと思うよ?」

「そこは斡旋所からも魔物退治の依頼があるところですよ? 冒険者の新人単独でもこなせる依頼ですが、子供達には危険ですよ」

「照明があれば魔物が現れてもすぐ分かるし、『風刃隊』も行くんでしょ? 過剰戦力って気がしないでもないくらいよ」

 リメリアからの説明を受け、店主は目的地を決めた。
 一言危険と言ってもいろいろある。
 目に見えないまま迫ってくる危険が一番まずい。
 逆に、逃げようがない危険であっても、事前に回避し遠ざかることが出来れば何も問題はない。
 要はすぐにでも危険なことに対処することが一番大切である。

「日にちも場所も決まったし、あとはおやつ、一人三百円までな。あとバナナはおやつにはいりません」

「時々おかしなこと言う癖は直らないんだね、テンシュさん……」

 日本円もバナナも、この世界では理解してもらえない言葉だった。
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