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『法具店アマミ』再出発編 第十章 店主が背負い込んだもの

作る者から伝える者へ 呼び水

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「それにしてもさぁ、テンシュって、相手によって対応変わるよね? 突き放したり拒絶することもあれば、嫌がりながら、それでも前向きに受け入れたり。ていうか、スウォードの依頼禁止、そろそろ解除したら?」

「めんどくせぇからそれはパス」

 夕食会が終わり、『法具店アマミ』からようやく賑やかさの波も引く。
 店を閉める前の掃除も終え、就寝時間までの自由時間に入る三人。
 互いに「今日もお疲れ様」と言葉を交わした後、リラックスしたり、自分に必要な知識を身につける勉強をする。

 そんな中でセレナが店主に話しかける。
 三組目の常連客になった『クロムハード』のリーダーは、店主と出会ったその日に条件付きでいきなり依頼禁止を言い渡された。

「出入り禁止にされないだけまだマシだろ」

「出入り禁止にしても顔の名前覚えられないからそうしなかっただけでしょー?」

「それでもいろんな人たちから好かれるんですから不思議ですよねぇ。ずーっと前から思ってたんですけど、やっぱり信頼できる仕事をする人だからかなぁ。テンシュさんみたいに、素材のことを理解できるようになれたらなぁ」

 シエラは羨望の思いを口にする。
 それに対して店主は何も答えない。
 その力は、修行して身に付いたわけでも理想を求めた結果でもない。
 いつの間にか身に付いていたのだから、それを望む者へは助言などできるはずもない。

「う~、何も言ってくれないんですね……。でも子供達には何だかんだ言ってても優しいんですよねぇ。何だろうこの差は?」

「お前は自分で、今自分に何が必要なのか分かんだろ。で、身につけることがほとんど無理なことなのか出来ることなのかの分別くらいつけられんだろ? だがあんな子供は、出来ることと出来ないことの区別がつけられねぇことがある。自分の思いを出していいのか悪いのかすら分からねぇ時もある。甘ったれるのは許せねぇ。だが甘えなきゃならん時に甘えて来ねぇのも許せねぇ。だが甘えることすら分からねぇ奴もいる。誰かが手を伸ばしてやらなきゃ……」

「甘えてこないのも許さないって、ツンデレってやつかな」

「テンシュさんが持ってきた本の中に、そんな言葉どっかにありましたよね」

 シエラはセレナに同調する。
 しかしセレナは軽口を止めた。
 途中で話を終わらせた店主は、大陸語のテキストを読み耽っている。しかしセレナには、店主の視線が紙面ではなく遠い所を見ているような気がした。

 ここに引っ越す前は個室などなかった住まい。それが今では店主とセレナの個室をつくり、新たに同居人となったシエラの分も、さらに改装して部屋を増やした。
 三人は順番に入った風呂から上がり、明日の予定を確認してそれぞれの寝室に入る。
 しかし店主はまだ眠らない。
 ベッドに入り、睡魔が来るまでその中で大陸語の勉強を兼ねて物語の本を読む。

 この日は睡魔よりも先に、ドアをノックする音がやって来た。
 しかしその音を気のせいと思い込み、読書を続ける。
 二度、三度と繰り返すノックは、もはや気のせいとは言えなくなる。

「……開いてるよ。セレナか? さもなきゃあの女に成敗してもらうぞ」

「ちょっと、いいかな?」

 ゆっくりとドアが開き、入って来たのは寝間着姿のセレナ。

「おう、じゃあ俺はお前の寝室で」

「えーと、そうじゃなくて」

「夜中にトイレに行くのが怖いので付き添ってくださいってのもめんどくせぇな」

「用件はそんなんでもないから」

 照明は読書のためのベッドの枕元だけの薄暗い店主の部屋。
 静かにゆっくりと店主が横になっているベッドに近づき、店主の隣に寝転がる。
 仰向けで本を読む店主は、密着してくるセレナが窮屈に感じる。

「……そのままもっとくっついてもいいぞ」

「え? いいの?」

「おう。俺が床に落ちるだけだから気にするな」

「まぁたそおいうことを言う……。何読んでるの?」

 セレナは横向きになって店主を見る。

「『真っ黒の種族の真っ白の子と真っ白の種族の真っ黒の子』って表紙には書いてるな」

「童話ね。もうそんな本は卒業してもいいほど普通に喋ってるわよ、テンシュ」

 店主はそれに答えず、黙読を続けている。
 セレナはうつぶせになり、両腕を顔に当てながらこもった声で話しかける。

「……テンシュ、泣いてたでしょ」

 不意にかけられた言葉に、文字を追っている店主の目が本の文字の上で突然彷徨いだす。
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