美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
上 下
241 / 290
環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす

事情説明 法王からの報告

しおりを挟む
「……皇居から店にやって来て俺と面会。しかもいつものジジィじゃなく、あの部屋の姿そのまま。俺はやりたい仕事を中断。一体どういうことだ?」

 ジムナー魔術診療所のロビーでの集会から十日ほど過ぎた。

 あの集会が終わった後、店主はジムナーに願い退院。
 集まった者達のほとんどが店主の後をついていき、新たに始めた店の場所を知る。
 巨塊への坑道で宝石が乱獲されたことを教訓とし、店主は素材採集のために辺り一帯の土地を購入したことを告げた。
 集会で今後の店の先行きについては不明のようなことを言ったが、改めてこの店を生涯続ける決意を表明。
 シエラはそんな店主に、殊勝な姿勢で改めて弟子入りを希望する。
 店主はセレナをはじめとして周りに圧され根負けし、シエラは応援してくれたみんなに感謝を表し涙を流しながら喜んでいる。

 そんな騒ぎを見ていた、警戒心を解いたライリーとホールスは皇居に戻り、ウルヴェスに報告。
 ウルヴェスはその話を聞いて、今回の件の原因は自分にあると猛省。
 気持ちを改めたウルヴェスは、この二人にすら告げることなくある行動にでた。

 そして現在に至る。

「あの二人から報告を受けてな。死の恐怖に打ち克つ店主殿の様子を聞いてな、妾もこれまでの事を恥ずかしく思うてな」

 巨塊討伐のための調査でセレナと調査員達が事故に遭う。その結果救出成功するのだが、本来であれば政治を取り仕切る側でその対策本部を設置し、政治を取り仕切る側の者達で救出活動をしなければならないはずであった。
 そうするために現状を把握するため、その調査員を派遣したのだがその間に、冒険者もその一部に区分けされている民間人のみで救出に向かい成功させた。
 報告を受けたウルヴェスが思わずとった行動が、その救出活動の拠点となったベルナット村の『法具店アマミ』へ赴き、その中心人物との面会と謝意を伝えることだった。
 ところがその相手からの反応は、面会を億劫がり、恩に着せようともせず、謝意や謝礼をまともに受け取ろうとしない人物。
 突き放すようなその人物に好感を持ったウルヴェスは、長年頭を悩ませ、国の患いの元である巨塊の存在そのものを何とかする方法を尋ねた。
 その人物に、自分の立場を弁えずに頼ってしまった結果、即座に相手から対策案が出る。

「テンシュ殿には……甘えてばかりだった。そして国を案ずる妾の方向も間違っておった」

 二度にわたる巨塊討伐の失敗で国力は疲弊しており、人材を選り好みしている状況ではなく、その余裕もなかった。
 支持派だろうが反対派だろうが、とにかく執行できる能力とやる気があればいい。その観点から政治に関わってもらいたい人物を登用していく。
 国を建て直すことを優先するあまり、その人物が持つ思想や主義などは全く考慮に入れなかったことが今回の事件を引き起こすことになってしまった。

「そっちにはそっちの立場がある。クソジジィが気にすれば、その分気に病むことが増える」

 今のウルヴェスの姿とは違う店主の表現だが、この国の言語の語彙がまだ十分ではない店主。いつもの相手にいつも通りの呼び名を使う。

「言葉の能力も奪われ、戻らぬというのも、結局のところ妾の見通しが甘かった。しかし己の力でそこまでこの国の言葉をほぼ普通に話せるとは思わなんだ。つくづく妾は……」

 店主とウルヴェスの会話は、セレナとシエラの訳を介している。
 心情的なニュアンスを含む訳は難しいが、それはウルヴェスの表情を見れば酌みやすかった。

「俺はあんたの愚痴を聞くために仕事を止めたのか? 流石のセレナも、抑えて依頼を少しずつ受けることにしたがそれでも忙しいんだ。目的があって来たならさっさと済ませろ」

 余計な気遣いは無用という姿勢は相変わらず。
 ウルヴェスは安心するが、それもまた店主に対する自分の甘えなのだろうかと思い悩む。
 しかしその悩みは己に問いかけるもの。今、店主に煩わせるものではない。

「うむ。ならばその後の顛末を報告することにしよう。……経緯を説明したいが、何をしに来たかという質問に答えるか」

 今回の店主が襲われた事件の犯人、そしてその黒幕、その支援者や支持者などの関係者を粛清したという。

「……粛清って……」
「そ、そこまでするものなの……?」

 セレナとシエラが青ざめる。

「己の欲望を優先させて一般人に手をかけた。今回は幸いにも命を取り留めたが、それはあくまで結果。政治に携わりそのために権力を持つ者が国民の命を手玉に取るようなことをしたのだ。許されるはずがない。一般人が一般人の命を脅かす者も当然ながら許されん行為ではあるが、それはわざわざ妾が出向くことではなかろう?」

 国内での事件には違いないが、確かに国の王が出張るほどではない。国や都市の警備の担当の者に任せれば済む話だからである。

「妾への反対派の存在は構わんよ。だがその矛先が国民に向けられたのだ。法王の立場の者と深く関わりを持とうとも、表向きには無縁の者であるテンシュ殿だ。一般人として扱って当然であろう」

「それはいいが、だからといって俺が今後権力者の目の敵になる可能性は消えない。『余所者』であることには違いないからな」

 三人は、店主が自分の事を『余所者』と表現したことを気に掛ける。しかし店主は単なる事実を述べただけ。自分の心情を推し量るよりも話を進めろと三人に注意する。

「ジジィが碁盤の件を持ち出したことが直接の原因だと思う。期限を一年というあんたからの依頼を守れば良かったかもしれないが、それを早めたのは俺のエゴだ。だがあんな身の危険が迫るとは思わなかった。だからいつ死んでも悔いだけは残らないような毎日を過ごすということにした」

 いくら寿命を分けてもらったとしても、尽きる時期は必ずやって来る。
 普通に過ごせは、ウルヴェスの力によって千年ほどの寿命をもらうことになった店主。
 彼に死が訪れるのはそれくらい先の話である。
 しかしその寿命が揺らいでいる。殺されてもしなない体ではないからだ。

「うむ。そこで妾は自ら日課を一つ増やすことにした」

 今は、国民の誰もが知っている妖艶な女性の姿のウルヴェス。裏表のない笑顔を店主に向ける。

「毎日妾自らがテンシュ殿の警備を担当しよう。その時間は定めず、そうだな……最低一時間。三時間の時もあれば、ひょっとしたら一日中ということもあるかもしれん」

 セレナとシエラは口をポカンと開けている。
 一国の王が一般人の警護に来るという。有り得る話ではない。いや、あってはならない話ではなかろうか。

「気にするな。妾の責任を果たすだけのことよ」

「公務どうするんだ?」

 当然の質問である。毎日最低一時間、公務をほったらかしにするのである。

「あの二人にそろそろ実践も教えてやらねばと思うての。いつまでもあの二人も妾に甘えてはおられんよ」

 ───────────────

 その頃の皇居。

「ねぇライリー、こないだ誕生日が来たら首都の巡回がどうのって、猊下おっしゃられてたよねぇ」

「それがいきなり法王代理の人事だもんなぁ。気まぐれすぎる」

「……猊下にテンシュ殿がうつっちゃった」

「あの人は病原菌か何かなんだろうか……」

 ────────────────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

処理中です...