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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
事情説明 委ねる
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「みんなが冒険者の仕事をしてる時、死ぬかもしれない仕事もあるな? みんないつも俺の前に現れるから、仕事はすべて楽勝だと思ってた。けどそうじゃなかったんだな」
「斡旋所が紹介してくれるから比較的安全であるけどな」
どこかからそんな返事が聞こえてきた。
「じゃあなんで装備品を身につけるんだ? 仕事は危ないからだろ? だから安全に仕事するためにつけるんだ。結局健康、そして生きて帰ってくるためだろ? 死ぬかもしれない仕事だからだ。いつものみんなを見ると、そうは思わなかった。だが、本当はそんな仕事ばかりしてたんだよ、みんなは。それに比べて俺や一般人の仕事は、命を狙われる仕事ってのはない。事故が起きたら死ぬことはあるかもしれんが、何者かに襲われる仕事場はない」
持ち上げすぎだ。
皆はそう思う。
しかし店主の言うことは間違いでもない。
冒険者の仕事で命を落とす者も中にはいる。しかも決して事故ではない。時として、命を危険に晒す魔物退治などは上位の冒険者チームに来る依頼はざらである。
それに比べて一般職はかならず安全確保をした上で仕事をする。そういう意味では死と隣り合わせである。
「俺の客で、仕事の途中で死んだという人はいない。みんな笑って俺の店に来る。だから仕事が終わって店に来るのが当たり前だと思ってた。そうじゃなかった。みんな生きて帰って来る工夫を欠かさなかった。そうしてみんな、次の仕事に向かっていくんだ」
全員が冒険者ではない。だが自分の身に迫った危険は、自分にしか当てはまらないとは言い切れない。
平穏な毎日が足元から崩れる話をこれからすることになる。
だが、自分のこれからいうことをこの世界の住民なら理解してくれる。
理解してくれるなら、克服することもできるはず。店主はそう信じる。
「俺は突然、何者かによって命を落としかけた。冒険者達が危険な現場に足を踏み入れた。今の俺はそれとほとんど同じ。死ぬ時期がいつになるか分からなくなった。みんながもし死ぬとき、どの仕事でどの場所に行って命を落としたかというのは調べれば分かる。なぜ死んだかは調べなくても分かる。誰かが困っている。その誰かを助けるために危険に立ち向かった。だが俺の場合は違う」
店主は自分の思いをすべて伝えるには、言葉が不自由になった今ではそれも難しい。
集まっている全員を見る店主の目が、少し寂しそうになっているのをみんなは気付いただろうか。
「この間のように、ふらっと立ち寄った客が俺を殺しに来るとする。俺が何で死んだか、みんなは分からない。なぜ死ななければいけなかったのかも分からないだろう。でも俺は理由を予想できた。誰が犯人かなんて、俺にとってはすごくどうでもいい話なんだ。どんなことをしても、俺は別世界の出身という事実は変わらないから」
いつも耳にする店主の口癖の一つ、「すごくどうでもいい」という言葉が、全員にはとても重く感じられた。
「みんなに言いたいのは、一つ目、セレナや調査委員の人、そしてウィリックだったか? 巨塊関連で意識不明になったり衰弱死した人がたくさんいた。その原因である宝石の悪影響を、一般職の者に与える存在がいること」
店主は指を一本伸ばし、大きな声で主張する。続いて二本目の指を伸ばす。
「二つ目、町の中で魔法を使うことを禁じられている。宝石が持つ魔力によって俺は倒れた。モラルを違反して魔力を使う方法を知っている者が、町の中に現れる可能性があること」
更にもう一本の指を伸ばす。
「そして最後の三つ目。俺の人生を、何者かの都合の良いタイミングで終わらせようとする者がいる。死ぬのは怖い気持ちはある。だが、いつ、どこでどのように俺の命が終わっても、そんな連中の都合に振り回されず、俺の思うように最後まで生きた。死ぬときにそんなことは言えない。だから今のうちに言っておく。この三つを聞いてもらいたかった」
再びざわめき出す。その一人一人の顔からは困惑の表情をうかがい知ることが出来た。
「斡旋所が紹介してくれるから比較的安全であるけどな」
どこかからそんな返事が聞こえてきた。
「じゃあなんで装備品を身につけるんだ? 仕事は危ないからだろ? だから安全に仕事するためにつけるんだ。結局健康、そして生きて帰ってくるためだろ? 死ぬかもしれない仕事だからだ。いつものみんなを見ると、そうは思わなかった。だが、本当はそんな仕事ばかりしてたんだよ、みんなは。それに比べて俺や一般人の仕事は、命を狙われる仕事ってのはない。事故が起きたら死ぬことはあるかもしれんが、何者かに襲われる仕事場はない」
持ち上げすぎだ。
皆はそう思う。
しかし店主の言うことは間違いでもない。
冒険者の仕事で命を落とす者も中にはいる。しかも決して事故ではない。時として、命を危険に晒す魔物退治などは上位の冒険者チームに来る依頼はざらである。
それに比べて一般職はかならず安全確保をした上で仕事をする。そういう意味では死と隣り合わせである。
「俺の客で、仕事の途中で死んだという人はいない。みんな笑って俺の店に来る。だから仕事が終わって店に来るのが当たり前だと思ってた。そうじゃなかった。みんな生きて帰って来る工夫を欠かさなかった。そうしてみんな、次の仕事に向かっていくんだ」
全員が冒険者ではない。だが自分の身に迫った危険は、自分にしか当てはまらないとは言い切れない。
平穏な毎日が足元から崩れる話をこれからすることになる。
だが、自分のこれからいうことをこの世界の住民なら理解してくれる。
理解してくれるなら、克服することもできるはず。店主はそう信じる。
「俺は突然、何者かによって命を落としかけた。冒険者達が危険な現場に足を踏み入れた。今の俺はそれとほとんど同じ。死ぬ時期がいつになるか分からなくなった。みんながもし死ぬとき、どの仕事でどの場所に行って命を落としたかというのは調べれば分かる。なぜ死んだかは調べなくても分かる。誰かが困っている。その誰かを助けるために危険に立ち向かった。だが俺の場合は違う」
店主は自分の思いをすべて伝えるには、言葉が不自由になった今ではそれも難しい。
集まっている全員を見る店主の目が、少し寂しそうになっているのをみんなは気付いただろうか。
「この間のように、ふらっと立ち寄った客が俺を殺しに来るとする。俺が何で死んだか、みんなは分からない。なぜ死ななければいけなかったのかも分からないだろう。でも俺は理由を予想できた。誰が犯人かなんて、俺にとってはすごくどうでもいい話なんだ。どんなことをしても、俺は別世界の出身という事実は変わらないから」
いつも耳にする店主の口癖の一つ、「すごくどうでもいい」という言葉が、全員にはとても重く感じられた。
「みんなに言いたいのは、一つ目、セレナや調査委員の人、そしてウィリックだったか? 巨塊関連で意識不明になったり衰弱死した人がたくさんいた。その原因である宝石の悪影響を、一般職の者に与える存在がいること」
店主は指を一本伸ばし、大きな声で主張する。続いて二本目の指を伸ばす。
「二つ目、町の中で魔法を使うことを禁じられている。宝石が持つ魔力によって俺は倒れた。モラルを違反して魔力を使う方法を知っている者が、町の中に現れる可能性があること」
更にもう一本の指を伸ばす。
「そして最後の三つ目。俺の人生を、何者かの都合の良いタイミングで終わらせようとする者がいる。死ぬのは怖い気持ちはある。だが、いつ、どこでどのように俺の命が終わっても、そんな連中の都合に振り回されず、俺の思うように最後まで生きた。死ぬときにそんなことは言えない。だから今のうちに言っておく。この三つを聞いてもらいたかった」
再びざわめき出す。その一人一人の顔からは困惑の表情をうかがい知ることが出来た。
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