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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす

再会 店主と言えばこれ そして

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 店主達の引っ越しの時から世話になり、店主が入院した時からも甲斐甲斐しく見舞いに来て面倒を見ていたニィナ。
 店主と会いたくてその所在を探した結果、見舞いという形でようやく会えた『風刃隊』。そのメンバーの一人であるミュールに、彼女は懐かしそうに話しかける。
 そんなニィナを見たミュールの口から出た言葉は「姉」という言葉だった。

「お、お前の姉? って、えっと、あ、初めまして。えーと」

 ギースが混乱している。いや、混乱しているのはギースばかりではない。
 リーダーのワイアットも、何から話を始めていいか分からない。
 店主には彼らの会話は聞き取れないが、空気が変わったことは読めた。
 店主はまずニィナを呼び寄せる。

「あ、あぁ。テンシュにはこれが合うんじゃないかな。あ、代金ね。うん……ん?」

 ニィナは店主からメモを見せられる。

「あ、あぁ……弟なんだよ。さっき話したろ? ミュールにも教えててさ……」

 店主からのメモの質問の答えは、出かける前の身の上話の続き。
 聞き取れないところもあったが、今の答えはすべて理解した。

「……『この本は一人で勉強できる。お前ら全員ここから席外していい』って……」

「それもそうよね。何か複雑に事情が絡んできちゃったもんね。このままじゃテンシュにも悪いし、この方がずっとテンシュの面倒見てくれてたんでしょ? こんな空気だと落ち着いてられないし。ミュール、何か事情あるんでしょ? 姉と弟で、落ち着くまで話したらいいじゃない」

 ウィーナの言葉に俯きがちのままかぶりを振るミュール。

「ウィーナの言う通りだ。わだかまり抱えたまま活動続けるのも難しい。それにここじゃテンシュにも迷惑かけちまう。ロビーに行くぞ。テンシュ、落ち着いたらまた来るから」

 ワイアットが店主に一声かけた後、珍しく強引に全員を病室から連れ出し、ニィナもそれに続いた。
 全員をベッドに座って見送った店主は、買ってきてもらったテキストを広げながら独り言。

[世間ってなぁ狭いもんだな。ま、こっちはこっちでやれることやっとかねぇとなぁ。さて、と。……この国の言葉で「すごく面倒くせぇ」と「すごくどうでもいい」ってなんて言うんだ?]

 ────────────

『風刃隊』とニィナは待合室で顔を合わせていた。
 ニィナに一人ずつ自己紹介をした後、ワイアットは店主と出会った経緯を説明し、店主を恩人だと言い切った。

「本人が教えたがらなくて見つける手掛かりがなきゃそりゃ心配するだろうし見つかるまで時間はかかるだろうけど……で、ミュール、あんたがその一員ってどういうことなの? テンシュの事をそんなに心配するくらいだから、姉のあたしが弟のあんたの事を心配する気持ちも分かるわよね?」

 ニィナの口調はミュールに向けてきつくなる。

「ミュール。犬も食わない喧嘩ってのはあるけどさ、当事者同士で話し合わなきゃダメだろ。ニィナさんを見てからお前だんまりだし」

「待て、ギース。身内以外には聞かれたくない話もあるだろ。俺らも身内と言えなくはない。だが姉と弟の間限定の話なら俺らの入る余地はない。二人きりで話し合っとけ。どうしてもニィナさんがお前に戻ってきてほしいっつんなら、やっぱ身内は大事だよ。俺らを見てそう思うだろ? こっちの事は気にするな。だが話し合って、改めて自由に動けるなら、『風刃隊』に来てほしい。じゃ俺らはテンシュのとこに行ってるから」

 ニィナとミュールをロビーに二人きりにして、他の『風刃隊』のメンバーは店主の病室に戻った。

「テンシュー、入るぞー」

 ワイアットとギース、ウィーナとミールの四人が店主のところに再び戻る。
 テーブルの上で大陸語の勉強を熱心に続けている店主は、その四人を見てテキストを閉じる。
 そしてメモに何やら書き込むと、それをドヤ顔で四人に見せつける。

「なになに。何か書いたの? どれどれぇ?」

 何と書かれているのか楽しみなミールがそのメモを音読する。

「……『すごく面倒くせ』……。……テンシュ……」

 一同頭を抱える。
 一番近くにいるワイアットの肩を指でつつく店主。

「……はぁ……。何? テンシュ」

 店主は二枚目のメモを見せる。

「『発音、教えろ』……って……。ダメだこの人。早く何とかしないと……」

 再会の喜びもつかの間、一同脱力である。
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