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国家安泰後の日常編

冒険者に向かない性格 その2

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「その人、ラッカル=ヒールって魔導師で、アラタさん達には大変お世話になった、と」
「世話になった? って、俺が世話をした?」

 誰だっけ?

「あ、あー……思い出した。氷の魔法でモーナー転ばして、あたしの魔法に魔法で対抗するんじゃなくて、動きを制限して発動を止めるっていう発想してた魔法使いじゃない?」

 魔法使い……。
 俺が世話をした……。
 あー……いたような……。
 あ、確か、あのへっぼこな魔術士じゃなかったか?
 だが、たしかあの後、誰かから噂を聞いたような。
 結構活躍してるって話。

「『私もこんな風に、多くの人のために活動できるようになれたんだから、この子も私と同じようになれるかもしれないから』とおっしゃっていただいて」

 と、彼女は手をつないでいた少年の手をちょっと引っ張る。
 その少年の目は、死んだ魚のような目をしている。

「……あんたの弟? 身内か何かか? それに、あのへっぽこぷーなあいつとあんたら、どういう関係?」
「はい。順を追って説明します」

 話に聞くと、あのへっぼこ魔術師、ラッカルとこの……医者? 療法士? のホーリーと、一緒に来た子供……は、スートっつったか。
 この三人の共通点は、もちろん同期ではないが冒険者養成所の訓練生。
 ラッカルとホーリーは卒業。
 ところがホーリーは、冒険者の適性はなかったため、その希望を断念。
 特化している能力を活かして診療所を開業したとか。

「養成所の生徒……訓練生? まぁどっちでもいいや。そういう連中なら、しょっちゅう実践授業としてダンジョンやフィールドに来てるな」

 流石に集団戦はさせられない。
 みんながどんなに手加減しても、大けがをさせてしまうリスクは常にある。
 目を見張る成長を見せるかもしれない時期に、成長を止めてしまう事故に遭わせてしまうのはまずい。
 何より、大人の冒険者達の申し込みが殺到して、そいつらの申し込みを受け付ける隙間がない。

「けど、みんながみんな、無事に卒業できるわけではないのです」
「無事に卒業できない? それって……」
「モンダイアルヨネ」
「まだ子供なのに……」

 おいおい、お前ら。

「いえ、子供だからこそです」

 ちょっと待て。
 ホーリーさん?

「素質がない子にはその道に進むことをなるべく早く諦めて、自分の力に適した道を進むべき。若い頃から、能力に見合った方向に鍛錬を重ねるのは大切な事ですから」
「え?」
「エ?」

 ……俺も含めて、みんな壮大な勘違いしてたな。

「……お前ら、早とちりすぎんだろ」

 と、いい格好しておこう。
 かかなくていい恥は、かかないでおくに限る。うん。

「で、あんたらは、あのへっぽぶーな魔法使いから、どうやって俺のことを聞き出せたんだ? ただの同窓生ってだけじゃ、いくら昔はへっぼこっつっても、今じゃ接触すら難しい立場なんじゃねぇの?」
「ちょっとアラタ。その言い方」

 ヨウミから窘められても、へっぽこな印象しか覚えてねぇもん。
 現状報告をもらえるような立場でもねぇし、報告してほしいなんて思ったこともねぇし。
 俺の知らない誰かの人生は、そいつのもんだ。
 俺が関わった誰かの人生は、かかわった場面じゃ俺が責任を負わなきゃならんだろうが、その未来までは責任を負うつもりもねぇし。

「……アラタさんはあの方のことをへっぼこっておっしゃってますが、本人も未だに自分のことをそうおっしゃるときがあります」

 本人公認かよ。

「養成所時代は、ある種の落ちこぼれ、と言えるでしょう。私もそうでした。……あの方は、宮廷魔術師団の長をしてらっしゃいますが、その任務に就任されてからはもう一つの顔を持つようになりました」

 もう一つの顔?
 裏の顔、なら、誰からも知られることのない一面。
 こうしてその話をするってことは……。

「ご本人の経験のこともあって、養成所を中途退所になってしまった訓練生に、仕事を斡旋する仕組みを立案されまして、その事務職の長も務めています」

 何とまぁ。
 人の役に立つ仕事をする、てのは……まぁ、いいことじゃねぇの?

「私の場合はその事務所を設立する前だったので、独力で今の仕事を始めて、何とか幸いにも経営、営業は続けております。……ラッカルさんは……先ほども言いましたが、本人の談ですが、自他ともに認めるへっぼこだったそうです。なので、養成所での成績が悪い子達の気持ちも理解できるのだそうで」

 人の気持ちを理解する、てのは……人徳が高い条件の一つかもしれん。
 だが、理解できるだけじゃ意味はない、が……。

「そんなラッカルさんが、ある日私の診療所を訪れまして。養成所の卒業生の中から、冒険者から他の仕事に転身した人を訪問して回ってたそうです」

 なるほど。
 ラッカルとホーリーは懇意の仲ってわけじゃなく、ある条件を持ってる人達と会った中の一人がホーリー、という間柄か。

「誰の力も借りずに転身した実績、という点に注目されたんでしょう。私も彼女の気持ちは痛いほど分かりました。そして同じ思いを持つ子供達も決して多くないことも分かってましたので」

「ラッカルとあなたとの関係は分かったけど、あなたとその子の関係は?」
「えぇ、今から説明申し上げます」

 クリマーの丁寧な言葉遣いは、仲間になってから長くなったが未だに変わらず。
 文句を言ってきた時からだから、それ以前からもそんな言い方に慣れたから、今更変えようもないのか。
 同じように彼女の丁寧語の言い方もずっと続いたままってのが、何となくまどろっこしい。
 要点だけ喋ってもらいたいものだが。

「今まで何人もそんな子供らを世話してきました。事務仕事や私の助手……看護師だったり、近所に声をかけて仕事の伝手を頂いたり……。けどここにきて、次第に手詰まりになってきて……。ラッカルさんにそんな事情を伝えましたらば、ちょっと思い悩んだ後で重い口を開くような感じで……」
「ウチラヲオシエテクレタ、テカ?」
「はい、そうです」

 仲間を初めて見た連中は誰しも、三回は驚く。
 ンーゴ、ダークエルフのマッキー、そしてギョリュウのサミーを見た時。
 インパクト、縁起が悪いとされてる種族、稀有な形状、と。
 だが、仲間の誰を見ても全く驚かないホーリーって人間は……度量がでかいのか肝っ玉が据わってるのか。
 華奢な体つきにしちゃ、なかなかなタマだ。
 だがラッカルも、彼女の話を聞く分には、分を弁えてるというか。
 軽々しく俺らを紹介したわけではなさそうなところは褒めてやる。

「それでアラタさんは、ご自分の店や支店で孤児院の子供らの仕事の世話もしてくれるって噂も聞きまして。この子、スートも、孤児というか身寄りのない子で、私と同じく、養成所で寮生活をしていた分は特に生活に不安はなかったのですが、中途退所させられて……。私のところで引き受けると、経営がひっ迫してしまい、私のところで働いてる子達の生活もちょっと……」
「共倒れになっちまうっんか。で、アラタの知恵を借りてえってこったな?」
「はい、その通りです」

 話を聞くだけならいいんだけどよ。

「でも、もしその子の世話をできたとしてもよ?」
「はい」
「この後も退所する子や冒険者の不適正な子は出てくるんでしょ?」
「そう、ですね」
「つまり、その子らの世話の手助けに、アラタを巻き込むことになるんじゃないの?」
「……」
「……確かに孤児院の人達が孤児たちを連れて、支店の紹介したりしてるみたいだけど、ただ普通に毎日を過ごすために仕事を探してるってんならそう言えばいいじゃない」

 テンちゃんも頭が働くようになったじゃないか。
 保護者としてはうれしい限りだ。

「……ですが、この子にも少なからず、特別な力を持っていて……」

 要はカウンセリングってことか。
 ……そう言う相談役って、養成所絡みの制度に組み込まれてないのか?

「昼休みが終わるまでまだ時間はあるが、お前ら、午後も集団戦の予約あるだろ。準備の時間になったらとっとと行っていいぞ。ヨウミも店があるんだから時間が来たら行っていいからな?」
「アラタが一人で相談受けるの? 大丈夫?」
「問題ない。現象ももう終わっちまったしな」
「いや、心配なのはアラタの対応なんだけど」

 何で俺が、保護者が必要な人扱いされてるの?
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