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国家安泰後の日常編

冒険者に向かない性格 その1

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 現象がなくなった。
 この国に住む人達の、日常に潜む命の危険度がかなり下がった。
 そのおかげで、フィールドとダンジョン内で探索や鍛錬をする冒険者が増えた。

 そのついでに、というべきか。
 集団戦の申し込みが予約制になりつつある。
 二カ月先、三カ月先の順番待ちなんてざらだ。
 もちろん申し込んだ連中に何かがあって、キャンセルになる数も増えた。
 現象がなくなっても危険な職業には違いない。
 魔物討伐することで、俺らの生活に利益が得られる。
 だが討伐される魔物に言わせりゃ、そっちの身勝手で俺を殺しに来るたぁどういう了見だ! ってなもんだろうな。
 こっちの命が立たれる理不尽な現実が迫るわけだから、返り討ちにする。
 それはそれで納得だ。
 まぁリターンにはリスクがつきもので。
 それが分かっててその仕事をしてる。
 そりゃ危険な職業になるわけだ。
 そのリスクを軽くするために鍛錬、トレーニングってのは必要って話は筋が通ってる。
 それは、俺が生まれ育った世界でもそうだし、ここでもそうらしい。

 それにしても、休日なしにその集団戦のトレーニングをされられている仲間らからは、何も文句が出てこないってのはすげぇなぁ、とつくづく思う。
 休日をもらっても、魔物らは特にすることがないらしい。
 そりゃそうだ。
 体長五十メートルもあるワーム系の魔物、ンーゴが、どうやって休日にショッピングに出かけられるというのか。
 まぁショッピングとか、人間が遊んで楽しいことを体験する必要もないわけで。
 何が楽しいかってのは、人間ですら人によって様々なんだから、魔物なら言わずもがなだ。
 集団戦の相手をするのが楽しいってんだから、休日も集団戦の相手をして楽しむってわけだ。

 俺とヨウミはそんなあいつらを横目に、米収集とおにぎり販売に精を出す。
 ヨウミはというと、やっぱり仕事が連日続くと「ちょっと休みたいー」などと言う。
 それが普通だよな。
 流石に働かせっぱなしにさせるのは、俺としても心苦しい。
 孤児院とかから手伝いに来る人達の負担をちょっと増やしてもらい、ヨウミに休日をあげたりする。
 が、俺に休日はない。
 その代わり、休息……というか普段の休みの時間はかなり多くしている。
 そりゃそうだ。
 米の収集は俺達の生活の財源だから。
 流石にその仕事を投げ出すわけにはいかないし、より神経を尖らせて、慎重に仕事をする。
 が、だ。

「……真面目なアラタって……何か不自然よね」

 俺にデレることが多くなったコーティは、それでも毒舌は止めるつもりはないらしい。
 そのことで嘆くと

「今までのお、普段の行いがあ……まあこれからがんばれえ」

 モーナーに言われちゃ返す言葉がない。
 つか、何かを言い返す余地を俺にくれよ。

 まぁそんなこんなな平穏な毎日を送れている。

 のだが。

 それはとある日の昼休みに起きた出来事。
 相変わらず、数多くの料理を車座になったみんなが平らげて、その輪の中には空になった皿が幾多も置かれている状況。
 無論俺が用意したおにぎりもすべて完食。
 その数……確か三桁はあったような。

「んじゃ一時半まで休みな。で、午後からは集団戦で三人一組。お前らその組み分けはもう……」
「あのぅ……お休みのところ申し訳ありませんが、アラタさんは……」

 輪の外から女性の声が聞こえてきた。
 俺のほぼ真後ろ。そして店の方からやってきたと思われる。
 まぁそれは当たり前か。
 森の方から来る人間はまずいない。
 で、休み中なのに用事を持ち込まれるのはあまり気分は良くないが、その口調と穏やかな感じから察するに、それなりに礼儀ってもんを心得てそうな分、まぁ許容範囲だ。

「あん? 俺がアラタだが……」

 と、胡坐で座ってる状態から、手を後ろの地面に付いて上体をややのけ反らせ、首も斜め後ろに反らす。
 綺麗な声に見合った顔つきに整った身なり。
 しかもその服装は白を基調とした、こんな野っぱらに似つかわしくない、清潔感が漂う。
 が、その傍らにいる子供……というには大人びいてるか。
 手をつないでここに連れられてきたって感じだ。

「……あんた、誰」
「初対面の人に向かってあんたって……」

 ヨウミが呆れるが、普通は自ら薦んで自己紹介するもんじゃないのか?
 自己紹介する必要がないのは、店に来る買い物客くらいだろ。

「あ、いえ。重ね重ね失礼を。私、ホーリーと申します。ミルダで魔術医療所を営んでいます。この子はスート。この子のことでご相談に伺いました」
「ご相談だぁ?」

 俺とヨウミはおにぎりの店。
 仲間達はダンジョンやフィールドでの、冒険者相手に探索の補助や鍛錬の相手。
 誰かから相談を持ち込まれる仕事なんざ、請け負った覚えもないし広告宣伝もしたことがない。
 何より相談にのるのを仕事にするつもりはないのだが?

「はい。実は、とある王宮魔術師団の、魔導師の一人の方からご紹介を受けまして」
「魔導士?」

 魔術士なら、集団戦に向かう連中でよく見かける冒険者の職業の一つ。
 その職人を見たことがない日はない。
 が、魔導師って……。

「えっと、魔導師って言いますと、魔術士の上の階級ですよね? 聞きかじった話ですが、魔術士になりたい人達を弟子にして指導したりとか、魔術士団の指揮をとったりとか……上位の職種、と思うんですが……」
「あ、はい、そうです」

 クリマー、解説ありがとう。
 聞き覚えのある職種だが、具体的には、こうだろうなああだろうなと推測の域は出なかった。

「クリマーよ。その魔導師とやらは集団戦の申し込みに来ることはあるのか?」
「いえ。記憶にはありません……。みんなは?」
「ねぇな」
「ナイヨ?」
「うん」

 一同、答えは同じだった。

「店に来る人達の中にも、そんな上級職の人って見ない……見なかった。うん。見たことない」

 俺も、店にいない時は米を収拾するときくらいで、その時に話しかけてくる奴らはここにバイトに来る孤児たちくらい。
 あとは村の子供らが時々暇つぶしに近寄ってくるくらいで、いずれ、そんな何かの達人がやってきて、米の収拾の邪魔をされたなんてことはない。

「……その魔導師とやらが俺を紹介した、と?」
「はい。それで、お話しを聞いてくれるかも、と」

 誰だよそいつ。
 記憶にねぇぞ?
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