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新、非勇者編
うららかな春を壊滅する気配
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「……物騒なことはやめてくんねぇかな? これからみんなと一緒に、のどかな晩飯の時間を過ごすってのによ」
「黙りなさい! 陛下の公務を邪魔するばかりではなく、人知れぬ場所に監禁とは……重罪なんてものじゃありませんよ!」
お嬢様方一行は、殺気を少しも隠そうとしないかたくなな姿勢。
話を聞こうとしない相手とのコミュニケーションは実に面倒だ。
だがちょっと待て。
おかしくないか?
「……つまり、シアンの奴は行方不明、ということでいいのか?」
「何を白々しい!」
お嬢様は、あくまでも犯人は俺だ、と見なしている、ということだ。
つまり、与える罰も決まっている。
なら、申し開きを少しでもいいから聞く耳持ってもらいたいものだ。
「……なんて王家の者が来ないんだ? あるいは政治関係の人が。普通はしかるべき者が来るもんだろ? 貴族とは言え、お前らは民間人じゃねぇの?」
「貴様……黙って聞いておれば無礼この上ないことを!」
親衛隊の先頭に立つリーダーっぽいのがいきり立つ。
こいつの名前、なんだっけ?
自己紹介されてねぇから覚えてねぇや。
「無礼? 俺の言うことが無礼で済むことでも、お前らの行為は越権行為だぞ? 俺が指名手配になった時にだって、兵士か何かが動いてた。いわば公務員だな。お前はそうじゃねえだろ。もしそうなら、率いる人間はお前の親衛隊じゃなく、勤務先にいる警備関連の連中のはずだ」
「む……」
お嬢様は言葉に詰まる。
理路整然と攻め立てるのは好きだな。
だからこんな戸惑う姿を見るのも、嫌いじゃない。
……言葉攻め、とやらとは違うよな?
「王家の者は来ていない。シアンが行方知れずになったのはいつからだ?」
「……一か月くらい前からよ」
……現象とダンジョン内での魔物の増加の件から一週間くらい経ってからか。
待てよ?
「……つまり、公務は滞ってる? 母親はどうした」
「前王王妃様とも連絡がつかないわ」
おいちょっと待て。
「陛下も元王妃もどこにいるか分からない? てことはこの国……」
「国政に携わってる者がそのお二人だけなわけないでしょう!」
「だとしてもだ」
だとしても、それだけ国を空けて一切連絡を取らずに一か月ってのは……。
いや、待てよ?
それだけ空けといて、誰も何も動かない?
なのに動いたのは、シアンの婚約者のこいつだけ……。
厳密にいえば、王家の身内ではない。まだ。
「……お前、王家に依頼されてここに来たのか?」
「そんな悠長なことを言ってる場合ではない! そしてこんな茶飲み話をしに来たのではない! 陛下はどこにいる!」
悠長な……つまりこいつは……。
「連絡を何度もとった。だが連絡はつかない。王家に問い合わせても対応されなかった、と?」
「何度も、だと?」
お嬢様の怒りの表情が一層険しくなった。
違うのか?
「何度も、どころではない! なかなか連絡がつかないと気づいた時から、随時連絡を入れるようにした! しかし一度も連絡がつかない! 陛下が一番多く接点を持つ私達以外の……部外者と言えばアラタ! お前しかいない!」
まぁ……部外者ってとこは否定しないが……。
だがそれを言うなら……。
「お前だって、情報を遮断された以上王家からは部外者として見られてんだろう? 結婚してるなら身内だろうが、してなきゃ他人だ。王家にとっちゃ、王家の人間かそれ以外か、それ以外に選択肢はない」
「部外者だと?! 貴様いい加減に……」
いや、待て。
外部に情報を漏らさないようにするってことは、俺らの立場を考えると、外部の人間って解釈すれば、まぁそれで話は終わる。
だが内部の奴らが、外部に情報を漏れないようにするってのは……緘口令って言わないか?
俺の知らないあいつの行動はたくさんある。
そしてシアンは、俺が知らないところでこいつとデートをしてたってことだよな?
つまり俺の知らないこいつすら、情報が入らないってことは……。
「……国家の一大事?」
どんな魔法使いよりも桁外れの魔力を持ったシアンですら、そして国軍を率いる立場である国王ですら、その消息不明にするほどの状況って……。
「何が国家の一大事だ! 貴様がただいたずらに、陛下をどこかに匿っただけのことであろう! さっさと……」
「うぷっ!」
「な、なんと汚らわしい!」
「ちょっと! アラタ!」
急に嘔吐感が湧き上がる。
俺の体調が急変したんじゃない。
何か、とんでもない連中の気配が……。
気配だけで嘔吐感をもよおすような奴らが……接近してきている。
「……フレイミー……」
「貴様如きに呼び捨てにされる謂れはないわ!」
こいつと問答してる場合じゃねぇ!
「お……お前ら……」
「ど、どうしたの? 急に……」
いや、問答無用だ!
「い、今すぐここから逃げるぞ……」
「アラタ、ダイジョウブ?」
俺を気遣ってくれるのはうれしいが、そんな猶予はこれっぼっちもない!
「我らから逃げるというのか!」
全くこいつらは……。
つっても、気配を察知できねぇ奴らにゃ、この感覚は理解できねぇか?
「お前らも……お付きのみなさんも、一緒にここから逃げるんだよ!」
「何を言っとるか! 貴様、いい加減に」
もう間に合わない。
逃げても追いつかれる。
一体どこから何がやってくるってんだ?!
「何かあ、足音お、聞こえてこないかあ?」
「奥の方から、ですね」
「……人数、百や二百じゃきかねぇど? つか、何でそんな人数、山の奥から来やがんで?」
嘔吐感、マックス!
堪えきれねぇ!
「ちょっとアラタ! 休んだ方が良くない? ご飯どころじゃないわよ!」
ヨウミが暢気なことを言っている。
それどころじゃねぇ!
してほしいのは、労わりでもなきゃ背中をさすってもらうでもねぇんだよ!
「……戦闘隊形、とれ」
「タイケイッテ……タイセイナラトレルガ」
「何でも……いいから……。ヨウミも、手甲と脚を……」
「アラタ、一体どうしたの?!」
俺の防具は常に万全。
だが、相手の得体が知れない。
「……アラタ、背中に乗る? 体診てもらえるところにすぐに飛んでいけるよ?」
ピントがずれたことを言ってくれるな。
おそらく、生きるか死ぬか、デッドオアアライブの場面がもう目の前だってのに!
「やあ……なんか、余計な連中もいるけど、皆さんお揃いで何より」
森の奥からやってきたのは、全身を緑のローブで覆った……おそらく少年だった。
その子供だけならまだマシ……いや、子供だけでもとんでもなさそうな……。
その後ろには、百を超えそうな人数の兵。
誰もがその防具はボロボロになっている。
が、破損する前は全員、揃いの防具に見える。
「うーん……もうちょっと歓迎してほしかったんだけどなあ。まあいいけどさ」
子供は明るい声で語りかける。
だがその明るさには無邪気さはかけらもない。
それどころか、邪悪さたっぷりだ。
「アラタ……この人達の気配、感じなかったの? ……って、そんな体調じゃ無理か」
ヨウミ……気楽すぎるぜ。
吐き気を催す気配の持ち主は、間違いなくこいつだ。
その本人を前にしたら、吐き気はいくらか収まった。
「何だ貴様は! ……その後ろにいる連中は……国軍の兵士達か? それにしては……生気が……」
「フレイミー……出るな!」
ここに来てからこいつは頭に血が上りっぱなしだ。
冷静な判断なんかできっこねぇだろうにっ。
「貴様こそ何ができる! こいつらは……屍鬼だぞ!」
緑のローブの子供の顔は、フードをかぶっているため口元しか見えない。
その口元は、気味の悪そうなニタニタとした笑い顔の口をしていた。
「黙りなさい! 陛下の公務を邪魔するばかりではなく、人知れぬ場所に監禁とは……重罪なんてものじゃありませんよ!」
お嬢様方一行は、殺気を少しも隠そうとしないかたくなな姿勢。
話を聞こうとしない相手とのコミュニケーションは実に面倒だ。
だがちょっと待て。
おかしくないか?
「……つまり、シアンの奴は行方不明、ということでいいのか?」
「何を白々しい!」
お嬢様は、あくまでも犯人は俺だ、と見なしている、ということだ。
つまり、与える罰も決まっている。
なら、申し開きを少しでもいいから聞く耳持ってもらいたいものだ。
「……なんて王家の者が来ないんだ? あるいは政治関係の人が。普通はしかるべき者が来るもんだろ? 貴族とは言え、お前らは民間人じゃねぇの?」
「貴様……黙って聞いておれば無礼この上ないことを!」
親衛隊の先頭に立つリーダーっぽいのがいきり立つ。
こいつの名前、なんだっけ?
自己紹介されてねぇから覚えてねぇや。
「無礼? 俺の言うことが無礼で済むことでも、お前らの行為は越権行為だぞ? 俺が指名手配になった時にだって、兵士か何かが動いてた。いわば公務員だな。お前はそうじゃねえだろ。もしそうなら、率いる人間はお前の親衛隊じゃなく、勤務先にいる警備関連の連中のはずだ」
「む……」
お嬢様は言葉に詰まる。
理路整然と攻め立てるのは好きだな。
だからこんな戸惑う姿を見るのも、嫌いじゃない。
……言葉攻め、とやらとは違うよな?
「王家の者は来ていない。シアンが行方知れずになったのはいつからだ?」
「……一か月くらい前からよ」
……現象とダンジョン内での魔物の増加の件から一週間くらい経ってからか。
待てよ?
「……つまり、公務は滞ってる? 母親はどうした」
「前王王妃様とも連絡がつかないわ」
おいちょっと待て。
「陛下も元王妃もどこにいるか分からない? てことはこの国……」
「国政に携わってる者がそのお二人だけなわけないでしょう!」
「だとしてもだ」
だとしても、それだけ国を空けて一切連絡を取らずに一か月ってのは……。
いや、待てよ?
それだけ空けといて、誰も何も動かない?
なのに動いたのは、シアンの婚約者のこいつだけ……。
厳密にいえば、王家の身内ではない。まだ。
「……お前、王家に依頼されてここに来たのか?」
「そんな悠長なことを言ってる場合ではない! そしてこんな茶飲み話をしに来たのではない! 陛下はどこにいる!」
悠長な……つまりこいつは……。
「連絡を何度もとった。だが連絡はつかない。王家に問い合わせても対応されなかった、と?」
「何度も、だと?」
お嬢様の怒りの表情が一層険しくなった。
違うのか?
「何度も、どころではない! なかなか連絡がつかないと気づいた時から、随時連絡を入れるようにした! しかし一度も連絡がつかない! 陛下が一番多く接点を持つ私達以外の……部外者と言えばアラタ! お前しかいない!」
まぁ……部外者ってとこは否定しないが……。
だがそれを言うなら……。
「お前だって、情報を遮断された以上王家からは部外者として見られてんだろう? 結婚してるなら身内だろうが、してなきゃ他人だ。王家にとっちゃ、王家の人間かそれ以外か、それ以外に選択肢はない」
「部外者だと?! 貴様いい加減に……」
いや、待て。
外部に情報を漏らさないようにするってことは、俺らの立場を考えると、外部の人間って解釈すれば、まぁそれで話は終わる。
だが内部の奴らが、外部に情報を漏れないようにするってのは……緘口令って言わないか?
俺の知らないあいつの行動はたくさんある。
そしてシアンは、俺が知らないところでこいつとデートをしてたってことだよな?
つまり俺の知らないこいつすら、情報が入らないってことは……。
「……国家の一大事?」
どんな魔法使いよりも桁外れの魔力を持ったシアンですら、そして国軍を率いる立場である国王ですら、その消息不明にするほどの状況って……。
「何が国家の一大事だ! 貴様がただいたずらに、陛下をどこかに匿っただけのことであろう! さっさと……」
「うぷっ!」
「な、なんと汚らわしい!」
「ちょっと! アラタ!」
急に嘔吐感が湧き上がる。
俺の体調が急変したんじゃない。
何か、とんでもない連中の気配が……。
気配だけで嘔吐感をもよおすような奴らが……接近してきている。
「……フレイミー……」
「貴様如きに呼び捨てにされる謂れはないわ!」
こいつと問答してる場合じゃねぇ!
「お……お前ら……」
「ど、どうしたの? 急に……」
いや、問答無用だ!
「い、今すぐここから逃げるぞ……」
「アラタ、ダイジョウブ?」
俺を気遣ってくれるのはうれしいが、そんな猶予はこれっぼっちもない!
「我らから逃げるというのか!」
全くこいつらは……。
つっても、気配を察知できねぇ奴らにゃ、この感覚は理解できねぇか?
「お前らも……お付きのみなさんも、一緒にここから逃げるんだよ!」
「何を言っとるか! 貴様、いい加減に」
もう間に合わない。
逃げても追いつかれる。
一体どこから何がやってくるってんだ?!
「何かあ、足音お、聞こえてこないかあ?」
「奥の方から、ですね」
「……人数、百や二百じゃきかねぇど? つか、何でそんな人数、山の奥から来やがんで?」
嘔吐感、マックス!
堪えきれねぇ!
「ちょっとアラタ! 休んだ方が良くない? ご飯どころじゃないわよ!」
ヨウミが暢気なことを言っている。
それどころじゃねぇ!
してほしいのは、労わりでもなきゃ背中をさすってもらうでもねぇんだよ!
「……戦闘隊形、とれ」
「タイケイッテ……タイセイナラトレルガ」
「何でも……いいから……。ヨウミも、手甲と脚を……」
「アラタ、一体どうしたの?!」
俺の防具は常に万全。
だが、相手の得体が知れない。
「……アラタ、背中に乗る? 体診てもらえるところにすぐに飛んでいけるよ?」
ピントがずれたことを言ってくれるな。
おそらく、生きるか死ぬか、デッドオアアライブの場面がもう目の前だってのに!
「やあ……なんか、余計な連中もいるけど、皆さんお揃いで何より」
森の奥からやってきたのは、全身を緑のローブで覆った……おそらく少年だった。
その子供だけならまだマシ……いや、子供だけでもとんでもなさそうな……。
その後ろには、百を超えそうな人数の兵。
誰もがその防具はボロボロになっている。
が、破損する前は全員、揃いの防具に見える。
「うーん……もうちょっと歓迎してほしかったんだけどなあ。まあいいけどさ」
子供は明るい声で語りかける。
だがその明るさには無邪気さはかけらもない。
それどころか、邪悪さたっぷりだ。
「アラタ……この人達の気配、感じなかったの? ……って、そんな体調じゃ無理か」
ヨウミ……気楽すぎるぜ。
吐き気を催す気配の持ち主は、間違いなくこいつだ。
その本人を前にしたら、吐き気はいくらか収まった。
「何だ貴様は! ……その後ろにいる連中は……国軍の兵士達か? それにしては……生気が……」
「フレイミー……出るな!」
ここに来てからこいつは頭に血が上りっぱなしだ。
冷静な判断なんかできっこねぇだろうにっ。
「貴様こそ何ができる! こいつらは……屍鬼だぞ!」
緑のローブの子供の顔は、フードをかぶっているため口元しか見えない。
その口元は、気味の悪そうなニタニタとした笑い顔の口をしていた。
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