上 下
458 / 493
シアンの婚約者編

フレイミーの一面 その7

しおりを挟む
 雪崩現象から発生した魔物どもと、ダンジョン内で出入り口に密集しつつある魔物ども。
 この二方面を同時に警戒しなきゃならなくなった。

 ……魔物の集団だけなら、の話。
 しかし、さらに厄介な連中とも対峙しなきゃならない。
 三方面。
 どうしろと。

「……ダンジョン、とは……あっちの……出入り口が二か所ある地下へのダンジョンのこと……ですね?」

 ほかにどこにあるよ。

「そうよ。あなた達も何度か入ったことあったでしょ?」

 こっちから、フレイミー達に情報を与える義務はないし義理もない。
 沈黙は金ともいう。
 ヨウミがそれに応えたが、こいつらが知らなきゃならない理由もないんだよな。

「なら、雪崩現象から出てくる魔物よりも、ダンジョンから這い出てくる魔物の対処が先、ということね?」
「それを知ってどうするつもりだ?」
「もちろん、村を守るために、魔物討伐に行くのよ」

 まったくこいつは。

 ……確かにダンジョン地上口にに集まってきている魔物どもだったら、こいつらはあっさりと退けるくらいの戦力はある。
 けどな。

「村を守る、つったな。……気が向いた時にしかやってくれない安全確保の仕事は、される方にとっては厄介なんだよ」
「何ですって?!」

 親切の押し売りもされた経験もかなり積んだ。
 こっちにとってはいい迷惑。
 そう、あれは……会社勤めをしてた頃だった……。

 出勤日の昼、食べたいメニューがあるから外食に出る。
 だが同僚から、奢ってやるから俺の行きつけの店に行こう、などと言われる。
 そっちには行きたくないし、一人で昼飯を楽しみたいから、その申し出を断る。
 すると、何をどう解釈したのか。

「奢られるのが嫌いなら、俺に奢れ。食費を出したいってんなら俺に昼飯代を出せ。あぁ、上司に伝えとくわ。俺の分の昼飯代を、こいつの給料から天引きしろってな!」

 何でそんな発想になるんだ?
 呆気に取られた俺は、部屋から出るそいつの背中を見てるだけしかできなかった。
 昼休みが終わってそいつが俺に開口一番。

「上司に言っといたわ。ざまぁみろ」

 まさか自分勝手な理論を上司に伝えるとは思わなかった。
 上司もその言い分を聞くとは思わなかった。
 だが、翌月の給料日は、若干額が下がり、それが一年近く続いてた。

 異常な思考と理論、主義主張だ。
 だが、実際にあったことだ。
 そんな思考や理論をする者は、この世界にはいないとは言い切れない。
 前国王は自分勝手な主張で、俺を追い出したくらいだからな。

 もしそんな思考だったら、この場合は……。
 ダンジョンの出入り口を塞いでる岩や雪を撤去するか、応戦に出る俺らに喧嘩吹っ掛けるか、そんなとこだろう。

 そんなことをしてから、こいつはシアンには何と伝えるか。
 そこまで俺が頭を働かせる気はないが、梯子を外されることは間違いないだろうな。
 そうならないように、今の時点で俺のほうからこいつに下手に手出しをしたら、シアンはどんな顔をするか。

 ……ま、そんな俺の、こいつへの思い込みはどうでもいいか。

「なぁ、フレイミーよ。本当にそんな公的な思いが強いんだったら……この村以外はどうなんだ?」
「え?」
「国のため、国民のためってんなら、今この時点で、魔物に襲われてる村……国民はほかにいないのか? 俺は、……一応ここには世話になってるから、村を救うってつもりはねぇが、俺らで止められる村への被害は食い止める。けど他の村や町に、同じような感情は持ち合わせちゃいない。被害が出てから、何とかできるなら何とかしてもいいか、くらいには思えるが。だがお前はそうじゃねぇだろ。あぁ、もちろん冒険者は例外として、だが」

 フレイミーは呆然としている。
 俺に言われるまで他の場所のことは頭になかったようだ。

「お前がここに固執してるのは、こいつらのこともあるんだろうが、シアンに特別視してもらうために利用してる感があるな。もちろん村を守る意識は強かろうが、自分の行動に失敗や間違いは有り得ないって思ってんだろ。この村は、お前の人生のステップアップのためにあるんじゃねぇ。この国のかなりの範囲での食を担っているこの村は、そんなお前よりもはるかに価値が高い。お前はこの国の保安の一翼を担ってるかもしれんが、お前じゃなくても、本腰入れりゃこの村を守る存在は他にもいる。シアンの力になりたいんだったら、実績を重ねるよりも、それ相応の戦力増強を図る方が先だと思うぞ」

 正確なことを言うのが正義ってわけでもない。
 人のプライドを傷つけることだってある。
 だがこいつ一人で、この村と同じ働きをしてくれるわけじゃない。
 一人のプライドを守るために、それよりも高い価値を持つ何かを犠牲にしていいはずがない。

 ……この世界に転移する前は、そんなことは口にできなかった。
 けどこの世界では、自分で動いて商売を始めた。
 その結果、見知らぬ大勢の役に立ってる、と思う。
 ここに来て、俺の価値は上がったと思うし、その手ごたえはある。
 それも、少しどころじゃない。
 けどこいつはどうだろう?
 貴族の家に生まれただけ。
 護衛の人達も、自分で探したわけでもなかろうし。

「……数多くのライバル蹴散らして、婚約者の座を掴んだんだろう? だったらその利を生かして、いつもあいつのそばにいて、あいつがどんな時にどんなことをしているかってのを目に焼き付けておく方が、よほどあいつが助かると思うし喜ぶんじゃねぇのか?」

 フレイミーが訝し気に俺を見る。
 口八丁手八丁で言いくるめられないように警戒してるのか。
 けど、両手足の防具で全員を村から吹っ飛ばしても構いやしないんだが、あとでどんな仕返しされるか予想もつかないからな。
 穏便に解決できるなら、それに越したこたぁないんだが。

「シアンと肩を並べて支えたいって気持ちも、あいつに自分の力をサプライズで見てもらって喜んでほしいって気持ちも分からんでもないが、お前があいつの人生の何割関わってたかって考えると、お前の知らないあいつの面はまだまだたくさんある。それはお前にも当てはまるわけだが。自分のことをもっと知ってもらうべきだと思うぞ?」

 あいつは、今のお前のように開き直りはしなかったし、詫びる以外の強い自己主張はなかった。
 あいつが詫びなきゃならないことじゃなかったのに、だ。

 こいつの場合は……まぁこいつからも詫びを入れてほしいとは思っちゃいないが……。
 そういうところは見習ってほしいとは思う。
 ……お詫びの押し付けも、ちょっと問題ありか? と思うところはあるがな。

「……さぷらいず……って……何だか分かんないけど……」

 ……そうだった。
 英語、通用しない言葉もあったんだった。

「そうね……。婚約者が、婚約者候補から外れた人達と同じくらいしか陛下のことを知らない、というのは……問題あるわね……」

 ……村を守る、なんて言い張った割には、そっちの反応がでかいってのはどうなんだ?
 まぁ不快な感情でいられるよりは、納得してもらえる方がこっちとしても都合はいい。

「使いみたいに扱うようで済まんが、早速シアンに伝言頼んでいいか? 普通の魔物の集団も現れたから、こっちになるべく早く駆け付けられる態勢整えてくれって。時間との勝負だ。迷ってるんならすぐに動いてくれ。シアンと一緒に戦線に立つこともできるだろうしな。ここから梃子でも動かないつもりなら拒否していいが、シアンとの重大な関わりが一つ減る。あいつだけの二人きりの話題も減る。漏れた妃候補者ともそんなに違いはない……」

「……いいでしょう。確かに使役されるような形は気が進みませんが……貴方を何かと優遇している陛下に免じて、その依頼を聞き届けましょう」

 ようやくここから立ち去ってくれた。
 ひとまず、厄介な物が一つなくなった。
 被害が俺の精神力だけってのは僥倖かな。

 やれやれだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【書籍化】家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました【決定】

猿喰 森繁
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 11月中旬刊行予定です。 これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです ありがとうございます。 【あらすじ】 精霊の加護なくして魔法は使えない。 私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。 加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。 王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。 まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

処理中です...