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シアンの婚約者編
雪の日の日常より
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積雪の季節が本格的にやってきた。
除雪車なんてものはない。
もちろん除雪機もない。
村の民家の前は雪を踏み固めて、村をめぐる道路までの通路を作る。
だがその道路は、シャベルやママさんダンプのようなものを使って人海戦術で除雪しているようだ。
でないと、馬車が雪の深みにはまってしまって動けなくなるから。
おにぎりの店も、その道路からかなりかけ離れている。
シャベルか何かで通り道を作っても、その長さたるや果てしない。
普段歩く分には普通に歩ける距離だが、除雪ともなると、いつまで経っても終わりそうにない。
やはりここも踏み固めるしかない。
もちろんフィールドを除雪など、そんな無謀なことをする気もない。
ただ、地下のダンジョンまでも、踏み固めてはいるがそれなりに道を作ってはいる。
もっとも冒険者達の往来もあるから、自ずと足元は安定していくが。
そこから向こうの防具屋だったか武器屋だったか、そっちの方は店主のメイスがやるんだろうな。
それはともかく。
少しでも積雪があったら、フィールドでの集団戦は止めることにした。
計算外の凍傷や遭難があっては訓練どころじゃなくなるからな。
もちろんアイテム探しとかは自由にしてもらっても構わない。
土地の所有者じゃないから入場制限なんてできる権利はないし、行きたい者の妨害と見られてもくだらないからな。
その代わり何があっても自己責任。
仲間が遭難したから助けてくれ、とせがまれても、二次遭難とかが起きたら、それこそ本末転倒だ。
けど、雪害とは無関係の地下のダンジョンはこれまで通り。
でも、やはり集団戦はなしだ。
今までの集団戦は、一組三人。
けれど、一度に九人がダンジョン内で集団戦をやらかしたら、フロアの床や天井にひびが入ったりしたら危なくて仕方がない。
ということでこの季節の間の仲間達の仕事は、昔通り、未熟な冒険者達のサポートに徹する。
彼らに手に負えない魔物が現れた時の安全を図る戦闘や、事故に遭遇した時の救助活動など。
もちろんその活動は、仲間達の義務じゃないし、仕事でもない。
堅苦しく言えば、奉仕活動か。
人間がその仕事をすると途轍もない労力が必要になる。
けどみんな、人間の力をはるかに上回る魔物の類だ。
そんな活動は片手間程度にしか思ってない。
というか、集団戦ですら、真剣に取り組みはするがある意味お遊びって感じ。
つくづく、とんでもない奴らに囲まれて生活してるんだな、俺。
※※※※※ ※※※※※
冒険者達は、ここでの自然環境から活動は制限された。
それでもアイテム狙い、ダンジョン内の魔物討伐など、己の鍛錬や生活の維持のために、それなりに懸命に活動している。
一方俺はというと、寒いながらものんびりとした毎日を送っている。
まずススキモドキの米の採集ができなくなった。
地面はすっかり雪に覆われている。
背の高いススキモドキですら雪をかぶる。
成長もしづらい気温。
ゆえに、米の採集に行こうにも、その場所に辿り着くにも一苦労。
道なき雪の中を進むにも、相当体力がいる。
それを往復。
ススキモドキが凍っていたら、米を採ろうにも採れるわけもない。
よしんば採れたとしても、米袋を持ち帰るとなるとバイトの連中だってへたばってしまう。
ということで、俺のできることはと言えば、ベンチ前でうろつく未成年……子供ら? の冒険者達の監視くらい。
ちなみにベンチの上には屋根を付けて、ベンチが濡れないようにしている。
にしても、だ。
気温が寒くなっても、行動が変わらない人間もいる。
通常業務に変化のないヨウミ。
もちろん来客の冒険者達もそうなんだが……。
「あ、こんにちは、アラタさん。今日もお邪魔してます」
「……わざわざ防寒具着てまで、おにぎり食いに来るんですか? イールさん……」
ここに着始めてから、時々おにぎりを昼食として食いに来るイールは、その習慣をずっと続けている。
そんな日は、まだまだ子供な冒険者気取りどもが目を輝かせて彼女にまとわりつく。
まったく……。
こいつらはイールをアイドルか何かかと勘違いしてないか?
まぁ、元冒険者だからいろんなノウハウを教えてやれるか。
そうなりゃ、こんなに受けがいい存在にはなれるか。
俺にはそんな知恵、ほとんどねぇからなぁ。
とか考えてるうちに……。
「うん、それでいいかもね。じゃ、気を付けて行ってらっしゃい。早めに帰ってくるのよ?」
彼女はそいつらの一人一人の特徴を聞いて、チーム編成までしてあげて見送りまでしたようだ。
何という手腕。
……とか和んでたらば……。
「……来客だな」
「え? お客さんなら、お店にずらっと並んでるじゃない」
いや、そーじゃなく。
「シアンだ。けど……親衛隊は七人一緒だから、お忍びじゃないな。それに、もう一人……女性かな?」
「シアン? って誰でしたっけ? って……親衛隊?」
あれ?
言ってなかったか?
誰が知ってて誰が知らないのか分からなくなってきた。
まぁこっちから教える必要性もないんだが。
「エイシアンム。最近来た時は……この防具の改良で来たんだっけか?」
「エイシアンム? どこかで聞いたような……」
「多分俺にだけIに来たんじゃないだろうから、ちと中に戻るわ。ごゆっくり」
ベンチから離れて店頭に立つヨウミに声をかける。
バイトらも販売に手伝っている真っ最中。
って……そうだ、昼飯怒気がもうじきなのを忘れてた。
シアンのことを伝える前に、昼飯の注文聞き取りが優先か?
とか思ってたら……。
「え? まさか、国王陛下?!」
ベンチの方から素っ頓狂な声が響いてきた。
ようやく気付いたのかよ。
除雪車なんてものはない。
もちろん除雪機もない。
村の民家の前は雪を踏み固めて、村をめぐる道路までの通路を作る。
だがその道路は、シャベルやママさんダンプのようなものを使って人海戦術で除雪しているようだ。
でないと、馬車が雪の深みにはまってしまって動けなくなるから。
おにぎりの店も、その道路からかなりかけ離れている。
シャベルか何かで通り道を作っても、その長さたるや果てしない。
普段歩く分には普通に歩ける距離だが、除雪ともなると、いつまで経っても終わりそうにない。
やはりここも踏み固めるしかない。
もちろんフィールドを除雪など、そんな無謀なことをする気もない。
ただ、地下のダンジョンまでも、踏み固めてはいるがそれなりに道を作ってはいる。
もっとも冒険者達の往来もあるから、自ずと足元は安定していくが。
そこから向こうの防具屋だったか武器屋だったか、そっちの方は店主のメイスがやるんだろうな。
それはともかく。
少しでも積雪があったら、フィールドでの集団戦は止めることにした。
計算外の凍傷や遭難があっては訓練どころじゃなくなるからな。
もちろんアイテム探しとかは自由にしてもらっても構わない。
土地の所有者じゃないから入場制限なんてできる権利はないし、行きたい者の妨害と見られてもくだらないからな。
その代わり何があっても自己責任。
仲間が遭難したから助けてくれ、とせがまれても、二次遭難とかが起きたら、それこそ本末転倒だ。
けど、雪害とは無関係の地下のダンジョンはこれまで通り。
でも、やはり集団戦はなしだ。
今までの集団戦は、一組三人。
けれど、一度に九人がダンジョン内で集団戦をやらかしたら、フロアの床や天井にひびが入ったりしたら危なくて仕方がない。
ということでこの季節の間の仲間達の仕事は、昔通り、未熟な冒険者達のサポートに徹する。
彼らに手に負えない魔物が現れた時の安全を図る戦闘や、事故に遭遇した時の救助活動など。
もちろんその活動は、仲間達の義務じゃないし、仕事でもない。
堅苦しく言えば、奉仕活動か。
人間がその仕事をすると途轍もない労力が必要になる。
けどみんな、人間の力をはるかに上回る魔物の類だ。
そんな活動は片手間程度にしか思ってない。
というか、集団戦ですら、真剣に取り組みはするがある意味お遊びって感じ。
つくづく、とんでもない奴らに囲まれて生活してるんだな、俺。
※※※※※ ※※※※※
冒険者達は、ここでの自然環境から活動は制限された。
それでもアイテム狙い、ダンジョン内の魔物討伐など、己の鍛錬や生活の維持のために、それなりに懸命に活動している。
一方俺はというと、寒いながらものんびりとした毎日を送っている。
まずススキモドキの米の採集ができなくなった。
地面はすっかり雪に覆われている。
背の高いススキモドキですら雪をかぶる。
成長もしづらい気温。
ゆえに、米の採集に行こうにも、その場所に辿り着くにも一苦労。
道なき雪の中を進むにも、相当体力がいる。
それを往復。
ススキモドキが凍っていたら、米を採ろうにも採れるわけもない。
よしんば採れたとしても、米袋を持ち帰るとなるとバイトの連中だってへたばってしまう。
ということで、俺のできることはと言えば、ベンチ前でうろつく未成年……子供ら? の冒険者達の監視くらい。
ちなみにベンチの上には屋根を付けて、ベンチが濡れないようにしている。
にしても、だ。
気温が寒くなっても、行動が変わらない人間もいる。
通常業務に変化のないヨウミ。
もちろん来客の冒険者達もそうなんだが……。
「あ、こんにちは、アラタさん。今日もお邪魔してます」
「……わざわざ防寒具着てまで、おにぎり食いに来るんですか? イールさん……」
ここに着始めてから、時々おにぎりを昼食として食いに来るイールは、その習慣をずっと続けている。
そんな日は、まだまだ子供な冒険者気取りどもが目を輝かせて彼女にまとわりつく。
まったく……。
こいつらはイールをアイドルか何かかと勘違いしてないか?
まぁ、元冒険者だからいろんなノウハウを教えてやれるか。
そうなりゃ、こんなに受けがいい存在にはなれるか。
俺にはそんな知恵、ほとんどねぇからなぁ。
とか考えてるうちに……。
「うん、それでいいかもね。じゃ、気を付けて行ってらっしゃい。早めに帰ってくるのよ?」
彼女はそいつらの一人一人の特徴を聞いて、チーム編成までしてあげて見送りまでしたようだ。
何という手腕。
……とか和んでたらば……。
「……来客だな」
「え? お客さんなら、お店にずらっと並んでるじゃない」
いや、そーじゃなく。
「シアンだ。けど……親衛隊は七人一緒だから、お忍びじゃないな。それに、もう一人……女性かな?」
「シアン? って誰でしたっけ? って……親衛隊?」
あれ?
言ってなかったか?
誰が知ってて誰が知らないのか分からなくなってきた。
まぁこっちから教える必要性もないんだが。
「エイシアンム。最近来た時は……この防具の改良で来たんだっけか?」
「エイシアンム? どこかで聞いたような……」
「多分俺にだけIに来たんじゃないだろうから、ちと中に戻るわ。ごゆっくり」
ベンチから離れて店頭に立つヨウミに声をかける。
バイトらも販売に手伝っている真っ最中。
って……そうだ、昼飯怒気がもうじきなのを忘れてた。
シアンのことを伝える前に、昼飯の注文聞き取りが優先か?
とか思ってたら……。
「え? まさか、国王陛下?!」
ベンチの方から素っ頓狂な声が響いてきた。
ようやく気付いたのかよ。
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