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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

宿とこの街にて あの宿、あの街を出てからは

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 食生活は、野宿をすればただで済む。
 けれど、短い時間で長い距離を移動したり、自然治癒よりも早く体力魔力を回復させたいときには、お金なしではアイテムを手に入れることはほぼできない。

 そして、ダークエルフのあたしが人間のこの街で仕事をするには、身分的に厳しいところがある。
 宿に泊まるにも、安い部屋に泊まらせてもらえない。
 街に入る時には必ず通行料が必要。
 人間の誰かに付き添ってもらわないと、買い物しに行く先の店で、客や店の主から露骨に嫌な目で見られる。

 確かに街の中には人が多い。
 人が多ければ、見つけたい人がそこにいるかもしれない確率は高くなる。
 けど、そこにいるとは限らない上に、そうでない人達の割合も高くなる。
 ……あたしに必要な誰かはきっと、あたしが生きている間に出逢えることは間違いない。
 なら、移動するために必要な時間が、お金を使って短縮される必要もなさそうな気がする。
 いくら疲れても、ゆっくり休めば回復できるなら、お金を使って回復を急ぐ必要もない。

 絶対的な力である光の弓矢があるあたしに、どうしても必要な物は何?
 作ろうと思えばいくらでも作れる弓矢。
 だけど、父さんからもらったこの弓はあたしは手放すつもりはない。
 それに比べたら、あの人間達と一緒に買い物に出かけて買ったこの防具。
 そして支給されたいくつかのアイテム。
 これらは手放したってあたしには痛くも痒くもない。
 その誰か以外の人に気を許して仲間になってもらっても、いざという時にはあっさりと切り捨てられる、ということを知った以上、仲間だって必ずしも必要じゃない。

 と腹を決めたら、迷いはない。
 防具を買った店に行き、道具諸共買い取ってもらった。

「……五万円だね」

 店の主は一瞥してぼそっと一言。
 買いに来た時は、そこまで無愛想じゃなかった。
 仲間がいたから、だろうな。
 念のため護身用の短刀を買って、所持金は四万円足らず。
 けどもう、残金はどうでもいい。
 そして店を出た後は……。

「よし、通れ」

 シーナ市を出る。
 その際に街門を通る。
 門番兵からは、それしか言われなかった。

 街に入った時に払った通行料の半額が、その時に戻る。
 そんな話は何回か聞いた。
 けれどこの門番兵達からは、そんなことを言おうとする気すらなさそう。
 けれど、気に留めない。
 当てにする価値もない。

 中には親切にしてくれた人もいたけれど、誰かを探してるあたしがその人の人生を振り回すわけにもいかないし、その人にあたしが振り回されるわけにもいかない。
 それに、本当に運命というものがあるのなら、きっとどこにいてもいつかは巡り合う時が来る。
 あたし達の種族は、それだけ長い命を持っているのだから。

 ※※※※※ ※※※※※

 それから数年たった。
 村を出てから最初に訪れた町が大都市。
 どうして、あたしの村のようなところに行かなかったんだろう? と、昔のあたしに疑問を持った。
 考えてみれば、あたしの村だって通行料みたいなのは取ることはなかったし、どこかの村から帰ってきたエルフ達だって、通行料の話をすることもなかった。

 子供の頃は、いろんな遊びをして楽しかった毎日。
 それが今では、何としらける日の多いことか。

 ダークエルフ、という珍しい種族と言うことで、見世物小屋に売っぱらおうと近づく人間達がいた。
 危険な目に遭ったらあたしを犠牲にして逃げる算段で仲間に引き込もうとする冒険者パーティの数多くいた。

 放浪の旅をしていると知り、親切にしてくれる人達ももちろんいたけど、下心を出される前に別れたので、何の被害も遭うこともなかった。
 誰もが、自分に何かの利益や見返りがあると見込んで近づいてくる。
 呆れて物も言えない。
 そんな目論見、バレバレなのはすぐ分かる。
 けどバレてないと思われてるのかしらね。
 気を許せない奴とか見下してくる奴に親し気に近寄ってこられたって、迷惑千万。
 楽しくも何ともないわよ。

 けど、つまらないことばかりじゃない。
 気配を薄くする呪符とか消費アイテムが売られていることを知った。
 それを使えば、光の弓矢を使って気を失っても、その間に誰かから襲われることは少なくなるかもしれない、と思いついた。

 放浪している途中で、同じ方向に進む冒険者の人数が増えていくのを時々見ることがある。
 間違いなく大捕物が、その先のどこかで行われている。
 戦争ではないのはすぐ分かる。
 兵士らしい姿がないから。
 それに、それらしい現場に近づくにつれ、行商の店も増えていく。
 これは、現場からある程度近づくまで続く。
 現場に接近すると、防衛手段が乏しい彼らにとっては危険な領域に入るらしいから。

 そんな周囲の変化を見て、現場と標的を確認する。
 標的からも、そしてそれを狙う冒険者達からも気付かれない場所に腰を据える。
 あたしが気絶してる間、誰からもあたしの姿を見られないようにする。

 そして、そいつらが標的を倒す計画を現場で確認している間に、光の弓矢で標的を倒し、心置きなく気絶する。
 気絶してる間に、現場では大騒ぎ。
 あんな獲物を誰が一撃で倒した?
 だの
 誰がどうやって倒せるというんだ?
 だの。
 もちろん気絶してるあたしには、その騒ぎの現場を目にすることはできない。
 けど、想像するだけでかなり楽しい。
 特に労力を必要ともしてないし。

 ただ、やり過ぎちゃった感はある。
 そんな難しい依頼の現場では、時折ダークエルフがいたような気がした、なんて噂も聞くようになったから。

 そんなこんなで……風来坊的な生活を送るようになってしまった。
 ……風来坊的な生活を送ることができるようになってしまった、と言い換えても問題ないか。
 あたしの村に居続けて、都合のいいように使われることを想像すれば、今の生活の方がはるかにましだ。
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