438 / 493
番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編
宿とこの街にて あの宿、あの街を出てからは
しおりを挟む
食生活は、野宿をすればただで済む。
けれど、短い時間で長い距離を移動したり、自然治癒よりも早く体力魔力を回復させたいときには、お金なしではアイテムを手に入れることはほぼできない。
そして、ダークエルフのあたしが人間のこの街で仕事をするには、身分的に厳しいところがある。
宿に泊まるにも、安い部屋に泊まらせてもらえない。
街に入る時には必ず通行料が必要。
人間の誰かに付き添ってもらわないと、買い物しに行く先の店で、客や店の主から露骨に嫌な目で見られる。
確かに街の中には人が多い。
人が多ければ、見つけたい人がそこにいるかもしれない確率は高くなる。
けど、そこにいるとは限らない上に、そうでない人達の割合も高くなる。
……あたしに必要な誰かはきっと、あたしが生きている間に出逢えることは間違いない。
なら、移動するために必要な時間が、お金を使って短縮される必要もなさそうな気がする。
いくら疲れても、ゆっくり休めば回復できるなら、お金を使って回復を急ぐ必要もない。
絶対的な力である光の弓矢があるあたしに、どうしても必要な物は何?
作ろうと思えばいくらでも作れる弓矢。
だけど、父さんからもらったこの弓はあたしは手放すつもりはない。
それに比べたら、あの人間達と一緒に買い物に出かけて買ったこの防具。
そして支給されたいくつかのアイテム。
これらは手放したってあたしには痛くも痒くもない。
その誰か以外の人に気を許して仲間になってもらっても、いざという時にはあっさりと切り捨てられる、ということを知った以上、仲間だって必ずしも必要じゃない。
と腹を決めたら、迷いはない。
防具を買った店に行き、道具諸共買い取ってもらった。
「……五万円だね」
店の主は一瞥してぼそっと一言。
買いに来た時は、そこまで無愛想じゃなかった。
仲間がいたから、だろうな。
念のため護身用の短刀を買って、所持金は四万円足らず。
けどもう、残金はどうでもいい。
そして店を出た後は……。
「よし、通れ」
シーナ市を出る。
その際に街門を通る。
門番兵からは、それしか言われなかった。
街に入った時に払った通行料の半額が、その時に戻る。
そんな話は何回か聞いた。
けれどこの門番兵達からは、そんなことを言おうとする気すらなさそう。
けれど、気に留めない。
当てにする価値もない。
中には親切にしてくれた人もいたけれど、誰かを探してるあたしがその人の人生を振り回すわけにもいかないし、その人にあたしが振り回されるわけにもいかない。
それに、本当に運命というものがあるのなら、きっとどこにいてもいつかは巡り合う時が来る。
あたし達の種族は、それだけ長い命を持っているのだから。
※※※※※ ※※※※※
それから数年たった。
村を出てから最初に訪れた町が大都市。
どうして、あたしの村のようなところに行かなかったんだろう? と、昔のあたしに疑問を持った。
考えてみれば、あたしの村だって通行料みたいなのは取ることはなかったし、どこかの村から帰ってきたエルフ達だって、通行料の話をすることもなかった。
子供の頃は、いろんな遊びをして楽しかった毎日。
それが今では、何としらける日の多いことか。
ダークエルフ、という珍しい種族と言うことで、見世物小屋に売っぱらおうと近づく人間達がいた。
危険な目に遭ったらあたしを犠牲にして逃げる算段で仲間に引き込もうとする冒険者パーティの数多くいた。
放浪の旅をしていると知り、親切にしてくれる人達ももちろんいたけど、下心を出される前に別れたので、何の被害も遭うこともなかった。
誰もが、自分に何かの利益や見返りがあると見込んで近づいてくる。
呆れて物も言えない。
そんな目論見、バレバレなのはすぐ分かる。
けどバレてないと思われてるのかしらね。
気を許せない奴とか見下してくる奴に親し気に近寄ってこられたって、迷惑千万。
楽しくも何ともないわよ。
けど、つまらないことばかりじゃない。
気配を薄くする呪符とか消費アイテムが売られていることを知った。
それを使えば、光の弓矢を使って気を失っても、その間に誰かから襲われることは少なくなるかもしれない、と思いついた。
放浪している途中で、同じ方向に進む冒険者の人数が増えていくのを時々見ることがある。
間違いなく大捕物が、その先のどこかで行われている。
戦争ではないのはすぐ分かる。
兵士らしい姿がないから。
それに、それらしい現場に近づくにつれ、行商の店も増えていく。
これは、現場からある程度近づくまで続く。
現場に接近すると、防衛手段が乏しい彼らにとっては危険な領域に入るらしいから。
そんな周囲の変化を見て、現場と標的を確認する。
標的からも、そしてそれを狙う冒険者達からも気付かれない場所に腰を据える。
あたしが気絶してる間、誰からもあたしの姿を見られないようにする。
そして、そいつらが標的を倒す計画を現場で確認している間に、光の弓矢で標的を倒し、心置きなく気絶する。
気絶してる間に、現場では大騒ぎ。
あんな獲物を誰が一撃で倒した?
だの
誰がどうやって倒せるというんだ?
だの。
もちろん気絶してるあたしには、その騒ぎの現場を目にすることはできない。
けど、想像するだけでかなり楽しい。
特に労力を必要ともしてないし。
ただ、やり過ぎちゃった感はある。
そんな難しい依頼の現場では、時折ダークエルフがいたような気がした、なんて噂も聞くようになったから。
そんなこんなで……風来坊的な生活を送るようになってしまった。
……風来坊的な生活を送ることができるようになってしまった、と言い換えても問題ないか。
あたしの村に居続けて、都合のいいように使われることを想像すれば、今の生活の方がはるかにましだ。
けれど、短い時間で長い距離を移動したり、自然治癒よりも早く体力魔力を回復させたいときには、お金なしではアイテムを手に入れることはほぼできない。
そして、ダークエルフのあたしが人間のこの街で仕事をするには、身分的に厳しいところがある。
宿に泊まるにも、安い部屋に泊まらせてもらえない。
街に入る時には必ず通行料が必要。
人間の誰かに付き添ってもらわないと、買い物しに行く先の店で、客や店の主から露骨に嫌な目で見られる。
確かに街の中には人が多い。
人が多ければ、見つけたい人がそこにいるかもしれない確率は高くなる。
けど、そこにいるとは限らない上に、そうでない人達の割合も高くなる。
……あたしに必要な誰かはきっと、あたしが生きている間に出逢えることは間違いない。
なら、移動するために必要な時間が、お金を使って短縮される必要もなさそうな気がする。
いくら疲れても、ゆっくり休めば回復できるなら、お金を使って回復を急ぐ必要もない。
絶対的な力である光の弓矢があるあたしに、どうしても必要な物は何?
作ろうと思えばいくらでも作れる弓矢。
だけど、父さんからもらったこの弓はあたしは手放すつもりはない。
それに比べたら、あの人間達と一緒に買い物に出かけて買ったこの防具。
そして支給されたいくつかのアイテム。
これらは手放したってあたしには痛くも痒くもない。
その誰か以外の人に気を許して仲間になってもらっても、いざという時にはあっさりと切り捨てられる、ということを知った以上、仲間だって必ずしも必要じゃない。
と腹を決めたら、迷いはない。
防具を買った店に行き、道具諸共買い取ってもらった。
「……五万円だね」
店の主は一瞥してぼそっと一言。
買いに来た時は、そこまで無愛想じゃなかった。
仲間がいたから、だろうな。
念のため護身用の短刀を買って、所持金は四万円足らず。
けどもう、残金はどうでもいい。
そして店を出た後は……。
「よし、通れ」
シーナ市を出る。
その際に街門を通る。
門番兵からは、それしか言われなかった。
街に入った時に払った通行料の半額が、その時に戻る。
そんな話は何回か聞いた。
けれどこの門番兵達からは、そんなことを言おうとする気すらなさそう。
けれど、気に留めない。
当てにする価値もない。
中には親切にしてくれた人もいたけれど、誰かを探してるあたしがその人の人生を振り回すわけにもいかないし、その人にあたしが振り回されるわけにもいかない。
それに、本当に運命というものがあるのなら、きっとどこにいてもいつかは巡り合う時が来る。
あたし達の種族は、それだけ長い命を持っているのだから。
※※※※※ ※※※※※
それから数年たった。
村を出てから最初に訪れた町が大都市。
どうして、あたしの村のようなところに行かなかったんだろう? と、昔のあたしに疑問を持った。
考えてみれば、あたしの村だって通行料みたいなのは取ることはなかったし、どこかの村から帰ってきたエルフ達だって、通行料の話をすることもなかった。
子供の頃は、いろんな遊びをして楽しかった毎日。
それが今では、何としらける日の多いことか。
ダークエルフ、という珍しい種族と言うことで、見世物小屋に売っぱらおうと近づく人間達がいた。
危険な目に遭ったらあたしを犠牲にして逃げる算段で仲間に引き込もうとする冒険者パーティの数多くいた。
放浪の旅をしていると知り、親切にしてくれる人達ももちろんいたけど、下心を出される前に別れたので、何の被害も遭うこともなかった。
誰もが、自分に何かの利益や見返りがあると見込んで近づいてくる。
呆れて物も言えない。
そんな目論見、バレバレなのはすぐ分かる。
けどバレてないと思われてるのかしらね。
気を許せない奴とか見下してくる奴に親し気に近寄ってこられたって、迷惑千万。
楽しくも何ともないわよ。
けど、つまらないことばかりじゃない。
気配を薄くする呪符とか消費アイテムが売られていることを知った。
それを使えば、光の弓矢を使って気を失っても、その間に誰かから襲われることは少なくなるかもしれない、と思いついた。
放浪している途中で、同じ方向に進む冒険者の人数が増えていくのを時々見ることがある。
間違いなく大捕物が、その先のどこかで行われている。
戦争ではないのはすぐ分かる。
兵士らしい姿がないから。
それに、それらしい現場に近づくにつれ、行商の店も増えていく。
これは、現場からある程度近づくまで続く。
現場に接近すると、防衛手段が乏しい彼らにとっては危険な領域に入るらしいから。
そんな周囲の変化を見て、現場と標的を確認する。
標的からも、そしてそれを狙う冒険者達からも気付かれない場所に腰を据える。
あたしが気絶してる間、誰からもあたしの姿を見られないようにする。
そして、そいつらが標的を倒す計画を現場で確認している間に、光の弓矢で標的を倒し、心置きなく気絶する。
気絶してる間に、現場では大騒ぎ。
あんな獲物を誰が一撃で倒した?
だの
誰がどうやって倒せるというんだ?
だの。
もちろん気絶してるあたしには、その騒ぎの現場を目にすることはできない。
けど、想像するだけでかなり楽しい。
特に労力を必要ともしてないし。
ただ、やり過ぎちゃった感はある。
そんな難しい依頼の現場では、時折ダークエルフがいたような気がした、なんて噂も聞くようになったから。
そんなこんなで……風来坊的な生活を送るようになってしまった。
……風来坊的な生活を送ることができるようになってしまった、と言い換えても問題ないか。
あたしの村に居続けて、都合のいいように使われることを想像すれば、今の生活の方がはるかにましだ。
0
お気に入りに追加
1,585
あなたにおすすめの小説
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
スローライフは仲間と森の中で(仮)
武蔵@龍
ファンタジー
神様の間違えで、殺された主人公は、異世界に転生し、仲間たちと共に開拓していく。
書くの初心者なので、温かく見守っていただければ幸いです(≧▽≦) よろしくお願いしますm(_ _)m
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!
にのまえ
ファンタジー
目が覚めたら、女性が土下座をしていた。
その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。
俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。
「……すみません」
巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。
これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、
俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます
網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。
異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。
宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。
セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる