430 / 493
番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編
宿とこの街にて その3
しおりを挟む
食事の注文がてらに、依頼の仕事の受注について聞いてみた。
依頼受け付けに、どの依頼を引き受けるかを伝えるだけでいいんだそうだ。
仕事の受付期間は、依頼達成の報告を受けるまで。
そして、魔物討伐なら、その魔物特有のアイテムとかを持ち帰ることで、依頼達成の証明になるとのこと。
引き受けて達成できても、アイテムを持ち帰れない場合は未達成。
他の誰かがアイテムを持ち帰ったらそこで達成。そして依頼は終了。
捜索や探索もそうらしい。
つまり、冒険者に免許とか資格とかはなく、誰でも依頼は受けられるらしい。
ただし、身の危険に対しては自己責任。
それをどうにかできる者が冒険者、ということみたい。
光の弓矢には気絶がつきもの。
けどあたしの弓矢の技はそれだけじゃない。
魔力を込めて、軌道を自由にできる射的もあるし、普通の弓矢でも人間よりは優れている。はず。
「あれ? でも、飛竜落としたの、今日の未明だよね? で、あの人達処理してる間にあそこ出発したはずなのに、あたしがここに来る前にもう依頼完了の報告が届いたの?」
うーん……。
人間の社会は不思議でいっぽいだ。
まぁいいや。
晩ご飯、食べるか。
※※※※※ ※※※※※
ご飯を食べ終わってから、掲示板に貼られている依頼内容に改めて目を通す。
報酬が一番高額なのは、依頼達成済みの例の飛竜退治で二百五十万円。
けど飛びぬけて高額な依頼。
他の依頼では、どんなに高くても五十万円前後。
凶悪な魔物退治と魔獣の死体確保、珍しい植物や鉱石入手。
内容を分類するとこんな感じ。
その目的はまちまちだ。
実験材料、食材収集、製造の材料集め、地域の治安など。
「……一人でこなせて、宿泊費支払いと所持金増加になるような依頼、か……うーん……」
「えっと、そこのダークエルフさん、ちょっといいかな?」
「え?」
親しみが込められたような声で、後ろから呼びかけられてちょっとびっくりした。
振り向くと、若者そうな五人組がそこにいた。
「ひょっとしてお嬢さん一人?」
エルフ、とかじゃなくて、お嬢さん……。
そんな呼ばれ方、初めてされた。
いやいや、待て待て。
あたしじゃない誰かを指しているのかもしれない。
「えっと……あたしの……こと……ですか?」
「あはは、面白いことを言うね。あなたのほかに誰もいないじゃないですか」
あたしを呼んだ爽やかそうな青年は、明るい笑顔で応えるけれど。
「ちょっとウォードル。呼び方っ」
隣に並んでいる、似たような装備の女性に窘められた。
確かに……口説きに来たのかとも思える呼ばれ方だったしなぁ。
「仲間がすまん。実は……そこの掲示板の依頼を見に来たんだ。そしたらあなたがその前に立ちはだかっていて……」
二人の後ろにいる、頭二つほど背が高く、前の二人よりも重装備な大男が話しかけてきた。
でも、ということは、あたしがこの五人の邪魔をしてたってことよね。
「あぁ、ごめんなさい。あたし、ここの席で食事してたから、つい。あ、ゆっくり見られるのならどうぞ。あたしその後で……」
「そうじゃないのよ。見たところ、あなた一人だけのようだから、もしよかったら、あたし達がこれから選ぶ依頼に、一緒にどうかなって」
あたしをお嬢さんと呼んだ男を窘めた女性の話は、まぁ口説くというのは強ち間違いじゃなかった。
パーティ加入の勧誘だもんね。
「五人よりも六人の方がやりやすいし、見たところ、あんた、弓使いだろ? うちにはない技術持ってそうだから、戦術が広がりそうだなってことでな」
大男の隣の、前二人よりもちょっと背が小さめの軽装備の男がそんなことを言ってきた。
てことは、弓使いはいないのか。
「遠距離攻撃担当、うちのパーティにいないから、入ってもらえるとうれしいですね。あたしの魔法もできるけど、補助と攻撃の掛け持ちはちょっと辛いから」
その軽装備の男の斜め後ろにいる女の人が心細そうに言う。
それだけ彼らに必要な要素が、あたしにはあるってことよね。
あたしの旅の目的は、何もせずに達成できるものじゃない。
警戒ばかりしてたって、お金は減る一方だし交流なしに絆を結ぼうにも結べない。
まぁ初対面で何も知らない相手だから、無条件で仲間になるっていうのはないかもだけど。
「……じゃあ……そうね……。皆さんが今受けるつもりでいる依頼一回限り、ということにして、もし互いに気に入ることがあったら一件こなすごとに継続っていうのはどうかしら?」
五人は顔を見合わせ、明るい表情をあたしに向けた。
「あぁ、よろしく頼む!」
いきなり話はまとまった。
でも、まずはこの一回きりと言うことなら、話は簡単だろう。
何か問題が起きても、その一件が終わるまでの我慢で済むし。
「じゃあまず、互いを理解するための親睦会といきますか。マスター、お酒もらえる―?」
え?
えっと、ちょっと待って。
「えっと、あたし……」
「何? ひょっとしてお酒、苦手なの? えっと……」
「あ、あたしはマッキー。よろしく」
「あたしはウィザー。よろしくね。で、お酒だめなの?」
魔術師の彼女はそう名乗った。
それよりも。
「えっと、お酒は飲んだことはないんだけど……」
「え? 飲んだことないの? んじゃお茶にしようか?」
「親睦を深める場にお茶かよ……」
「仕方ないでしょ? お酒が体に合わなかったら、一緒に仕事どころじゃないわよ? で、マッキー、何のお茶がいい? ハーブティ?」
「そ、そうじゃなくて……。あたし、今晩ご飯食べ終わったばかりなの」
「そっちかよ……」
この五人、晩ご飯は済ませたのかなぁ……。
よく入るなぁ……。
女性二人のスタイルはかなりいいのに……。
ちょっと、羨ましいかな……。
依頼受け付けに、どの依頼を引き受けるかを伝えるだけでいいんだそうだ。
仕事の受付期間は、依頼達成の報告を受けるまで。
そして、魔物討伐なら、その魔物特有のアイテムとかを持ち帰ることで、依頼達成の証明になるとのこと。
引き受けて達成できても、アイテムを持ち帰れない場合は未達成。
他の誰かがアイテムを持ち帰ったらそこで達成。そして依頼は終了。
捜索や探索もそうらしい。
つまり、冒険者に免許とか資格とかはなく、誰でも依頼は受けられるらしい。
ただし、身の危険に対しては自己責任。
それをどうにかできる者が冒険者、ということみたい。
光の弓矢には気絶がつきもの。
けどあたしの弓矢の技はそれだけじゃない。
魔力を込めて、軌道を自由にできる射的もあるし、普通の弓矢でも人間よりは優れている。はず。
「あれ? でも、飛竜落としたの、今日の未明だよね? で、あの人達処理してる間にあそこ出発したはずなのに、あたしがここに来る前にもう依頼完了の報告が届いたの?」
うーん……。
人間の社会は不思議でいっぽいだ。
まぁいいや。
晩ご飯、食べるか。
※※※※※ ※※※※※
ご飯を食べ終わってから、掲示板に貼られている依頼内容に改めて目を通す。
報酬が一番高額なのは、依頼達成済みの例の飛竜退治で二百五十万円。
けど飛びぬけて高額な依頼。
他の依頼では、どんなに高くても五十万円前後。
凶悪な魔物退治と魔獣の死体確保、珍しい植物や鉱石入手。
内容を分類するとこんな感じ。
その目的はまちまちだ。
実験材料、食材収集、製造の材料集め、地域の治安など。
「……一人でこなせて、宿泊費支払いと所持金増加になるような依頼、か……うーん……」
「えっと、そこのダークエルフさん、ちょっといいかな?」
「え?」
親しみが込められたような声で、後ろから呼びかけられてちょっとびっくりした。
振り向くと、若者そうな五人組がそこにいた。
「ひょっとしてお嬢さん一人?」
エルフ、とかじゃなくて、お嬢さん……。
そんな呼ばれ方、初めてされた。
いやいや、待て待て。
あたしじゃない誰かを指しているのかもしれない。
「えっと……あたしの……こと……ですか?」
「あはは、面白いことを言うね。あなたのほかに誰もいないじゃないですか」
あたしを呼んだ爽やかそうな青年は、明るい笑顔で応えるけれど。
「ちょっとウォードル。呼び方っ」
隣に並んでいる、似たような装備の女性に窘められた。
確かに……口説きに来たのかとも思える呼ばれ方だったしなぁ。
「仲間がすまん。実は……そこの掲示板の依頼を見に来たんだ。そしたらあなたがその前に立ちはだかっていて……」
二人の後ろにいる、頭二つほど背が高く、前の二人よりも重装備な大男が話しかけてきた。
でも、ということは、あたしがこの五人の邪魔をしてたってことよね。
「あぁ、ごめんなさい。あたし、ここの席で食事してたから、つい。あ、ゆっくり見られるのならどうぞ。あたしその後で……」
「そうじゃないのよ。見たところ、あなた一人だけのようだから、もしよかったら、あたし達がこれから選ぶ依頼に、一緒にどうかなって」
あたしをお嬢さんと呼んだ男を窘めた女性の話は、まぁ口説くというのは強ち間違いじゃなかった。
パーティ加入の勧誘だもんね。
「五人よりも六人の方がやりやすいし、見たところ、あんた、弓使いだろ? うちにはない技術持ってそうだから、戦術が広がりそうだなってことでな」
大男の隣の、前二人よりもちょっと背が小さめの軽装備の男がそんなことを言ってきた。
てことは、弓使いはいないのか。
「遠距離攻撃担当、うちのパーティにいないから、入ってもらえるとうれしいですね。あたしの魔法もできるけど、補助と攻撃の掛け持ちはちょっと辛いから」
その軽装備の男の斜め後ろにいる女の人が心細そうに言う。
それだけ彼らに必要な要素が、あたしにはあるってことよね。
あたしの旅の目的は、何もせずに達成できるものじゃない。
警戒ばかりしてたって、お金は減る一方だし交流なしに絆を結ぼうにも結べない。
まぁ初対面で何も知らない相手だから、無条件で仲間になるっていうのはないかもだけど。
「……じゃあ……そうね……。皆さんが今受けるつもりでいる依頼一回限り、ということにして、もし互いに気に入ることがあったら一件こなすごとに継続っていうのはどうかしら?」
五人は顔を見合わせ、明るい表情をあたしに向けた。
「あぁ、よろしく頼む!」
いきなり話はまとまった。
でも、まずはこの一回きりと言うことなら、話は簡単だろう。
何か問題が起きても、その一件が終わるまでの我慢で済むし。
「じゃあまず、互いを理解するための親睦会といきますか。マスター、お酒もらえる―?」
え?
えっと、ちょっと待って。
「えっと、あたし……」
「何? ひょっとしてお酒、苦手なの? えっと……」
「あ、あたしはマッキー。よろしく」
「あたしはウィザー。よろしくね。で、お酒だめなの?」
魔術師の彼女はそう名乗った。
それよりも。
「えっと、お酒は飲んだことはないんだけど……」
「え? 飲んだことないの? んじゃお茶にしようか?」
「親睦を深める場にお茶かよ……」
「仕方ないでしょ? お酒が体に合わなかったら、一緒に仕事どころじゃないわよ? で、マッキー、何のお茶がいい? ハーブティ?」
「そ、そうじゃなくて……。あたし、今晩ご飯食べ終わったばかりなの」
「そっちかよ……」
この五人、晩ご飯は済ませたのかなぁ……。
よく入るなぁ……。
女性二人のスタイルはかなりいいのに……。
ちょっと、羨ましいかな……。
0
お気に入りに追加
1,585
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる