415 / 493
番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編
村のために みんなのために その3
しおりを挟む
木登りの上り下り競争をしたらどうだろうか?
上り切ったと思ったら、すぐに下りなきゃならなくなる。
上で何かをしたとしても、競争真っ最中なら誰だってそう思いこんでくれるに違いない。
つまりあたしが誰も見ることのない木のてっぺんで倒木を砕いたとしても、何もする暇もない、とみんなから証言してもらえるに違いない。
もちろんあたしも、それに甘えて時間がかかるようなことはしちゃいけない。
「木登りしたいけど、誰か競争しない?」
「え? 木登り?」
「俺、やってみようかなー」
「競争は面白そう」
「あたしは弓かなー」
「俺は虫取りがいいなー」
みんなが木登り競争に参加したいと言ってきたら、それはそれで困ることになったかもしれなかった。
矢を射るところを目撃される可能性が高くなってただろうから。
やりたいことがばらついて、ある意味助かった。
「じゃあ木登りしたい子、集まれー」
七人ほど集まった。
人数も多すぎず少なすぎず。
いい感じになってきた。
※※※※※ ※※※※※
「でもさー。高さってどれも違うよね」
言われてみれば。
あたしが選んだ木が低かったら……見られちゃうかもしれない。
「んじゃ好きなのみんなで選んで、まずそれに上って下りて、それで順位決めて、そしたら他の子が選んだ木を上って下りて、また順位を決めて、全体的に早く上り下りできた子が一番、てのはどう?」
他の子がそんな提案をしてきた。
これはありがたい。
一本目を上って、他の木が高かったら、一番高い木を確認する。
次に別の木を選んで、今度は倒木の現場を確認する。
三本目以降に一番高い木を選んでてっぺんに上って、倒木を砕く。
……その木を選ぶのは、遅ければ遅いほどいいな。
突かれててっぺんまで上るのに時間がかかった、という言い訳もできる。
異様に早く下りることになったら、途中で降りた、と疑われる。
つまり、時間に余裕が生まれるかもしれない、ということだ。
「待った。途中で下りるかもしれないインチキを防止するために、リボンを結んで下りる決まりにするのはどう?」
これは……。
さらにあたしに都合のいい案が出てきてくれた。
「あー、それ、いいね。次に上った子がそのリボンを確認できるしね」
結ぶ手間がかかった言い訳をすれば、ある程度矢を射るまでの時間を長くとれる。
「七人だから、七回木登りすることになるよね。リボンはしっかり結ばないと解けるかもしれないから、しっかり結ぼう。ちょっと疲れそうだけど、その決まりでやろうよ」
と、真っ先に賛成。
そして競争が始まった。
一本目。
計画通り、一番高い木を確認しながらリボンを結ぶ。
そして下りたあたしは三番目の早さだった。
二本目は、一本目に選んだ子が結んだリボンを確認。
そして、倒木の位置を確認。
それからリボンを結んで下りる。
下りて地面に到着したのは二番目だった。
あまり早く下りると、急に遅くなった時に怪しまれる。
三本目は四番目に下りた。
途中で競争をやめよう、という子が出てくるかもしれない。
けど順位が極端に下がるのも避けたい。
五番目に一番高い木を選ぶことにして、四本目の木も四番目に下りた。
「はぁ……はぁ…‥はぁ……。これって、結構疲れるね」
なんてことも言ってみる。
「マッキーが一番早かったの、一本目だっけ?」
「うん。高さもそこそこあったね」
「四番目に上った木、一番低い木だったよね? 頑張れる?」
「うん、何とか……頑張るっ」
あたし、結構芝居、上手いかも。
そして五番目。
地上で別のことをして遊んでいる子が見上げても、あたしは多分見えない。
ただでさえ高い木だ。
枝葉がなかったとしても、遠く離れることになるから、どこにいるか分からなくなるに違いない。
上り切ってリボンを結ぶ。
これで往復した証拠ができた。
急いで小さい光の弓を出し、大量の短い、小さい光の矢をつがえる。
「方向、よし。あとめいっぱいの力を入れて……飛んでけっ!」
手元から小さい光がたくさん飛んで行った。
倒木が、そのまま崩れていく様子を見てすぐに下りる。
そして……。
「はぁ……はぁ……。あたし、ちょっと疲れちゃった~休んでいい? まさか五回も、急いで行ったり来たりするとは思わなかったからさあ……。リボンは結んできたけどね……」
「んじゃマッキーちゃん、六番目と七番目は七位でいい? そうすれば、競争が最後までできるから」
「あー、うん、それでいいよー。あたしここで休んでる。……あ、でも次の競争は誰かあたしが今上った木を選んでくれる? あたしのリボン確認してもらわないと……」
「あ、それもそうだな。俺まだその木、上ってないから俺行ってこよっと」
あたしはこうして目的を遂げた。
誰も丘のふもとの倒木の変化に気付くどころか、倒木があったことすら知らなかったようだった。
ちなみに競争の順位は、あたしは最下位になった。
あたしが穫れなかった一位を、みんな一度は取っていた。
そして七位を二つ以上取ったのはあたしだけ、ということで。
こうしてこの日のお出かけは終わった。
誰にもバレず、誰の目から見てもあたしが変に思われるようなこともなく、全てが上出来のまま、この日一日も終わった。
けれども、数日後、ちょっとした騒ぎになってしまった。
上り切ったと思ったら、すぐに下りなきゃならなくなる。
上で何かをしたとしても、競争真っ最中なら誰だってそう思いこんでくれるに違いない。
つまりあたしが誰も見ることのない木のてっぺんで倒木を砕いたとしても、何もする暇もない、とみんなから証言してもらえるに違いない。
もちろんあたしも、それに甘えて時間がかかるようなことはしちゃいけない。
「木登りしたいけど、誰か競争しない?」
「え? 木登り?」
「俺、やってみようかなー」
「競争は面白そう」
「あたしは弓かなー」
「俺は虫取りがいいなー」
みんなが木登り競争に参加したいと言ってきたら、それはそれで困ることになったかもしれなかった。
矢を射るところを目撃される可能性が高くなってただろうから。
やりたいことがばらついて、ある意味助かった。
「じゃあ木登りしたい子、集まれー」
七人ほど集まった。
人数も多すぎず少なすぎず。
いい感じになってきた。
※※※※※ ※※※※※
「でもさー。高さってどれも違うよね」
言われてみれば。
あたしが選んだ木が低かったら……見られちゃうかもしれない。
「んじゃ好きなのみんなで選んで、まずそれに上って下りて、それで順位決めて、そしたら他の子が選んだ木を上って下りて、また順位を決めて、全体的に早く上り下りできた子が一番、てのはどう?」
他の子がそんな提案をしてきた。
これはありがたい。
一本目を上って、他の木が高かったら、一番高い木を確認する。
次に別の木を選んで、今度は倒木の現場を確認する。
三本目以降に一番高い木を選んでてっぺんに上って、倒木を砕く。
……その木を選ぶのは、遅ければ遅いほどいいな。
突かれててっぺんまで上るのに時間がかかった、という言い訳もできる。
異様に早く下りることになったら、途中で降りた、と疑われる。
つまり、時間に余裕が生まれるかもしれない、ということだ。
「待った。途中で下りるかもしれないインチキを防止するために、リボンを結んで下りる決まりにするのはどう?」
これは……。
さらにあたしに都合のいい案が出てきてくれた。
「あー、それ、いいね。次に上った子がそのリボンを確認できるしね」
結ぶ手間がかかった言い訳をすれば、ある程度矢を射るまでの時間を長くとれる。
「七人だから、七回木登りすることになるよね。リボンはしっかり結ばないと解けるかもしれないから、しっかり結ぼう。ちょっと疲れそうだけど、その決まりでやろうよ」
と、真っ先に賛成。
そして競争が始まった。
一本目。
計画通り、一番高い木を確認しながらリボンを結ぶ。
そして下りたあたしは三番目の早さだった。
二本目は、一本目に選んだ子が結んだリボンを確認。
そして、倒木の位置を確認。
それからリボンを結んで下りる。
下りて地面に到着したのは二番目だった。
あまり早く下りると、急に遅くなった時に怪しまれる。
三本目は四番目に下りた。
途中で競争をやめよう、という子が出てくるかもしれない。
けど順位が極端に下がるのも避けたい。
五番目に一番高い木を選ぶことにして、四本目の木も四番目に下りた。
「はぁ……はぁ…‥はぁ……。これって、結構疲れるね」
なんてことも言ってみる。
「マッキーが一番早かったの、一本目だっけ?」
「うん。高さもそこそこあったね」
「四番目に上った木、一番低い木だったよね? 頑張れる?」
「うん、何とか……頑張るっ」
あたし、結構芝居、上手いかも。
そして五番目。
地上で別のことをして遊んでいる子が見上げても、あたしは多分見えない。
ただでさえ高い木だ。
枝葉がなかったとしても、遠く離れることになるから、どこにいるか分からなくなるに違いない。
上り切ってリボンを結ぶ。
これで往復した証拠ができた。
急いで小さい光の弓を出し、大量の短い、小さい光の矢をつがえる。
「方向、よし。あとめいっぱいの力を入れて……飛んでけっ!」
手元から小さい光がたくさん飛んで行った。
倒木が、そのまま崩れていく様子を見てすぐに下りる。
そして……。
「はぁ……はぁ……。あたし、ちょっと疲れちゃった~休んでいい? まさか五回も、急いで行ったり来たりするとは思わなかったからさあ……。リボンは結んできたけどね……」
「んじゃマッキーちゃん、六番目と七番目は七位でいい? そうすれば、競争が最後までできるから」
「あー、うん、それでいいよー。あたしここで休んでる。……あ、でも次の競争は誰かあたしが今上った木を選んでくれる? あたしのリボン確認してもらわないと……」
「あ、それもそうだな。俺まだその木、上ってないから俺行ってこよっと」
あたしはこうして目的を遂げた。
誰も丘のふもとの倒木の変化に気付くどころか、倒木があったことすら知らなかったようだった。
ちなみに競争の順位は、あたしは最下位になった。
あたしが穫れなかった一位を、みんな一度は取っていた。
そして七位を二つ以上取ったのはあたしだけ、ということで。
こうしてこの日のお出かけは終わった。
誰にもバレず、誰の目から見てもあたしが変に思われるようなこともなく、全てが上出来のまま、この日一日も終わった。
けれども、数日後、ちょっとした騒ぎになってしまった。
0
お気に入りに追加
1,585
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜
びゃくし
ファンタジー
そこは神が実在するとされる世界。人類が危機に陥るたび神からの助けがあった。
神から人類に授けられた石版には魔物と戦う術が記され、瘴気獣と言う名の大敵が現れた時、天成器《意思持つ変形武器》が共に戦う力となった。
狩人の息子クライは禁忌の森の人類未踏域に迷い込む。灰色に染まった天成器を見つけ、その手を触れた瞬間……。
この物語は狩人クライが世界を旅して未知なるなにかに出会う物語。
使い手によって異なる複数の形態を有する『天成器』
必殺の威力をもつ切り札『闘技』
魔法に特定の軌道、特殊な特性を加え改良する『魔法因子』
そして、ステータスに表示される謎のスキル『リーディング』。
果たしてクライは変わりゆく世界にどう順応するのか。
お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!
にのまえ
ファンタジー
目が覚めたら、女性が土下座をしていた。
その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。
俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。
「……すみません」
巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。
これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、
俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます
網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。
異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。
宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。
セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる