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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

村のために みんなのために その2

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 一部の大人達からは、何となく距離を置かれている。
 けど前世の記憶にある、勇者引退後の暮らしを思い出すと、今の生活は余程幸せな毎日を送れている。
 前世の記憶を残すように頼んでおいてよかった、とつくづく思う。

 そして、そんな勇者並みの力は誰にも知られることないまま自分の中に存在し、いつでも表に出せることを確信した。
 転生前に望んだことの二つが叶ったことを確信した。
 勇者に匹敵すると思われる力。失われることがない力。
 別個のものじゃないことに安堵しつつ、けれど、他のエルフに、他の種族に知られることがないように気を引き締める。

 だからと言って、出し惜しみはしない。
 村の生活に困ること、村全体の生活が改善されるために、エルフたちの力ではどうしようもない難題を解決するためには、その協力は惜しまない。
 ただし、人目につかない時と場所に限るけど。

 ※※※※※ ※※※※※

「東の森の方に、小高い丘があるだろ? 知ってるよな?」
「動物の絶好の狩り場のことか? 一々確認するようなことじゃねぇだろ。誰でも知ってるわ、んな場所」
「森の中を突っ切って登っていく獣道あるのは知ってるか? 上り坂の直前に左に曲がれる、あの細い……」
「あ? あー……入れそうって思える道はあるのは知ってるが……。何? あそこ入れんの?」
「ばっか。あの先が入れ食いの場所になってんだって。……じゃあお前は知らねぇか」
「何をだよ」
「倒木が邪魔しててな、一昨日からか。奥に入れねぇんだよな」
「運び出したらそれで済む話じゃねぇの?」
「それが厄介なんだよ。周りの木に突っかかるし、細かく切ったら運び出すのに手間がかかるし」
「削ったら? あと細かく砕くとか」
「どんだけ日にちかかると思ってんだよ。それにあそこも坂道だ。ごろごろ転がったら、ふもとまで転がっちまう」
「転がっても大丈夫なくらい細かく切ったら……って、切る前に転がったら危ないのか」
「あぁ。ふもとに誰がいるか分からねぇしな。それに木にぶつかって、それが倒れたらもっと被害がでかくなる」
「どんだけでかい木が倒れてんだよ。……あー……でもそれ、何とかしないと、狩り場争いが起きるか」
「そうなんだよ。でも、お前みたいにあの狩り場を知らない奴なら、のほほんとしてられるんだろうなぁ」
「んだとお?!」

 あたしばかりじゃなくみんなそうだけど、年上になるにつれ、家族の仕事の手伝いの時間が多くなる。
 ということは、他の子と遊ぶ時間がどんどん減る。

 遊ぶ時間が減って、仕事の時間が増え、その仕事の内容も次第に高度なものになり、その仕事が家族の生活を助けるようなものになっていく。
 子供の体格が大人に近づくにつれ、大人な仕事も増えていく。
 要するに、普通に成長していく過程の一つってこと。

 お母さんとお祖母ちゃんから、庭の草むしりを頼まれた。
 家の前の入り口付近の草むしりに夢中になって、一区切りついたところで腰を伸ばす。
 すると丁度その時、男二人がこんな会話を交わしながら、家の前を通り過ぎて行った。

 エルフ族は動物を狩るけど、それは食料目当てじゃない。
 それを食料とする種族相手に商売をする商人がいる。
 そんな商人相手に、あたし達が仕留めた獲物とあたし達の生活に必要な物を交換している。
 だから、あたし達にとっては、必ずしもその獲物は必要ない。
 けどその獲物は、物を仕入れる大切な物資だ。

 狩りができなくなる。
 仕留める獲物の数や質が下がることは、あたし達の生活が不便になっていくってこと。
 この問題は、意外と見逃せない。

 その二人は家の前を通り過ぎ、やがて角を曲がっていき、あたしの視界からいなくなった。

「……東の森の……か」

 確かに丘はある。
 丸ごと森になっている。
 そして、そこもあたし達の遊び場になっているが、獣道の方は確かに危険だ。

 何が危険って、大人達の狩り場ってことは知っていたから、大人達の射る矢が当たってしまうかもしれない、という意味だ。
 動物が襲いかかってくることもあるが、それはさほど危なくはない。
 急いで枝伝いで木に登れば、すぐに難を逃れられるから。
 だから、注意されずとも、大人達の狩り場には近寄ることはしない。
 と言うことは……。

 大人の目をかいくぐれば、友達から目撃されることは絶対にないから……。

「夜になってから狩りに行くって大人達もいるもんね。普通は日中だから、日中に狩りに出かけた大人達が帰ってきた直後に行けば、夜の狩りに行く大人達と会わずには済む。みんなとは、その時間は家族から仕事を頼まれてる、と言えば……」

 いや、それはダメだ。
 あたしが仕事を頼まれたことを家族に言っちゃったら、それが嘘だってすぐにばれる。
 ホントに仕事を頼まれたらば、その内容によっては、仕事をしてなかったなどと言われるかもしれない。

「じゃあ、東の森に遊びに行った時、しかないよね……」

 ずっと一緒かどうか、誰かから見られてたら……あたし一人だけ別の場所に行っていたことが知られて、それを問い詰められたら……。
 おそらくその現場は、あたし達の立ち入り禁止区域に入ってさらに奥。
 一瞬で問題解決できても、移動に時間がかかるから……それもダメ。
 なら、その場からあまり離れず一瞬で終わるような……。

 ……そうか。
 届くかどうか分からないけど、矢の形、威力に何も不満はないから……あとは距離だね。
 この方法なら……発光を見られることがなければ、何の問題もないはず。うん。

 そして、我ながら名案を思い付いてから二日後。
 遊びに行ける子達で、東の森の丘に行くことにした。

 子供の遊び場になってるし、時々大人が往来するってこともあるせいか、その道の周囲には動物や魔獣はほとんどこない。
 だから子供達だけでも安心してそこに行ける。
 そして目的地の丘のてっぺんに到着。
 いつものように、弓矢の射的や木登りで遊ぶ。
 あたしは、木登りで遊ぶ子達と一緒になって、一番高い木を選び、上っていった。
 けれど木登りする直前まで、あたしは頭の中を一生懸命働かせた。


 一番高い木の上から見下ろせば、獣道の先にある倒木の現場は分かるはず。
 木々の枝葉で遮られて、その現場は見にくいかもしれない。
 けどそんな太い樹木が倒れたなら、そこだけは上から見たら開かれて目立つはず。
 木の上から光の矢を射れば、問題は解決される、と思う。

 ただ、上った木の上の方であたしが何をしているのかまでは、他の子達には分からないと思う。
 みんなに隠れてあたしが何かをしている、と思われるのもまずい。
 だから、とにかくどれでもいいから、高そうな木に上り、まずはその木よりも高い木があるかどうかを確認。
 あったら、一旦下りて、その木を上る。

 そこから先は時間との勝負。

 一人で一番高い木に上るんだから、てっぺんについてからは誰もあたしを見ることはできないはず。
 その木は間違いなく太いし、枝も太く、その数も多い。
 その先にある葉っぱだってそう。

 つまり、地上やほかの木登りしている子には、あたしが何をしているのかは分からないはず。
 あたしがいない間何かをしていた、と思われるような長い時間はかけられない。
 何かをする暇がないくらい、上ったかと思ったらすぐ下りてきた、と言ってもらえるくらいの短時間で、問題の倒木を粉砕しなきゃならない。

 で、一瞬でそれを終わらせるには……。
 まず、いくら枝葉であたしの姿が見えないといっても、光は別。
 光を放っていることすら見つけられづらくなきゃならない。

 と言うことは、まず光の弓はなるべく細く短くする。
 飛んで行く光の矢は、一つ一つに威力があるなら、一本一本の速さはまばらの方がいい。
 下からは、やはり枝葉で視覚が多くなる。
 まとまって飛ばしたら、どこかからか、木漏れ日のように見られてしまうかもしれない。
 その光が細かかったら、枝葉がすべてを遮ってくれるかもしれないし。

 そして粉砕する倒木に対しては……。
 光の矢も、長いと、目標物の付近の枝葉に引っかかるかもしれない。
 あるいは倒す必要のない樹木を倒してしまうかもしれない。
 余計な傷をつけてしまうかもしれない。
 それは絶対に避けたい。

 だから、光の弓も細く小さく。
 けど一本だけで粉砕は無理。
 目標付近の枝葉に当たらないくらい細く小さく、そして数えきれないくらいのたくさんの光の矢を、一度に放たないといけない。

 倒木が粉々になったのを確認したらすぐに下りること。
 他の子達から、木の上に上ったと思ったらすぐに下りてきた、と言われるくらい短い時間で終わらせること。

 つまり、失敗も許されない。
 まぁ失敗したら、別の機会にもう一回やってみればいいだけなんだけど。

「マッキー、どうしたの? なんか考えごと?」

 突然近くにいた子から話しかけられ、飛びあがるくらい驚いた。
 ……けど、流石に堪えた。
 変な目で見られたら、これもまたよくない。

「え……と、今日は、何して遊ぼうかなーって迷ってた」
「あは、そんな大げさなぁ。遊びたいことして遊べばいいだけでしょー?」

 安心した。
 笑い飛ばしてもらえた。
 今のところ、誰からも変な目で見られてはいない。
 怪しげに思われたら、今回は中止と言うことにすればいいだけなんだけど……。

 やっぱ、自分の力で村の役に立つことができるなら……早いうちにやり遂げておきたいしね。

 ※※※※※ ※※※※※

 丘のてっぺんに就いた。
 時間をかけてはならないのは、木に上ってから下りるまでの間だけ。
 それ以外は普段通りでいい。

「マッキー、何で遊ぶか決めた―?」

 その瞬間、ある案が閃いた。
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