上 下
400 / 493
薬師の依頼の謎編

そいつのケアと彼女らのこれから その配慮は俺達の方にも

しおりを挟む
 夢枕に立った師匠から、完治薬の調合の仕方を伝授された。
 ケーナは薬の製造に成功。
 しばらくして、難病を克服した母親は、ケーナと一緒に俺の店に来てくれた。
 クリマーの提案にのったケーナの目論見通り、母親が俺の店の支店の契約を結んでくれた。
 まぁ俺が採集する米でおにぎりを作って、それだけを売れって言う話だ。
 飲み物は自由で。
 自分で作るもよし、どこかから仕入れるもよし。
 おにぎりだけじゃ喉に詰まるだろうしな。
 これを機に、薬療所は畳んで住まいも引っ越し。
 冒険者が頻繁に活動する地域で住居兼店舗を開くらしい。
 ちなみにケリーはというと。

「私も、父のようなことをしていこうと思ってたので、新しい住所はいい環境です」

 とのこと。
 体力は父親とは比べ物にならないほどないようで、希少種の植物鉱物の採集は控えるようにする、とのこと。
 身の程を弁えた活動をするんだそうだ。

 これをもって、今回の件は落着。

 とするのは、まだ早い。
 世話になったシアンに、事の顛末を伝えなきゃなるまい。
 国家転覆という妄想まで起こした俺が、シアン達を少なからず不安にさせた。
 まあ不安に感じたかどうかは本人次第だろうが、この報告をしなけりゃ筋が通らないってもんだ。
 で、連絡をしたら……。

『ちょうど現象を抑えきったところだ。すぐ行くよ』

 と、一方的に通話を切られた。

「早えぇよ。通話終わらせて十分もかかってねぇじゃねぇか」
「細かいことを機にすると、頭髪全部、ケマムシに食われるぞ?」

 んなわきゃあるか。
 で、一部始終をシアンに報告。

「所長には気の毒だったが、母親の命が助かったどころか、健康を取り戻したってことだろう? まぁ最悪の事態を回避できて、その結果は上々とも言えるんじゃないか? で……そのダックルなる人物は幽霊だったということか。それだと報酬はもらえなかったんじゃないか? 足がないから、とか」

 幽霊だけに?
 残念ながら、足はあったぜ?

「まぁ、なかなか上手いことを言うじゃないか。ただ報酬も押し付けられてな。この大きな石なんだが……」
「ほう?」

 何か、奇妙な気配はある。
 だがその正体は俺には分からない。
 それでもシアンは、何となく興味深げに見つめている。
 見た目は何の変哲のない石なんだが。

「……これ、ちょっと預からせてもらっていいかな?」
「あぁ。……って、思い出した」
「何を?」

 お仲間に加工してもらうといい。
 というようなことを言っていた。
 加工できる仲間と言えば……。

 コーティは、電撃を加えるイメージしか湧かない。
 モーナーにかかれば、ただ破壊するだけ、か?
 ライムはただ溶かすのみだし、ミアーノにしてもンーゴにしてもそう。土に変えるくらいか。
 マッキーは弓矢の扱いが上手い分器用さはあるだろうが、物を加工することとは別物だ。
 テンちゃんもクリマーも、そういうことにはあまり縁がない。
 サミーは言わずもがな。
 体は大きくなってるけども、無邪気さは相変わらずなところがちょっとな。

 となれば……シアン、ってことだよな……。

「……あぁ、ちょっと調べてみてくれ。っていうか、こないだから頼み事ばかりして済まないな」

 何気なく口から出てきた言葉だったんだが……。

「何を言うんだ、アラタ! 君に頼られるのが、本当にうれしいよ。任せてくれ。隅から隅まで調査、検査して、全てをあからさまに……」

 おい、お前。
 何いきなり目を輝かせてんだよ。
 ちょっとヒくわ。

 ※※※※※ ※※※※※

 そんなこんなで、またいつもの毎日が続いた。
 いや、いつもの、じゃなかった。
 雪が本格的に降り始めて、雪かきが欠かせない毎日になった。

「アラタあ、ダンジョンなら問題ないと思うけどお」

 ある朝、モーナーがおはようの挨拶の後で話しかけてきた。

「どうした?」
「フィールドのお、奥の方お、結構雪が積もっててえ」

 あぁ……。
 そりゃ奥に進むのは難しくなってきたか。

「なるほど。遭難の可能性があるか」
「うん。ミアーノもお、ンーゴもお、同じ意見だったあ」

 すると雪解けの頃までは、そっちの方の探索禁止、だな。

「あれ? 二人は大丈夫なのか?」
「何があ?」

 あの二人の寝床は地中のはずだ。
 ミアーノの部屋は洞窟の中にはあるが、地中の方が居心地がいいらしい。
 部屋は使うことはあるが、夜は地中にいる方が多いようだ。
 そこに雪が積もったら……。

「地中から出られるのかな、と思ってな」
「問題ないみたいだよお。雪はあ、上に向かって進めばあ、どうってことないって言ってたあ」

 まぁ本人らが平気ってんなら、問題ないか。

「んじゃとりあえず、探索の件は了承……」
「アラタ、おはよう。モーナーもおはよう」

 モーナーとの会話に気をとられて、シアンが近づいてきたことが分からなかった。
 というか……ここに来るの、早くね?
 つか、国王だろうが。
 公務はどうした。

「例の、八個の石の件なんだが……とんでもない力を持っていることが分かってな」

 来ていきなりだな。
 やや興奮気味だな。

「その力が判明して、その結果を見た時に、数もあうって分かってな」
「数?」
「あぁ。アラタとヨウミの防具、ちょっと借りれないか?」

 防具?

「それと何か関係があるのか?」
「大ありだ。何、借りるのは昼までだ。大急ぎで改良する」
「改良?」

 そう言えば、普段のシアンと比べたらただならぬ様子。
 それにしても、改良の余地があるのか?
 防具の増強を図る、か?

「お、おぉ、そういうことなら」

 腕と足から防具を外す。
 その下着は関係がないようだ。

「早速ヨウミにも」
「あ、おい。ヨウミは……」

 シアンはダッシュで洞窟の中に入っていった。
 彼の無事を祈ろう。

 ……と、思ったんだが、洞窟の中から「スパーン!」という綺麗な乾いた音が聞こえてきた。
 しばらくして洞窟から、右の頬を抑えながらシアンがとぼとぼと歩きながら出てきた。

「……誰でも着替えという作業は必要なはずなんだが。知ってたか?」
「う……うむ……」

 抑えてる手を外して、その跡を見てみたいとシアンに告げるのは……酷というものか。

 ※※※※※ ※※※※※

 そして昼休み。
 予告通り、シアンは防具を持ってやって来た。

「やはり調査の結果通りだったよ」

 満足げな笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。

「期待通りの結果だ。改良は成功だよ。とりあえずこの防具、付けてくれ」

 言われた通りに、ヨウミと俺は防具を身に着ける。
 外見は特に変化はない。
 発光色のグラデーションはない。
 ただ、質に何か変化があるようだが……。

「魔球を持ってきた。魔力を補充してみてくれ。防具の魔力は、ご覧の通りほぼ空だ。魔球の魔力はすべて注入できる」
「お、おう」

 魔球四個を、両腕両脛の防具にはめ込んだ。

「え? えーと……」

 はめたすべての魔球は防具から外れて地面に落ちた。

「……やり直し? じゃないな。グラデーションの色の数が増えてるな」

 補充はできた、ということだ。
 ということは、防具から外れた魔球に込められた魔力は、全て防具に注入された、ということだ。
 という事は……。

「チャージ……補充にかかる時間が……ほとんどかかってないってことか?」
「うむ。そうなんだよ。ヨウミ、君もやってみたまえ」
「え? あ、うん」

 ヨウミの防具も、あっという間に魔球の魔力をすべて吸い込んだようだ。

 ケマムシ退治からの泉現象の魔物退治の時は……俺の防具の魔力補充している間、ヨウミにフォローしてもらった。
 フォローが必要なくらい時間がかかっていた。

「……じゃあ……あの時の再現を……」

 右腕の防具を外して地面に突き刺した。

「嘘……だろ……」
「は、やい……ね……」

 一瞬で、防具に魔力を充填させることができた。
 満タンになるまでやきもきすることもなくなるはずだ。

「……シアン……」

 と声をかけてシアンを見ると、見事なまでのドヤ顔だ。
 が、今回は、流石に許せる。
 まぁ俺が自ら進んで、修羅場、鉄火場に出ることはまずない……はずだが、そんなことになったとしても、焦る事態になる前に事態を打開することができそうだ。

「アラタ。その所長とやらが押し付けてきた報酬、と言ってたな。アラタとしては、どうだ?」

 言うまでもない。
 お釣りを渡したくなるほどの価値がある。
 遠慮しようにも、その相手はもう二度と姿を見せることはない。
 となれば……。

「有り難く使わせてもらおうか、所長さんよ」

 だがここで不思議なことが一つ発生した。
 ヨウミの防具の分も用意してくれたことだ。
 いつそのことを知ったのか。
 それもまぁ、幽霊だからこそ為せたこと、といったところかね。

 それにしても……。

 魔物と幽霊って、別物と見なすべきだろうか。
 ゴースト、スピリット、スペクター……。
 そう言えば、魔物退治で幽霊を相手にしたって話、あまり聞いたことがないな……。
 うーむ……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!

にのまえ
ファンタジー
 目が覚めたら、女性が土下座をしていた。  その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。  俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。   「……すみません」  巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。  これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、  俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。  

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

処理中です...