上 下
386 / 493
番外編 こんな魔物の集団戦 いかがです?

奴らが飛び去った後のグダグダ

しおりを挟む
 問題を抱えてそうな冒険者五人は、テンちゃん、モーナー、ライムを選び、フィールドでの戦闘を希望。
 ライムに顔はないが、二人は邪悪そうな笑顔を浮かべた。

 テンちゃんはまずライムを乗せる。
 ライムは、鐙のような形に変化した。
 そこにモーナーと五人の冒険者は乗り、一行はフィールドの方に飛び去った。

「あいつら、勝手に選びやかって……」
「……テンちゃんに相手してもらいたかったなぁ」

 今までは、申し込みした時点で、集団戦の相手の希望も記入してもらってた。
 だから、その希望通りにならないこともあった。
 参加者に選択権を与えたのは今回が初めてだが、希望を聞くことなら前々からやってたこと。
 それが、記入じゃなく直接相手にお願いできるようになったことで、その仕組みが見やすくなった感じになっただけのこと。
 だから、せっかく選べるようになったのに、と文句を言われるのもちょっと筋が違うんじゃないか、とは思う。

 それと文句の矛先も、申し込みを受け付けたこっちに向けられるはずだった。
 それが横取りしていった冒険者達に変わったのもちょっと気になる。
 冒険者達同士での諍いが、これから多くなるかもしれない。
 まぁその問題は、お互いに話し合えば解決できることではある。
 だが、あのように他の参加者の意見も聞き入れず、さっさと自分の用件を果たすような行動をとる者がいる限り、解決はなかなか難しそうだ。

「ふーん。じゃああたし達はあんた達に、『仕方なく』選ばれるってこと? そんなんなら、あたし達もつまんなくなるわね。どうせ本命として見られてないんだもん」

 俺への風当たりはかなり和らいだコーティ。
 それでも毒舌は健在だ。

 魔物が集団で生活をしている。
 これは普通にあることだ。
 普通の人間と魔物が一緒に生活をしている。
 これも普通にあることだ。
 普通の人間と何体かの魔物が一緒に生活をする。
 これは、よく聞く話じゃない。
 何か目的がなければ、そんなことはしないからだ。
 何かの業者でなければあり得ない話。
 しかも、一緒に生活をしてると言えるかどうかも怪しい。

 さらに、普通の人間が、異なる魔物何体かと一緒に生活をする。
 これはまずあり得ないって話らしい。
 ところがこっちは、異なる『珍しい種族の』魔物何体かと『一緒に』生活をしている。
 これはもう、珍しいってもんじゃないらしい。

 何が言いたいかというと、魔物との集団戦の訓練、特訓をさせてもらえる施設は、ここ以外にない、ということだ。
 それだけに、特訓相手が申込者の希望通りになれば、それこそ喜ばずにいられない。
 そんな珍しいせっかくのチャンスに、希望通りにならなければ、その気持ちは一気に落ちる。
 まぁ気持ちは分からなくはない。
 それでも、そんな貴重な体験ができるわけだから、希望通りでなくても有り難いはずなんだろうが……。

「あ、いえ、そういうことじゃなくて……」
「じゃあどういうことよ」

 おいこらコーティ。
 そいつら、新人さん達だぞ?

「おいおい。あまりいじめるなよ。まだ社会勉強がしっかりできてないっぽいから、その指導はその都度、周りの大人が指導、注意してやらなきゃだろ。……お前らも、不満を感じても当人の前では口にすんなよ。ま、陰で文句を言うようになると、嫌な大人の仲間入りだけどな」
「アラタぁ……それって、注意になるの? ヤな奴を増殖させてるだけのように見えるんだけど?」

 おかしいな。
 注意のつもりだったんだがな。
 俺の常識は、世の中の常識じゃないらしい。

「え、えっと、これから気を付けます……」
「すいませんでした……」

 新人チームの四人は、殊勝にも頭を下げた。
 真っ直ぐに育っていくといいな、とは思う。
 俺が、例え世の中の常識から外れてるとしても。

「ふーん、で、誰を選ぶのかしら?」

 そういう、新人を試すような口調も止めろよ。
 お前は会社のお局OLかっての。

「体格のおっきな人に相手してもらいたかったから……」

 要望はそれか。
 その代表格のテンちゃんもモーナーも持ってかれたからなぁ。

「ンーゴさんはどう?」

 ……あいつはでかいなんてもんじゃないけども。
 つか、別格だろ。
 と思ったが。

「あ、ンーゴさんがいたね」
「うん、ンーゴさんがいいね」
「あと二人は……」

 何か、品定めされてる気分だ。
 食品売り場の野菜の気持ちがよく分かる。
 ……奴らに感情があればな。

「あと二人選べるなら、クリマーさんとマッキーさんがいいです」

 誰それさんでもいいです、という言い方をされたら、それも注意の対象だったが。
 この人がいい、という言い方なら問題なかろ。

「ふーん。あたしはいらないわけね」
「おい、コーティ。お前の方が嫌な大人になってんぞ」
「え? あたし、無邪気な子供だよ? ほら、こんなに小さいし可愛いし」

 くるくる回って見せるコーティの態度。
 それはまさに……。

「無理して若作りしてる年増の女性ってイメージが真っ先に」
「……アラタ。今夜、電気マッサージのサービスしてあげるねっ」
「ほほう。地獄を見せる行為をサービスというのか。俺も大概だが、お前の常識も世の中の常識からかけ離れてる、と強く断言できるぞ」

 などという掛け合いをやってる間にも、新人達は次第に怯え始めてきた。

「……ほら、こいつらこんなに怖がってんじゃねぇか」
「あ、あたしのせいじゃないでしょっ! ねぇ」

 ねぇ、じゃねぇだろうが。
 どうフォローしてやったらいいか全然分からん。

「えっとコーティさん」
「え? 何? クリマー」

 クリマーがいきなり混ざってきた。
 何を言うかと思ったら。

「お先に失礼? じゃ、みんな、行きましょうか」

 うわあ。
 この言い方っ。

「おい、クリマー」
「あ、何です? アラタさん」
「コーティがうつっちまったんかよ」
「病原菌か何かか、あたしはっ!」

 一同そこで吹き出すが。

「あら? あたしは、そんなに大きくなければ、うつるどころかそのものになれますよ? ほら」
「うわっ! コーティさんが二人?!」

 腕先をコーティそっくりに変化させた。
 しかもコーティみたいに動く。
 もっとも腕から離れることはなかったが。

「ちょっ!」
「器用なことするなぁ」
「あたしの腕、コーティさんがうつってしまいました」

 今日のクリマー、ツッコミどころ満載だな。

「すげー!」
「コーティさん、触ってもいい?」

 新人達が、クリマーの腕先のコーティに話しかけた。
 けど、これも言い方が。

「コーティはあたしよ!」

 そりゃそうだ。

「そうですよ。私はクリマーですから」
「クリマー……腕先のコーティにしゃべらせんな」

 冒険者達は全員爆笑。
 お前ら一体ここに何しに来てんだよ。
 こっちの会話聞いて爆笑してんだ。
 漫才見に来たつもりとかじゃねえだろうな?

 とか思ってたら……。

「……って、おい……」
「何よ」

 呼びかけた相手はコーティじゃない。
 ……が。

「あー……コーティもか。でもお前らも」
「えっと、僕らですか?」
「何でしょう?」

 気配の察知に勘違いはない。
 見たら見間違いってのがある。
 聞いたら聞き間違いってのもある。
 だが、気配に間違いはほとんどない。
 間違えてたとしても、その気配が近寄れば近寄るほど、確実性が増す。
 遠ざかれば間違えることもあるかもしれないが、こっちに来ることのない気配を感じ取っても意味はないから。
 その気配は……。

「テンちゃん、ライムとモーナーがこっちに来る」
「え?」

 そりゃ耳を疑うよな。
 ついさっき、フィールドに向かって飛び去ったばかり……いや、ばかリか?
 ちょっと時間は過ぎたかもしれん。
 コーティの嫌味、もとい、大人な会話のせいで。

「相手の冒険者五人はどうなったのよ」
「……そいつらは……いるけども……」

 普通の状態じゃないのは分かる。
 けど現状どうなってるか、現時点では不明。

「一緒に戻ってくるのは分かるが……」
「一緒なのにはっきり分からないってことは……」

 あぁ、はっきり言わないといけないんだっけな。
 そういう間柄、だもんな。

「行く時と同じ状態じゃない。健康状態に変化はないが、状態に変化があるな」
「なにそれ?」

 俺が聞きたい。

「ま、来てから分かるこったろ? 治癒魔法とか薬とか準備しときゃえぇんじゃねぇのけ? 死んだんとちゃうんやろ?」

 ミアーノの言う通りなんだが……けど確かに、それ以外にこっちでできることって、他にないんだよな。

「まぁ、そう、だな。集団戦参加者は、すまないがちょっと待っててくれ」
「おう」
「構わんよ。あいつらに続いて、この新人さんにも相手とられるかと冷や冷やしてたとこだしな」

 ……うん、なんか、ごめん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...