勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新の孤軍奮闘編

謎の脱毛症 その4

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 何という辱めか!
 とぶち切れそうになったのだが。
 深呼吸して少し考える。
 毛を剃る手間が省けたのは……決して悪い事じゃない、よな?
 でも、いつ剃られた? いや、食われた?
 周りに毛は落ちてはいない。
 だが、話によれば、奴らは夜に動く。
 今も十分夜だが、昨夜のうちに食われた可能性は……いや、ない。
 日中のトイレでは、俺の体に異常なところはなかった。
 すると、今日、日が沈んでからってことだよな。
 てことは……付近にでもいたのか?
 いや、夜行性だからと言って、夜じゃないと動かないとは限らない。
 下着の中に潜んで……。
 ……考えたくもない。
 とりあえず、タオルで隠して風呂に入るか。
 温泉や銭湯とは違うから、湯船? にタオルを入れても平気。
 もっともこの世界の温泉などでは、当然禁止。
 ここは厳密にいえば、温泉じゃなくてダムみたいなもんだからな。
 で、風呂場から寝室に辿り着くまでの間、誰にもそのことをバレずに済んだ。
 この時までは、俺は平静を装えてた。
 少し気持ちが落ち着かなかったが、その夜は、まぁ普通に眠りにつくことができた。
 だが翌朝になって気が付いた。

 ※※※※※ ※※※※※

「ふあ……。今日は誰からも起こされなかったな。さて……」

 と呟いて気が付いた。
 俺と同じ個所に被害を受けてる女性がいたら?
 昨日の俺のように、同性にも異性にも無性にも言えないだろ。

「……恥ずかしくて言い出す奴、いるわけがねぇよな」

 あれ?
 と言うことは……?
 既に被害が広がっている可能性があるぞ?
 ……それはちょっとまずいんじゃないか?
 待て待て。落ち着いて考えろ。
 まずこの村は、第一次産業が盛んだ。
 つまり、大地の恵みに満たされている。
 ということは、それを遮断する岩盤は、村にはない。
 が、岩盤を住み家とするケマムシは実際にいる。
 つまり、村の外にあるということだし、ケマムシが移動するにも住処になる場所は村の中にはない。
 そして村の外に近い方には民家はない。
 ということは、村人への被害はないはずだ。
 俺の体にへばりついてたとして、テンちゃんが最初の被害者になってからは、俺もテンちゃんもドーセンとこには移動してないからな。
 あ、メイスはドーセンとこで飯食ってるか。
 でもあいつの被害は頭部のみ。
 つまり、被害拡大する可能性は低いが、それでも被害はここで食い止めないと……まずいよな。
 仕方がない。
 ここは……俺が汚れ役になってでも、被害を食い止めるしかない。
 とは言っても、ヨウミに聞くのはまずかろう。
 例え聞かれて恥ずかしい思いをしたとしても、種族が違えばいくらかはそのダメージも深くはなるまい。
 とりあえず、既に被害者のテンちゃんに聞いてみるか……。

 ※※※※※ ※※※※※

 テンちゃんの体の一部は、今日もまだ斑な模様って感じがする。
 米収集の手伝いをしてもらうことになったはいいが、集団戦からしばらく離れてるテンちゃんの機嫌はあまり良くない。
 朝ご飯が終わってそんなテンちゃんを呼び出し、二人きりで話をしてみる。
 もちろん話題は……いわゆる下半身の局部付近の被害について。

「……ヘンタイ」

 遠回しに聞いた答えの第一声がこれだった。
 軽蔑するような目じゃなかったのは救いだった。

「お前な……。同種族からそんな質問されるのと、異種族の人間から聞かれるのじゃ、印象違うだろ? こんなこと、同じ人間のヨウミに聞けねぇし、いや、同性にだって聞きづらいわこんなもん」
「んじゃ、その被害状況を見せてって聞いたら、見せてくれるの?」

 冗談じゃない。
 見せられるわきゃねぇだろうが!

「俺だって見せたくねぇよ! お前もだろ? だから聞いてみたんだよ。見せてくれ、だなんて言えねぇからよ」

 とはいえ、ミアーノは例外として、人間と同じような体型以外の種族は、衣類どころか下着もつけてない。
 着せたところで、彼らの活動範囲は、簡単に衣類にダメージを与える環境出し、それが何の役に立つ? てなもんだ。
 そこら辺の彼らの機微ってのはよく分からんが、いわば普段から素っ裸状態。それでも羞恥心とかはほとんどないようだが、改めてそんなことを言われるとさすがに引くわ、と言わんばかり。
 もちろん俺だって、同種族や人間と同じ体型の異性には興味も関心もあるが、非人間型には特に思うところはない。
 ただ、相手のことを思いやった時に、そんな質問をするのは、こっちだって心苦しいくらいの気持ちはある。
 いくら、こんな俺でも、な。

「と、とにかく、確認するまでもない。ケマムシの被害を気にしないってんならそれでもいいさ。けど、できればこんなことはない方がいいってのは分かるよな?」
「そりゃ、まぁ」
「と、とりあえず、米の運搬の仕事は頼むぞ?」
「……はいはい」

 軽蔑ではないが、俺の人格を疑うような目を向けてくる。
 こんな思いをする被害者を増やさないためにも、本格的にケマムシ退治、しないとまずいよな……。

 ※※※※※ ※※※※※

 自体が急変したのは翌日。
 俺の被害か所に痒みを感じた。
 原因は分かってる。
 固い毛が伸び始めたからだ。
 毛が長くなれば、周囲の圧に負けて毛先が曲がる。
 だが伸び始めは、言ってみりゃ、短い柔らかい針の集団が皮膚から出てきている状態。
 周囲の皮膚に刺激を与えるわけだ。
 痛みなら耐えられる。
 だがその痛みが軽度だから、痛みではなく痒みになる。
 服の上からでも、痒みを抑えるために掻くというのは仕方のないことかもしれないが、周囲に誰もいない時間は意外とない。
 仲間はいるわ、バイトはいるわ、初心冒険者どもはいるわ。
 けど、友人と言えるそんざいはほとんどいない。
 なんだこのリア充ぼっち状態。
 こんな苦しい思いをさせるケマムシ、許すまじ!
 そんな俺にとどめを刺してきた奴がいた。

「……アラタ、ちょっといいかしら?」
「どうした? ヨウミ」

 朝ご飯が終わった後、今度は俺がヨウミに呼び出された。

「……あんた、テンちゃんに変なこと聞いたんだよね」

 俺の心臓があいつの蹄に貫かれたような衝撃。
 そしてその後、背中に冷たい汗が流れる。

「……ケマムシの被害調査とか実態調査で必要な事かもしんないけどさ」
「お……おう……」
「もう少し、デリカシーってもん、考えなさいよね」
「お……おう……」

 低く冷たいヨウミの声が地味に辛い。
 みんなを守ろうとする俺が、なんでこんなに責められる?
 こんな戸惑いの感情を持つ間にも、下半身の痒みは止まってくれない。
 おまけに変態呼ばわりされるし、ヨウミには軽蔑されるし!
 俺だって恥ずかしいんだぞ!
 誰からかにみられたわけじゃないけどよ!

 おのれっ! にっくきケマムシ!
 許すまじ! ケマムシ!!
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