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アラタとヨウミの補強計画編

何するにせよ、必要なのは時間と力 その3

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 何もない所からは、何かが生まれることはない。
 この世界が長年苦悩させられている、魔物の泉現象、雪崩現象もそうだろう。多分。
 もちろん電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも。
 ……電信柱はないな。郵便ポストっぽいのはあるな。赤くはないけど。
 そして。

「物の鑑定なら、本職にする気はないがやろうと思えばやれるし正確に判断できる。人にその判断結果を正確に伝えられるかどうかはともかくな」
「うん、それで?」
「で、鑑定結果で出した額で買い取ってほしい、と。そして、これは俺が使ってもいい、と」
「その通りだ」

 まずここんとこだ。
 買い取った後、俺が誰かにくれてやろうが、燃えないゴミの日にゴミとして出そうが俺の自由だ。シアンがあれこれ指図したって、こっちはその通りにする必要はない。
 まぁそれは、言葉尻を責めるか責めないかっつー、こっちの選択肢次第で生まれる問題だから、スルーしてもいいがな。
 問題はこっちだ。

「……わざわざ俺のために作った代物、と言ってるようなもんじゃねぇか?」

 俺のために、忙しい毎日の合間を縫って、普通じゃない防具を手間暇かけて作って、だ。
 タダより怖い物はねぇ。
 こんなもん高くて値はつけられねぇ、っつって突っ返す手もあるな。

「うん、そうだよ? これは、アラタ、君のために作った」

 ……おい。
 受け取れ。その代わり〇〇をしてくれ、なんてとんでもねぇ依頼してくる気じゃねぇだろうな?
 いや、ちょい待った。

「これ『は』っつったな?」
「うん。これは君のため。そして同じ物をいくつか作ってあるが、それはこっちで使うからね」

 どういうことだ。
 目の前にあるこれは、俺のために作った。あ、ヨウミもだが。
 けど同じ物を数多く作っている。
 てことは?

「……アラタ。君の世界には魔法は存在しないそうだね。この世界には魔法は存在する。だが、だからといってみな魔力を持ってたり、魔法を使えたりするわけじゃない。できない者達は、努力して魔力を持つことはできるし魔法を使うこともできる。が、誰もがそうなるわけじゃない」
「……どんなに努力しても、俺みたいなままってことだな?」
「国に、王族に尽くしたいという崇高な思いを持つ者が軍などに仕官を願う、そんな者達も数多い。もちろん魔法攻撃を物理防御で防ぐことはできるが、効率が悪い。魔法防御が適しているが、それができない者の方が多い。この開発は、ある意味国が抱える課題でもあり、世界の課題でもある」

 ……兵達の装備を新しく開発できた。
 そのついでに俺にも、ということか。

「それに、君らだってある意味危険な立場に立っている。そうさせたのは我々が原因だ。その責任を果たす目的もある」
「はぁ? いや、お前が近づいて来なきゃ、俺らの生活も安泰なんだが?」
「バカを言うな。……ということは、ここがこの村の中では危険地帯の一部ということを分かってないのか?」
「危険地帯だぁ?」
「……分かってないのか? まぁ、それも我々の責任だ。君の好き嫌い関係なく、話を聞いてもらうぞ?」

 何だよこいつ。
 普段からそうだが、今日はいつになく押しが強すぎねぇか?

「まず……時間が時間だ。昼食の用意をしよう。もちろん仲間達にも話を聞いてもらう。いいね? あぁ、昼食代は心配ない。こっちで受け持つから」
「あ、じゃあこれ、仲間のリクエスト。これを注文して来てくれるとありがたいんだけど」

 おい、ヨウミ……。

「うん、分かった。君ら二人の分もあるね。我々は今日のお勧めにしようか、と言っても、支払いはこっちだから何を注文しても問題ないな……。クリット、レーカ、グリプス。行ってくれないか?」

 なんか、また面倒な……いや、ややこしい話か?
 そんなことになりそうな……。

 ※※※※※ ※※※※※

「なぁなぁ、あんちゃんよお。あたしの干し草が食えねぇってのかい?」
「か、勘弁してください、天馬さん……」

 ……何この茶番劇。
 テンちゃんよぉ……。自分の食事をネタにしてんじゃねぇ。

「くだらねぇことはもういいよ。それより昼前までしてた話の続き、どうする気だ?」

 あれはあれで止めてもこっちは気にせんが……。

「うむ。もうちょっとじゃれ合いたかったが、それよりその話の方が大事だからな」
「あたしはじゃれついてもらいたいなー」
「テンちゃん。どんなに親しくなっても、あなたは多分王妃にはなれないわよ?」
「マジで?! クリマー!」

 目がちょっとだけ本気なのが怖い。
 つか、話が進まねぇじゃねぇか。
 何だこのシリアスブレイカーは。

「テンちゃんのことはひとまず置いといて。まずアラタ、話を少し戻すが、私達は君の面倒をみる義務がある、ということだ。これは私達の責務を果たすということでもある」

 あ?
 さっきは俺の店の場所が危険だって話じゃなかったか?
 戻すにしても、随分前に戻った気がすんぞ?

「勇者……旗手を異世界から召喚し、その全員が集められた直後、国王や司祭は、召喚された経緯やこの世界での生活などの説明をする。それを理解してもらわないと、現象から現れる魔物達の討伐の話自体できないままだからな。だがアラタ、君の場合は……」

 その説明が、炊き出しの飯よりも手間が省かれた飯だった。
 それと借りた一万円。
 プラス手配書。
 まぁあの一万円がなきゃ今の俺はなかったが、他はあってもなくてもどうでもいいな。
 だから特に思うところはないんだが。

「我々は生まれながらにしてこの世界の住人。だから毎日生活していくにつれ、その知恵も自ずと増える。だが召喚された者達はそうじゃない。そして、知恵を持ちそれを使うだけでは乗り越えきれない壁もある」
「それがあの防具で、ってことか?」
「うむ。防具や武器、魔術の旗手として召喚された者は、その力は生まれながらの物として身についている。だがそれ以外の力はほとんどない。だからその面倒は、召喚した者が見るべきなのは道理」

 その理屈は分かる。
 そして追放ってことがなきゃ、俺がこの世界に来て教会に辿り着いた後、あいつらと一緒に別室に移動してたはずだ。
 そこで行われたのが、そのミーティング……オリエンテーションだろうからな。

「だから、それぞれに見合った装備が彼らに配られた。振り返ってアラタ。君は何も受け取れる状況じゃなかった」
「けどもう、その現象が起きたらそこに出向く義務はねぇし、平々凡々な毎日を」
「できなかったんじゃないか?」
「あ?」

 何頭ごなしに否定してんだこの野郎。
 俺の体験したことを、同じように実感してたわけじゃなかろうに。

「旗手としての務めとは無縁だから、一般人として生活してきた。そういうつもりだろうが、その能力自体はなくならない。だから生活の中でその力を使う使わないは自由だ。そしてアラタはその力を使うこともあったろう。だからこそ、普通の人なら近づくことはない危険な場所に近づくことができた。その力の使い方次第では、少しくらいの危険が潜む場所でも平気で足を踏み入れられただろうからな」

 ……まぁそれは否定しない。
 生活基盤がなかった俺には、それを得るためには多少なりとも危ない橋を渡ることは必要だったからな。

「仮に、本来の旗手の待遇を受けていたなら普通に生活できていた。だが今のアラタは、今もなお危険な場所や環境に身を置いている」

 いや、ここもだし店もだが、危険な場所じゃねぇんだが。
 危険が比較的近い場所にあることには違いねぇがな。
 それでも、こっちから近づくことがない限り、向こうからやってくるこたぁねぇんだがなぁ。

「未然に防いでることを心掛けてる限り危険はないだろう。だが、思いもかけずに危険な場所に足を踏み入れたり、そんな状態を招くこともある」

 それは……まぁ否定はしねぇけどよ。

「アラタが関わった件の事後、報告を聞くたびに強い後悔と安堵を交互に感じてる。いつもな」
「気にし過ぎじゃね? あ、いつぞやの捕物の時は、来てくれて助かった。けどそれ以外は、俺はほとんどお前を意識したこたぁねぇし」

 ……なんかこう……空気、重くなってきたな。
 茶化す気はねぇが、こいつも深刻になり過ぎなんだよ。

「……先代がアラタにした仕打ちのことはすべて把握している。そしてアラタは、その償い云々は気にしなくていいと言ってくれた」
「あぁ。もうその話は落としどころってのはもう考えつかねえから、俺の方からどうでもいいって投げちまった方が……」
「あの防具は、それとは別の話なんだ。今言ったように、召喚した側の、召喚された者への責務の一つ。我々が果たすべき責任の一つ。アラタに使用し続けてもらうことで、その責務を果たすことになる、と思ってる」

 シアンよぉ……。
 お前、考えすぎだぜ、ホント。
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