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へっぽこ魔術師の女の子編

閑話休題:増える新人冒険者達

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 おにぎりの販売を始めたのは、特別な品質を見分けることができたから。
 いきなり見知らぬ世界に放り出されて、何のチュートリアルもなくてそれでも生活しなきゃならん。
 ともかく、まずは生活費が必要だ。
 そのために金を稼がなきゃならない。
 真っ先に思い浮かんだのは、商売だ。
 けど、俺の味方はヨウミしかいなかった。
 周りは敵だらけ。
 だから、誰かを必要としなきゃできない仕事や商売は、俺には無理だった。
 他の誰かに頼ることなく、自分達だけで金を稼ぐ方法ってば、おにぎり作りと販売だった。
 何かやりたいことなんてあるわきゃなかったし、俺にできることってばそれしかなかった。

 店を構えてからは、ダンジョンとフィールドでの探索のガイドの仕事が加わったな。
 新人冒険者育成を目的とした事業。
 とはいっても、それは俺が何かご立派な志を立てて始めたことじゃなく、利用客は冒険者が多い店の客から頼まれることが多く、俺についてきた魔物の仲間達が店で退屈してた頃だった。
 俺への報酬は受け付けの人件費で、その仕事での俺への月給は子供のお駄賃程度のもの。
 仲間達への報酬はごくまともなもんだったが、それでもあいつらは魔物だから、日本円の価値が分からない奴らが多い。
 が、飯代は必要だし、俺が代わりに必要経費を支払わなきゃならんこともあるから、あいつらも、まぁそれなりの給料をもらってるかたちにはなる。
 今ではその仕事は、冒険者達の集団戦の訓練に変わった。
 受け付けは手伝いに来る奴らに任せるようになったから、俺の収入はもちろんゼロ。
 つまり、お前らが好き勝手に仕事にして儲けで満足してるなら、俺には関係ねぇって感じだ。

 あとは温泉だな。
 タオルの販売とかはやってるが、その販売も手伝いに来た奴にやらせている。
 受け付けはいてもいなくても良さそうなもんだ。
 が、次の仕事が見つかるかもしれないってんで、これも手伝いに来てる奴にやらせてる。
 温泉の始まりは、地下水路が地表に出て、村に水害の被害が出るかもしれないってんで、ダムの役割を果たしてる感じだな。
 ただ、水やお湯を溜めるだけにするよりも、温泉にしてくつろぐ場所にできたらいいんじゃね? ってアイデアを、俺が出した。
 これは俺の完全な気まぐれだ。
 金になりゃうれしいが、そこを俺の仕事にする気はねぇし、入りてぇ奴が入ればいいって感じだし。
 何より勝手に作ったダム……もとい、温泉だ。
 村からクレームくらったら、間違いなく罰則はつくだろう。
 そんなことになったら、俺知らね、で済ませられるように、俺への収入もそこからは出ないことにした。
 洪水の被害が出ないように、村を守った、と言えるかもしれん。
 けど、そんな気はさらさらない。
 水害が起きたら俺の住むところも失うかもしれんってことと、水害を未然に防ぐことができたのに見過ごしたなどと言いがかりを言われることがないようにするためだったからな。
 村を守ったことを温泉の利権を得ることの引き換え条件にしようと思えばできると思う。
 けど、妬みなんかはやっかいなもんだ。
 そこから出た噂を止めようとしても止められるもんじゃねぇ。
 だったら最初から、噂を出さないようにすりゃいいだけだ。
 つまり、温泉の事業を始めたくて作った施設じゃねぇってことだ。

 さて、今現在、新しい起爆剤……地雷? が目の前に転がっている。
 俺の前でたむろしている、二十人から三十人までくらいの人数の新人冒険者どものことだ。
 パーティに誘ってください、仕事を手伝わせてくださいアピールが激しい。
 まぁそれはいいさ。店の迷惑にならなきゃな。
 けど、俺に「あの人達に紹介してください」と縋ってくる奴らも増えてきた。
 あの人達ってのは、即ち、おにぎりを買いに来た経験豊かそうな冒険者達のことだ。
 紹介しても、俺にそのメリットはない。
 これは本音だ。
 というのも、
「アラタさん、そこでごろ寝してるだけじゃん。何もしないなら、俺達のことをあの人達に紹介しろよ」
 って言われた。
 何様だよお前ら。
 あぁ、そうかい。お子様と言いたいだな?
 ……転移前の、俺の職場を思い出すんだよな。
 他の奴らの仕事を頼まれてたはずが、なぜか他の人から仕事を押し付けられて、それが当然って空気になって、命令されるようになっていった。
 あいつらと同類に見えてきた。
 人の立場を見て、いいように振り回したがってるってのが気に食わねぇ。
 が、新人冒険者はみな若いってわけじゃねぇし、若いから新人ってわけでもねぇ。
 まともな思考の奴とそんな奴とでは、明らかに態度が違う。
 だから見極めなら簡単だ。
 簡単に見極めるなら、対応の仕方もそれに応じることも簡単だ。

「こんにちは、アラタさん。相変わらず賑やかね。でも顔ぶれは随分変わったのかしら?」

 久しぶりに聞く声だ。

「お、イールさん、こんにちは。……って、もう昼時か。みんなの注文取りに行かにゃ。相手をする気はねぇが、ゆっくりできるんならゆっくりしていきな。茶なんぞは自分で用意してな」
「アラタさんも相変わらずね。お茶ならおにぎりと一緒に用意してるわよ。行ってらっしゃい」

 新人どもはなおも引き留める。
 が、俺と仲間達の飯の用意の方が、俺には大事なんだよ!
 ※※※※※ ※※※※※

 昼飯の注文を済ませてから昼休みが終わるまで、ずっとフィールドにいた。
 あんなガキどもの相手をさせられるなんざ、神経が疲れる。
 このまま夕方までゴロゴロしてぇんだが……。

「ほらほらアラタ、あの子達の相手してあげな」

 何であんな扱いに困るガキどもを相手にせにゃならんのだ。

「店の周りで何もせずにうろつかれたら、仕事の邪魔だもん。集団戦の受け付けもしなきゃいけないから、その申し込みの最中にどさくさに紛れられても困るのよ」

 それもそうか……。
 腰が重い。
 それでも堪えて店に行くと……。

「あら? 誰もおらん。……イール、あのガキどもどっか行ったのか?」

 いないならいないで喜ばしいことだが、何か災難が起きたり騒動起こされたらかなわん。
 別のところに移動したってんなら俺の知ったこっちゃねぇんだが。

「ん? んー……。アラタさん、困ってたでしょう? ちょっと私があの子達とお話ししたら……何か思うところがあったみたいね。どっかに行っちゃった」
「……そりゃ……助かるが……騒ぎを持ち込まれるようなことがなきゃいいんだが」
「気にしなくていいと思いますよ。あとはあの子ら自身の責任問題。それなりに大人だもの」
「なら……いいけどよ。って……何だこりゃ?」

 新人どもがいなきゃ、掲示板を出しとく必要はない。
 一応綺麗にして仕舞っとこうとしたら……。

「あぁ、あの子達が、自分らで書いた物を綺麗に消していったわよ。片づけるのはアラタさんにお願いしますって」

 ずいぶん礼儀正しい事言うようになったじゃねぇか。
 何があった?

「そ……そうか。イールの取り巻きも来なくなったようだし、俺はようやく平安な午後を迎えられたってわけか」
「ふふ。そうですね。じゃ、私もそろそろお暇させていただきますね」

 ……ここにくつろぎに来る奴が言う言葉だっけ?
 まぁいいけどよ。
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