勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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米からの騒動編

例のブツが行方不明 その1

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「おう、ヨウミちゃん。アラタはいるか?」

 誰だよ。
 人がのんびりとごろ寝してるところによぉ。
 ……足音が聞こえてきた。
 寝たふり寝たふり。

「いてぇ!」
「お客さんよ。とっとと起きろ」

 ハリセン一閃!
 安眠妨害で訴えてやる。
 ヨウミと、俺の名前を呼んだ奴にだ!
 ……って……、こいつ……いや、こいつら……。

「すぐ用事を済ませられる、と思ってたんだがちと手間取って遅れちまった。すまん」

 リースナーがババ引かされたって話を聞いて、いきり立ってリースナーが鑑定と引き取りを頼んだ雑貨屋に出向いた連中だったよな、確か。
 随分と手間がかかったもんだな。
 別にこっちに報告なんかしなくたっていいとも思うんだが……。

「ちと込み入った話になっちまう。あのご婦人……リースナーさんは?」
「温泉でタオル販売業始めた。あの人がいなきゃ話始まらねぇのか?」
「始められなくはねぇが……いた方がいいんじゃねぇか?」

 しょーがねぇな。

「お店ならあたし達だけでも大丈夫だから、行っといで」

 なんだよ、ヨウミのこのおかみ口調は。
 いても邪魔だからどっか行け、って言われてる気分だ。
 なんだかな……。

「あ、そう言えばあのご婦人、息子さんいたよな? 母親と一緒か?」

 そういや、まだ名前聞いてなかったな。
 母親が、特に晩飯に混ざる間柄じゃねぇからあの子供の名前も聞かされてなかったな。

「いや、ドーセンとこで手伝いしてたはずだが」
「俺、呼んでくるわ。あん時あの子供、俺の顔見てたし、多分分かるだろ」
「おう。一足先に温泉の方に行ってるぜ?」

 ※※※※※ ※※※※※

 俺とリースナーと息子、そして報告に来た冒険者達が揃ったタオルの販売所前。
 といっても、温泉の番台と併設したもんだから、座るところには事欠かない。
 さて……。

「まぁ、悪いことはするもんじゃねぇな、との俺達の見解の一致」
「何だよ唐突に」
「リースナーさんが持ってった物な、やっぱりガンジュウの卵だった」
「そう……ですか。……でも、いま私達が欲しい物は、大金じゃなく、定期的にお給料を頂ける仕事です。そしてその欲しい物は……アラタさんから提供していただきました。そればかりじゃなく、一日三度の食事までドーセンさんに用意していただきまして……。今のところ、何の不満もあるどころか、アラタさんとドーセンさんには足を向けられませんよ」

 施設に入れば寝食の保証はある。
 が、食事は一日三度あるかどうか。
 そればかりじゃない。
 母親が子供に自分の食事を分け与えるようなことがあると、他の施設の子供達からいじめが起きるなどのトラブルが発生するんだと。
 だからある意味、母子の縁を切る生活を強いられるらしい。
 ある意味平等にってことなんだろうが……。
 会いたくても、会えるのに会わせてもらえない生活ってのも地獄だろうよ。
 あんなぼろぼろの姿になってまで、二人で生活することに拘ってたのは、そういう事情があったんだな。
 だが、冒険者からの報告の焦点はそこじゃなかった。

「店長のリモト=マルナな、白状させたら、卵を糞と偽って安く買い取る。卵を孵して魔物を誕生させる。卵よりも高い値が付くから、希少種の飼育用の魔物として販売する。濡れ手に粟を狙ってたんだと」
「そうでしたか。でも私にはもう関係のないことですから」
「あぁ、そうだろうな。だが話がそれで終わってたら、の場合だ」

 何だよ。
 また何か起きたのか?

「卵を孵した。魔物が誕生した。そこまでは予想通りだったんだと。……ガンジュウってどんな奴か分かるか?」
「わ、私には……」
「僕、知ってるよ」

 おぉっと。
 久々にガキの声を聞いた気がする。

「亀に似た魔物だって。甲羅が岩みたいになってて頑丈なんだって」
「おう、その通りだ。よく知ってるなー。だが、赤ちゃんの頃から動きがとても速いってのは知ってたか?」
「え? 何それ。知らないよ?」

 素早い亀。
 すっぽんは動きが速いって聞いたことがあるが、亀とは違うよな。

「卵から孵った瞬間からパニック起こしたように走り回って、そのまま店外に脱走。以来行方不明なんだと」

 天網恢恢疎にして漏らさず、か?
 当てはまってるよな?

「損害はどれくらいか分からねぇけど、リースナーさんから買い取った五万円と、卵を孵すための費用で丸っきり損しかしてなかったんだとさ。だからと言って、同情の余地はねぇ。客を困らせて、自分も困った。その客が俺らの身内になる可能性があったんだからよ」

 なんとまぁ。
 脱走したのが動きが素早い魔物なら、誰も追いつかなかったっつーことか。

「……話はそれだけなら、別にここで報告しなくたっていいんだ。いや、報告自体必要はなかったんだよな」
「また何か問題引き起こしたか?」
「何で脱走したか、ってことなんだわ。店内をばたばた走り回って、床に置いてあったものを散らかしてそのまま逃亡、だからな」
「何で……って……野生動物ってことだろ? 野生なら野山に逃げたがるもんじゃねぇの?」

 ……動物に例えるのもどうかと、我ながら思うが。

「リースナーさんよ、あんた、ラッカル村からアースター市に移動したんだよな。どうやって?」
「え? えっと……歩いて、ですが……」
「ガンジュウの卵は?」
「もちろん抱えて。時々リーム……この子ですが、交代しながら、です」

 冒険者らが互いにざわざわし始めた。
 何なんだよ。

「多分それじゃねぇかな?」
「それ?」
「あんたと息子さんが抱えて運んで隣の町へ、だよな?」
「は、はい。それが……?」
「卵の中にいても、感覚はあるらしいんだよな。あんたと息子さんの匂いとか、覚えちゃったんじゃねぇの?」
「え……」

 なんてこったい。
 母を訪ねて幾千里だよおい。

「で、でも……もう二か月は経ちましたよ? 三か月くらいになる……でしょうか」

 生まれて三か月か。
 人間なら……ハイハイできるようになる、か?

「……ガンジュウは珍しい種族だが、滅多に見ることはねぇってわけじゃねぇ。資料も割と多い。生後三か月のガンジュウっつったら……アラタんとこのスライム? しょっちゅう大きさが変わるよな? 大きくなったり小さくなったり」
「あ? あぁ、まぁ、な」

 ライムの体の変化の理由には、いろんな事情がある。
 察しろ。

「一番大きいときの大きさと同じくらいかそれより少し大きいか、そんな感じかな?」
「あぁ、それくらいだと思うぜ? しかも頑丈だし大人になっても動きが速いから、他の魔物や動物に襲われたって逃げ切れるだろうし潰されることもねぇな。とんでもないどでかいドラゴンと鉢合わせでもしねぇ限りな」

 こっちの勝手な妄想をするなら、だ。
 三か月間親代わりになってくれたこの二人を探してさ迷い歩いてるところ、か?
 不憫、としか言いようがねぇ。

「ちょい待った。底なし沼に嵌ったらどうなんだ? 絶命するんじゃねえの?」
「崖から飛び降りたら、落下速度が遅かった。それだけのことだ。肺活量だってかなりある。走りこそすれ、飛んで歩くこたぁねぇから、沼の淵から離れるこたぁねぇと思うぞ? 手足の爪もがっしりしてるから、せりあがった崖だって登れるはずだ」

 タフだね、どうも。
 じゃあその三か月間、とにかくこの二人を探し回ってたのかもしれねぇってことか。
 いや、待て待て。
 飲まず食わずで動けるはずがねぇよな?

「……ガンジュウとやらは……何食って生きてるんだ? 人間とか他の魔物とかだったら……」

 町に襲い掛かる怪獣、なんて特撮物を暢気に想像してる場合じゃねぇぞ?
 今までの話まとめたら、呼吸困難で絶命する可能性はあるが、動きが速いから捕まえづらい。叩こうが殴ろうがダメージは食らわない。肺活量はある。垂直よりもきつい角度でも登って移動できる。
 手に負えねぇじゃねぇか!
 せいぜいトラばさみとかとりもちみたいなトラップを仕掛けるぐれぇしか思い浮かばねぇんだけど?

「どちらかと言ったら草食か? 野菜穀物果実に山菜。人や動物、魔物に噛みつくことはあるらしいが、肉食、雑食じゃなさそうだ」

 ほっ……。
 村民どころか、仲間が被害に遭うってことまでないのなら……ほんと、一安心ってとこだな。
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