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王宮動乱編

アラタの、新たな事業? その8

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「おにぎり食わせて喜んでもらえるってのは、まぁ……うれしいってばうれしいが……どんな食生活送ってんだ?」
「お昼ご飯は、なしだよね……」
「朝ご飯と晩ご飯だけ……」

 体に傷跡がついてはなさそうだった。
 物理的な虐待はないように見えるが、飯を三度食わせてもらえない、というのは……。
 何かするにも金はかかるよな。
 硬貨、紙幣が流通してるんだ。
 金がなきゃ何もできないわけだしな。
 こいつらがいる施設にこういうガキどもが何人いるか分からんが、家族が健在なら大黒柱はいる。
 大黒柱何人分の人数を、その施設は引き受けているかってことになる。
 こいつらの平穏な時代と変わらないくらい、その施設は稼いでいるか。
 稼いでないだろ。
 健全な経理をしてるんだったら、シアンが俺にこの相談を持ち掛けちゃ来ないはずだ。
 一番手っ取り早ぇのは、テメェの生活費はテメェで稼いでみろって方法だよな。
 簡単に言えば、自立だ。
 住まいは施設に頼っていいがそれ以外は自活しろ、と。
 いつまでも住まいを使わせていられないから、少しずつその努力をしてみろ、と。
 ……まぁ俺の妄想の先走り過ぎかも分からんがな。
 余計なおせっかいもしたくはねぇし。

「お前らの食生活なんざ興味はねぇ。けど午後もおにぎり作りはさせる。空腹のままだと仕事にならんこともある。食える分だけ食っとけ……って、言い終わる前に本気食いかよっ」
「えっと……アラタさん……」
「あ? 何だよ」

 ガキの一人が俺を見た。
 ここに来て初めて顔を見られたような気がする。

「あの……おにぎり……」
「あ? あ、あぁ……食いきったのか。ちょっと待ってろ」

 貯蔵庫の中のおにぎりのストックも大分回復したな。
 収容物が劣化しないってのは、ほんとに助かる機能だわ。

「具入りのおにぎりだ。中に何が入ってるかは食ってからの……って、言い終わってから手を伸ばせよな……」

 俺の話を聞いちゃいねぇ。
 わき目も振らず、おにぎりとおかずをパクつくガキども。
 それはこっちだけの話じゃねぇ。
 ヨウミのグループも同じような感じっぽい。
 その組で唯一の大人の女は、それなりに落ち着いちゃいるが……。
 こいつらが満腹になって落ち着くまでは、しばらく様子見だな。
 ……と思ってたんだが。
 すっかり忘れてた。
 俺も……まぁこいつ等よりも幼い幼稚園時代。
 昼寝の時間があったんだよな。
 貯蔵庫から持ち出したおにぎり何個かと、ドーセンとこから買ってきたおかずの何個かを残して、全員そのままおねんねときたもんだ。

「そっちも寝ちゃった?」
「あぁ。番台組は……」
「同じような感じだった。大人の方も、ちょっとうとうとしてたから毛布かけてあげた」

 予め、ヨウミに温泉の番台組におにぎりとおかずを持って行くことを頼んでた。

「そっちの女は?」
「寝てるよ。でも、言い方……」

 間違ってないだろー?
 子供の性別は男の子女の子だもんよ。
 大人だったら男、女でいいじゃねぇか。
 ま、いずれ、少しくらい休憩時間挟んでも問題ねぇな。
 けど温泉客は時間問わずにやってくるだろうから、そっちに顔出してみるか。

 ※※※※※ ※※※※※

 目が覚めたガキどもは、思いっきり挙動不審。

「ご、ごめんなさいっ」

 何がごめんなさいなんだ?

「休んだ後は元気が出たろ? こっちの仕事の時間が終わるまで、もうひと踏ん張りしてくれや。ほいじゃ番台は頼むぜ?」
「は、はいっ」

 腹いっぱいになってすぐに寝て。
 目が覚めたら元気が出たか。
 ま、こいつらの働きで儲けが出るたぁ思ってねぇし期待もしてねぇし。
 ミスさえしなきゃ問題ねぇよ。
 で、受け付け組とおにぎり組はどうなったかなー。

「お帰り。そっちはどうだった? こっちは……」
「ご、ごめんなさいっ」

 ガキどもがおどおどしてる。
 何かあったんか?
 まぁいいけどよ。

「閉店時間までおにぎり作りの練習な。夜は迎えが来るんだっけ? 明日も来るなら同じことするから。同じことしてりゃ、初めての体験でも覚えやすくなるし身につきやすくもなるだろ」
「うん!」
「はいっ!」
「よろしくお願いしますっ」

 大人の方からは礼儀正しい返事がきた。
 ガキどもの方は……。
 反抗してくるガキは嫌いだが、素直なガキも、何となく不気味な感じがするな……。
 いや、不気味さが漂ってるって感じじゃなくてだな……。
 まぁ、個人的な感情、だな、うん。
 ま、それはさておき、午後の仕事もきっちり頑張るか。

 ※※※※※ ※※※※※

 手伝いに来た連中の飯の心配はしてたが、結局こっちで食ったのは昼飯のみ。
 そりゃあそうか。
 朝と晩は普段の生活の場で食えるらしいからな。
 で、こっちも晩飯の時間。
「ヨウミ、お疲れさん。お前らも久々の集団戦で疲れたろ」
「お疲れ。アラタもね。みんなはどうだった?」
「のんびりするのもいいけど、集団戦も楽しいよね」
「いい汗かいたぞお」
「汗ってば、ンーゴも汗かくの?」
「ドウダロ? イツモハチカニイルカラ、ツチニマミレテルクライシカワカラン」

 ようやく気が休まる時間だな。
 誰かに、しかも大勢に何かを教えるっていうのは気を遣うもんだが、それ以外はようやく普段の日常が戻ってきたって感じ……。

「あれ? 通話機鳴ってない?」
「私のじゃないですね。……アラタさんかな?」
「あ? 俺かよ。……はい……って……」

 俺の通話機に連絡してくる奴ってば、こりゃあもう一人しか当てはまらん。

『やあ、アラタ。今日は世話になった。どうだった?』

 言わずと知れた、シアンだった。

「夜を待たずにぐっすり眠りたくなるほど疲れた一日だった。というわけでおやすみ」
『ははは。返事が予想を上回って、実に楽しいよ。アラタとの会話は』
「俺を娯楽扱いすんじゃねぇよ。ところで、何てんだ? あーゆー連中が一緒に生活する施設?」
『一般的には生活支援宿泊施設だが……何かあったのか?』

 同にも気になることは伝えなきゃなるめぇよ。
 食い盛り育ち盛りのガキどもに、一日二食は、付き添いが面倒に思える俺ですら気の毒に思える。

『あぁ……そのことか。……経営がな。要は収入源だ。国政から予算をもらってるかたちだが……。何とかしてやりたいのはやまやまだがな』
「……怪我の痕とかがなかったから、それはないかと思ったが……改めて聞くが、虐待とかは」
『それはない。頻繁に調査をしてる。正直に言えたら王宮での豪華な生活が待ってるぞ、なんて唆しても、ひどい目に遭わされてるって話は出てこなかった。ただ、食事の量に不満の声が上がってるのは確認済みだ』

 どんな唆し方だよ。
 どこかの職人に弟子入りさせて、住み込みにしちまえば飯の心配はねぇと思うんだがなぁ。
 まぁ俺が心配する立場でもねぇか。

『とりあえず、一か月の間、何とか頼む』
「引き受けちまったことだからな。連中を追い出すようなこたぁしねぇよ。もっとも教えることがなくなったら追い出すかもしれんけどよ」
『その時には、どこかで仕事を見つけられるようにはなる、か。そういう結末なら喜ばしいことだね。引き続き、よろしく頼むよ』

 ……連中、半日ですべての仕事を身に付いたら、俺は楽できるってことだよな。
 ……ないな、ない。うん。
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