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店の日常編

その人への思い込みを俺に押し付けるな その3

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「アラタにモテ期到来ねー」
「マッキーさん、あんまり冷やかすのは良くないですよ」

 周りが騒がしい。
 この女三人組にも、周りにも付き合ってられるか。
 こっちはこれから、米一粒一粒を選別する作業があるんだ。

「ライム、米採りに行くぞ。残りはいつも通り留守番なー」
「ハーイ」
「え? あ……うん。行ってらっしゃい」

 すぐに反応したライムは問題ないが、ヨウミは気の抜けた返事だな。ま、いいけどさ。

「え? わ、私も行きます!」
「わ、私もっ」
「お供しますっ」

 あの三人が何か言ってるが、どうでもいいわ。
 まず間違いなく手伝いをしてくれねぇだろうしな。
 ということは、今日の米運びの力になってくれるはライムだけ。
 だから米袋三つで精いっぱい。
 荷物をあんまり重くすると、ライムがへたばりそうだしな。

 ※※※※※ ※※※※※

 しかしあの三人、俺のファンクラブ会員になったとか言いながら、十分も付き合えなかったんじゃねぇか?
 そう考えると、よくもまぁ紅丸の奴はずっと付き合えたもんだ。
 ま、目当てが俺じゃねぇみたいだから当然か。
 米の選別作業にも、まるで関心を示さなかったし。

「ただいまっと。ライム、もうちょっと頑張ってくれるか?」
「アラタノヘヤノマエマデダネ? ヘイキヘイキ」

 ヨウミ、クリマー、マッキー、コーティからのお帰りの言葉は普通に聞けた。
 だがその後だ。

「あの綺麗な三人、また明日来るそうですよ?」
「アラタのファンクラブに入ってるのに、最後まで付き合わなかったんだね」

 不思議そうに俺を見ても、何のネタも出てこんぞ?

「ファンクラブなんて、別にあってもなくてもどうでもいい。まぁ作業の邪魔をしなかっただけ偉いかな」
「偉いんだ……。なんてネガティブ」
「アラタの普段通りじゃない。ま、よその人が見ても理解できない仕事は、見てるだけでも退屈するもんよ。いくらその人と一緒にいたいと言っても、会話の話題すらあげられなきゃね」

 コーティにちょっと安心した。
 毒舌は俺にだけ向けられてるもんじゃないらしい。

「選別なら俺にしかできねぇことだけどさ。洗米なら誰でもできるから、善意があるなら手伝ってもらっても構わねぇんだけどな。ま、その気はない連中ってことだわな」

 あの三人の話は、声に出すことすら面倒くせぇ。
 嫌いって訳じゃねぇが、喋らず、動かずにいたら美術品以上には価値はある、とは思う。

「アラタは、まともに相手できないことを改めて知ったんじゃない? ファンクラブ抜けるかもねー」
「でも明日も来るって言ってましたよ? アラタさんを、ただ見たいってだけなんじゃ……」
「クリマー、それ、割とアラタにひどいこと言ってくない?」
「え? ヨウミさん、どこがですか?」

 なんか、また俺をネタにグダグダな会話してるな。

「ほれ、お前ら。そろそろ昼飯だろ? 注文まとめとけ。その間、米びつに入れてくるからよ」

 ※※※※※ ※※※※※

 ダンジョンに入る前に店に寄り、買い物をする冒険者は多い。
 だがその際、わざわざ俺らに、ダンジョンに行ってきます、と挨拶をする奴らもいる。
 大概それで終わるんだが、わざわざただいまを言いに来る奴らもいる。
 もちろんごく一部。
 しかも共通点がしっかりとある。
 その共通点は、俺ら以外には見当もつかないってのが、これまた厄介だ。
 何が厄介ってなぁ……。

「ただいま戻りました」
「いい運動になったぜ」
「いい場所を紹介してもらったわね、グリプス」
「あぁ、みんなにも教えてやろうぜ、レーカ」

 シアンの親衛隊の面々だ。
 おそらくこの国で、絶大な権力を持ってる者の護衛担当。
 シアン自身にもだが、密接な関係にある連中も厄介だよな。

「おかえりなさーい」
「はい、ただいま戻りました。えーと、クリマー殿、でしたね」
「殿……って言われるのも、なんか新鮮ですねぇ」

 ただいまと言われりゃ、ついそう答えちまうか。
 まさか帰ってくるな、なんて言えるわけもねぇしな。

「おぅ、お帰り……って、教えるはいいが一々こっちに来て生還の報告しなくていいんだっての。監視員でも何でもねぇんだからよ。……みんなに、って、そっちは全員で何人っつったっけ?」
「十人で結成されている。殿下の警護は、常時七人以上だ」

 つまり、非番は最大三人。
 非番の全員がここにいるってわけか。
 って言うか……。

「聞いた俺がこんな事言うのもどうかと思うが、それって割と重要事項なんじゃねぇの?」
「あれ? まぁ重要ってば重要かしら?」

 頼りねぇなぁ、おい。

「ま、殿下の身の安全さえしっかりできりゃ、何の問題もないな」

 おいお前。
 初めてここに来たお前。
 いきなりんな単語口にすんじゃねぇよ。

「殿下、なんて言葉、この国じゃ王族、王家関連しか該当しねぇんじゃねぇか?」
「ん? あぁ、まぁ、そうかもな」
「……そこら辺、ちょっと表現控えるか慎んでもらえねぇか? 今んとこ俺らしか人はいねぇけど、ほかの客の前でんな事言われたら、客全員どん引くぜ?」
「聞かれたらまずい事?」
「まずいってお前……。王家関連の者が立ち寄る場所、なんて知れたら、テロの標的になりかねねぇ」

 テロの標的ってばちと大げさか?
 けど、シアンは何度も足を運んでるし、これからも立ち寄ったりすることもあるだろうし。

「俺も口が軽かったが、極秘事項にしとかねぇとあんたらも立場上ヤバいことになっちまうんじゃねぇか?」
「まぁ……それもそうですね。気をつけましょう」

 護衛の戦力がこんなんで大丈夫かね。
 大丈夫だとしても、あいつの苦悩を打ち明けられる対象にはならんわな。

「ところで、明日も地下に潜ろうと思うんだが」

 グリプスっつったっけか。
 鍛錬に余念がないって姿勢は、見てて頼もしいんだが。

「同じ面子でか?」
「いや、私は明日は護衛の当番です。この二人と……夜盗確保のときに来た仲間の一人の三人になりますね」

 あん時は暗かったし、どんな顔かとかどんな格好かまでは覚えてねぇな。
 今もこの三人はばらばらの装備だしな。
 いや……よく見ると、同じマークが付けられてる。
 メーカーのロゴか何かか?
 そう言えば、鎧とかのメーカー名も知らねぇなぁ。
 テレビ……じゃなかった。受映機だっけか。
 あれで見るコマーシャルも、しっかり見たりすることねぇし、そもそもアレに夢中になって見る機会自体少ねぇし、見たとしても短い時間だし。
 覚えといて損はないんだろうが……。

「じゃあまた明日、世話になるぜ、アラタ殿」
「失礼しますね、みなさん」
「あー、はいはい。お休み」

 お休みと言うには、晩ご飯の注文する時間にもまだ早いんだから、かなり時間は早すぎるが、まぁいっか。
 しかし……あの三人の体の表面をよく見ると、生傷がどこにもないな。
 まぁ見送る後ろ姿に限ってだが。
 鍛錬になった、とも言ってた。
 魔物と戦闘した上で無傷……。
 ほんとに強ぇんだなぁ……。
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