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店の日常編
緩衝材なんて真っ平ご免 その10
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魔物と見るや、その種族を問わず刃を向ける者がいる。
その理屈を振り回し、荒れる気持ちをそのままにそれを推し通している中、どんな立場の物であれ魔物とあらば倒そうとする者がいる。
その理屈は誰から見ても正しいのに、それを取り下げ、心静かに毎日を過ごそうとする者がいる。
縁起が悪いから、という理由だけで、その魔物を無理やりでも追い出そうとする者もいる。
そんな言い習わしを一向に気にせず、一緒に遊びたがる者もいる。
……一部だが、冒険者の考え方や依頼のことなどは改めて知ることができた。
だが、それさえもひとくくりにして解釈することは難しい。
店に来る冒険者達だって、中には魔物を怖がる者もいたりする。
そんな冒険者らを初めて見た時は、流石の俺も苦笑いものだった。
今でもそんな冒険者達を見ることはあるが、話を聞けば納得だ。
この仕事を始めたばかりだってんだから、そりゃ流石に笑うのは可哀想だ。
それに、そんな冒険者達の為に始めた店だしな。
「はい、会計は全部で五百と……」
「五百五十円よ。はい、次の方ー」
単純計算なら俺も普通にできる。
だが、並んでる客達の様子を伺ったり、サミーやライムと遊びにやってくる子供らのことも気にする必要もあるし、何だかんだと毎日が騒がしい。
あれこれと気をとられながらの暗算の計算をすぐに終わらせるのはなかなかきつい。
とりあえず今のところ、その闇の仕事人とやららしき者は来た様子はない。
行列が並ぶ会計は俺らには正に戦場だが、全体の雰囲気はのほほんとしたものだ。
俺ものんびりさせてもらいたい。
「あ、イールさん。今日もおにぎり二個に飲み物ですか?」
「こんにちは。今日も大変そうですね。はい、昆布と梅、それにお茶を。……アラタさん、ありがとうございます」
「んぁ? 何かしたっけ?」
「えぇ。ベンチ、作ってくださったんですね?」
空き時間を使って、簡単な木製の長椅子を作った。
といっても、木の板に足をつけただけ。
イールの真似をしたわけじゃないだろうが、敷物を敷いてそこらでおにぎりを食う奴も増えてきた。
それだけなら気にしねぇんだが、行列の邪魔になることもある。
俺らも暇なときは、それに座って日向ぼっこくらいはしてぇしな。
「別にあんたのために作ったわけじゃねぇよ。俺らも使うし、気にすんな」
彼女もすっかり常連の一人。
となれば、名前でさん付けってのも何となく、な。
「でも、お陰でいいお昼時間を過ごせそうです。ありがとうございます。あ、五百五十円ですね? はい」
終始にこやかな顔。
ま、気持ちよく過ごしてもらえるのならそれに越したことはないけどな。
※※※※※ ※※※※※
「ふぅ……。そろそろ俺らも昼飯の時間か? 注文はどうする?」
「今日はフィールド組にお手伝いしてほしいって人がいたから、マッキーとテンちゃんはそっちに行ったね。テンちゃんはバイト休みにしたって言ってたけど、結構働き者ね」
基本あいつは真面目だからな。
ただ、ちょっとばかしおバカなだけ。
「モーナーもいないと。となると、ここには俺とお前とクリマーとライム、それからサミー……は?」
「子供達と遊んでたけど、子供達もお昼ご飯だから帰っていったから……ってあれ?」
「サミーちゃんって……この子?」
気配を感じ取る前に、イールの声が聞こえた。
サミーは、おにぎりを食べた後もベンチに坐っていたイールのそばにいた。
「あ、遊び相手になってもらってたの? 休んでる人の邪魔しないのっ」
「いえ、いいんです。私も癒されますから。ねっ。えっと、サミーちゃん?」
「ミィ」
サミーの奴、綺麗な女性相手なら優しくポンポンと両腕で叩きやがって。
俺には力込めて叩く癖に。
……なんかこう、計算高くなってきてねぇか? こいつ。
ライムも、マッキーの弓術の連中に付き添ってるせいで、体のサイズがだんだん小さくなってきてるし。
あざとい奴が増えてきたような気がする。
「あの……この子……」
「呼び捨てでいいよ、そんなの」
「ミッ!」
ぞんざいに扱われたのも分かるらしい。
賢くなってきてやがんなぁ。
「あは……。この子、魔物の種族……魚じゃないですよね」
……この人に気を遣ったわけじゃないが、故意に人の気を荒くする趣味もない。
言わずに済むなら言わなくても問題ないことでもあるはずだったんだが……。
「ギョリュウ族……魚の姿をした竜族だ。親は卵を産む。次の世代の為にな。だがその卵を狙う魔物もいるんだとか」
こないだの講義でも話題が上がったな。
魔物が魔物を狙う、と。
弱肉強食もそれに含まれるんだな。
だがそんな魔物の間には、取り交わされる約束などあるはずもなし。
食わなきゃ自分が死ぬだけだからな。
「わざと狙わせる卵も産むらしい。その卵を狙った魔物は、時々親の魔物に仕留められるんだとか。あるいは追跡する途中で、その卵を落としてしまうこともあるんだと」
「……まるで捨て子ですね。捨て子になる運命を背負った卵、ですか」
「この近くで落ちてたから、親元に戻そうと、無理してみた」
「え?! ……竜族の元に、ですか?!」
まぁ……普通は驚くか。
ましてや、恋人を竜族に殺されたこの人なら。
サミーは知ってか知らずかイールにしばらく付きまとった後、低空飛行でどこかに飛んでった。
※※※※※ ※※※※※
「……そういう経緯でしたか」
「人も魔物も、いろんな経験を積んでる。それは必ずしも歓迎されるとは限らない。……あんたの悲しい気持ちを呼び起こすのもどうかと思ったし、種族の名前なんて関係ないだろうし。ただ俺らは、種族名の情報が真っ先に入って来たってこともあったし、育成の仕方も知らなかったから、その手掛かりを得るためってこともあったがな」
この人一人来なくなったところで、店の経営が立ち行かなくなることはない。
が、ここに来ることで気持ちが休まるってんなら、迷惑行為をしない限りは別に構いやしない。
ただ、不快な思いをさせる気もないし、そんな意地悪めいたことをする気もない。
要は、悪気があって黙ってたわけじゃねぇんだけども。
「……随分子供達と仲がいいんですね。サミーちゃん」
ちゃん付け決定かなぁ。
「まぁいろいろあってな。けどあんたにも随分懐いてるな。ちなみに生まれて……半年経ってなかったか?」
「え?! そうなんですか?! あ、でも竜族って大概大きいから……まだ子供なんですね。この先何年生きれるんだろ」
想像もつかん。
俺が死ぬ頃もまだ子供だったりしてなぁ。
「でも……ただのおにぎりを売ってる店なのに……楽しいところですね、ここ」
へ?
楽しい?
……まぁ……見た目バラエティに富んだ魔物がうじゃうじゃいるからなぁ。
客なら、見るだけでも飽きないかもしれんな。
「アラター。あれ? まだお話ししてたの?」
「え? あ、すいません。長々とお話ししちゃって」
え?
ヨウミ達、いつの間にかどっかに行ってたらしい。
何してたんんだ?
「また……お邪魔しますね。有り難うございました」
深々とお辞儀をするってのも、何つーか……礼儀正しいな。
「いえいえー。いつでも来てくださいね」
「マタネー」
クリマー達に見送られながら、イールは店から去って一た。
俺の店が楽しい、か。
言われたことなかったよな。
せいぜい便利屋扱いだった。
……もうかなり前の話になっちまったが、まだ時々思い出してしまう。
イールみたいに、過去の物として流していけたら、これほど気が楽になることはないと思うんだが……。
「ねぇ、アラタ」
「……ん? どうした?」
「アラタ、今日……お昼抜きねっ」
……え?
あ……。
あぁっ。
長話して、時間たつの忘れてた!
……前言撤回!
迷惑千万だあの女っ!
その理屈を振り回し、荒れる気持ちをそのままにそれを推し通している中、どんな立場の物であれ魔物とあらば倒そうとする者がいる。
その理屈は誰から見ても正しいのに、それを取り下げ、心静かに毎日を過ごそうとする者がいる。
縁起が悪いから、という理由だけで、その魔物を無理やりでも追い出そうとする者もいる。
そんな言い習わしを一向に気にせず、一緒に遊びたがる者もいる。
……一部だが、冒険者の考え方や依頼のことなどは改めて知ることができた。
だが、それさえもひとくくりにして解釈することは難しい。
店に来る冒険者達だって、中には魔物を怖がる者もいたりする。
そんな冒険者らを初めて見た時は、流石の俺も苦笑いものだった。
今でもそんな冒険者達を見ることはあるが、話を聞けば納得だ。
この仕事を始めたばかりだってんだから、そりゃ流石に笑うのは可哀想だ。
それに、そんな冒険者達の為に始めた店だしな。
「はい、会計は全部で五百と……」
「五百五十円よ。はい、次の方ー」
単純計算なら俺も普通にできる。
だが、並んでる客達の様子を伺ったり、サミーやライムと遊びにやってくる子供らのことも気にする必要もあるし、何だかんだと毎日が騒がしい。
あれこれと気をとられながらの暗算の計算をすぐに終わらせるのはなかなかきつい。
とりあえず今のところ、その闇の仕事人とやららしき者は来た様子はない。
行列が並ぶ会計は俺らには正に戦場だが、全体の雰囲気はのほほんとしたものだ。
俺ものんびりさせてもらいたい。
「あ、イールさん。今日もおにぎり二個に飲み物ですか?」
「こんにちは。今日も大変そうですね。はい、昆布と梅、それにお茶を。……アラタさん、ありがとうございます」
「んぁ? 何かしたっけ?」
「えぇ。ベンチ、作ってくださったんですね?」
空き時間を使って、簡単な木製の長椅子を作った。
といっても、木の板に足をつけただけ。
イールの真似をしたわけじゃないだろうが、敷物を敷いてそこらでおにぎりを食う奴も増えてきた。
それだけなら気にしねぇんだが、行列の邪魔になることもある。
俺らも暇なときは、それに座って日向ぼっこくらいはしてぇしな。
「別にあんたのために作ったわけじゃねぇよ。俺らも使うし、気にすんな」
彼女もすっかり常連の一人。
となれば、名前でさん付けってのも何となく、な。
「でも、お陰でいいお昼時間を過ごせそうです。ありがとうございます。あ、五百五十円ですね? はい」
終始にこやかな顔。
ま、気持ちよく過ごしてもらえるのならそれに越したことはないけどな。
※※※※※ ※※※※※
「ふぅ……。そろそろ俺らも昼飯の時間か? 注文はどうする?」
「今日はフィールド組にお手伝いしてほしいって人がいたから、マッキーとテンちゃんはそっちに行ったね。テンちゃんはバイト休みにしたって言ってたけど、結構働き者ね」
基本あいつは真面目だからな。
ただ、ちょっとばかしおバカなだけ。
「モーナーもいないと。となると、ここには俺とお前とクリマーとライム、それからサミー……は?」
「子供達と遊んでたけど、子供達もお昼ご飯だから帰っていったから……ってあれ?」
「サミーちゃんって……この子?」
気配を感じ取る前に、イールの声が聞こえた。
サミーは、おにぎりを食べた後もベンチに坐っていたイールのそばにいた。
「あ、遊び相手になってもらってたの? 休んでる人の邪魔しないのっ」
「いえ、いいんです。私も癒されますから。ねっ。えっと、サミーちゃん?」
「ミィ」
サミーの奴、綺麗な女性相手なら優しくポンポンと両腕で叩きやがって。
俺には力込めて叩く癖に。
……なんかこう、計算高くなってきてねぇか? こいつ。
ライムも、マッキーの弓術の連中に付き添ってるせいで、体のサイズがだんだん小さくなってきてるし。
あざとい奴が増えてきたような気がする。
「あの……この子……」
「呼び捨てでいいよ、そんなの」
「ミッ!」
ぞんざいに扱われたのも分かるらしい。
賢くなってきてやがんなぁ。
「あは……。この子、魔物の種族……魚じゃないですよね」
……この人に気を遣ったわけじゃないが、故意に人の気を荒くする趣味もない。
言わずに済むなら言わなくても問題ないことでもあるはずだったんだが……。
「ギョリュウ族……魚の姿をした竜族だ。親は卵を産む。次の世代の為にな。だがその卵を狙う魔物もいるんだとか」
こないだの講義でも話題が上がったな。
魔物が魔物を狙う、と。
弱肉強食もそれに含まれるんだな。
だがそんな魔物の間には、取り交わされる約束などあるはずもなし。
食わなきゃ自分が死ぬだけだからな。
「わざと狙わせる卵も産むらしい。その卵を狙った魔物は、時々親の魔物に仕留められるんだとか。あるいは追跡する途中で、その卵を落としてしまうこともあるんだと」
「……まるで捨て子ですね。捨て子になる運命を背負った卵、ですか」
「この近くで落ちてたから、親元に戻そうと、無理してみた」
「え?! ……竜族の元に、ですか?!」
まぁ……普通は驚くか。
ましてや、恋人を竜族に殺されたこの人なら。
サミーは知ってか知らずかイールにしばらく付きまとった後、低空飛行でどこかに飛んでった。
※※※※※ ※※※※※
「……そういう経緯でしたか」
「人も魔物も、いろんな経験を積んでる。それは必ずしも歓迎されるとは限らない。……あんたの悲しい気持ちを呼び起こすのもどうかと思ったし、種族の名前なんて関係ないだろうし。ただ俺らは、種族名の情報が真っ先に入って来たってこともあったし、育成の仕方も知らなかったから、その手掛かりを得るためってこともあったがな」
この人一人来なくなったところで、店の経営が立ち行かなくなることはない。
が、ここに来ることで気持ちが休まるってんなら、迷惑行為をしない限りは別に構いやしない。
ただ、不快な思いをさせる気もないし、そんな意地悪めいたことをする気もない。
要は、悪気があって黙ってたわけじゃねぇんだけども。
「……随分子供達と仲がいいんですね。サミーちゃん」
ちゃん付け決定かなぁ。
「まぁいろいろあってな。けどあんたにも随分懐いてるな。ちなみに生まれて……半年経ってなかったか?」
「え?! そうなんですか?! あ、でも竜族って大概大きいから……まだ子供なんですね。この先何年生きれるんだろ」
想像もつかん。
俺が死ぬ頃もまだ子供だったりしてなぁ。
「でも……ただのおにぎりを売ってる店なのに……楽しいところですね、ここ」
へ?
楽しい?
……まぁ……見た目バラエティに富んだ魔物がうじゃうじゃいるからなぁ。
客なら、見るだけでも飽きないかもしれんな。
「アラター。あれ? まだお話ししてたの?」
「え? あ、すいません。長々とお話ししちゃって」
え?
ヨウミ達、いつの間にかどっかに行ってたらしい。
何してたんんだ?
「また……お邪魔しますね。有り難うございました」
深々とお辞儀をするってのも、何つーか……礼儀正しいな。
「いえいえー。いつでも来てくださいね」
「マタネー」
クリマー達に見送られながら、イールは店から去って一た。
俺の店が楽しい、か。
言われたことなかったよな。
せいぜい便利屋扱いだった。
……もうかなり前の話になっちまったが、まだ時々思い出してしまう。
イールみたいに、過去の物として流していけたら、これほど気が楽になることはないと思うんだが……。
「ねぇ、アラタ」
「……ん? どうした?」
「アラタ、今日……お昼抜きねっ」
……え?
あ……。
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長話して、時間たつの忘れてた!
……前言撤回!
迷惑千万だあの女っ!
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