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店の日常編

緩衝材なんて真っ平ご免 その7

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 女性の顔に傷をつけるようなことはすべきではない、などとはよく聞く話だ。
 だがこの女性、額、両頬、鼻と、とにかくいろんな所に傷を負ってる。
 蔦によってできたものじゃあなさそうだ。
 傷、というか、傷跡か。
 ケガをしたのはかなり昔の事って感じだ。
 蔦が皮膚を圧迫して、その跡が残っているが、その傷はどこにもなさそうだ。

「……聞きたいことが色々あって、どこから聞いたらいいのやら」

 聞きたいことと聞かなきゃならないことは必ずしも一致しねぇからな。
 まず……危害を加えようとする相手は誰かってことか?

「貴様……人間のくせに、人に仇なす魔物の主としてふんぞり返っているとは……人間の風上にも置けぬ奴め!」

 ……なんか大層な事言われたぞ?
 主……ってなぁ……。
 それに、人間の風上にも置けない、なんて、小説、漫画、ドラマ、映画の中でしか聞いたことがないぞ?
 リアルに言われるとは思わなかった。

「……どこのどなたか存じませんがね、あんた、ここに何しに来たの?」

 ンーゴが、命を狙われたっつってたな。
 んでそいつが俺に暴言……とは違うな。
 憎まれ口?
 まぁ身動きできないんだから、できることと言えばそんなことを吐くくらいか。

「敵を討ちに来た! 当たり前だろう!」

 こいつもこいつで、自分の分かっていることは誰もが知ってるっていう妄想に浸かってやがんなあ。

「終始これ一辺倒だったや。どないする?」
「どないするも何も……どうしよう?」

 刃物を振りかぶって襲いかかってきたという。
 この世界、冒険者ってのも普通に職業として存在する。
 彼らだってでかい刃物や鈍器を携えて、そこら辺をうろうろしてる。
 ましてやここは、人を襲う魔物の行動範囲のギリギリ外。
 俺やヨウミ、村人達を守るための行動と言われたら、それを否定しようがない。
 保安官に引き渡したところで、即釈放。
 もしくは、こっちの言い分も聞いてもらえたところで、こいつにちょっと説教して釈放、だろうなぁ。

「どうしようって、何頼りないこと言ってんの! ねぇちょっと! あたしはともかくあんたの仇がンーゴってことっ? ンーゴがいつどこにあんたに何をしたってのよ!」

 コーティのこんな気丈な性格は、こういう時は有り難いな。
 けど、そんな風に振る舞える根拠はどこにあるんだか。

「あたしの……っ……。あたしの……村が……五百人くらいの村だったけど……。村人のほとんどが……そいつに食い殺されたっ! 生きたままな!」

 こっちを睨んだ目から涙が流れてる。
 思ったより残酷な話だった。
 けどンーゴは、聞くたびごとに言ってたな。

「イキタママ?」
「あぁ! あのワームは、村の中で暴れながら、近くにいた村人達を手あたり次第……っ」
「……ヨククエタナ、ソイツ」
「あぁ?! 他人事のようによく言えたものだ!」
「ニンゲンダロ? シタイナラタベタコトアルガ、マズカッタ」
「貴様ああぁ!」
「ダカラ、イキタニンゲン……ヒトハ、ムリシテタベタイトハオモワン」
「何っ?!」

 ンーゴには人間とかエルフとかドワーフとかのような顔はない。
 が、その口調は実にのんびりしたもんだ。
 そしてその言葉に、蔦に囚われる女は激高。
 しかも微妙に会話がずれている。

「あー……っと、お嬢さん。まず、あんたの身の上についてはお気の毒としか言いようがない。これ以上不幸なこともないとも思う」

 いや、憎悪がこもった目で睨まれてもな。

「で、当然その魔物に恨み憎しみしかないってのも分かるし、その思いを晴らしたいというのも分かる。あ、感情を理解するというよりも、物事の流れ的な意味でな」
「ならば」
「ただ、その思いを晴らす相手はこいつってところには異議を申し立てた……」
「貴様にッ! この思いが分かってたまるかっ!」

 何と言いますか……。
 自分に正当な理由がありゃ何でも許される、みたいな感じだなこりゃ。

「ここ数日、ずっとお前らのことを観察していた」

 やはり俺が感じていた気配は、こいつからのものだったんか。
 どこにいるかまではちょっと分からなかったから、随分遠い所にいるとも思ってた。
 だが観察できるくらいには近かったのか。

「……私の村を全滅させておいて、ここでは談笑ときたもんだ。随分と身勝手な魔物じゃないか。だがここに集まっていた全員が、その魔物の仲間ならば理屈は通る。私の村を全滅させたのはその魔物じゃない。お前ら全員だ!」

 こじらせてんなぁ。
 どうすりゃいいんだこれ?

「目が曇っちゃってるね。あたしもアラタみたいに、そんなことがあったからこんなふうになって、こんな目に遭ってるってのは分かるけど、何であたし達に攻撃的になってるのかは分かんないな。さっき、分かってたまるかって言ってたけど、分かろうとしてたまるかって感じね」

 ヨウミがコーティ以上に辛辣なんだが。
 事態が余計にややこしくなるんじゃねぇのかこれ?

「だってさぁ……。ンーゴ、村を襲った魔物と同じ種族だからって、問答無用で襲ってきたんでしょ?」
「チカヅイテキタノハワカッタ。ソノアトハ……」
「間合いに入ったかと思ったらいきなりみんなの仇とか叫びながら飛び掛かってきよったもんなあ」

 気持ちに余裕がないんだろうな。
 ホントに気の毒だ。
 けど……村を襲った奴とンーゴが同一かどうかの確認くらいはしてもいいんじゃなかったか?

「そのような大きな魔物、二つとあるまい! ましてやそこら辺にいる、すぐに見かける種族でもない! もし違っていたとしても、その種族は人を常食して生息しているの違いない!」
「待て待て。俺はよく知らんのだが……村がワームに襲われて全滅した、ってニュースは……みんな聞いたことはあるか?」

 こいつに出身の村の名前や場所を聞く方が早いんだろうが……。

「あたしは……聞いたことはあるような。確か十年ほど前の話だよね?」

 十年前?
 俺が転移してくる前の話だよな?
 ってことは、俺が知る由もない。

「ナイナ」
「ねぇよ。俺とンーゴは、ずっとこの辺りの地下で生活してたんだからよお」
「嘘をつくな!」

 いや、こいつに嘘と断定されてもな。

「あたしもないな」
「ライムモナイ」
「私も……ありません……」
「あたしだって……」

 サミーも言わずもがなだ。

「まずな、まぁ……ちと人に言えない生活をしかけたことがあった奴もいただろうが……」

 クリマーは生活に困った末に、クレーマーめいたことをして生活費をせびってた過去があったらしいが、俺らの中で前科持ちってばそれくらいだろ。

「人の命を奪うような、犯罪めいたことをした経歴を持ってる奴はいねぇぞ?」
「嘘をつくな!」

 と言われてもな。
 まぁ経歴においてはほぼ潔癖だと思うが。

「あ」
「どうした? ヨウミ」
「アラタは手配書二回も」

 ……あったな、そんなこと。
 でも今は……

「やはり親玉か!」
「何のだよ」

 ヨウミ、今話題に出すには、ちょっと的外れな話題じゃねぇか?
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