上 下
211 / 493
店の日常編

緩衝材なんて真っ平ご免 その4

しおりを挟む
 翌日。
 店に来る連中の目的が、もうカオス状態。
 ファンクラブの連中、冒険者達、見物客と様々だ。
 おまけに、昨日きてたイールさんのような、おにぎりを食いに来たって客もいる。
 その本人は、当然今日も来ている。

「っぷぅ……。まったくなぁ……。買い物客なら文句ねぇけど、ファンクラブ会員とやらがなあ」
「一体どこで結成されたんでしょうね?」
「知らねぇ」

 人気者が俺に聞くなよ。
 つっても、その人気者だって、本人のあずかり知らぬところで盛り上がってんだろうなぁ。
 待てよ?
 ファンクラブが結成されてるってことは、ここ以外にも人気者がいる、とは言えないか?
 ほかんところではどう対処してんだろうなぁ。

「大変ですね、アラタさん」
「ん? あ、あぁ、まぁな」

 客が途切れたところで話しかけられるのは別に構わない。
 そこら辺は、このイールって人も弁えてるようで有り難い。
 穏やかな笑顔で話しかけてくるせいもあるんだろうか。
 だが、俺達は一旦ここを切り上げる必要がある。

「さて……と……昼飯にすっか。じゃあ店番お願いしま……いてっ!」
「こらっ! なんでイールさんにお願いすんのよっ! 失礼にも程があるでしょ!」

 ハリセンで叩かれた。
 手足で蹴る殴るをすると、客がドン引きしてしまうから、だとか。
 俺への労わりの気持ちはねぇのかよ!

「ふふふ。面白い方ですね、アラタさん。で、留守番にする……って、どこかへお出かけですか?」
「いえ、ただのお昼ご飯なんですよ。朝と晩は必ずみんなで。お昼は、都合のつく仲間達と一緒に食べるんです。あ、イールさんもいかが?」

 おい。
 いきなり突然誘う奴があるかよ。
 しかも、この店に来て二回目だろ?
 しかもおにぎり食ってなかったか?

「え? あの……いいんですか?」

 ほれみろ。
 戸惑ってるじゃねぇか。

「いいですよー。昔のあたし達の事知ってる人なんて、珍しいですもん。ということでアラタ。注文一人追加ー。イールさん、何がいいですか?」

 っておい。

「じゃあおにぎりにしようかな」

 おい。
 ノリ、よすぎ。

 ※※※※※ ※※※※※

「ということで、お邪魔します……」

 何だこの急展開は。
 この人にとっては、俺らと対面するのは……五度目。
 ところが俺らから見れば、この人の記憶は行商時代にはない。
 つまり、昨日と今日の、実質二度目の来訪者。
 ヨウミも覚えてないらしいが、昼飯に誘うってのはどうかと思うんだ。

「クリマーさんとサミーちゃんは見ましたけど……。人間が二人。それ以外みんな魔物……って……。しかも使役とか奴隷とかじゃないんですね」
「まぁな」

 奴隷制度とかってあるんだっけ?
 建前では禁じられてるんじゃなかったかな?

「襲われません?」
「こいつにはよく叩かれる。それとコーティの口が悪すぎる」
「アラタが変な事ばかり口にするからでしょう? あたしのせいにしないでよ」
「この時とばかりに文句言うわね。失礼なっ!」

 なんでヨウミとコーティから反撃食らうんだよ。
 事実じゃねぇか。

「仲……いいんですね」
「まあ……険悪じゃあないな。こんな風にブーブー文句言う奴もいるし」
「文句じゃないって言ってるでしょうにっ!」
「まぁまぁ、コーティさん。ゲストがいらしてるんですから、今回に限っては激高するのは控えておいた方が……」
「クリマーまでそんなこと言うの?」

 クリマー……。俺らの唯一の良心って感じだなぁ……。

「あの……アラタさんにヨウミさん」
「ん?」
「何でしょう? イールさん」

 なんかもぞもぞしてる。
 何かを言いたくても言い出しづらい、そんな感じ。

「あの……えっと……、二人とも、怖くはないんですか?」

 何か、決心して気合い入れて、真剣な顔して質問してきた。
 けど、何を言いたいのか分かんないし、何でそんなに力を入れてるのか。

「怖い? 何がです?」

 キョトンとして聞き返すヨウミ。
 俺も似たような顔してるんじゃないかな。
 一体何のことやら、と。

「お、襲われたりはしないんですか?」
「襲われる……?」
「俺はむしろ、ヨウミに叩かれたり蹴られたり……いてっ」

 ヨウミから、今度は背中をどつかれた。
 コーティが呆れて俺を見る。
 他の奴らは……昼飯に夢中になってる。

「えっと……大丈夫……なんですか?」

 あぁ。
 クリマーとか、あとは行商時代からいたライムやテンちゃんはともかく、体がでかいモーナーとか、でかすぎるンーゴとかは、生涯で初めて見たのかもしれねぇんだな。
 なるほど。

「どこかを探索して、いきなりこんな奴らと出会ったら……ってことか」
「え、えぇ……」

 俺らの仲間だってのは分かってはいるんだろうが、初見じゃ流石にビビるか。
 逆にこの人はどうなんだ?

「そりゃ……仲間だからな。イールさんはどうよ? 中には、出逢うこと自体縁起が悪いって言われてるらしい種族もいるんだが」
「アラタさん達がいなければ……ちょっと……怖いですね……。コーティさん、ですか? 可愛らしい姿ですけど、魔力がけた違いに大きいようですし……」
「フフン。分かってればいいのよ、分かってれば」

 うぜぇ。
 相手してられるかよ。
 そうだ。
 この人に、何か違和感あったんだよな。
 怖いって聞かれたから、その正体が分かった。

「……同じ種族がいたら……仇、取りたいですか?」
「え?」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

処理中です...