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店の日常編

村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その2

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 翌朝、泥棒未遂の件はちょっとした噂になってた。
 おにぎりの店には、何があってもある程度の行列ができるようになってた。
 人気店、ではない、と思う。
 活動前の準備を整えるための必要な店ってことだろうな。
 だから、村中で冒険者達が噂を流してるかどうかは知らんが、順番待ちをしてる冒険者の間では、格好の暇つぶしになる。
 それはいいんだが、買う段になって俺にそんな話を聞かせるなよ。
 順番待ちの連中が、更に退屈になるんだから。
 俺はこの行列は、一刻も早く解消してぇんだ。
 なのにこいつら……。

「ホントに水くせぇな、アラタよぉ」
「何だよ。欲しいものあるならさっさと注文しろよ。後ろ詰まってんだからよ」

 この店で商売を始めてからは、俺もそれなりにいろいろと努力した。
 仲間や客達から指摘され続けてきた、いろんな欠点を治す努力もしてきた。
 特に何度も指摘されてきた、客の顔と名前を一致させて覚える、ということには力を入れてきた。
 つくづく苦手な分野だ。
 けれどそれなりに改善できてきた。
 が、この客は間違いなく、初めてこの店に来た客、だと思う。
 なのに水くさいと言われた。
 そんな筋合いないだろうに。

「あー……イクラとシャケと梅を全部飲み物とセットで。なんか、作物泥に入られたんだって? 用心棒の依頼なら、アラタからなら半額でもいいと思ってんだが」

 商売上手、とでも言うべきか。
 だがそこまで金は回せねぇ。
 キュウキュウでもねぇけどさ。

「相手が魔物だったら躊躇いなくお前らに頼むさ。けど相手は人間だったぞ? 仲間に人じゃない種族もいるかもしれんが、どのみち討伐依頼の対象になる種族はいないだろ。そんな相手の警備に冒険者雇うって、過剰防衛にも程がある」

 俺の世界に例えたら、犯罪予告に対してプロの格闘家を警備に頼むようなもんだ。
 下手したら格闘界から追放されるだろ。
 もしくは引退に追い込まれるほどの重傷を負うかもしれん。
 引受人が負うリスクも馬鹿にできない。
 冒険者稼業引退の事態になったら、依頼人の俺にもいくらか責任が出てくるだろうしな。

「それに雇ったら、その噂も流れちまう。残党がいなかったり解散したり、報復を考えていなかったら無駄な出費になっちまうし、報復に来るならさらに警戒されちまう」
「一般人かぁ……。そりゃ確かにまずいか。魔物が相手だったら問題ないんだろうがなぁ」
「どうでもいいが、ほれ、具入りのおにぎりと飲み物付きだからー」
「具入りは何でも二百円。飲み物セットならプラス百。それが三セットだから九百円ね。お客さん、すいませんけど、無駄な長話はお控えくださいねー」

 ヨウミ、ナイスフォロー。
 客がまばらなら相手をしても良かったけどな。
 タイミングが悪かった。

「おっと悪ぃ。まぁ自分らできちんと防犯できりゃ問題ねぇだろうしな。じゃ、あんがとな」
「まいどありー。はい、次の方―……って、今日はいつもより客の入り多くないか?」
「休日冒険者ってのもいるからね。あの双子、朝からサミーと遊んでるんだもんね」

 そうか。
 この世界には七曜はない。
 けど休日は七日に一度あるのは、基本的には俺らの世界と変わらない。
 曜日の習慣はすっかり抜けた。
 休日の感覚はすでにない。
 それが幸いしてんだろうな。
 商売繁盛って気がして、内心喜んでる俺がいる。

「なるほど……って、サミーはどこだ?」

 無断でどっかに行っちまったか?
 産みの親に託されたわけじゃねぇけど、いないと保護者としての立場がな?

「行列の向こうで、双子と一緒に遊んでますよ。私にも見えてますから心配いらないですよ。何かあったら双子が騒がしくなるでしょうし、コーティも付き添ってますから」
「お、おぉ、そうか……。クリマー、その役目引き続き頼むわ。コーティもいてくれて助かるな」
「そうですね」
「ほらほら、喋ってばかりしてないで、接客接客―っ」

 お、おう。

 ※※※※※ ※※※※※

 で、日中は無事に、いつものように過ごし、晩飯の時間。
 つまりミーティングってことだ。

「で、大まかな説明はしたわけだが、細かいとこまで話詰めないとまずいよな?」
「何の?」
「何の? じゃねぇだろうが。村を襲いに来る奴が、こっちの方から来た時の対策の話だろうがよ」

 まったく、この馬鹿天馬は……。

「あぁ、それならみんなで一通りの事話し合ったよ?」

 い、いつの間にっ!
 俺の知らない間に、話まとまったのか!

「昨日喋った通りい、アラタとヨウミの護衛はあ、俺がするよお」
「お、おう……」

 動作がゆっくりなんだが、大丈夫かな。
 力も耐久力も抜群ってのは信頼できるんだけどさ。

「それと、サミーちゃんにも動いてもらうから。いいよね? アラタ」
「はぁ? サミーがどう役に立つんだ?」

 言っちゃなんだが、言葉喋れねえ、俺らの店のマスコットくらいにしか役に立たんぞ?
 そんな切った張ったの荒事で活躍できる場なんかねぇんじゃねぇの?

「確かにミィミィ鳴いてばかりだけど、魔獣の鳴き声として聞くと、意外と多弁なのよね」

 適当な事言ってんじゃねぇぞ、マッキー!
 魔獣っつっても肌触りは柔らかいし、俺ですら力入れて抱きしめると苦しがることがたまにあるじゃねぇか。
 それにだ。

「誰が理解するってんだ。大体そんな不審者を取り押さえる力もねぇだろ? 危険な事やらせんなよ」
「ライムが理解できるみたいなのよね。それに夜に来るとしたら、なおさら役に立つわ。そういう意味ではあたしもクリマーも意外と役に立つ。フフン」

 フフンじゃねーよ。
 同じ意味でマッキーもクリマーも……ん?
 二人は……色黒だよな。

「分かったみたいですね。満月の夜でもサミーの体毛の色は目立たないんです」
「なるほど。離れた相手への連絡係になれるってことか」
「ライムばかりじゃねぇ。ンーゴも分かるようになってきたっつってらな。なぁンーゴ」
「アァ。ダカラ、サミーニツタエタイコトヲタノメバ、オレカライムノトコロニキテ、ミンナニツタエラレルッテコトダ」

 意外と使えるんだな、サミーは。

「だが……くれぐれも危ないことはさせないようにな。こいつは自分の身を守ることで精いっぱいだと思うからよ。あとは……泥を作る場所とかは……」
「そりゃこっちに任せてくんねぇかな? どこに作ろうと、誘導させりゃいいんだろ? なら、作りやすいところの中で、よそから来る連中が通りそうな所とかハマってくれそうな場所、こっちで調べておくからよお」

 餅は餅屋、だな。
 そこら辺はもちろん……。

「あぁ、任せる。役割もお前らに任せる。どこに何人いるかっていう情報を出せば、あとはみんながやってくれるってことだよな?」
「そうそう。非力な奴は非力な奴らしく、大人しく引っ込んでなっての」

 コーティよ、ホントに相変わらず言い方がなぁ。
 まぁいいけどよ。
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