上 下
196 / 493
店の日常編

村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その1

しおりを挟む
 農作物泥棒を、五人まとめて捕まえた。
 サーマルに言わせれば、テンちゃんのお手柄だという。
 けれども泥棒一味はこれで全員とは限らないという見解。
 俺ももちろん同意した。
 農作物なら、この日本大王国では一番の品質、収穫量、多種を誇る村。
 畜産業も上質の物が多いんだと。
 だが、ここは端っこの田舎だ。
 それにそれくらいの人数で盗まれる量に被害額も高が知れてる。
 盗品を売りさばく額だって、決して高額じゃない。
 盗品と分かって買う者達にとっては、その金額と同価値と見るはず。
 だから当然上限はある。
 高値の物なら、警備だって厚くなる。
 捕まる危険度が低い物を狙うならそれ、と決めたとしてだ。
 その人数だけでは、犯人たちにとって利益は薄いんじゃないだろうか。
 けれど大人数なら、不審人物が集団でいたら目立つだろうし、どこから情報が洩れるか分からないんじゃないか?
 となれば……。
 俺の考えでは、二十人はいないだろう。
 全員で十人くらいか、あるいは捕まった五人は偵察の役目だけ、という限定なら、ほかに十人くらいが限度じゃないか?

「……と俺は考えた」
「アラタの兄ちゃんよお、つまり、一斉に仕返ししに来る人数は、多く見積もっても十人くらい、と見てるんだな?」
「と思う。全国股に掛けた窃盗団とかなら、映写機でのニュースで騒がれてるだろ」
「映写機? ニュースってば、受映機だよね? 何その映写機って」

 人間社会についてよく知らないマッキーから突っ込みが入るとは。

「まぁそれはともかく、確かにそう考えれば、一度にたくさんの人数が押し寄せるってことはないと思いますけど」
「三十人もお、仕返しに来られたらあ、軍隊とかみたいだよなあ」
「報復ねぇ。こんな田舎に盗みに入るような奴らに、報復に来るようなプライドあるのかしらねっ」

 俺ばかりじゃなく盗人どもにも辛らつだな、コーティは。

「デモ、ムラノイリグチカラコナイナラ、ココラカラクルシカナイ」
「どうして? ンーゴ」
「テンチャンモシッテルハズ。ヤマガワニハ、リュウゾクトカノ、アブナイシュゾク、タクサンイル」
「あー……そっから来るなら魔族達の餌になるのが先だもんね。だから隣のラーマス村からこの村までの最短距離を来るってことか」
「ヨウミノイウトオリネ」

 それにしても。
 その報復で、例えば火なんかつけられたら……。
 盗まれた被害総額は分からない。
 だがその被害を防いだ結果、村の焼き討ちなんてことがあったら……。
 村人たちの間でそんな議論が出てきたら、そのまま放置しても良かったんじゃないか? って結論が出てたりしなかっただろうか。
 そうなると、テンちゃんの行為は藪蛇だったかも分からん。
 けど、手間暇かけて育てた作物が、その労苦の価値を知らない者に盗られるのは癪だろうなぁ。
 ま、来なきゃ来ないでいいさ。
 来たらこっちの被害の方がでかいんだ。
 居住区外でけりをつけさせてもらおうか。

「具体的にはどうすんだあ? どこを通るかなんてえ、誰にも分らないだろお?」
「そこは目的地を決めさせる。まあこっちから仕掛けて誘導して、目的地に行かせるって感じだがな」
「目的地なんて、村に決まってるでしょ? あたしを馬鹿天馬呼ばわりする割に、アラタもあんまり知恵働かせてないね」

 うむ。
 テンちゃんは最後まで話聞こうな?

「目的地は、一網打尽にできる場所にしてやるんだよ。その場所づくりはミアーノとンーゴに任せる」
「場所づくりを任せるぅ? 場所は俺らが決めるんじゃねぇような言い方だなぁ」
「うん、ミアーノの言う通りだ。まず先に方針と計画から決めよう。まずあまり地形を変えないこと。具体的に言えば、森林の樹木を燃やしたり倒したりしないこと」
「ナルホドナ。テンチャン、チエヨリキヲクバッテルゾ、アラタハ」
「へ?」

 へ? じゃねぇよ、まったく。

「木々の本数が減ることで、魔物達が村に接近しやすくなるからだ。村の危機は盗人どもだけとは限らねぇってことだ」
「なるほど」

 一同納得。

「アラタにしちゃいい考えじゃないのよ」

 コーティ……一言多いんだよ。

「続けるぞ。とっ捕まえた後は保安官達に引き渡せるように、生け捕りにすること。でないと一味全員捕まえた証明ができなくなっちまうからな」
「トカシチャ、ダメ?」
「ダメですっ!」

 ライムもしれっと怖いこと言うよな。

「ダメナノカ……」

 ンーゴ、お前もか!

「一口でもだめ?」

 ミアーノ……お前まで……。

「やっつけるだけなら簡単だけど、引き渡すとなると、途端に難易度高くなるよね。もっともあたしとアラタにはそんな力はないけど……」

 つか、普通の人間なら難しいわな。
 まぁ俺だって気配を感じ取れるっつっても、誰かに力を加えるようなものじゃないし。

「無傷って訳にはいかないよ? ま、怪我しても治癒魔法なりで回復できるだろうし」
「治るような傷なら問題ないだろ。だからといってマッキー、自分のテリトリーつっても油断すんなよ? しなくていい怪我すんじゃねぇぞ?」
「アラタよりは丈夫だから安心してっ」

 むぐ……。
 まぁ……自重するけどさ。

「……で、俺が考えてることは、泥に足を突っ込ませることだ。身動き取れないと、そこから出ようともがきたくなるもんだしな」
「へぇ。そりゃ名案だわな。確かに俺とンーゴなら、そんな場所作れなくはねぇもんよお」
「ムズカシイ」
「え?」

 ンーゴ、難しいっつった?
 なんで?

「ススキトカノザッソウ、ハエルクライノツチハアル。ケド……」
「岩盤があるからだなあ」
「ウン」

 そうだった。
 モーナー、地面を耕すのを頼まれたけど、岩盤があるから諦めたみたいな話聞いたことがある。

「じゃあ林の中ってことですよね。でもあまり深くすると……」
「ネッコカラ、タオレルネ」

 ライムにも分かったか。
 参ったな。
 これは流石の俺も盲点だった。

「でも倒れなきゃいいんだろうよ。だったら何とかするさね。なぁ、ンーゴ?」
「バランスヨク、スコシシズムテイドカナ」
「うん、なるべく地形崩さなければいいさ」
「ナラナントカデキルナ」

 実に心強い二人だ。
 そして、みんなで俺を前線に立たせないようにするもんだから、俺のそばには……。

「んと、あたし、ライムと出ようと思うんだけど、いい?」
「出る?」

 マッキーとライムがコンビを組むってこと?

「その泥沼に嵌めるように誘導すればいいんでしょ? ちょっと試したいことがあんのよ」
「危険なことはすんなよ?」
「大丈夫大丈夫。でもその分アラタの守りが薄くなるのよね。そっちがちょっと心配」
「じゃああ、俺があ、アラタとヨウミ守るよお」
「モーナー、フタリヲタノムネ」

 村を無傷で守る。
 そのための戦力は他から頼れない。
 なのに、何でこいつら……。
 みんな、楽しそうに話し合いしてるんだ?
 なんかこう……趣味が悪いっつーか。
 そうでなきゃ……ホントに武闘派って感じがするんだが。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかばEX
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!

にのまえ
ファンタジー
 目が覚めたら、女性が土下座をしていた。  その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。  俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。   「……すみません」  巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。  これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、  俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。  

処理中です...